レビュー
【ナビレビュー】操作体系を一新したケンウッドの新型「彩速ナビ MDV-Z904W」。ハイレゾ・DSDファイル再生対応
2017年4月20日 00:00
2011年に初代モデルがリリースされたケンウッド(JVCケンウッド)の“彩速(さいそく)ナビ”。美しい画面とハイレスポンスの両立をコンセプトに、2DIN一体型のボディにナビゲーションやAV機能を凝縮。ハードウェアをはじめOSの刷新、ハイレゾ対応など、先進機能を積極的に採り入れつつ順調に世代を重ねてきた。最新世代となるモデルは2016年10月に発売された上級クラスに属する「TYPE Z」シリーズ、それに加えて普及クラスの「TYPE L」シリーズも2017年1月に発売されている。
まず、ざっとラインアップを紹介すると、TYPE ZシリーズはこれまでのハイエンドモデルだったZ700系が「MDV-Z704」に置き換えられたほか、新たにトップエンドモデルとしてZ900系「MDV-Z904」が登場したのが大きなトピック。ともに幅200mmのワイド2DINサイズに対応する「MDV-Z704W」「MDV-Z904W」もラインアップする。Z700系とZ900系の違いは、Apple CarPlayなどのスマートフォン連携やHDMI/MHL接続、DSDファイル再生など、主にAV系の機能への対応の有無が大きな相違点となる。
一方のTYPE Lシリーズは、フルセグ地デジチューナーやBluetoothを採用する「MDV-L504/504W」、ワンセグチューナーを搭載する「MDV-L404/404W」の2タイプ4機種という構成になっている。
「プレミアム・ファインビュー・モニター」をドラレコやスマホ連携に活用
今回のナビレビューで取り上げるのは、トップエンドモデルのMDV-Z904だ。ここしばらくは年明けに新製品を発売していた同社だが、新型はここから外れてのリリースとなった。この点について、JVCケンウッド オートモーティブ分野 市販事業部 商品企画統括部 スペシャリストの渋谷英治氏によれば「必要な機能が実現可能になった時点で発売する」とのことで、カーナビ業界では一般的となっているイヤーモデルにはあまりこだわらない方針のようだ。
少し話が逸れてしまったので元に戻そう。まずはスペック面から。細部は後述していくとしてMDV-Z904について簡単に羅列していくと、「プレミアム・ファインビュー・モニター」と名付けられた7型ワイドVGA静電タッチパネルディスプレイを採用するほか、32GB SSD、CD/DVD/SDカードスロット、フルセグ地デジチューナーなどを標準搭載。外部メディアとしてはBluetooth接続のほか、MHL/HDMI接続やUSB(1A×1、0.5A×2)接続、SDカードを利用した音楽・動画再生が可能。新しいところではiOSの「Apple CarPlay」、Androidの「Android Auto」にも対応している。また、AndroidスマートフォンではUSB接続によるテザリングも可能だ。
拡張性の面では最近のトレンドを踏まえて、ナビ連動型ドライブレコーダー(ドラレコ)「DRV-N520」が用意されているのが目立つポイント。ドラレコは動画サイトやSNSへの投稿といった用途でも人気となっているが、1万円を切るモデルがある一方で、ナビ連動の高機能タイプもあるなど本当にピンキリ。そんな中でこのモデルは、やはりナビの大きな画面で録画した映像をすぐに見ることができるのが大きなメリット。スタンドアローンタイプだと映像を見るためにはSDメモリーカード(たいていはmicroSDカードだ)を本体から取り外し、PCのカードリーダーを介して~、なんて作業が必要。ディスプレイを内蔵している製品もあるけれど、1インチや2インチ程度では映っているか否かのチェック程度しかできないので、その差は歴然だ。
このDRV-N520にはJVC時代に映像を担当していたエンジニアのこだわりが詰まっているそうで、400万画素カラーCMOSセンサーを使った「3M録画」(2304×1296)、夜間や逆光での再現性をアップする「HDR(High Dynamic Range)」合成技術などを投入。その映像は、たまにトラベル Watchで筆者が掲載している道路開通動画などにもそのまま使えそうなクオリティ(というか、こちらの方がキレイかも)。今回はナビのディスプレイで見ただけなので3M映像の真価は確認していないが、アクシデント時の保険というだけでなく、記録用としても積極的に使おうと思えるレベルだ。細かな設定をナビ画面で変更できるのも手間なしでいい感じ。このほか、パナソニック製のETC2.0に対応したDSRC車載器との接続にも対応する。DSRC車載器はスタンドアローンで使うことも可能だけれど、画面上での料金確認など連動したほうがなにかと便利。連動に必要なのはケーブルのコストだけということもある。
スマートフォン(iPhone/Android)連携では、専用アプリ「KENWOOD Drive Info.」をインストールしてナビと接続することで、機能を拡張することもできる。カロッツェリア製ナビと情報を共有する「スマートループ渋滞情報」などの有償コンテンツだけでなく、無料で使える「開通予定情報ダウンロード」「フリーワード検索」など、より便利にナビを使うことが可能になる。
操作性の進化でこれまで以上に使い勝手アップ
彩速ナビの一番のセールスポイントと言えるのは、間違いなく操作性がいいってこと。これは登場当初から受け継がれており、もちろんこのモデルでも健在。「ジェットレスポンスエンジンIII」&「デュアルコアCPU」といったベース部分はそのままに、ユーザーの使い勝手を考慮したブラッシュアップが行なわれている。
それを確認すべく試乗車へ。今回の試乗車となった本田技研工業「ヴェゼル」に装着されていたのは前述したようにMDV-Z904で、市販前の本体に市販モデルと同じソフトウェアをインストールしたものとの説明。動作面では市販モデルと同等と考えてよい、という。
まず、駐車場で操作してみると、スマホライクなピンチイン/ピンチアウト、フリックといった操作にも気持ちよく反応。縮尺の変更や移動などといった操作で地図が指先に吸い付いてくるような感じで、まさに思いのままといったフィーリングが味わえる。もちろんそれだけではなく、新たに「アクティブオーバーレイGUI」が採用されたメニュー表示、そこから目的地検索やルート探索といった項目、スポットや住所などの文字入力と進んでいってもまったく待たされることはなく、サクサクとやりたいことを済ませていける。この気持ちよさは絶品だ。
最も目立つ変更点となるのが、枠外からのフリックで引き出せるサブ画面の扱い。従来機では左上下&右上下と左右4カ所に分かれていたが、新型では左側に集約して上中下の3カ所に変更。左上が「INFO」、左中が「MAP」、左下が「AV」となった。これは本体右端に静電式タッチスイッチを持つワイド2DINモデルが登場したための措置とのこと。ただ、そういった制約の有無を除いても、片側に統一されたのは使い勝手の面でよくなったと感じられた。
いちいちメニューボタンを押して項目を選んで、なんて面倒な過程を辿る必要なく、枠外から内側に指を滑らせることでサブウィンドウが引き出せるのは本当に便利。1回使ってみるとクセになって、ついほかのナビでもやってしまうぐらい。最近ではこうした操作を採り入れているナビが増えてきたけれど、レスポンスのよさはもちろん、機能のこなれ具合など、やはり一日の長を感じさせる仕上がりになっている。さらに「フリック操作が難しい」と感じる人には、新たにボタン操作でサブウィンドウを表示する機能が設けられた。これも親切と言えるだろう。
一連の操作を試して感じたのは、やはりレスポンスが抜群にいいこと。「ちょっと目的地周辺の地図を確認したい」なんてときはもちろん、「操作を間違えたのでやり直したい」なんて自分のミスが原因となった場合でも、ナビの処理で待たされてしまうとイライラ度がアップ。これが彩速ナビの場合、どんな操作を行なっても待たされることがないので、まさにストレスフリーと言えるのだ。
ナビ機能
ナビ関連ではメニューまわりに変更が加えられている。まず「HOME」ボタンを押すと表示されるHOME画面。先代モデルでは地図や時間、AV情報などを一括表示し、左右にフリックすることで目的地検索や設定メニューを表示していたが、新たに「ソース切替」「マイメニュー」「目的地検索」と大きな項目を持つ一般的な表示に変更された。従来の一括表示は「マイメニュー」として一段階層が下げられた。どちらがより使いやすいかは好みの問題と言えるけれど、こちらの方がより直感的ではある。他メーカーのナビから買い替えた、なんて人には分かりやすく感じられるかも。
地図表示に関しては従来モデルをほぼ踏襲。多くの人が通常利用するスケールとなるであろう100mスケールは、道幅や建物の形状が分かったり、一方通行表示があるなどのいわゆる市街地図表示レベルの内容となっている。情報量がとても多く、実用性の高い仕上がりだ。ピンチイン/ピンチアウトによるスケール変更に対応していることもあって、用意されているスケールが非常に多いのも特長の1つ。単純なボタンによる操作ではあまり縮尺が細かく設定されていると変更が面倒になるけれど、スライダーバーによる大きな縮尺変更にも対応。これがまた気持ちよく縮尺を変えられるので、ついつい拡大・縮小して遊んでしまうほど。
地図表示モードは、一般的な2D表示がいわゆるヘディングアップとノースアップの2パターン、加えて鳥瞰タイプの3D、サブ画面を加えての2画面表示が用意されている。こちらは画面上の方位ボタンを押した順に切り替えていくトグルスイッチタイプ。必要に応じて簡単に画面を切り替えることができる。
地味と言えば地味ながら、個人的にかなり「ツボ」だったのが充実したディマー機能。これは画面の明るさや「夜モード」のように色味を変えるもので、一般的なナビだと時刻やクルマのライトの点灯に連動させていわゆる夜モードに変えてくれる。この場合、昼か夜の2択のため、場合によっては画面が「明るすぎてまぶしい」とか、逆に「暗くて見えにくい」なんてこともある。彩速ナビでは光センサーを搭載することでこれを解消。さらに画面の輝度を変えるだけでなく、昼画面と夜画面のあいだに中間色を使った画面を複数用意するという凝った作り込みが行なわれている。光センサー部分を手で隠すことで効果を試せるので、ぜひ店頭などの展示品で確認してみてほしい。
目的地検索は「名称」「住所」「電話番号」「郵便番号」「ジャンル・周辺」などごく一般的。今回は使っていないが、従来どおりスマホアプリの「VOIPUT」を使った音声検索、「NaviCon」と連携してのオンライン検索も搭載されている。地図更新の合間にできた新しいスポットなど、ナビに収録されていない場所でも、こちらなら探し出すことが可能になる。
ちょうど話題が出たので地図更新についても触れておこう。地図更新は2パターン用意されており、1つは有料サービス「KENWOOD MapFan Club」に入会し、PCでデータをダウンロードしてナビにコピーするパターン。入会資格の取得には「MapFanプレミアム」の登録が必要で、その利用料金として3600円/年、または300円/月(ともに税別)の会費が必要になるけれど、最大5年間、最大年2回の地図更新が可能。ちなみに入会して最初の1年間は会費が無料になる優待措置が設けられているので、まずは試しに入会してみるといいだろう。もう1つは「ナビ地図定期便」に登録するパターン。こちらは9800円/年(税別)で最大5年間、毎年1回、地図更新データを収めたSDメモリーカードが届けられる。
PCが使えるなら間違いなく前者の方がお得だ。総コストが安いのはもちろん、「MapFanプレミアム」の特典として「スマートループ渋滞情報」などのリアルタイム情報が利用できるようになる。ナビをよく使うなら許容できるコストだろう。
また、地図には高速道路など高規格道路の開通予定情報が格納されており、こちらは同社のサイトからアップデータをダウンロードすることで対応可能。最近だと3月18日に開通した首都高速 神奈川7号 横浜北線(横浜港北JCT~生麦JCT)がその好例。そのほかいくつかの道路とともに3月30日に対応データが公開されている。残念ながら取材日がその前日(3月29日)だったため、実際に確認することはできなかったけれど、早い段階でルート探索に利用できるようになるのは便利。こうした開通情報のためにも定期的な地図更新が重要で、前述のサービスを利用しておいた方がなにかとよいというワケだ。
ルート探索は「推奨」「距離」「高速」「一般」「高速/距離」の5パターンと変わらず。ただ、新たに「マイルートアジャスター」と名付けられたカスタマイズ機能が盛り込まれた。「有料優先」「道幅優先」「渋滞回避」「踏切考慮」の各項目で重み付けを変えることができるほか、「信号考慮」「ルート学習」のON/OFFが可能となっている。さすがに短い試乗時間ではその有効性までは言及できないものの、「お仕着せルート」への不満は解消できるはず。3パターンを登録することができるので、「急いでいるとき用」「奥様が運転するとき用」など、シチュエーションに応じて使い分けることができるのは、まさに「かゆいところに手が届く」感じ。
より分かりやすく、より親切にブラッシュアップ
先代モデルで大きく変わったルート案内。今回のモデルでは、その機能をより使いやすくブラッシュアップすることに重点が置かれている。
まず「案内先読みガイド」。これはルート案内時に先々の案内ポイントを、ラリー競技などで使う“コマ図”のような感覚で確認できる機能。もともとフリック操作で最大99ポイントまでチェック可能となっていたが、新たに自動的にスクロールする機能が追加された。ナビの使用中「次はどっち曲がるんだっけ?」というのはよくあるシチュエーションなので、こうして簡単に確認できるのは嬉しい。
案内ポイントまでの進行方向と残距離をグラフィカルな表示で示す「ここです案内」も改良。先代では交差点拡大図との手動切り替えになっていたが、事前にここです案内を行ない、さらに交差点に近づくと自動的に拡大図に切り替えるようになっている。先代モデルのレビューで「複雑な交差点を走るときにはちょっと物足りない」なんて書いたけれど、これは文句なしに分かりやすい。従来どおり、拡大図をタッチすることで切り替えることも可能だ。
地図精度に関しては、従来からの準天頂衛星「みちびき」対応、より高精度な自車位置測位を実現する「高測3Dジャイロ」に加え、新たに「高精度測位 環境補正プログラム」を採用したのがトピック。
いつものチェックポイントである地下駐車場で試してみると、ほぼズレのない見事な結果になった。先代モデルでも十分問題のない範囲と思えたけれど、今回は完璧と言ってよい精度の高さを見せてくれた。
一方、首都高速の新山下ランプでは、先代モデルと同じく「横浜方面は認識したものの、東京方面では認識せず」という結果に。走行中に画面を見ていると確実に先代モデルよりよくなっているのが分かるだけに、やはりこの場所には「何かある!」のかも。
進化したハイレゾ対応
もはやケンウッドの独壇場となっている感のあるハイレゾ音源対応。本機ではFLAC、WAVに加えてDSDファイルの再生も可能となった。前出の渋谷氏によれば、DSPやDACチップを製造するAKM(旭化成エレクトロニクス)と「早い時期から話を進めていた」とのことで、ハイレゾ音源ファンにとってはクルマの車内でもハイレゾが楽しめる貴重なモデルとなっている。もちろん、すべての音源を192kHz/32bitまでアップコンバートするとともに内部処理もハイレゾ化。
こうしたハイレゾ音源をフルに楽しむため、MDV-Z904Wだけに用意されたのが「プロモードEQ」。これは周波数レベルや周波数帯域を細かく調整する機能で、クルマごとに異なる車室内特性をフラットにするための機能。調整項目や調整ステップが細かい用意されているため、きちんと調整することができれば効果も大きいけれど、素人にはちょっと手が出せない「プロ」仕様。ナビやスピーカーのインストールをプロショップにお願いしている、なんてユーザーならそのパフォーマンスを楽しめるはずだ。
ごく普通のユーザーに嬉しい新機能が「マルチAVブラウザ」。彩速ナビはUSB端子を多く用意していることに加え、USBハブにも対応しているため、複数のUSBメモリーを同時に利用している人が多いのだとか。そんなとき、普通ならメニューから「USB1」とか「USB2」といった選択肢から選んで、さらにフォルダを選んでやっと再生となるところだが、このマルチAVブラウザならソースの違いを気にせず「アーティスト」「アルバム」「曲」「ジャンル」で一括検索することが可能なのだ。
音楽機能に関しては後日、別記事として掲載される予定となっている。もっと細かく知りたいという人は、そちらをお待ちいただきたい。