レビュー

【タイヤレビュー】第5世代となるピレリの最新「P ZERO」、高いグリップを持ちながらおどろくほどの快適性

最新P ZEROファミリーをマレーシアで試した

 1985年の登場以来、ハイパフォーマンスカーの足下を支え続けているピレリのフラグシップモデル「P ZERO(ピー・ゼロ)」が、2025年3月に第5世代(PZ5)として生まれ変わった。そしてこのパフォーマンスを確かめるためにピレリは、マレーシアでAPACのメディアに向けたP ZEROファミリーの試乗会を開催した。

 そのメニューは2部構成となっており、初日が一般公道で「P ZERO」「P ZERO E」を試乗。翌日はSUPER GTも開催されるセパンサーキットで、「P ZERO」をはじめ「P ZERO トロフェオ RS」「P ZERO R」の性能を確かめた。

 さてP ZEROといえば、1985年に伝説のラリーマシンであるランチア デルタS4のホモロゲーションモデルが初装着したタイヤだ。そして翌年にはあのフェラーリ F40が純正装着し、それ以降数々のハイパフォーマンスカーが純正タイヤとしてP ZEROを選んでいる。それだけにP ZEROは、グリップ重視のスポーツ専用タイヤと思われがちだ。しかし最新世代のPZ5には、おどろくほど高い日常性能が備わっていた。

第5世代となる最新「P ZERO」の一部サイズは欧州ウェットグリップラベルで「A」を取得。開発戦略としてはタイヤ構造とトレッドデザインに重点を置き、コーナリンググリップを強化するために溝と接地面に改良を施して最適化を実施。接地面のバランスが改善されたことでブレーキ性能と摩耗率が向上し、タイヤのライフサイクル全体を通じて一貫した性能が確保されるという。また、新しいP ZEROのサイドウォールにはコントラストの効いたマーキングを施した新しいグラフィックが施されている
「P ZERO E」
「P ZERO R」
「P ZERO トロフェオ RS」

 クアラルンプールのベースホテルを出発し、往復約150kmのショートトリップへ。往路はメルセデス・ベンツ GLC 450eでP ZERO E(255/45R20)を試し、途中からメルセデス・ベンツ GLE 450 4MATICとP ZERO(275/45R21)の組み合わせに乗り換えたが、ここではまず今回の主役であるP ZEROからインプレッションしていこう。

P ZEROの高い快適性と際立つ静粛性

公道とサーキットでP ZEROの実力を試した

 走り出してまず感心したのは、PZ5の高い快適性だ。UHPタイヤ(ウルトラ・ハイパフォーマンス・タイヤ)と聞けばある程度の乗り心地の硬さやノイズは妥協するものというイメージだけれど、PZ5は抜群に乗り心地がいい。そして、とても275幅の21インチとは思えないほど静かだ。

 ちなみにピレリは性能チャートにおいて、PZ5が先代モデル(PZ4)を大きく上まわる性能として、ドライハンドリング性能(3ランク)とドライブレーキング性能(2.5ランク)を挙げている。むしろノイズについては0.5ランクほどなのだが、つまりPZ4の静粛性がそもそも高く、これに対してさらに静粛性が増したと言えるのだろう。グリップレベルを落とさず静粛性(や排水性)を上げるためにピレリは、途中から幅や深さが変わるサイプを投入し、ショルダーブロックの溝形状を変更するといった細かな積み重ねを行なった。

走り出しから抜群の乗り心地が感じられる

 乗り心地がよいのも、ただ単にタイヤが柔らかいからではない。むしろGLE 450の車重をしっかりと支えるPZ5には、高い剛性感がある。にもかかわらず路面からの入力が心地良く減衰されるのは、サイドウォールがしなやかに動くからだろう。そしてバウンス後に素早くもとの形へと戻るから、シッカリ感も高い。

 その要となるのはビードまわりの強さだろう。ホイールとの接合部分がシッカリしていると、サイドウォールやショルダーを補強しなくても、エアボリュームを使って乗り心地と剛性がバランスできる。だから高速巡航時のレーンチェンジはもちろん、アップダウンのあるワインディング路でも、快適な乗り心地を保ったまま気持ち良く走ることができた。ハンドルを切れば素直にノーズがインに向き、車体のロールをタイヤで支えてくれる。グリップ感が高いのに、とてもスムーズに長距離移動ができる。

長距離移動にも向くP ZERO

 往路で試したP ZERO Eは、2023年に登場したEV(電気自動車)のためのP ZEROだ。もちろんガソリン車やハイブリッド車にも装着は可能だが、より重たく、モータートルクが高いEVに向けた設計がなされている。

 その代表的な技術が「Run Forward」テクノロジーだ。平たく言えばP ZERO Eのサイドウォールにはランフラットタイヤのように補強材が挿入されている。そのメリットとしては、タイヤがパンクしても安全性を確保しながら、最大80km/hで約40kmの距離を走行できることが1つ。

 また、これによってスペアタイヤがいらなくなる分、車両総重量を低減できるだろう。そしてサイドウォールの変形のしにくさから走行時のエネルギーロスが抑えられ、重量削減と合わせて航続距離が伸びる。ちなみに同サイズのピレリ・タイヤと比較して、その距離は最大で10%向上するという。

 よってその乗り心地は、P ZEROに比べてしまうと明らかに突き上げが硬めだ。しかし従来のランフラットタイヤと比べれば、かなり当たりは柔らかくなった。そしてエンジンレスなEVをターゲットとしているだけに静粛性が高い。ノイズの低減率は同サイズのピレリ・タイヤと比べて最大で20%にもなるという。

 そんなP ZERO Eは、欧州ラベリング規格において転がり抵抗、ウェットブレーキ、静粛性でトリプルAを獲得。さらにタイヤ全体の55%以上に天然ゴムやバイオレジン、リグニンといった天然素材や、リサイクル素材を使ってサステナビリティを高めている。

セパンサーキットで体感したグリップ性能の高さ

セパンサーキットには多数のモデルが用意された。筆者が試乗したのはメルセデスAMG A 35セダン

 2日目は、P ZEROのコア・バリューであるスポーツ性能をセパンサーキットで試した。試乗車はメルセデスAMG A 35セダン(306PS/400Nm)で、タイヤサイズは235/35ZR19だ。

 PZ5を走らせてまずおどろかされたのは、その乗り味がサーキットでも同様に快適だったことだ。一般公道とは違ってサーキットの路面はフラットだ。またヘルメットをかぶっているからロードノイズも確かに聞こえづらい。しかしバイブレーションの少なさや、縁石を乗り越えたときのフィーリングからも、タイヤがしなやかに路面を捉えていることが分かる。

 肝心なグリップ性能も高かった。そのキャラクターをひとことで言うと“しなやか系”。一般公道でのフィーリングをそのままに、荷重を高めることでグリップが追従するタイヤだ。もちろんそのショルダーブロックは大きく取られており、主溝に傾斜角を持たせることで高い横Gにも対応しているが、ゴツゴツとしたフィーリングは一切ない。

 だからバネ下の動きも軽やかで、とても運転がしやすい。フロントタイヤさえきちんとトレースさせれば、リアタイヤは絶妙な粘り具合で追従し、FFベースのハイパワー4WDであるA 35を、後輪駆動車のような素直さで走らせることができた。

サーキットでもP ZEROのグリップ性能の高さが感じられた

 また今回は終盤に小雨が降りつつもすぐやんでしまったため、ウェット性能を試すことはできなかったが、この路面追従性の高さから先代PZ4よりもハンドリングで約1.5レベル、ブレーキングで2.5レベル引き上げられているというのにもうなずけた。ちなみにウェット性能に関しては、EUラベルでサイズ「A」を取得している。

 興味深いのは、この後走らせたP ZERO Rも、そのキャラクターがP ZEROの延長線上にあったことだ。確かにグリップレベルは縦も横もさらに高い。速度域も一段上なのだが、クルマの動きに合わせてジワッと粘りながら追従するキャラクターは同じ。だからポルシェ 911 カレラが持つターンインの軽快さやトラクションの良さを生かしながら、中高速コーナーの多いセパンを実に楽しく走ることができた。単なるグリップ重視のタイヤではなく、クルマのコントロールを安全に学べるタイヤだ。

P ZERO Rはクルマのコントロールを安全に学べるタイヤと感じた

 一番ハイグリップなP ZERO トロフェオ RSは同乗走行だったので、ハンドリング性能は確認できなかった。助手席で感じたのは率直にグリップレベルが高いことで、性格的には本気でタイムを求めるタイヤだと感じた。確かにP ZEROファミリーらしいしなやかさもあるが、いかに高いブレーキングGを発揮して、速くコーナーを曲がるかに重きが置かれている。ヨーロッパでいうとミシュラン「パイロットスポーツ CUP2」と比較すべきタイヤであり、その位置付けは「公道も走れるサーキットタイヤ」と言えるだろう。つまりP ZEROとはプライオリティが真逆になる。

 第5世代となったP ZEROは、非常にハイバランスなUHPタイヤだった。高いグリップを持ちながらも日常ではおどろくほど快適であり、現代のプレミアム/プレステージカーにはぴったりのキャラクターだと感じた。そしてこのP ZEROを核としながら、さらに特化したニーズには「R」や「E」、「トロフェオ RS」で応える。それができるピレリの実力は本物であり、日本でももっと注目されてもよいと感じた。

最新世代のP ZEROにはおどろくほど高い日常性能が備わっていた
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。