【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第5回:昨年好成績だった菅生ラウンド、今年は決勝レース直前に思わぬ落とし穴が!?

不調の原因が判明し、第2戦に期待高まる

 ゴールデンウィーク突入と同時に行われるトヨタ「86(ハチロク)」とスバル「BRZ」のワンメイクレース「GAZOO Racing 86/BRZ Race」第2戦・菅生ラウンド。休みに入ると同時にレースが行えるなんて、幸せこの上ないように聞こえるかもしれないが、実際は地獄に向かうかのようにハードな週末の幕開けである。長期休暇を取るために、その前の仕事や生活などあらゆるものが圧縮され、菅生がある仙台へと向かう道中は徹夜明けでフラフラというありさま。サーキットに到着してそのまま練習走行に突入すれば、走行後には頭痛が襲ってくるという悪循環。アマチュアレーサーのレースウィーク金曜日は、多かれ少なかれこんなハードスケジュールだ。

 伝説の登山家であるジョージ・マロリーは、「なぜ、あなたはエベレストに登りたいのか?」と問われ、「そこにエベレストがあるから」と答えたという。いま僕が「なぜ、あなたは86/BRZレースに出るのか?」と問われたならば、「そこで86/BRZレースが開催されるから」と答えるしかない。ハードな生活を乗り越え、さらにハイレベルになった86/BRZレースに挑戦し続ける理由は、探してみても一言では答えられない。エベレスト級の魅力がどこかにあるからこそ、ハードスケジュールであっても、レースが例え上手くいかなくても、ついつい参加してしまうのだろう。

 前回の記事をご覧いただいた方々はご存じだろうが、開幕戦の成績は散々なものだった。予選一発の速さもなく、さらに決勝レースはズルズルと後退。レブリミッターが500rpmも手前で介入しまくるというのが理由である。レース後、その原因を探るためツインリンクもてぎに再び訪れてテストを行った結果、どうやら車高の設定とLSDのヘタリが原因ということを突き止めた。修復を行う術を見つけることに成功したのだ。

愛車の不調の原因を探るべく開幕戦後にテストを行った結果、車高の設定とLSDのヘタリが原因ということが判明。すぐさま修復を行った
コースの舗装が全面改修された菅生サーキット

 菅生で行った練習走行では、全盛時と同じように走る感覚が蘇り、まずまずの感触があった。これなら予選もイケるはず。昨年の菅生ラウンドでは予選2組ポール、総合2番手という結果を出したサーキットなだけに期待は高まる。

 ただ、そう簡単に物事は進まない。今年の菅生サーキットはコースの舗装が全面改修されたため、グリップがかなり高まっている。加えて現在装着しているブリヂストン「ポテンザ RE-11A 3.0」のグリップも昨年より上昇。相乗効果でタイムアップは間違いないところだが、レベルが上がれば操るのは難しくなる。すなわち、グリップ向上が好成績に繋がるというものでもない。考えてみればまわりも条件は同じなのだから……。

レース当日はラリー仕様の86、スーパー耐久仕様の86とともにGAZOO Racingブース前に車両を展示させていただいた。ベース車両は同じでも、出場するレースによって規定が異なり、こうやってマジマジと比較して見てみるのも面白い
ラリー仕様の86
我が愛車、カーウォッチ86ポテンザEDΩ
スーパー耐久仕様の86
会場ではGazoo Racingのキャンギャル「G-Lady」と一緒に写真を撮ることもできた。この後何が起こるか知らず、なんとも幸せそうな顔である

給油のタイミングが致命的となり……

予選では練習通りに走らせることを心掛けた

 予選アタックは慎重に前後のタイヤを温め、奇をてらわず練習通りに走らせることを心掛けた。RE-11 3.0の新品一発が見せるグリップの高さも使い切れれば最高だ。

 アタックラップ前の最終コーナーを上手くまとめ、菅生名物の長い長い上り坂をロスなく登り、いよいよアタックに突入する。1コーナーは突っ込み過ぎずに通過。その後もこれといったミスはなく、すべてを無難にまとめて再びコントロールラインまで戻ってくることができた。結果は練習から通じてもっともよいタイムを記録。これならそこそこ満足できる仕上がりだと思えた。だが、結果は2組7番手で総合14位。昨年のコースレコードは上回っていたが、それも路面とタイヤのグリップが高まったからなのだろう。

昨年よりもグリップ力が高くなったRE-11A 3.0

 期待よりも遥かに低いグリッドに収まることになった決勝レース。ハッキリ言えば意気消沈だが、これでもまだまだ可能性はある。できればトップ10入りしてポイントゲットを目指したい。そう頭を切り替えて、決勝へ向けてガソリンを給油し準備万端でくつろいでいた。

 だが、決勝レースの直前に、メカニックが血相を変えてこう言ってきた。「オイ! 本当にガソリン入れたのか?」。どうやら燃料計が1目盛りくらいしか上がっておらず、それで決勝を走り切ることができるのか不安に思っているようだ。「さっき計算通り入れたんだけど。昨年の鈴鹿でガス欠したからなぁ……。やっぱり足しますか、ガソリン!」。

予選はそこそこ満足できる仕上がりだと思えたが、2組7番手で総合14位という結果に

 そんなこんなでガソリンスタンドへとクルマを向け、給油を開始。時間はギリギリのタイミングだというのに……。結果、ここが運命の分かれ道だった。給油でもたついたために、コースイン時間に数十秒間に合わず、グリッドに整列することを許してはもらえなかった。オフィシャルからピットスタートなら参加してもよいと告げられるが、スプリントレースでそれは勝負権がないも同然。サーキットを走れば走るほどメンテナンス代がかかる86を考えれば無駄に走らせたくはないと考え、今回はリタイアすることにした。皆様、本当に申し訳ございませんでした。

 後日メーターについてまわりに聞いてみると、燃料計の上がり方はガソリン残量に直結しているわけではなく、直前に走っていた燃費データを算出した上で表示されるということらしい。次回からはギリギリを狙わず、多めにガソリン給油をしようと心に誓ったのでありました。

次回からは多めにガソリンを給油しようと心に誓った第2戦でした

5月16日、17日の第3戦・富士は全力で挑みます!

レース後、気分転換に日本三景である松島へ出かけた

 こうしてレースはまたしても散々な結果に終わったが、今回はレース後のお楽しみがあったから気分も多少は晴れた。菅生からおよそ1時間の場所にある日本三景・松島へと観光に出かけたのだ。震災時の津波を受け止めて内陸を守ったという傷ついた島々を、遊覧船で巡ることができたよい旅だった。

 レースをした後でも、このような楽しみ方をできるところがナンバー付き車両で争う86/BRZレースの魅力の1つ。練習時に散々使ったタイヤであっても、公道走行ができるRE-11 3.0の実力もまた、それを支えている。もちろん、派手なステッカーを貼り付けて観光地を走るのは勇気がいるが、それがきっかけで現地の人々にお声掛けいただき、触れ合うことができたこともまた収穫の1つだった。

 後日、ゴールデンウイーク後半を利用して、クルマのお祓いをするために明治神宮に行ってきた。少しでもレース結果が上向くように、最後の神頼みである。前厄のオッサンには、そんなことが心の拠り所。出てきたお札が交通安全だったことはナイショだが……。明治神宮に乗り付けられることもまた、ナンバー付きレースカーのよさ……、なのか?

 こうして2014年の連載第2回にして心も身体もボロボロになった86/BRZレース参戦記。レースで勝つことはエベレスト登頂よりも難しいことかもしれないが、まだまだ諦めるつもりはない。そこに86/BRZレースがある限り。5月16日、17日に富士スピードウェイで行われる第3戦も全力で挑むつもりだ。

クルマのお祓いをするために明治神宮へ。神にもすがる気持ちでいざ、第3戦・富士へ!

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。