オグたん式「F1の読み方」

いよいよ今週末開催のF1日本GP展望

2015年のF1日本GPスタートシーン

 さて、まもなくF1が日本に戻ってくる。今年のF1日本GPはどうなるだろう。

振り出しに戻ったチャンピオン争い

 今年のF1はメルセデス勢の圧倒的な強さで、一見すると退屈に見えてしまう。だが、ちょっと見方を変えると今はまたとても面白い状況になっている。

 確かにメルセデスAMGチームは圧倒的な強さを誇っている。それは低速な市街地のモナコから、超高速なモンツァまでどんなコースでも他を圧倒している。常に完璧を求めるメルセデスらしいマシンと戦いぶりだ。

 一方、このメルセデスAMGチーム内でのバトルの激しさは、熾烈さを増している。まず開幕からニコ・ロズベルグが4連勝。対するルイス・ハミルトンは新しい規定によるクラッチの操作変更などの影響で、スタートから上手くいかないことが多かった。これで今年はロズベルグの年かと思われた。

 第5戦はロズベルグとハミルトンが接触してリタイヤに終わったあと、モナコとカナダでハミルトンが連勝。ハミルトンに流れが傾いたようだった。だが、バクーでのヨーロッパGPではロズベルグが一矢を報いた。ところが次のオーストリアからハミルトンが4連勝。これでハミルトンがポイントをリードし、とても優位な立場になった。しかし、ロズベルグがベルギーから反攻に出て3連勝してふたたびポイントリーダーの立場を取り戻す。日本GP直前のマレーシアでは、ハミルトンは速さを見せたもののマシントラブルでリタイヤ。ロズベルグは序盤の接触などで遅れるが、粘り強さを見せて3位に入賞した。

 このようにチャンピオン争いの勝敗の流れが2人の間で本当にめまぐるしく行き来してきた。そんななかでマレーシアGPと日本GPの連戦を迎える。

ニコ・ロズベルグ
ルイス・ハミルトン

 ポイントリーダーといっても、ロズベルグのリードはわずか23点。優勝に25点が与えられ、鈴鹿を含めて残り5戦があるなかでは、この23点はごくわずかな差でしかない。つまり、チャンピオン争いはほぼ振り出しに戻ってしまっているといって過言ではない。すると、ここからの残り5戦は互いになんとしてでもライバルの前でゴールしなければならなくなる。日本GPは、そのなかでロズベルグとハミルトンによる情け容赦のない激しいバトルになるはずだ。

 2015年の日本GPでは、2コーナーで並びかけようとしたロズベルグを、ハミルトンはアウトに追いやるようにしてロズベルグの挑戦を退けた。ロズベルグはムダな接触を避ける動きもした。だが、今年のロズベルグはこれまでのハミルトンのようにとても強気でまったく負けていない。ハミルトンも持ち前の強気なバトルをしている。結果、これがスペインGPでのオープニングラップの接触につながった。また、オーストリアでは並びかけてきたハミルトンにまったくひかずに接触し、ロズベルグはペナルティも受けた。よくもわるくも2人は互いに影響しあい、互いに速くなり、互いにギリギリのところを突くようになっている。まさにライバルの戦いだ。互いに知り尽くした仲であり、互いに影響もしあった。だからこそ相手には絶対に負けたくないという強い思いがある。まるで1980年代終わりから1990年代初頭のアイルトン・セナ対アラン・プロストや、1976年のジェームズ・ハント対ニキ・ラウダの戦いのようでもある。

 この激しいライバル争いのなかで、メルセデスAMGチームは極めて難しい采配を求められているが、互いにダメージを及ぼすような過度な戦いはいさめるものの、基本的には自由に戦わせている。ここには、メルセデスの役員としてチームに帯同しているニキ・ラウダの存在意義も大きいだろう。思ったことを奔放に発言するラウダは、ときどき物議を醸すこともあるが、ライバルの大切さ、ライバルがいることの意義、ライバルとだけつながっている心の底での理解など、アスリートの心を経験上よく知っているからだ。

 そんななかでハミルトンとロズベルグは、雌雄を決するべく終盤戦を全力で戦うことになる。なかでも鈴鹿は絶対に落とせないレースとなる。鈴鹿は大部分のF1ドライバーたちがシーズンのなかで最も難しく、最も挑み甲斐があるコースという。この鈴鹿で予選の速さでも、決勝の強さでもライバルの前に出るということは、チャンピオン争いのためのポイント獲得はもちろん、ドライバーの誇りという点でも大きな意味を持つ。

 2016年で最速のドライバーのタイトルと意地と誇りを賭けて、鈴鹿の日本GPはロズベルグとハミルトンはその実力を最大限に発揮した走りと戦いを見せてくれるだろう。

第2グループでも熾烈な争い

 今年はメルセデスAMGによる独走が続いているが、この最強チームのすぐ後ろでチャンスを狙っている立場なのが、レッドブルとフェラーリだ。実際、第5戦のスペインGPでは、ロズベルグとハミルトンが接触してリタイヤしたことで、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが優勝し、フェラーリのキミ・ライコネンが2位になった。マレーシアGPでも、メルセデスAMG勢がつまずいたなか、ダニエル・リカルドとフェルスタッペンのレッドブルの1-2となり、ライコネンが4位になった。

 ドライバーズランキングで見ると、レッドブルのダニエル・リカルドが204点で3位、フェラーリのライコネンが160点で4位、セバスチャン・ベッテルが153点で5位、フェルスタッペンが147点で6位となり、鈴鹿を含む残り5戦の結果しだいで順位が変わるほどの僅差で競り合っている。コンストラクターズランキングで見ても、レッドブル359点、フェラーリ313点という僅差になっている。そのため、鈴鹿でもこの2チームの戦いは激しいものになる。

 鈴鹿には低速から中速、高速へと多彩なコーナーがあり、しかもそれらが連続している。そこを速く、かつタイヤへの負担を少なく走り抜けるには、マシンに高いコーナリング性能が求められる。これはレッドブルのマシンが得意とするところ。リカルド、フェルスタッペンともマシンの性能を最大限に引き出すことで、今季は表彰台も多数獲得してきた。半面、レッドブルが搭載するTAGホイヤー(ルノー)のパワーユニットは出力ではやや劣ってしまっている。これは鈴鹿のメインストレートとバックストレートではやや不利になる。

 対するフェラーリはメルセデスに次ぐパワーがあり、とくにイタリアGPから投入された今季最終スペックのパワーユニットはより出力が増強され、その効果が速さと結果に現れてきている。鈴鹿の2本のストレートではこれが活かせるはず。とくにベッテルはポールポジション4回獲得、優勝も4回と鈴鹿を得意としている。4勝は現役ドライバーでは鈴鹿最多勝となっているほど。マレーシアGPでの接触のペナルティで3グリッドの降格が決まっているものの、フェラーリのマシンの仕上がり次第のところではあるが、ベッテルの鈴鹿での強さが見られるかもしれない。また、ライコネンは新パワーユニットが投入されたイタリア以降4戦連続で4位に入賞し、コンスタントにマシンの実力を引き出している。ライコネンの技と速さも光るだろう。

 コーナーのレッドブル、ストレートのフェラーリ。このどちらのマシンが鈴鹿では優るのか? さらに若さと勢いのあるリカルドとフェルスタッペン、経験豊富なチャンピオンのベッテルとライコネン。この対照的なドライバーたちによる戦いも興味深い。

キミ・ライコネン
セバスチャン・ベッテル

メルセデスパワー勢の激戦

 レッドブル対フェラーリよりもさらに激しく争っているのが、第3グループとなるフォースインディアとウィリアムズだ。コンストラクターズランキングでは、フォースインディアが124点で4位、ウィリアムズが121点で5位。わずか3点差しかないので、今後の順位次第でランキングはいくらでも入れ替わってしまう。

 ドライバーズランキングでも、80点のバルテリ・ボッタスと74点のセルジオ・ペレスが7番手を争い、42点のフェルナンド・アロンソをはさんで50点のニコ・ヒュルケンベルグと41点のフェリペ・マッサが9-11番手を争う。ウィリアムズ対フォースインディアとなっていたなか、そこにマクラーレン・ホンダも入り、より激しい戦いになっている。

 レッドブル対フェラーリのところでも記したように、鈴鹿は2本のストレートと多彩なコーナーがあり、パワーとスピードとともに、優れたマシンバランスとコーナリング性能が求められる。両チームともストレートでパワーを活かした戦いが得意だが、最近のフォースインディアはコーナーでもウィリアムズに負けない性能まで高めていて、マシンの性能ではほぼ互角の戦いだ。

 コンストラクターズランキングが1つ異なると、来年の分配金収入の額が大きく異なってくる。ウィリアムズもフォースインディアも恵まれた資金力とはいえないところで、このコンストラクターズランキング4位・5位争いは、来年の活動と財政も見据えた激戦になる。また、マッサが鈴鹿のコーナーでF1マシンを豪快に駆るのが見られるのも、今年が見納めになってしまう。

マクラーレン・ホンダの躍進

 2015年の日本GPでのマクラーレン・ホンダは、予選でアロンソが14番手、ジェンソン・バトンがQ1敗退の16番手。決勝ではアロンソが11位、バトンが16位に終わった。奮戦したアロンソはレース中に「GP2シャシー」「GP2エンジン」「恥ずかしい」と無線連絡し、マクラーレンとホンダ双方に叱咤激励し、奮起をうながした。その効果は今季すでに現れ始めている。

 今年のマクラーレン・ホンダがこれまで62点を獲得して、フォースインディア対ウィリアムズに続き、47点のトロロッソとコンストラクターズランキング6位をめぐって接戦を展開している。そこにやや間をあけてハースF1も28点で追っている。

 ドライバーズランキングで見ても、アロンソが42点で10位になり、以下マッサ41点、カルロス・サインツ30点、ロマン・グロジャン28点、ダニール・クビアト25点、バトン19点と僅差で戦っている。

フェルナンド・アロンソ
ジェンソン・バトン

 今季のマクラーレン・ホンダは、予選でもQ2、Q3進出ができる速さを見せている。また、決勝でもアロンソとバトンが入賞回数を増やしている。ベルギーで投入された新スペックのパワーユニットでも、マレーシアでアロンソ車に搭載された最新スペックのパワーユニットでも、そのタイムや結果から開発がよりよい方向に進んでいることを示している。

 昨シーズン後半のマクラーレン・ホンダも、グリッドペナルティ覚悟のうえでパワーユニットを交換した。だが、それはどちらかというと、性能向上とともにトラブル対策を施したものを投入するというところもあった。一方、現在のマクラーレン・ホンダは性能向上版を投入するためのパワーユニット交換とペナルティとなっている。マレーシアGPでもアロンソ車に最新スペックのパワーユニットを金曜日に装着して性能をチェックした。こうすることでパワーユニット交換にともなうペナルティはマレーシアで受けておきながらも、その最新型は予選と決勝では使わずに温存。鈴鹿でペナルティを受けずにこの温存した最新型を使用するという策もとっている。バトンは鈴鹿終了まではベルギーで投入したものを使い、アメリカGPで最新型を搭載して終盤戦を戦うという。

 マクラーレン・ホンダも2015年に技術体制に変動があったものの、その車体はライバルよりも性能で劣っていた。だが、今年はその体制が機能し始めたあとの設計であり、しかもシーズン終盤に入ってもまだ積極的にマシンを改良し、コースにより適合したものにしようと努力している。

 マクラーレン・ホンダを追うトロロッソは夏休み前後から成績不振気味で、チームも「ミステリーだ」と言っていた。だが、シンガポールではクビアトが得意な市街地コースで実力を発揮して、上位勢を脅かすバトルを展開しての9位入賞となった。これで、スペインGPでのレッドブルからトロロッソへの「降格人事」以来失っていた自信も取り戻せたという。サインツはシーズン中盤に入賞を重ね、非凡なところを見せている。

 ハースF1は序盤戦では新規参入チームながら入賞を重ねて、目覚ましい活躍をした。後半に入ってチームの開発力を来年のマシンにシフトしたことで、やや成績が振るわないが、グロジャンもエステバン・グティエレスもコンスタントに入賞圏のすぐそばにつけている。

 この第3グループの戦いもまた激しい。そのなかでマクラーレン・ホンダは着実に進歩を遂げている。日本GPの予選でも決勝でも、2015年を上回る速さを見せて、予選と決勝でトップ10圏内を争う戦いができそうだ。鈴鹿での表彰台は? というのは時期尚早だが、天候の急変など波乱の展開になれば、レース巧者のアロンソとバトンがよりよい結果に結びつけることも可能だろう。

 2015年の苦戦から1年を経て成長した2年目のマクラーレン・ホンダの鈴鹿での戦いは必見だ。そのチャンピオン経験者2人に挑む、トロロッソとハースの若く才能に満ちたドライバーたちの走りも注目だ。そして、来季の欠場を発表したバトンの鈴鹿の走りも目に焼きつけておきたいところ。

見どころ多彩、楽しさ満載

2016年のF1日本GPで最初にチェッカーを受けるのは誰か?(写真は2015年F1日本GPのゴールシーン)

 さらにはルノー、マナー、ザウバーも毎回のように予選と決勝で激しく争っている。チームは来季の分配金の増減を賭けて戦っている。この3チームにも、若く、才能に恵まれたドライバーたちがそろい、自らの未来を切り拓こうと戦っている。予選Q1や決勝での下位チームは看過されがちだが、そこには来季の生き残りや未来への希望を賭けた激しい戦いが展開されている。これも、注目するととても興味深いはずだ。

 この日本GPの展開は、鈴鹿サーキットで実際に見て、空気の振動と風を感じるのが一番で、まだチケットの購入も可能だ。また、サーキット内ではGPスクエアなどでさまざまなイベントが用意され、ドライバーのトークショーなどもある。日曜日のドライバーズパレードでは、今年もヒストリックカーによる素晴らしいパレードになるだろう。

 サーキットに行けないときには、フジテレビNEXTが全セッションを放送してくれる。また、走行時間にCS放送対応のテレビがない場合には、DAZN(ダ・ゾーン)がF1の全セッションをインターネットでライブ配信と見逃し配信をしているので、ネット接続環境があればパソコン、タブレット、スマホなどで見ることができる。

 BSフジは日曜日の夜に日本GPの番組も放映する。また、NHK BS1も23時からの「ワールドスポーツMLB」で日本GPをニュースとして2分ほど映像とともに伝える。BSフジとNHK BS1はBS放送が視聴可能なテレビがあれば手軽に見られる。

 今年のF1はマシンとタイヤの性能向上で2015年よりも速くなった。それは各開催コースでのタイムや最高速に現れている。そのなかで最も素晴らしく、最も難しく、最も挑み甲斐のある鈴鹿サーキットに、今年も世界最高峰のドライバーたちとチームがより速くなったF1マシンで挑む。この難コース・鈴鹿を征したものは、終盤戦に向けて大きなはずみをつけるだろう。そして、それぞれのポジションをめぐってコース上のいたるところで激しい戦いが展開される。その戦いはどれも見逃せない。

小倉茂徳