事故の確率を0.1%減らせるかもしれないリレーコラム

第7回:日記をつけて安全運転

40歳から始めた「交通コメンテーター日記」

 クルマの運転をしていれば、ついて回るのが事故の可能性。でもそんな可能性はゼロに近づけたい!! そこでいろいろな人に、普段運転で気をつけていることを紹介してもらおうというのがこの「事故の確率を0.1%減らせるかもしれないリレーコラム」。運転のときに参考にすれば、ちょっとだけ事故の確率が減らせるかも。今回はCar Watchでもおなじみの交通コメンテーター 西村直人氏執筆でテーマは「日記をつけて安全運転」です。医療現場が切迫している今だからこそ、いつも以上に安全運転を心がけましょう。


 このバトン、まさしく交通コメンテーターに打って付けのテーマ! なぜなら40歳の誕生日から8年以上にわたり、日記を日課にしているからです。

 筆者は乗用車以外に、二輪車大型トラック大型観光バス燃料電池バスと、乗用車以外の乗り物もカバーするという意味で交通コメンテーターを名乗り20年。(一財)全日本交通安全協会「二輪車安全運転推進委員会」の指導員としても26年間活動しています。

 ところでこの日記、単なる日常を綴ったものではありません。運転中に感じた心の不安と体の変化に的を絞って記憶して自宅で反すう、結果を項目ごとにPCソフトの「Excel」で作成したファイルに指数&コメントとして記録します。これを「交通コメンテーター日記」と名付けました。

 きっかけは、運転中の違和感。40歳を迎える少し前、周囲の交通環境を瞬間的に把握する情報収集力に衰えを感じました。脳の情報は80%以上を視力に頼っていることから、原因は眼にあると考え大学病院で視力を検査。しかし結果は悪化どころか、むしろ向上……。

 医師の診断は、遠視と診断され2歳から眼鏡をかけ続けていること、そこに加齢による老眼が上乗せされたことで、「眼では見えているのに、脳は見えづらいと認識。心の不安も、この認識能力の変化からきているのだろう」とのこと。

 とはいえ違和感をそのままにはできません。16歳で中型自動二輪車免許(当時)を取得してからこれまで、得られた情報をもとに危険から遠ざかる予測運転を心がけてきた筆者です。その根本が揺らぐ一大事。なにか対応しなければ……。

 そこで思いついたのが先の「交通コメンテーター日記」でした。日記には、運転中の違和感を“見えづらさ”に置き換え10段階で記録。さらに、運転している車種、前後左右の車種、走行時間、走行ルート、周囲の交通や道路状況、周囲の建造物、運転前に起きた心理的/身体的負担、オーディオやカーナビ、さらには高速道路であればACC(アダプティブクルーズコントロール)やLKS(車線維持支援システム)の利用有無など、心と体に違和感を与える項目を気付いた時に加えています。

 見えづらさレベルが7/10以上の項目に対しては、連続録画モードで使用中のドライブレコーダー(前後カメラ)に記録された当該部分の動画ファイルをExcel内に埋め込み、“危険だな、違和感があるな”と実感した際の補完データとして残しています。

 当初は、「見えづらさ=危険」だと考えていましたが、筆者の場合は少し違いました。累積したExcelデータを検証してみると、見えづらさの実感前に、たとえば心配事があったり、疲れていたりするなど、運転操作に入る前の要因が悪影響を与えていたのです。

 今では過去の実績から判断し、心や体が不調を感じている時の運転は避け、公共交通機関での移動に切り替えています。幸い運転前までに調子が戻ったとしても、「いつもと違うから気をつけよう!」と自分に言い聞かせステアリングを握るよう心がけています。

 自分の運転操作を客観的に捉えることは難しいですが、思わぬところに“事故の危険から遠ざかる”、そんなヒントがあるかもしれませんね!

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。