オグたんのモータースポーツタイムズ

今週末はWEC富士、来週末はF1日本GP、どちらのレースも目が離せない

フェラーリの躍進がF1を面白くする

「このところF1がかなり見どころあるレース展開になってきている」。

 前々回にこのように書き出した。そして、シーズン後半から終盤に向かう中、F1はさらに見どころがある展開になってきている。それにはいくつか理由が考えられるが、まずはフェラーリの躍進が大きな要因といえる。

F1はフェラーリの躍進で戦いがより激化

 今期のフェラーリのマシンSF90は、ティーポ064パワーユニットの強力な出力もあって、常にストレートでは最速を競ってきた。半面、F1につきもののコーナーでは遅れをとっていた。低速のコーナーではメルセデスF1 W10 EQ Power+に、中速ではレッドブルRB15に遅れをとっていた。さらに、ホンダのRH619Hパワーユニットがスペック4まで進化してきた中で、信頼性と扱いやすさはほぼそのままにパワーを上げてきたことで、レッドブル・ホンダはより強さを増して、フェラーリに迫ってきた。

 F1の夏休み明けの2連戦となったベルギーGPとイタリアGPは、フェラーリが優位とみられていた。ベルギーのスパ・フランコルシャンサーキットには、ケメルという緩い登りの長いストレートがあり、イタリアのモンツァは大部分がストレートという、ストレートが得意のフェラーリSF90向けのコースだったからだ。実際シャルル・ルクレールがドライバーとしての速さと才能も活かして、2連勝した。

ベルギーで勝利を収めたシャルル・ルクレール

 モンツァでの結果は、興味深い点もあった。

 決勝のストレートスピードでみると、1コーナー(第1シケイン)へのブレーキング前のスピードトラップではセバスチャン・ベッテルが最速の359.7km/hで、ルクレールは341.1km/hで16位だった。予選やレース中の車載映像からは、ルクレールのSF90が最終コーナーからの脱出が安定していて、パワーをしっかり路面に伝えたことでメルセデス勢よりも加速がよいことがはっきりみてとれた。このことから、ルクレール車はストレートスピードをやや削ってもダウンフォースを増やして、コーナーの進入、旋回、脱出加速を重視したセットだったことがうかがえた。

ベルギーを走るシャルル・ルクレール

「コーナーからの脱出と加速がよく、続くストレートの始まりから2/3を制してしまえば、次のコーナーにも優位なままで入れる。ひいては勝てる」。

 これは、1970年代から1990年代までコスワースのチーフデザイナーとして活躍し、DFV、HBエンジンでF1での数多くの勝利を収めてきたジェフ・ゴダードが、1993年に向けてアイルトン・セナに与えた助言だ。これを受けてセナは、V10エンジンよりも最高出力では劣るV8エンジンを搭載したマクラーレン・フォードでその年5勝を挙げた。

 時代は変わり、技術も変わってはいるが、この基本は大きくは変わっていない。イタリアGPでのルクレールはまさにこの勝ち方だった。最終コーナーからの加速で勝り、メインストレートの前半を制したルクレールを抜くために、ライバルはブレーキングでリスクを負わなければならなかった。実際、ルイス・ハミルトンも、バルテリ・ボッタスも1コーナーでのエラーが最終的な勝敗を分けた。

 一方、モンツァでのベッテルは最高速がとても伸びていた。半面、ダウンフォースはルクレールよりもやや少なくしていたようで、これが決勝中のアスカリシケインでのスピンにつながったのだろう。半面、ダウンフォースが少ないマシンであのスピンまでよく決勝を走ったともいえた。

モンツァを走るセバスチャン・ベッテル

 続くシンガポールGPは、シーズン中モナコに次ぐ低速コースで、低速コーナーが得意なメルセデスが圧倒的に優位で、やはりコーナーが得意なレッドブル・ホンダとの戦いとみられていた。

 だが、フェラーリがそこで3勝目を挙げた。フェラーリはシンガポールでSF90に新型のノーズやフロアなどを投入。ダウンフォースを増やしていた。車体の底と路面との間の気流でダウンフォースを稼ぐグラウンドエフェクトは、ウイングよりも効率がよく、より少ない空気抵抗の発生量でダウンフォースが稼げる。これで、SF90はストレートでの優位性は保ちながら、不得意だった低速コーナーではメルセデスとほぼ互角になり、中速、高速コーナーでもレッドブルと競えるようになっていた。

シンガポールを走るベッテル(左)とルクレール(右)

 それでも、イタリアとシンガポールはシーズン中でも高速と低速の両極端なコースであり、フェラーリの連勝もイレギュラーなものかもしれないとも思われた。だが、ロシアGPのソチでもフェラーリは速かった。低速と中速のコーナーではややメルセデスに負けていたものの、高速コーナーやストレートではフェラーリが勝っていた。ただ、戦略とベッテルのストップにともなうバーチャルセーフティカーで勝つチャンスを失っていた。メルセデスは低速コーナーでの優位性を活かして、最終コーナーからの安定性と加速性でメインストレートから2コーナーを有利に戦った。これがメルセデスの1-2に、ルクレールが迫れない要因に見えた。

 レースには敗れたとはいえ、フェラーリの予選と決勝の速さは際立っていて、これで決勝の上位争いはメルセデス、フェラーリ、レッドブル・ホンダの三つ巴の展開がより激しくなることが見えてきた。

 また、トップ3チームに続く第2グループはさらに僅差で、コンストラクターズランキング4位のマクラーレンに、速さを増してきているルノーが迫ろうとしている。以下、トロロッソ・ホンダ、レーシングポイント、アルファロメオ、ハースがそれぞれほぼ等間隔で並んでいる。毎戦毎戦の入賞結果で得点差が詰まったり、離れたり、あるいは少しでも無得点レースが続くと、順位が入れ替わりかねないところにきている。激戦の第2グループも予選Q1から毎回見どころだ。

 F1の次戦は、鈴鹿サーキットでの日本グランプリ。トップグループも第2グループも、金曜日のフリー走行から予選と決勝を見据えて白熱の展開になるはずだ。

FIA F3はひと足早くシーズン終了

ワンメイク車両で争われるFIA F3

 2019年からそれまでのGP3がFIA F3となり、あらたなシーズンとして再出発した。FIA F3は、排気量3400ccの自然吸気V6エンジンを搭載したワンメイクの車両で、従来の2000cc自然吸気エンジンのF3よりもパワーがある。まさに格式も性能もF1、F2の直下となっている。

 今季のFIA F3には10チーム、各3台エントリーとなっていた。この全30台、30人には、フェラーリ、ルノー、ホンダ、レッドブルの育成ドライバーとメーカーやF1チームの育成支援をもたない独立系のドライバーがいて、F2、F1の未来を目指して激しい戦いを展開した。

 シーズンはF1と同日開催で、全8ラウンド、1ラウンドあたり2レースで戦われた。結果は、フェラーリの育成ドライバーのロベルト・シュヴァルツマン(ロシア)がチャンピオンとなった。

 日本からは、日本のFIA F4 選手権の昨年のランキング1位の角田裕毅と、同ランキング2位の名取鉄平が参戦した。角田は2010年のGP3発足時代から参戦しているスイスのイェンツァーチーム、名取は多方面のレース展開をする英国のカーリンチームからの出走だった。

 角田は当初予選での速さと順位が課題だったが、次第にそれを克服し、イタリアでのレース2では優勝した。F3やF2は車体、エンジン、タイヤなどすべてがワンメイクで同一なため、ドライバーの実力とともにチームの力も問われる。中堅どころのイェンツァーでの優勝は、シーズン終盤での角田の実力が大きく伸びたことをよく表していた。

イタリアのレース2で優勝した角田裕毅

 名取は、今季のF3マシンの持病のようなクラッチのトラブルなど、マシンの不調に泣かされてしまった。さらに、目前でスピンした他車をよけたことで自分のマシンを壊してしまったこともあった。こうした不運もあって、名取は才能を示すまで時間がかかってしまった。が、シーズン終盤になってきて、予選順位を上げて、決勝でもベルギーのレース2で入賞した。

カーリンチームからの出走した名取鉄平

 角田はランキング9位、名取はランキング24位でFIA F3での初シーズンを終えた。だが、先述のように、後半戦、終盤戦に入って、その才能と力を伸ばしてきていることが予選やレース展開でうかがえた。

 FIA F3のレギュラーシーズンはすでに終わったが、今年からマカオGPがこのFIA F3とチームで行なわれることになった。マカオGPのエントリーはレギュラーシーズンとは別になるため、誰が乗るかはまだ分からない。それでも、F3世界王者決定戦のマカオGPには有力どころがそろうだろう。その中に、角田と名取がいれば善戦してくれそうだ。

 また、この若く才能ある日本人たちは、来季FIA F3かF2に参戦すればさらによい戦いをしてくれそうだ。

 なお、F2はF1アブダビGPのときに最終戦が行なわれる。

今週末はWEC富士6時間

9月1日に開幕したWEC(世界耐久選手権)

 WECは9月1日に、英国のシルバーストンサーキットで開幕戦の4時間レースが開催された。LMP1クラスはトヨタ勢の1-2で、3位に1周の差をつけていた。LMP2クラスは、上位5台がトップと同一周回という接戦だった。山下健太がWEC初参戦したハイクラスレーシングチームは7位だった。高性能スポーツカーのLMGTEは性能調整のおかげもあって、やはりプロ、アマ両クラスとも激しい戦いだった。プロドライバー中心のプロクラスはポルシェ、アマチュアドライバー中心のアマクラスはフェラーリがそれぞれ優勝した。石川資章とケイ・コッツォリーノが乗ったMRレーシングのフェラーリは、LMGTEアマクラス3位だった。

開幕戦ではトヨタが1-2でフィニッシュした

 さて、今週末(10月4日~6日)は富士スピードウェイでWEC(世界耐久選手権)富士6時間が開催される。そして、その翌週には鈴鹿サーキットでF1世界選手権日本グランプリとなる。

 今週末の第2戦富士6時間では、上記の日本勢に加えて、LMGTEアマクラスのデンプシー・プロトン・レーシングのポルシェで星野敏も出走する。星野は昨年に続いて同チームからのWEC富士参戦となる。

 トヨタ勢は、第1戦シルバーストンでの1-2フィニッシュから、開幕戦よりもさらに厳しいハンディキャップが課されることになる。計算上では、レベリオン、ジネッタとの差がかなり少なくなってしまい、接戦になるかもしれない。トヨタはさらに技術力を振り絞って、このハンデをはねかえさなければならない。WECはそもそも自動車メーカーが技術力を競う世界メイクス選手権の流れをくむシリーズ。WEC第2戦富士6時間は、トヨタのハイブリッド技術のさらなる進化を実際に見られるチャンスとなる。

 また、今年のF2のチャンピオンで来季のフォーミュラEにメルセデスでの出走が決まっているニック・デ・フリースがLMP2のレーシングチーム・ネーデルラントから、やはりF2で絶好調だったルカ・ギオットがLMP1のチーム・LNT(ジネッタ)から出走する予定。出走が確定すれば、今季のF2で大活躍した選手の走りを見るチャンスにもなる。

 WEC富士6時間でも、F1日本GPでも、多くの出店やブースも立ち、まさにお祭りとなる。食べることでも、これほど充実した世界選手権戦は、富士と鈴鹿ならでは。現地でご覧になれれば、レースそのものとともによりいっそう楽しんでいただけそうだ。

トヨタはさらに厳しいハンディキャップで母国グランプリを戦うことになる

小倉茂徳