西村直人のインテリア見聞録
【連載】西村直人のインテリア見聞録
第5回:レクサス「NX」
(2015/4/29 00:00)
優雅さと実用性を高い次元でまとめたインテリア
レクサス(トヨタ自動車)のデザインに大きな変化が訪れたのは現行「GS」や「IS」からだ。大きな開口面積と特徴的な形状をもつグリルに始まり、奇抜なテールレンズの形状とLEDによる新しい演出方法は、見る者にひと目でレクサスであることを主張する。
一方、インテリアデザインについては評価の高いISであっても迷いが見られる。スイッチの配置に始まり、ダッシュボードの素材やエアコン吹き出し口の装飾など、1つひとつは上質でありながら、運転操作を行う空間としてはいささか煩雑さが目立つのだ。
そのあたり、「NX」では一転し非常にクリーンなイメージに変貌。優雅さと実用性を高い次元でまとめてきたなと実感する。SUVのメリットの1つに高めのアイポイントがある。優れた乗降性とひらけた運転視界の両立を人間工学的に追求していくと、理想的なシート座面の高さは地面から600~700㎜の間にあるといわれているが、NXはその数値をクリアしながらも、決して腰高な印象をドライバーに抱かせない。
ひときわ目を引くのは、カーナビ画面の配置とその周辺の造形だ。2014年12月末現在、日本には軽自動車を含めた自動車が約8100万台走っているが、カーナビはそのうちの約73.8%にあたる5978万台以上に普及した。近年では、そのカーナビ画面に対してさまざまなITS情報、たとえばITSスポットを通じたDSRC(=ETC2.0)の高度な交通情報などが適宜表示されるようになった。そうなると、ドライバーは情報が表示される度にカーナビ画面を確認するわけだが、肝心のカーナビ画面がドライバーの目線を下げた位置、具体的には水平位置から下に配置されていると、運転中の視線上下動が多くなるばかりか、視線を外している時間が増えてしまうため、かえって危険度が増してしまう。これでは本末転倒だ。
その点、NXのカーナビ画面は、ドライバーの体格に合わせ適正に調整したステアリング位置からさらに上方に配置され、運転中の上下方向の視線移動を最小限に留められるし、先のアイポイントの高さとあいまって外界を遮ることもない。また、画面がドライバーから離れる方向、つまりフロントウインドー側に近づけられているのも効果的だ。現実には画面を取り囲む枠組みを斜めにカットして、その枠組みの盛り上がり位置をダッシュボードのアクセントラインに合わせたことによる視覚効果が大きいのかもしれないが、いずれにしろ筆者が遠視であるため、少しでも外界に近い位置にカーナビ画面があるほうが運転中の情報伝達ツールとして見やすいのは確か。日本は超高齢社会に突入して久しいが、こうした華麗なデザインと人間に優しい機能の合体は、同じ課題を抱える先進国に住む人々のクルマ選びにとって重要な要素となっていく。その意味で、NXはこの分野の先駆けとなるだろう。
全グレードにメーカーオプションとなるカラーヘッドアップディスプレイも秀逸だ。光量が確保されているだけでなく、表示部の上下調整幅も広く、その先のボンネットフードと表示部が重なることもない。さらに、エッジの立つデザインと明瞭なフォントが使われているため、夜間だけでなく直射日光を受けた際にも輪郭がくっきりと浮かび上がり判読しやすいのも利点だ。また、表示内容も自車速度だけでなく、カーナビと連動させた簡易ルート表示のほかに、前走車との過度な接近を知らせる接近警報表示や車線逸脱警報表示など、車載するADAS(先進運転支援システム)との連携が図られている点も評価したい。
ヘッドアップディスプレイはセカンドディスプレイとも呼ばれ、複合的なADASを搭載する車両や自律自動運転技術が導入されるクルマには必須のアイテムだが、こうした現代のクルマから徐々にセカンドディスプレイにドライバーが慣れ親しんでおくことは、次世代型のHMIに対する親和度を高めることにもつながるため、レクサスだけでなく、トヨタの上級ブランド車種以外にも積極的な採用を願いたい。
センターコンソールに配置されたタッチパッド式のリモートタッチも興味深い装備だ。厳密には、これまでもこうしたリモートタッチ操作が各種装備のHMIとして用いられた例はトヨタ/レクサスを通じて多数見られるが、NXのそれはパネル自体にザラつき処理を施したり、通常の運転姿勢のまま左手を伸ばした位置にパネルを配置したりするなど、運転中のサブタスクとなることを考慮した作り込みがなされた。さらにこのザラつきは意匠としても新しいだけでなく、運転中の振動で指先が安定しないことに対して確かな操作感が得られ、同時に指紋が付きにくいなどの副次的効果もある。
こうなるとさらなる高みという意味で、電動パーキングブレーキ(EPB)スイッチはこのパネルからもっと離れた位置への配置も考えられたのではないか。シフトノブに近いからという理由でEPBスイッチがこの位置にあるのは理解できるが、走行中にも触る操作パネルと駐車機能スイッチが隣り合わせとは、安全性の上からも避けた方がよいのではないかと感じる。もっとも、今回は公道でのテストだったので試してはいないが、仮に走行中、誤ってEPBを操作してしまってもいきなり後輪がロックするわけではないだろうから、取り越し苦労といえばそれまで。しかし、メルセデス・ベンツのEPBにはフットブレーキがなんらかの理由で使用できなくなるなどの緊急時を想定し、走行中にEPBを操作すると減速する機構が織り込まれ、その旨は取扱い説明書にも明記(Bクラス)されている。
そうしたことを踏まえると、今後ますます進むであろう各種スイッチのフルロジック化とHMI設計の両立を考えた場合、停止/運転中/その両方に使用するなど、複雑な関係性が生じるスイッチ類の配置について考え直すよいチャンスではないかと思う。この分野では、すでに自動化が浸透している航空機や大型船舶などのコクピットに学ぶべきところが多そうだ。
スイッチの数が多過ぎて操作に迷うことも
ゆったりとしたシート座面と上半身が包み込まれるようなバックレストの形状、さらに前述した絶妙な高さに設定されたアイポイントにより、NXは終始リラックスした気分で運転できる。また、根本的なところだが、ボディーサイズの大きいSUVでありながら死角が少ないこともNXの大きな魅力だろう。
ADASにしてもそうだ。「Toyota Safety Sense」の搭載が始まった今となっては、前方に76GHzミリ波レーダーと車線認識カメラ、後側方に24GHz準ミリ波レーダーというパッケージは「衝突被害軽減ブレーキ」機能という観点だけでみれば心許ないように感じるが、日ごろの運転をサポートするACCの制御は優秀で信頼性も高かった。EPBを使ったブレーキホールド機能にしても、地味な装備だが頻繁なストップ&ゴーの渋滞路では重宝した。
このようにNXと過ごした約600kmは本当に疲れ知らずで快適な時間だったわけだが、一方で快適装備やADASを同居させるHMIという点でみると、端的にいってスイッチの数が多過ぎる。正直、操作に戸惑うこともあった。NXのオーナーになったならば、取扱い説明書を熟読して、そのスイッチの機能を理解するところから愛車との付き合いを始めなければならないだろう。
ただし、これは嫌味でもなんでもなく、「機能性に優れる」ということと「シンプルな操作性」の両立が難しいということの証明でもある。道具であればその使い方を、ファッションであれば美しさを、それぞれに追求すればことは足りる。しかし、レクサスは日常の移動を担う道具でありながら、自分の生活スタイルを大切にするユーザーの伴侶であるわけで、その意味で解釈すれば機能と美しさの両立が次なるレクサスの課題のように思える。
おもてなしからスタートしたレクサスだが、導入から10年を迎え、レクサスブランドの立ち位置が明確になってきた。ブランドの認知度にいたってはグローバル市場においても大きく向上しているという。求められるのは次なる飛躍だ。レクサスらしいHMIの表現方法を見出していただきたい。