パイクスピーク2012に注目!(後編)

 アメリカでインディ500に次いで歴史のあるレース「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」。今年開催50回目を迎えるパイクスは7月8日に開催されますが、路面の完全舗装化やEVクラスへのエントリー増加など、歴史あるレースにも大きな変化が感じられる年になりそうです。

 日本人ドライバーもこのEVクラスに4人がエントリーしています。前編では2011年に6連覇を達成してワールドレコードを更新したモンスター田嶋さん、TMG(トヨタ)からフォーミュラタイプのマシンでエントリーしている奴田原さんのご紹介をしました。
そして今週は……。

ほとんどガードレールのないコースでタイムアタックをするというスリリングさが話題になるパイクス。2011年も練習と本番で数台のマシンがコースアウトしていました……完走を果たしたマシンは標高4301mの頂上で1台1台チェッカーフラッグを受けるレース事務局が置かれるホテルの駐車スペースを使って行われる車検風景

 

ラリードライバーとしてだけではなく、三菱自動車の車輌開発者として今年、i-MiEVのプロトタイプマシンで念願のパイクスに挑む、増岡浩さん

 昨年のパイクスでも姿をお見かけしていた、三菱のラリードライバーとしてパリ・ダカール・ラリーなどで活躍した増岡浩さん。実は三菱は、3年計画でこのパイクスにEVで参戦する予定でした。が、2011年は残念ながら断念しており、増岡さんだけが会場に出現! 「むふふ……来年の出場を見込んで視察しているのだな?」と勘繰っていた私。そして先日、ある席でご一緒する機会があり、パイクス参戦に向けた準備が進んでいることを改めて確認することができました。

 「3年プロジェクトの初年度(1stステップ)はノーマルのi-MiEVで参戦する予定でした。今年はいきなり2ndステップであるi-MiEVのモーターやバッテリーを使用するプロトタイプのマシンで参戦します。

 出場するからにはもちろん勝ちたいですよ」と増岡さん。その一方で、三菱自動車として参戦するのには、勝敗だけではない目的があるのでした。三菱自動車の車輌開発にも携わっている増岡さんは、年内中に発表予定の「アウトランダー」の後継モデル(プラグインハイブリッド)の技術開発と勉強も兼ねて参戦するとのこと。モータースポーツのフィールドが市販車に繋がる技術開発の場であることは、今も変わらないのですね。

 今回のi-MiEVプロトタイプマシンは、シャシー製作だけは外部に委託しているものの、その他のコンポーネントについてはi-MiEVのサプライヤーさんと活動するというのがコンセプトの1つ。i-MiEV2台分のバッテリーを搭載し、モーターは前輪に1つ、後輪には左右1つずつの合計で3つを搭載。「EV+4WDでパイクスを走らせることで、新しいことも試したいですし、4輪の統括制御についての勉強やデータを入手したい」とおっしゃっています。そこでタイヤもダンロップの市販Sタイヤを中心に、天候や路面状況に合わせた3タイプを用意する予定だとか。

 パイクスは、これまでの砂漠でのレースとはまた違ったスケール感を持ち、砂漠のレースが1万kmのマラソンだとしたら、10分前後で一発勝負をかけるパイクスは100m走みたいなもの、と増岡さんは言います。すでに来年の参戦も視野に入れた今年の初参戦、とても楽しみです。

 増岡さんのマシンは4月末くらいにシェイクダウンの予定。5月中旬には参戦記者発表会も予定されているそうです。

2009年から毎年EVマシンで参戦を続けている塙郁夫さん。EV+エコタイヤで自身の記録更新なるか!?

 そして、自作のEVフォーミュラマシンで参戦する塙郁夫さん。こちらは「チームヨコハマEVチャレンジ」ということで、横浜ゴムとのEVマシンでの参戦が4年目となります。つまりパイクスへのEV参戦については大先輩ということになります。塙さんは誰よりも熱心に「EVマシンの魅力をアピールしたい」と願い、参戦している方です。

 マシンは昨年同様「Her-2」。基本コンポーネントに変更はないものの、今年はAC Propulsion(ACP)が第2世代のモーターを開発したそうで、そのスペシャルモーターを採用することが決定し、現在、セットアップ中なのだそうです。

 これまでもACPのモーターを採用していた塙さんのマシンは、走行中のモーター温度上昇に苦しんでおり、さまざまな対応をしつつ、温度上昇を抑えながら走行していました。ACPは約20年の歴史があり、モーターの冷却は空冷で行っていました。が、「限界が見えたんでしょうね」と塙さん。新世代モーターは新しい冷却システムを持っているのだとか……。

 詳細はまだ発表できないそうですが、このモーターを実際にクルマに搭載して走らせるのはHer-2が最初となるそうで、「ACPが社運をかけて開発した新世代モーターを我々に託してくれたことは、非常に光栄です」と塙さんもこのモーターに大きな期待を寄せている様子でした。

 今年の目標は自己ベスト更新となる11分台のタイムで、パイクスの山頂でチェッカーフラッグを受けること。並み居る強豪とはマシンのスペックも異なることもあり、タイムは控えめではありますが、今年はもう1つテーマがあるそうです。それはタイヤ。チームヨコハマEVチャレンジは、2011年に続き今年も「Blue Earth」というエコタイヤでパイクスに挑むそうです。完全舗装路になったコースではハイグリップタイヤの方がよいタイムを見込めるかもしれませんが、「“EVマシン+エコタイヤ”でタイムを出すぞっ!」というチームの目標を応援したいものです。マシンの詳細やパイクスの様子は、昨年の記事もぜひご参考ください。

 EVマシンで初参戦ながら、いきなりワールドレコード&総合優勝を狙うモンスター田嶋さんや奴田原さんのチームもあれば、優勝はもちろんメーカーの技術開発と市販車の実力を試そうという増岡さんのチーム、また、あくまで「エコ」にこだわりを持って、EVマシンのパフォーマンスをアピールしたいという塙さんのチームなど、目指す頂上は同じでも、4人の日本人が挑むコンセプトは異なるようです。さらにアメリカのカリフォルニア、ニューメキシコからもEVクラスにエントリーしています。

 パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムは、実は地元ではお祭りのような感覚を楽しみ、オフィシャルなども地元の方によるボランティアという、手作り感たっぷりな気取らぬイベント。Super GTやF1、インディ、ナスカー、ル・マンなどを観たことのある私にとって、パイクスがすでに懐かしい場所のように思えるのは、「インターナショナル」と名のつく、世界中から標高4301mのゴール地点を目指す物好きな(?)チャレンジャーが集まるレースでありながら、ユルイ感じがクセになる“ドメスティック”感たっぷりのレースだからでしょう。

 EVクラスに注目と言いながら、ビンテージクラスに毎年参戦しているお祖父ちゃんたちとの再会も楽しみ。今年のレースの様子は車検からリポートしていく予定です!

レースウイークの金曜日にはダウンタウンでファンフェスタが開催されます。注目のマシンが通りに並び、ファンサービスが行われます。また、ディーラーによる新型車の展示なども地元の方たちがチリコンカンやBBQを販売したり、バンド演奏をしたり、食べたり飲んだり、クルマやバイクを眺めたりして、楽しみますレースはもちろんですが、雄大な景色を眺めがとても気持ちいいパイクスピークです。今年も高山病にならないように願いつつ、行ってまいります! あっ、7月のことですけど……

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2012年 4月 12日