レビュー

【タイヤレビュー】横浜ゴム新製品「アドバンV61」初試乗 国産SUVの新車装着タイヤに選ばれる納得の乗り味だった

2025年3月 順次発売(全17サイズ)

オープンプライス

横浜ゴムの中~大型プレミアムSUV向けタイヤ「アドバンV61」に試乗する機会を得た

 横浜ゴムのADVAN(アドバン)ブランドから、中~大型プレミアムSUV向けの「ADVAN V61」というサマータイヤが3月から発売される。この商品はブランドこそ異なるが、事実上は「BluEarth-XT(ブルーアース-エックスティ)」の後継モデルという位置付けで、ターゲットとするのは主に国産SUV。

 速度レンジもV規格(最高速240km/h)が中心であり、それ以上の領域を求めるような欧州SUVに対しては、速度レンジW規格(最高速270km/h)やY規格(最高速300km/h)の「ADVAN Sport V107」を勧めている。いまもなお日本国内の新車SUVは右肩上がりで増加しており、その数はトータルでおよそ100万台。なかでも「ADVAN V61」がターゲットとする中~大型SUVは約70万台を記録しているからかなりのボリュームだ。

中~大型プレミアムSUV向けサマータイヤの新製品「ADVAN V61」

 実は「ADVAN V61」は、2022年より新車装着タイヤとして納入を開始。代表的なところでいえばトヨタ「bz4x」、レクサス「RZ」「RX」「LBX」、そしてマツダ「CX-60」「CX-80」といった車種で、今後も車種を拡大する計画があるそうだ。今回発売するのは、それらの補修用としてだけでなく、これまで販売されている多くのプレミアムSUV向けに、全17サイズを展開するという。

ADVAN V61のサイズラインアップは17種類

 商品コンセプトは、転がり抵抗を低減し、航続可能距離に貢献しながら、静粛性を高めることで快適性を追求したとのこと。低燃費タイヤのラベリングでは転がり抵抗で「AAA~AA」、ウエット性能で「a~c」を獲得している。

4本の太いグルーブ(縦溝)に加え、イン側に1本のナロー(細い)グルーブを配置したことで、ウェット走行時の排水性を高めるとともに耐ハイドロプレーニング性能も高めている
センターリブの両側と、そのほかのリブのイン側に設けた稲妻型の切り込みが水膜を切るエッジ効果を発揮するほか、溝面積を増加させつつリブ剛性を確保することでウェット性能とハンドリング性能を両立させたという
BEV(バッテリ電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、HEV(ハイブリッド車)、FCEV(燃料電池車)といった電動車への対応商品であることを示す横浜ゴム独自のマーク「E+」がサイドウォールに刻印してある

 その性能をより分かりやすく表現しようと、今回の試走会ではまず転がり抵抗のデモンストレーションが行なわれた。同じ車両に従来品の「BluEarth-XT」と新製品の「ADVAN V61」を装着し、坂の上(トラックの荷台)からギヤをニュートラル状態で走らせ、どこまで到達するかを見せてくれた。

 すると「ADVAN V61」は「BluEarth-XT」よりもおよそクルマ2台分ほど先までスルスルと前に出てくるから興味深い。最後の最後でジワジワと動き続けるあたりに、転がり抵抗の低さを目で感じることができる。これは相当に期待できそうだ。

タイヤの転がり抵抗を比べる実験。ともにニュートラルの状態のまま、トラックの荷台の傾斜から自重のみでスタート
BluEarth-XTは55m付近まで転がった
ADVAN V61は70m付近まで転がった
【横浜ゴム】ADVAN V61 & BluEarth-XT 転がり抵抗比較走行(1分44秒)

 続いて同じ広場でパイロンスラロームや突起の乗り越しなどを試してみる。「BluEarth-XT」で走ってみると、これはこれで十分に感じる旋回性能やダンピングを感じられたが、「ADVAN V61」で走り出すと先程とはまるで違う感覚がある。

 まず、ステアリングの操舵角が少ない状態でパイロンをクリア。タイヤがヨレてから一気に旋回し始める「BluEarth-XT」とは違う感覚だ。また、突起の乗り越しでは硬質な感覚はあるが、入力を一発で収めてくれる感覚があり、いつまでも揺らいでいないところが特徴的。

「ADVAN V61」はタイヤがヨレることなく操舵に合わせて素直に曲がる
垂直方向の入力も一発で収めてくれる感覚だ
コーナリング時にもしっかりと荷重を支え、高いグリップ力を発揮していた

 これは「ADVAN V61」が、まずIN側とOUT側で異なる特性を与えられる非対称パターンを使い、主にOUT側での高剛性を確保しているからだろう。また、ラグ溝(トレッド幅方向の溝)を非貫通とすることで、高いブロック剛性を実現し、重たいSUVでもしっかりと受け止める作りにしていることが効果を発揮しているのだと推測する。

 さらにタイヤの骨格を形成する、ゴムで被覆された繊維やスチールでできたコード層のカーカスを、ショルダー部まで外側に巻き上げ、サイド部を二重にした高剛性ハイターンナップ構造を採用していることも大きい。

「BluEarth-XT」はタイヤがヨレてから一気に旋回し始める
コーナリング時のパターンノイズも「BluEarth-XT」より「ADVAN V61」のほうが静かに感じられた
【横浜ゴム】ADVAN V61 & BluEarth XT スラローム走行比較(2分56秒)

 一方で主溝を4本持ち、さらにIN側にはナローグルーブを与えることでウエット性能を確保。トレッド下のベースゴムやサイドゴムは低発熱化した低燃費ゴムの採用も行なう。これらの対策で、転がり抵抗をよくしながらも、しっかりとしたドライグリップとウエット性能をバランスさせている。

ロードノイズも穏やかだった

 その上でパターンノイズを低減するために、「HAICoLab(ハイコラボ)」と名付けた独自のAI利活用フレームワークに基づきピッチ配列の最適化を実現。これは直進時はもちろんコーナリング時にタイヤがたわんだ時に発するパターンノイズも、「BluEarth-XT」より「ADVAN V61」のほうが突出した音がなく静かに感じた。

一般道でも剛性感をしっかりと感じられた

 その後、一般道をさまざまなSUVで走ってみたが、どれも剛性感を感じるステアフィールが得られ、直進安定性が高く仕上げられていたところが印象的。アウトランダーPHEVでは、回生ブレーキをゼロの状態でコースティングさせてみたが、どこまでも転がっていくかのような滑走感が味わえた。

 また、どんな路面でも無駄に動かずフラットライドが得られるところもメリットの1つ。このバランスのいい性能があるなら、きっと多くのSUVユーザーに受け入れられることだろう。

傷みのひどい路面でも「ADVAN V61」は入力をうまくいなしていた
ドライとウェットの性能をバランスさせつつ、転がり抵抗も低減させていて、よく転がるのが印象的
車重の重いバッテリEVモデルのSUVでも、しっかりと支えて安心感がある
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛