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タイと日本はどこが違う? バンコクにあるホンダ&ホンダアクセスの研究開発拠点に潜入

「Honda R&D Asia Pacific」と「Honda Access Asia and Oceania」の担当者に話を聞いた

2017年10月9日(現地時間) 開催

タイにあるホンダ系列の自動車研究開発拠点「Honda R&D Asia Pacific」、通称HRAP

 日本から4600kmほど彼方にあるタイ・バンコク。そこには、本田技術研究所の現地研究開発拠点「Honda R&D Asia Pacific」(HRAP)があることをご存じだろうか。そしてそのなかには、ホンダアクセスの現地法人「Honda Access Asia and Oceania」(HAC-AO)のオフィスもある。ホンダアクセスが手がける「Modulo」ブランドをはじめとするホンダ純正アクセサリーパーツを開発・設計している部隊だ。

 今回、その開発拠点を訪問し、現地の開発の責任者2人にタイの国内事情などについて話をうかがうことができた。タイのクルマ文化と日本のクルマ文化とでは、果たしてどんなところが異なるのだろうか。

SUPER GTにホンダ NSX-GTで参戦している中嶋悟氏と松浦孝亮選手、ARTAチームのエグゼクティブアドバイザーでModuloの開発アドバイザーでもある土屋圭市氏とともに訪問。Honda Access Asia&Oceaniaの副社長 吉野忠明氏らが3名を出迎えて現地での取り組みについて説明した

「同居」しているからこそ可能な一体感のある開発

 ホンダには日本国内を含め47の研究・開発関連施設がある。タイのHRAPはその1つで、バンコクの中心部から北東30kmほどのところに位置している。日本仕様の車両をベースに、日本とは異なる環境、文化を持つタイのユーザーニーズを拾い上げながら、タイ独自の仕様や部品を備えるクルマの開発を行なう施設だ。全体の従業員数は数百人で多くが現地採用だが、日本から出向している人も何名か在籍している。

世界各国に広がるホンダの研究開発施設
今回訪問したHRAPはバンコク中心部から30kmほど北東のところ
黙々と業務に取り組む従業員の方々

 HRAPの前身となるHonda Automobile Thailandが設立されたのは1994年。部品開発から商品企画なども手がけ、2005年に今のHRAPの形になった。その後、タイや周辺の東南アジア市場に向けセダンの「BRIO AMAZE」、ミニバンの「MOBILIO」、SUVの「BR-V」という3車種を投入してきた。現在はそれらの車種について、2世代目となるフルモデルチェンジに取り組んでいる最中だという。

これまでにHRAPが開発を手がけた3車種。ベースは日本仕様車だが、タイのニーズに合わせた設計になっている

 また、7月にはHRAPから東に約105km、プラチンブリ県に80万m 2 、1周2.2kmのテストコースを新たにオープンした。ホンダが日本に持つテストコース「栃木プルービンググラウンド」(1周12km)と比較すればコンパクトではあるが、他企業も含めてタイ国内にあるテストコースとしては規模が大きい部類に入るとのこと。比較的近くにあるテストコースをいつでも利用できる環境があることで、タイの交通・路面事情に合った車両やパーツの開発・調整が効率的になるメリットがあるとしている。

7月にテストコースを開設。商品開発に役立てている

 そのHRAP内に開発部隊のオフィスを置くホンダアクセスは、「Honda Access Asia and Oceania」(HAC-AO)として現地法人化しており、15人の現地採用スタッフと、日本から出向している設計エンジニア、デザイナーの5名が働いている。

 もともとHAC-AOは、1992年に他社との共同出資でタイ現地のエアコン取り付け会社としてスタートしたのが発端。カー用品(部品)の開発・販売を手がけるのは1997年になってからで、2006年に現在の社名になった。社名にアジア・オセアニアとあるとおり、タイのみならず広く東南アジア、オセアニア地域も対象にした4輪の純正用品開発・販売を行なっている。

ともに訪問した中嶋氏は社員の方に積極的に質問していた

 HRAPと同じ建物のなかで、HRAPの社員とともに用品開発に取り組むメリットはどこにあるのだろうか。同社の社員によれば、車両の最初の企画段階から関わることができるというのが1つ。さらに、ホンダの新車開発部隊とすぐにコミュニケーションが取れることから、より一体感のある体制でアクセサリー開発ができるのも利点だとしている。

 つまり、日本とは異なるタイ現地仕様車のコンセプトに合った用品設計を早くから検討できるということだ。また、HRAPが開発する車両側でも、HAC-AOとの密な連携により、アクセサリーが最適な形でフィッティングできるよう設計調整できるため、全体的な完成度の面でもメリットは多いのだという。

HAC-AOのオフィスで記念撮影

ブランドに敏感なタイ。先進デザインをアグレッシブに

 そんな環境で開発に取り組むHAC-AOだが、当然ながらタイで、タイのユーザー向けにアクセサリー製品を開発する以上、日本市場との違いもあるはずだ。話を聞くと、タイにおけるクルマに対する意識やクルマ文化は、日本人とは興味深い違いがあるという。

 そもそもタイ国民の性格としてブランドに敏感で、ホンダアクセスが手がけるModuloについても評価が高いというが、全体的には「日本や北米などよりも派手な、目立つものが好まれる」傾向にあるとのこと。

 ただし、デザインに興味を持つ人、クルマ好きな人も多く、単純に派手で目立つものだけでは多くのユーザーに受け入れられるのは難しい。「安っぽいデザインをすると逆に嫌われる」のだそうだ。そのため、HAC-AOでは世界のデザインのトレンドを取り入れつつ、そこにタイの人の好みを反映させる形をとっている。

Honda Access Asia&Oceaniaの副社長 吉野忠明氏

 タイでは改造の文化もある。HAC-AO 副社長の吉野忠明氏は、「存在感のあるもの、アグレッシブなデザインが好まれる。カスタマイズのセンスは高く、先進デザインを好む傾向は日本よりむしろ強いかもしれない」と見ている。こうしたことから、用品開発においては「先進デザインをアグレッシブに」表現することを心がけているという。

 さらに「タイの人は、ほかよりも1歩先に行きたい、見せたいという傾向がある」ことも、商品に影響しそうな部分と言えそうだ。とはいえ、HRAPやHAC-AOはタイだけでなく、インドやインドネシアの市場も兼ねた車両・用品を開発している。それらの国で好まれるというシビックやフィットも意識しながら、「ローカルメンバーがニーズを調べて、日本の開発チームと協力しながらクルマ作りをしている」という。

 吉野氏は「Moduloが純正の質の高いブランドだということはだんだん認知されていると感じる」と語るが、直接タイのユーザーからニーズを吸い上げる調査体制も近く整う予定で、今後のModuloのさらなる認知度拡大を期待していた。

車載カーナビが売れにくい、タイの特殊な市場

タイや周辺地域のカーナビに関するニーズの違いについて説明する吉野氏

 また、ホンダアクセスといえばディーラーオプションカーナビの「Gathers」シリーズで知られている。高機能な車載カーナビは日本では人気の高い装備だが、実はタイや東南アジアではこうした組み込み型の車載カーナビの需要は少ないのだという。その代わり、スマートフォンをカーナビとして使用するケースが多いとのこと。

 吉野氏は「タイではスマートフォンの普及率が高い。タイの人ができるだけ安くクルマを購入したいと思ったとき、スマートフォンのナビアプリの画面を映し出せるものがあればいい、という考えがある。そのため、(カーナビ機能のない)ディスプレイオーディオの需要が大きい」と語った。

 ディスプレイオーディオのニーズの高さは、タイだけでなくインドネシアも似ているそう。これは、比較的高速なモバイルネットワークが国土全域をある程度カバーしていることが大きく影響しているものと考えられる。

 反対に国土面積が広大で、モバイルネットワークの電波が届きにくい地域が多いインドは、車載カーナビが需要の中心になっている。スマートフォンとの組み合わせを前提としたディスプレイオーディオでは役に立たない場面が多いためだ。そういう意味では、モバイルネットワークが発達している日本とそうではないインドが、車載カーナビ中心という同じような状況にあるのは、不思議な感じもしてしまう。

Honda R&D Asia Pacific社長の幸村秀生氏

 ところで、日本とタイとで職場環境や人に何か違いはあるか伺うと、HRAP社長の幸村秀生氏は、同社の特徴として「女性が多い」ことを挙げた。女性エンジニアが全従業員の20~30%にもおよび、「日本と比べて桁が違う」環境だ。

 さらにタイやタイ人は、「異なる文化があり、感受性も違う。我々日本人が気付かない音が聞こえたりもする」のだとか。車両や用品の開発において、文化の違いだけで製品の企画が大きく変わることはないとのことだが、そういった資質の差や、女性の多い職場ということが、商品のディテール調整の部分で活きてくるところもあるようだ。

1.5倍のスピード感で進む商品開発。ワークスタイルもアグレッシブに?

 最後に、故郷の日本から遠く離れた地で、現地のスタッフとともにホンダのクルマやアクセサリーをつくり続ける日本人スタッフのみなさんに聞いた話を紹介しよう。ほとんど常夏のタイということもあり、環境の違いを考慮すると慣れない部分もあるはず。ところが、日常の食文化や街中で日本語が通じやすい環境も含め、「タイは住みやすい」と口を揃える。

 その一方で、「日本の1.5倍くらいのスピード感で(商品開発を)進めている」というハードな職場でもあるようだ。すでに述べたように、HRAPやHAC-AOは、広く東南アジア(あるいはオセアニア)という括りで地域一帯を管轄していて、タイ以外の国の車両・用品開発も兼ねている。そのため、どうしても柔軟で迅速な対応力が必要になってくるのだろう。

 タイの人に受け入れられるには、デザイン面で「アグレッシブさ」が必要とのことだが、ワークスタイルやビジネススタイルの面でも「アグレッシブさ」が求められるのが、タイという国なのかもしれない。

最後に中嶋氏、松浦選手、土屋氏と現地スタッフが並んで記念撮影

提供:株式会社ホンダアクセス