事故の確率を0.1%減らせるかもしれないリレーコラム
第6回:シートリフター、ちゃんと活用してますか?
2020年5月6日 00:00
クルマの運転をしていれば、必ずついて回る事故の可能性。でもそんな可能性はゼロに近づけたい!! そこでいろいろな人に、普段運転で気をつけていることを紹介してもらおうというのがこのリレーコラム。第6回は女性モータージャーナリストの藤島知子氏。テーマは「キチンと見る」です。医療現場が切迫している今だからこそ、いつも以上に事故を起こさないよう安全運転を心がけましょう。
非常事態宣言で遠出のドライブは控えたいこの時期。クルマで出掛ける場所といえば、スーパーや薬局への買い出しなど近所を走ることがほとんどだったりしますよね。そうなると、住宅地を走る場面が増えるのですが、注意深く周りの状況を見渡してみると、自宅待機のお子さんが家の前の道路で遊んでいる姿もチラホラと。ただでさえ気を遣う狭い道でいつも以上にハラハラする場面もあったりして、リスクはさまざまな場所に存在していることをあらためて実感します。
こうした環境でドライブするとき、「運転って、不安だらけですよね……」なんて嘆いていませんか? とはいえ、嘆いているだけでは何も変わりません。今回は「キチンと見る」ことで減らせる事故のリスクについて考えてみたいと思います。
人は歩いたり、スポーツをする時など、十分な視界が確保できていない状況では目標が定まらず、ぎこちない動作になってしまうことがあります。じつは、クルマの運転もそれと同じで、運転席から適切な視界が確保できていないと、ドライバーは見えない不安から、走りにメリハリがなかったり、クルマの動きがフラついてしまいます。
そこで重要になるのが運転席のシートポジション。世の中にはいろいろなクルマがありますが、クルマごとにダッシュボードの高さやフロントウィンドウを支えるピラーの位置が異なります。クルマの動きを感じ取り、正確な運転操作を行なうためには、体格に合わせて最適なポジションに合わせる必要があります。中でも小柄な女性の視点で見たときに注意して欲しいなと感じるのが、座高の低い人が低いシートにそのまま腰かけてしまうこと。目線の位置が低くなりすぎて、まるでバスタブに深く浸かっているかのように、自車の間近の死角が増えて、見えるはずの場所が見えづらくなってしまいます。
仕事柄いろいろなクルマを運転する機会がありますが、乗る前に私が必ず確認しているのが運転席の調整機構。最近は運転席の座面の高さをレバーやスイッチで調節できる「シートリフター」が付いているクルマが多いので、この調整機構を利用して座面の位置を高めていくと、ドライバーの目線も高まるので死角が減って、これまで見渡せなかった周囲の状況が格段に把握しやすくなっていきます。クルマのすぐ脇を歩き回る子供やクルマを傷つけてしまいそうな障害物の存在に気づきやすくなるだけでなく、前方視界はボンネットの両端が目の端に掛かりやすくなるため、車幅感覚も捉えやすくなって、対向車とのすれ違いや狭い場所を走る時の安心感がグッと増します。運転が苦手という小柄な女性ほど死角のリスクに晒されていることも多いので、もしもそうしたドライバーがいたら、シートリフターが付いていないか確認して、試してみて欲しいと思います。
ただし、シートリフターがないからといって、クッションを敷くことはあまりオススメできません。万が一、事故で衝突した際や急ブレーキを踏まなければならなくなった時、クッションに空気を含んだ隙間があるぶん、身体がシートに固定されずにブレーキペダルを奥まで踏み切れなかったり、本来は拘束効果が得られるはずのシートベルトが役目を果たせず、身体がすり抜けてしまうリスクもあるからです。できることなら、体格に合った運転姿勢がとりやすいクルマを選んでいただくことをオススメします。
見るという点では、シートポジション以外でも気をつけているポイントがあります。特に交差点やT字路、見通しのわるいカーブなどで積極的に活用しているのが「カーブミラー」です。そもそも、カーブミラーが設置されている場所は、事故が起こりやすい場所だったりするので、しっかりと確認したいもの。とくに歩行者や自転車は「クルマは来ないだろう」と油断している場合もあるので、「私のクルマの存在に気づいていないかも知れない」ということを前提に行動することも事故のリスクを減らすために重要だと思っています。
最近では、車載カメラやセンサーを活用して、衝突のリスクを知らせる予防安全装備を搭載したクルマが増えてきていますが、そうした装備があっても、ドライバーが責任をもって安全運転に努めなければならないことには、何ら変わりはありません。事故のリスクを減らす取り組みとして、「キチンと見る」ことは想像以上に重要なことなのかも知れません。