【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第32回:座禅で学んだ“心を落ち着ける方法”で巻き返しを狙う

ゴールデンウイーク最終日に開催されたシーズン第2戦。開幕戦の雪辱なるか!?

砂子塾長からオートポリス攻略法を学ぶ

 開幕戦ではポールポジションを獲得しながらも、シフトミスによって3位という結果に終わったことは前回お伝えしたとおり。以来、生活のすべてが灰色で、“心ここにあらず状態”が続くほどだった。残り2周半で一気に2台に抜かれ、勝利が手のひらからこぼれ落ちて行く様は、今でも頭から離れていない。

 だが、落ち込んでいても始まらない。集中力が足りなかったからそんなシフトミスをしてしまったのだろうと、人生初の座禅に挑戦! その模様はトラベル Watchの記事「橋本洋平のトヨタ『プリウス PHV』で精神修養の旅!?」をご覧頂きたいが、この体験でいつでも平常心でいるためのコツを掴むことができた。これでミスが減ればいいのだが……。

東京バーチャルサーキットでオートポリスを走り、砂子塾長(左)からアドバイスを受ける

 また、今回のレースの舞台となるオートポリスの攻略にもトライした。といっても事前に大分まで行ったわけじゃない。都心のど真ん中といっていい東京 赤坂にある「東京バーチャルサーキット」を訪ね、ドライビングシミュレーターでオートポリスの注意点を学んだのだ。アドバイスをしてくれたのはレーシングドライバーの砂子塾長だ。そこではポルシェのコクピットをそのまま使ったドライビングシミュレーターに座り、オートポリスを走っていく。

 2016年は震災(熊本地震)によってレースが行なわれなかったため、このコースを走るのは2年ぶりのことである。走り始めれば「ここは難しくて攻略できなかったっけ」とか「ここは得意なコーナーだったよな」なんていう振り返りができるところが面白い。15分ほど走ったところで、自分なりに納得がいくラップができたので終了。その後は砂子塾長からのレクチャーをシッカリと受けられる。

2年ぶりとなるオートポリスのコースをチェック。リアルに再現されているので実際に走った記憶がよみがえってくる

 本物のデータロガーと同じく、スロットル開度やブレーキ踏力などが解析できる画面を見ながら砂子塾長が丁寧に説明を始めてくれた。砂子塾長曰く「フル制動時にステアリングを切り始めるクセがありますね。そこをまずは改善したほうがいいでしょう。また、2コーナー先の複合コーナーや、セクター3の複合コーナーでアクセルのON/OFFが激しく、それがきっかけでクルマの姿勢が乱れているポイントがあります。その2点を注意して走るといいでしょう」とのことだった。慣れないコースで先が分からず、バタバタしているところがたしかにありましたね。サーキット入りする前にそんな注意点が分かっただけでも大収穫である。これは大きな武器となりそうだ。

走行後には走行データを見ながら注意点の洗い出し。これは大きな武器となりそうだ

 自分でできそうな事前準備はバッチリOK! クルマはメンテナンスガレージのレボリューションがシッカリと仕上げてくれていることだし、あとは移動するのみ。……が、その移動が今回の難題だ。自宅からおよそ1200kmも西にあるオートポリスまでどうやって行くのか? これが実に厄介である。レースが行なわれるのはゴールデンウイーク最終日の日曜日。練習走行などを考えると、遅くとも木曜日には現地に到着しておきたいところ。

 そこで考えた結論は、往路は自走で大阪南港まで行って、そこからフェリーに乗って大分の別府国際観光港までワープ。あとは再び自走で1時間30分ほど走るという予定だ。これならラクチン!?

 だが、5月3日の19時出港のフェリーに乗るとなれば、そこに辿り着くには何時に東京を出発すればいいのやら……。なんといってもゴールデンウイーク後半初日なのだから。早朝出発でも心配になり、深夜1時に自宅を出発したのでありました。すると、東名高速道路は深夜だというのに用賀IC(インターチェンジ)から大渋滞! 秦野中井ICあたりまでノロノロ運転が続いているというのだから目まいがしそうである。そんなところに突入したらクラッチを痛めるだろうし、我が左足の膝だってやられかねない。

 そこで第三京浜から横浜新道、そして新湘南バイパスを乗り継いで海沿いへ。その後は西湘バイパス~箱根新道~国道1号~伊豆縦貫道を走り、沼津ICから再び東名高速へと接続したのだ。そこから先は渋滞もさほどなく、まずまず順調♪ 途中で渋滞が始まったところで一般道に迂回したり、朝の混雑が始まったところで仮眠をとったおかげで、クラッチも膝も痛めることなく14時すぎには大阪入り。僕に似ていると評判(?)のくいだおれ太郎に挨拶をし、ソースまみれのたこ焼きと焼きそばを食らってフェリーに乗り込んだのでありました。ふぅ。それにしても、こんな時期にレースを開催しなくてもいいのにね。移動だけで疲弊しきったことは言うまでもない。

途中のSA(サービスエリア)などで休憩しつつ、大阪南港を目指す
似ていると評判(?)のくいだおれ太郎は当日も大人気だった
ソースとかつお節たっぷりののたこ焼きと焼きそば、そして(もちろんノンアルコールだが)ビールで英気を養う
大阪南港から別府国際観光港まで、フェリーを使って一気にワープ

後半勝負の1発アタックで2戦連続ポールポジションを狙う

余談だが、実は前回のもてぎ戦決勝直前に愛用していたシューズの紐付け根が切れた。不吉な予感がしたのだが、案の定抜かれるという結果に……。そこで今回は新たにアルパインスターズのシューズに切り替えての参戦となったのでした

 そんなこんなでいよいよオートポリスに乗り込んだ。震災の影響で一部舗装をやり直したというこのコース。だが、走ってみればさほど違和感もなく周回できたことでまずはひと安心だった。事前に学んだシミュレータートレーニングも効いていたのだろう。順調にタイムアップを重ねていくことができた。

 今回から投入したエンドレス製のコントロール性重視のブレーキパッドも使いこなすことができ始めたし、ブリヂストン「POTENZA RE-71R」は連続周回を重ねても安定したラップを刻んでいる。また、今回から投入したPOTENZAブランドのホイールも、軽量・高剛性で確かな手応えを感じさせてくれている。これならいけるだろう。事前練習では霧や雨で走れないことも多かったが、予選・決勝が行なわれる日曜日の予報は快晴。これなら今回もポールポジションはいただきか!?

トレーニングとコントロール性重視のエンドレス製ブレーキパッド、さらにブリヂストン「POTENZA RE-71R」の組み合わせで順調にタイムアップ。今回もポールポジションを狙える!?

 ただ、本番前日に行なわれた予備車検で思わぬハプニングがあった。なんと車高が足りていないと落とされたのだ。新品スプリングがなじみだして車高が落ちたことによる結果らしいが、これもまた自走による弊害かもしれない。ピットに戻って車高を調整しなおし、再び車検を受けて合格を得たが、走行フィールが変わってしまうことは否めない。次からはやはり自走はせず、トラックでクルマを運ぶべきかもしれない。

多くのライバルがコースインする序盤はピットで待機し、1発のオイシイ部分を使い切ってベストタイムを目指す作戦

 1DAYレースとなる今回の第2戦は、予選が早朝に行なわれることになっていた。ひんやりとした外気温にまだ上がり切っていない路面温度。これなら好タイムが期待できるか? 前回同様にフレッシュタイヤが生み出す1発のオイシイ部分を使い切る作戦で予選を戦うことにした。セッションは20分。前半10分はピットで待機。アタックを終えたクルマが引き上げてきたあたりからコースインする作戦だ。

 案の定、ライバルたちは前日まで見たこともないタイムを叩き出してきた。ここまで出せるのか? プレッシャーが立ちはだかる。座禅で学んだ心を落ち着ける方法を思い出しながら、はち切れそうな心臓を治めていく。いよいよコースイン。できるだけ落ち着いて。そしてプロクラスで戦う佐々木雅弘選手からいつも言われている、ボトムスピードをシッカリと落として1発でクルマの向きを変えて、アクセルを一気に開く走り方をやろうと言い聞かせながらアタックラップに入る。

 最終コーナー手前から大きなRを描くようにアプローチ。立ち上がり重視のラインでアタックに入る。すると、いつもシフトアップするよりも遥か手前で4速に入るほどスピードが乗っていた。フレッシュタイヤのオイシイところが使えている! これなら大幅なタイムアップも期待できそうだ。コントロールラインを通過してアタックに入る。だが、そこでユルユルとコースインしてきた車両が見えてきた。そのクルマはこともあろうか1コーナーのブレーキングポイントでスロー走行をはじめたのである。おかげで1コーナーは台無し。だが、諦めきれず3分の1周ほど走ってしまった。

 そこで冷静さを取り戻してアタックは中止。1コーナーの時点ですぐにアタックを中止すべきだったが、残り時間を考えて焦りが出てしまった。まだまだですな。結果として無駄にタイヤを使うことに。タイヤを冷やして再びアタックを開始するものの、はじめに感じていた抜群の最終コーナー立ち上がりができることはなく、終わってみれば予選6位という結果だった。最悪の予選である。

諦めない気持ちで貴重な1ポイントを獲得!

第2戦は6番手スタート

 続く決勝は午後イチにスタートする。腐った心をなんとか取り戻し、決勝に挑む。1台でも前に出て少しでもポイントを稼いで帰りたい。考えることはそれだけだ。外気温も路面温度もかなり上がってきたスタート直前。これならもしかしたらイケるかもしれない。そう思っていた。理由はPOTENZA RE-71Rが、熱ダレが少ないタイヤだからだ。ライバルは温度が上がれば上がるほどつらい。そこが心のよりどころである。

6番手から団子状態で1コーナーに進入

 レッドシグナルが消灯してレーススタート! ミスもなく、けれども大幅なリードもなく1コーナーに突入する。すると、前方にいた1台がブレーキングミス。僕の目の前を横切るようにアウト側に膨らんできた。そこで冷静にインをついてポジションアップ。目の前にはライバルメーカーのタイヤを装着する選手が立ちはだかっている。だが、きっと前車は熱ダレが来るはず。後ろに張り付いてクルマの動きを観察することにした。すると、周回を重ねるごとに1コーナーの立ち上がりでフラつき始めていることが確認できた。チャンスはその先の2コーナーしかない。そう決め込んで次の周で1コーナーをていねいに立ち上がると、ライバルは案の定そこでフラつき立ち上がりが鈍ったのだ。続く2コーナーのブレーキングでシッカリと抜き、4位にポジションをアップした。

冷静に前のクルマを観察しながら4位まで順位を上げた

 トップ3台はダンゴ状態で終始バトルを続けている。僕とは少し距離があったが、やりあっているおかげでみるみる距離が縮まってくる。終盤、トップ争いの集団に追いつき、真後ろからチャンスを伺っていた。だが、ライバルはかなり速い。前を行くのはクスコ号に乗るブリヂストンユーザーの菱井選手だが、全日本ジムカーナチャンプのベテランというだけあって、ミスもなく走っているから厄介だ。その菱井選手もきっと、ライバルメーカーのタイヤを装着するトップ2台のタレを狙っていたのだろう。

 2位の選手をヘアピンで一気にパス。さらにはジェットコースターストレート後の高速コーナーでアウトからドリフトしながらまくってしまうなど大活躍。そのままチェッカーを受けて優勝した。後ろから見ていてシビれるほどの走りだった。予選4位からの大躍進には恐れ入る。それに続きたいところだったが、ここに来るまでに僕はタイヤをかなり使い、余力を残している状況じゃなかった。予選で沈んでしまったことが悔やまれてならない。

菱井選手の771号車に続きたいところだったが、4位のままチェッカーフラッグを受けた
表彰台には立てなかったが、3周目に計測した2分15秒391のタイムがファステストラップとなり、4位フィニッシュの10ポイントと決勝完走の1ポイントに1ポイントが加算され、計12ポイントを獲得した

 というわけで残念ながら表彰台にも上がれず、さらには賞金も得られないという残念な結果で終わってしまった。だが、1つだけいいことがあった。それはレース中のファステストラップを取ることに成功したのだ。予選が沈んでしまったが、諦めずに走っていたことがファステストラップに繋がったのだ。貴重な1ポイントを加えることができ、そこだけはラッキーだった。

 帰路は賞金も取れなかったのだから、すべて自走で帰ろうと決めた。自分への戒めである。オートポリスを夕方に出て、東京の自宅に到着したのは翌朝の7時30分。そんな“耐久レース”では見事に完走を果たしたが、身体はボロボロ。戒めはやりすぎだったのか、その後数日、身も心もボロボロだったのは言うまでもない。

プロクラスで戦う佐々木雅弘選手は第2戦で2位となっている
荷物をクルマに積み、戒めとして大分から東京の自宅まで自走で帰宅した

 次戦は近くてなじみのある富士スピードウェイ。予選、決勝、そしてファステストをすべて取るパーフェクトなレースをしたいものだ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学