西村直人のインテリア見聞録
【連載】西村直人のインテリア見聞録
第4回:日産「スカイライン」
(2014/10/8 00:00)
2013年11月にデビューした現行型「スカイライン」。グリル中央に配置されているのは日産ではなくインフィニティのバッヂだ。「日産が世界に誇る高級車『インフィニティ』の開発で培われた高い技術力、デザインの知見です」(プレスリリース原文まま)とあるが、やはりどこかしっくりこない。それだけ私の「スカイライン=日産」というブランドイメージが強いということだろうか。
すでに何度も試乗を重ねているスカイラインだが、押し出しの強いエクステリアデザインには好感を抱いている。また、ルームミラーに映るスカイラインのシャープな顔つきに思わず車線を譲りたくなるような迫力も感じる。それでいて、威圧感が先にくるわけでもないことから、よい意味で独特の存在感を手にしたといえる。
上下2画面のツインディスプレイのよいところ、わるいところ
インテリアは、ドライバーが姿勢を変えずに各操作スイッチに手が届くように650mmの範囲内にその大部分が納められていて、安全な運転操作を支援するよう設計がなされた。しかし、DBWやトランスミッション、ステアリングなどの特性(これを日産では「ドライブモード」と命名)変更がきめ細やかに行える「カスタマイズバリエーション」が選べる一方で、運転中にそれらを操作する際の使い勝手という点では多少疑問を感じることもあった。メタル調、もしくはウッド調パネルをあしらいながら、シフトノブ、各種のモード切り替えスイッチなどが美しく配置されているのだが、セールスポイントである大画面ツインディスプレイを採用するのであれば、両画面とも「マルチファンクションスイッチ」や「ステアリングスイッチ」で操作できるようにしてほしかった。
その理由は運転中に操作可能な項目が多岐にわたることにある。上部の8インチワイド画面は主にカーナビや燃費情報などの表示が任され、タッチパネルと先の2系統に及ぶスイッチ操作が行える。一方、下部の7インチワイド画面は、目的地設定時の補助画面やエアコン、オーディオ機能の操作画面として使われ、さらにスカイラインの注目装備である「ダイレクトアダプティブステアリング」「アクティブレーンコントロール」をはじめとした走行支援機能の選択と、「ドライブモード」の詳細設定もこの下部画面で操作するよう設計された。しかし、シフトノブ前方部に位置する下部画面の操作はタッチパネル式のみとなるため、例えば走行中に「ドライブモード」の「カスタマイズバリエーション」を行うには、視線を大きく落とさなければならない。これが惜しい。
ならば「停止中に操作を行えばよいのでは……」との声も聞こえてきそうだが、この詳細設定は走行中にのみ変化を実感できるものばかりであるから、必然的に走行中の操作になりがちなのだ。もっとも、1つ1つの特性変化を身体で覚え、停止するたびにタッチパネルで操作するというやり方もあるが、筆者にとって、それは現実的には感じられなかった。
この「ドライブモード」では、シフトノブ下に設けられた「ドライブモードスイッチ」によって「スタンダードモード」「スポーツモード」「エコモード」「スノーモード」の予め特性がセットされた4つのモードと、問題の「カスタマイズバリエーション」の操作を反映する「パーソナルモード」の合計5つのモードが選べる。オーナーとなり4つの特性に身体が馴染んでくれば、わざわざ「カスタマイズバリエーション」でのセットアップを頻繁に変更することは考えにくいと思われるが、ここがスカイラインのIT化による詳細設定の難しさで、3段階の中から選べるDBWやトランスミッション、ステアリングの特性変更は一段ごとの特性変化量が非常に大きく、駐車時、速度の低い市街地走行、高速道路、ワインディング路などで適宜、その特性を個別に変化させたい状況になることが多々あるのだ。
その度に下部画面をタッチパネルによる操作で「パーソナルモード編集」画面を選択し、その下の階層にあるそれぞれの特性変更画面を項目ごとに呼び出して選択しなければならない。なんのことはない指先1つのタッチ操作に思われるだろうが、外乱による上下動やステアリング操作による左右動が伴う運転環境のなかで、頻繁にタッチ操作を(しかも左手の指先で!)行わなければならないとなると、正直これが運転の妨げになってしまう。
ここまで高機能であるのであれば、ドライブモードスイッチで選べる4つのモードを編集可能にするか、それとも、「お気に入りボタン」のようなもので「パーソナルモード」に3タイプほどのメモリー効果を持たせるなどしてもよいと思う。また、本来の使い方ではないが、「パーソナルアシスタント機能」のメモリー効果を使えば最大3パターンの「パーソナルモード」が記憶できるから、ドライバーが常に1人であるならこれを有効に使うという手はある。
新しく「NissanConnectナビゲーションシステム」と名付けられた上下2画面のツインディスプレイだが、操作系以外にも起動時間が純正採用システムにしてはかなり長い。正確にはナビゲーション機能ではなく、下部画面で使用するOSが起動するまでに掛かる(システムチェックを含めた)時間が長く、取材した「350GT HYBRID Type SP」の場合、エンジン始動から1分以上の時間を要してしまう。また、起動後すぐにすべての機能が使用できるのではなく、PC起動時のように、内蔵またはダウンロードしたアプリケーションソフトごとに起動が始まるため、求める操作に対してタイムラグが大きく、それが操作性全般の悪化を招いている。盛り込まれた内容は量、質ともに高いからそれなりの時間がかかるのは仕方のないことだが、一般的な純正採用システム並の30秒程度にまで短縮していただけると使い勝手はさらに向上するだろう。
プレミアムに値する各部の質感
細かいところでは、画面の階層を戻すために使う「戻るボタン」(表示はUターン型の矢印)の位置が画面左上にあり操作しづらい。繰り返しになるが下部画面はタッチパネル式だ。停止時に触れる際は若干腕を伸ばし気味になるものの気にするほどではなかったが、運転中であってもこの「戻るボタン」を押す回数は多く、運転操作に悪影響を与えないためにも画面右上への移設を望みたい。
また、これはスカイラインに限ったことではないが、タッチパネル式の液晶画面を操作する際に付着する指紋がとても気になってしまう。上部画面もタッチパネル式であるのだが、低反射フィルムが貼られているため指紋はそれほど目立たない。しかし、下部画面は表示のハイコントラスト化にこだわったようで反射型の画面を採用しているため、一度でも画面に触れると指紋がくっきりと目立ってしまう。細かなことだが、プレミアムブランドを謳うのであれば、このあたりにもさらなる配慮が欲しい。
一方で、プレミアムに値するのが各部の質感だ。なかでも、ステアリングやドアトリムのレザーは触感が非常によい。頻繁に手が触れ、なおかつ操作力が掛かるドアトリムのノブ部分はクッション性を高めるなど機能性も十分に考えられている。こうなると無造作に口を開けているセンターのカップホルダー処理にもうひと頑張りしてもらいたいところだが、インパネからドアトリムにかけて連続する抑揚の効いたデザインセンスは、日産車のなかでは間違いなくトップランクだ。
シートも座面、バックレストともにゆったりとしたもので、見た目にはそれほど立体的には見えないもののサポート力が高く、2時間程度のロングドライブであれば運転姿勢を微調整することなく乗り切ることができた。ここは日産が力を入れて開発してきた部分で、運転操作を行うドライバーや助手席の同乗者ごとに最適な面圧分布特性を独自に解析し、それをシートクッションに織り込んだ結果得られたものだ。
2014年5月には直列4気筒2.0リッターターボエンジンがバリエーションに加わった。導入当初、この2.0リッターターボモデルには「ダイレクトアダプティブステアリング」の設定がなかったが、年内、早ければ11月ごろまでにはメーカーオプションとして用意されるだろう。
今回の取材では、「大画面ツインディスプレイ」の操作系を中心に改良ポイントがいくつか見つかったが、スカイラインが目指しているIT化は将来のクルマ作りにとって非常に大きな功績になる。もう5年もすれば「ヘッドアップディスプレイ」と「通信技術を使ったカーナビの音声操作」が当たり前となり、その結果、運転時にドライバーへと提供される情報量は格段に増えてくる。
その時、評価されるのはクルマの基本的な作り込みであり、疲労度の少ないインテリア設計がどれだけなされているかという点だ。ハイブリッドモデルにダウンサイジングターボと、走行性能への注目度が高いスカイラインだが、個人的にはHMIという側面で大幅に進化したインテリアに目が留まった。
また、ダイレクト・アダプティブ・ステアリングはスカイラインの中核をなす技術に留まらず、自律自動運転にもつながる大切な技術であることから、大いなる将来性があると確信している。