オグたんのモータースポーツタイムズ

今年のF1、雨もまたよろし

 このところ、F1がかなり見どころあるレース展開になってきている。以前もTVに映りにくい中段グループや下位グループでは接戦や追い抜きがあったのだが、最近はTV中継に映る上位グループでも激しいバトルが展開されるようになった。

 すべてではないがざっと挙げても、カナダGPでのセバスチャン・ベッテル対ルイス・ハミルトンのトップ争い、オーストリアGPでのマックス・フェルスタッペン対シャルル・ルクレールのトップ争い、イギリスGPでのバルテリ・ボッタス対ハミルトンの主導権争いバトル、同GPでのフェルスタッペンの追い上げと追い抜きなどがあった。いずれもバトルはもちろん、その追い上げとバトルに至る過程も含めて本当にワクワクドキドキするような展開だった。そして、今季のF1はかなり面白くなってきていると感じさせてくれている。

カナダGPでのセバスチャン・ベッテル対ルイス・ハミルトン
イギリスGPでのバルテリ・ボッタス対ルイス・ハミルトンの主導権争い

 ドイツGPでは、今季初の雨のなかでのスタートを迎えた。雨は降ったりやんだりで、めまぐるしく変化する天候と路面にいかにうまく対応したかが勝負の分かれ目になった。実際、とても読みにくい路面コンディションとなり、難しい路面でうまさを見せてきたセルジオ・ペレスが早々に路面に足をとられてリタイアとなってしまい、ルクレール、ボッタス、ハミルトンも難しいコンディションと路面にしてやられてしまった。

 そんななか、最もうまく状況判断をしていたのがレッドブルとトロロッソに見えた。両チームとも、とてもうまいタイミングでピットストップを行ない、よいタイヤ選択を行なっていた。フェルスタッペンは25周目にミディアムタイヤに換えてスピンを喫したが、これはフェルスタッペンにとって数少ない危険な状況だった。あのときフェルスタッペンには新品のソフトが1セットあったが、そのソフトを25周目に着けてしまって、もしも路面が乾く方向になったらその先の周回すべてを持たせるのは難しくなってしまう。そこで、その場は中古のミディアムをつけたのだろう(同様な選択をしたドライバーが他にも4人いた)。だが、ミディアムは、そのときのコンディションには硬すぎるタイヤだった。それでも、またすぐにインターミディエイトタイヤに交換しなければならない状況となったのが救いとなっていた。以後、うまいタイヤ選択とピットストップを行ない、フェルスタッペンの今季2勝目となった。

 トロロッソもうまいタイヤ選択と戦略を行なっていた。これでダニール・クビアトは3位になった。クビアトにとってはレッドブル在籍時代の2016年 中国GP以来の3位表彰台だった。また、2018年からコンビを組んだトロロッソ・ホンダにとっては初の表彰台となり、アレクサンダー・アルボンの6位もあってコンストラクターズランキングは8位から5位へと上がった。

 ホンダのエンジンのドライバーが表彰台に2人上ったのは、1992年のポルトガルGPでのゲルハルト・ベルガーの2位とアイルトン・セナの3位(ともにマクラーレン)以来。ホンダがエンジンを供給する2チームでの表彰台は、1988年のオーストラリアGPでのアラン・プロスト(マクラーレン)1位、セナ(マクラーレン)2位、ネルソン・ピケ(ロータス)3位以来となる。無限ホンダにまで広げても、表彰台2人は1998年 ベルギーGPでのデイモン・ヒルとラルフ・シューマッハ(ともにジョーダン)以来。ドイツGPはホンダにとって歴史的な結果となった。

ホンダエンジンのダブル表彰台となったドイツGP

雨の中で輝くドライビング

 タイヤ選択と状況判断という点では、44周目に上位勢でいち早くソフトタイヤに交換して4位になったランス・ストロールとレーシングポイントチームも鮮やかだった。また、予選でのマシントラブルから20番手スタートとなったベッテルが2位になったのも特筆すべきことだった。ピット作業がやや遅かったことが2回あったことと、最後のピットストップのタイミングがやや遅れなければ、トップを狙えたかどうかというところだった。いずれにせよ、ベッテルは地元戦でとてもよいレースができ、最近の苦戦の流れも断ち切れるかもしれない。

 チームのコンディション対応とタイヤ選択について、ごく簡単に振り返ろうとしただけでも話題がかなりあった。そして、あの刻々と変化する路面コンディションと、今季初のウェットとインターミディエイトタイヤを要する状況のなかでの、F1ドライバーたちのマシンコントロールの巧みさがとても光ったレースだった。とくに優勝したフェルスタッペンをはじめ、入賞ドライバーたちの状況に即応した高度なドライビングテクニックはさすがであり、トップドライバーたちであることを魅せてくれた。

 今年のF1はドライのレースももちろん刺激的でよいが、雨のなかのレースもドライバーのうまさと魅力が輝いて、またよろし、というところだった。

刻々と変わる路面コンディションでのタイヤの選択の難しさ、そしてトップドライバーのドライビングテクニックが光ったドイツGP

脅威のピットストップ

 イギリスGPとドイツGPでは、ピットストップもまた驚きだった。

 2015年から、F1には各レースで最短のピットストップ作業をしたチームを表彰するDHLファステストピットストップアワードという賞があり、決勝中のピットストップ作業のタイムがとられている。

 イギリスGPでは、レッドブルチームがピエール・ガスリーのピット作業を1.91秒で完了した。これは、2016年 ヨーロッパGP(バクー)でウィリアムズチームが樹立した、フェリペ・マッサ車のピット作業1.92秒を0.01秒上まわる新記録だった。この素早いピット作業も、イギリスGPでのガスリーの4位に貢献していた。さらに、レッドブルチームはドイツGPでもフェルスタッペンの最後のピットストップで作業時間1.88秒を達成。最短作業時間記録を更新した。そして、これもフェルスタッペンの勝利に貢献していた。

 前後左右のタイヤすべての交換と、必要であればフロントウイングのフラップの角度調整も同時に行なって、それで2秒を切るというのは本当に驚異的であり、少しでも有利な状況をドライバーに提供してやろうというメカニックたちの熱い思いとチームワークの素晴らしさも伝わってくる。

 今季のファステストピットストップアワードはレッドブルの開幕からの3連勝で始まり、フェラーリとマクラーレンの各1勝を挟んで、ウィリアムズが4連勝。さらに、ここへきてレッドブルが2連勝した。ウィリアムズが反撃に出るか? レッドブルがさらに勝利を伸ばすか? あるいは、他チームが出てくるか? この最速ピットストップの戦いも魅力的だ。

100分の1秒を競うピットストップも注目

ピットストップの今後のありかたは?

 1990年代ごろからF1はコース上での追い抜きが少なくなっていき、レース中に順位変動を起こさせてより活気のあるレース展開にするために、ピットストップがより重視されるようになった。これは、インディカーやNASCARなどアメリカのレースのやりかたを範とした考えだった。

 アメリカのレースではインディカーもNASCARもピットストップで燃料補給があり、しかもピットレーンに出て作業できる人数に制限がある。インディカーでは6人でタイヤ交換と燃料補給をし、ウィングのアジャスト(調整)も含めて7秒前後で行なう。NASCAR(モンスターエナジーカップ)では7人でタイヤ交換と燃料補給(と必要ならサスペンションのアジャスト作業など)を、14秒前後で行なうという。

 アメリカのレースではピットクルーの人数制限でピットストップをやや長めにすることで、実際にレース展開の動きにつなげていることが多い。一方で、ピットストップのタイミングいかんで、順位を大きく落とす不運もあれば、大逆転の足掛かりにする例もあるという、ショー的要素も強くなる。

 一方、F1はピット作業に関わるクルーの人数に制限がないおかげで、作業時間をどんどん短縮してきた。コース上のマシンとドライバーによる純粋なバトルをより重視しようというF1の伝統を考えれば、これはよい現象だろう。だが、ピットストップによるアメリカのショー的要素によるドキドキ感をレースに入れようと構想していた部分では、その効果は薄れてしまった。

 F1は20人あまりの大勢のピットクルーたちが、2秒前後で完璧な作業をするのも魅力。インディカーやNASCARの作業人数制限があるなかでのピットクルー1人ひとりのムダのない動きも魅力。あるいは日本のスーパーフォーミュラのように、やはり人数制限があるなかで少しでも速く燃料補給とタイヤ交換を完了するために、ピットクルーがマシンのノーズを跳馬のように飛び越えるという華麗なシーンもまた魅力。

わずか2秒前後で行なわれるF1のピットストップ

 ピット作業の在り方で、どれが最良とは決めにくい。それぞれのシリーズのやり方や歴史文化的バックグラウンドもあるからだ。レース展開にもっと動きがほしければピット作業人数を制限するとよいだろうし、最短作業時間記録の1.88秒を切るかという究極のピット作業を求めるには、今のままがよいだろう。

 F1が今後どのようになるべきか? という項目にピットストップも入ろうとしている。FIAのジャン・トッド会長は、私見と前置きしているものの、燃料補給の再導入を検討してもよいのではとしている。

 ピットストップをどのようにすべきか? F1にとってよりふさわしい方法と、ファンにとってよりドキドキワクワクする展開を実現するのに、いろいろと考えてファンの声により耳を傾けることで、よりよい答えが見いだせればと願ってしまう。

小倉茂徳