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飲料カップから車両パーツまで。タイで見た“日本品質”製造工場「バンダパック」

ホンダ純正の外装・内装アクセサリーから災害救援用品、ボートも手がける

2017年10月12日 開催

タイにある樹脂製品製造工場「Vandapac」の施設外観

 もしタイ国際航空を利用してタイへ旅行することがあるなら、機内食の飲料水容器に使われている透明なカップの底を見てほしい。そこには「Vandapac(バンダパック)」という刻印を見つけられるかもしれない。バンダパックは人の口に接する食品用のカップから、車両用のパーツまで製造している、タイの樹脂製品製造メーカーだ。

「Modulo」ブランドをはじめとするホンダ純正アクセサリーを提供しているホンダアクセスは、一部の車種向けのパーツ製造を、そのバンダパックに委託している。今回、タイ国内にあるその工場の内部を見学することができたので紹介したい。一切日本の資本が入っていないにもかかわらず日本式の品質管理手法を取り入れた、ユニークな工場であるところにも注目だ。

Vandapacの社名にある「Vanda」の由来は蘭の花の名前から来ている。同社敷地内ではその蘭の花が咲いていた

荷台全面を覆う大型樹脂製品にも対応する「真空成型」に強み

 バンダパックは、樹脂製品の製造を手がける工場として1988年にタイで設立された。5つある工場建屋の合計敷地面積はおよそ100万m 2 で、およそ2000名の従業員を抱える。主力製品は大きく分けて4種類あり、1つはホンダアクセスなどから委託されている自動車用製品。トランクトレイやフロアマット、ベッドライナー(荷台保護パネル)、キャノピーといった、特に大型の外装・内装製品が多い。

 ホンダアクセス製品としては、シビック用やCR-V用のトランクトレイ、アクティ・トラックの荷台全面を覆う荷台保護パネルなどがある。特にアクティ・トラック用の荷台保護パネルは、日本国内では装着率が3~5%で、この手のジャンルの製品としては驚異的に高い装着率になっているという。

CR-V用のトランクトレイ
ホンダ アクティ・トラックの荷台保護パネル。荷台部分は全体が1枚の樹脂素材から作られており、それをトリミングして分割している構造
筆者が大の字になって寝そべることができる広さの巨大な製品

 荷台保護パネルは、滑りやすい素材や表面加工のおかげで、荷物の上げ下ろしの多い業務において(わざと荷物を滑らせて運べることから)利便性が高いとされている。復元性が高い(衝撃を与えても適度にたわんで衝撃を逃す)うえに、表面のシボ加工により細かな傷が目立たないので長く使うことができる。

 製品保証は通常3年程度とのことだが、実質的には車両買い換えまで交換不要な耐久性を持っているとしている。下地となっている実際の荷台に傷が付きにくいことから、車両のリセールバリューが高くなるというメリットもあるだろう。

 他車種向けには荷台保護パネルのほかに、スペアタイヤカバー、ガーニッシュ、収納ボックス、フロアマット、エアロパーツ、ピックアップトラックのトノカバーなどがある。いずれも軽量で頑丈、かつ耐候性に優れるという樹脂製品の特徴を活かした製品だ。

 自動車用製品以外に同社が手がける製品としては、タイ国内などで食品の保管に用いられるカップや皿がある。日本でもなじみのある納入先の例で言うと、乳製品や菓子の明治、ファーストフードのKFC(ケンタッキーフライドチキン)、冒頭で述べたようなタイ国際航空の機内食用の飲料水パックなど。そのほか、断熱材や工場などで製品を効率よく運ぶためのパレットの製造も手がける。

自社ブランドの製品ラインアップを救援用品、ボートにまで拡充

 受託製造が多いものの、同社独自ブランドの「MAX」シリーズが好評で、この自社製品をベースに他社ブランド製品として展開するパターンも少なくないようだ。例えば、アクティ・トラックの荷台保護パネルのベースとなった「MAXLINER」がその代表的な製品と言える。

 なお、最新のMAXシリーズの1つに、災害時の救援用品として使うことを想定した樹脂製の「マルチ機能ベッド MAXLINER MB-1」がある。見た目には長方形の容器のフタを巨大化したようなものだが、この下に貴重品を入れ、上に寝そべるだけで盗難対策となり、床面から伝わる冷気をある程度遮断することもできる。

「マルチ機能ベッド MAXLINER MB-1」
寝心地はベッドや布団とまでは当然いかないが、適度にたわむので寝返りを防げそう。身長177cmの筆者だと足首から下がはみ出る程度のサイズだが、この程度なら気にならない
ホンダアクセスのマスコットキャラ「はっくるべあ~ くるタム」となぜか見つめ合う筆者

 また、裏返すことでストレッチャー代わりになり、持ち手もあるので人を容易に運ぶことができる。避難時のプライバシーが保たれにくい場所では、「寝る場所ができる」というだけでも心理的な面で救われる部分が少なくないだろう。

大人が4人いれば問題なく運べる。長時間持ち上げていると手が少し痛くなるので、タオルを巻くなどしたほうがいいかもしれない

 マルチ機能ベッドは、車両の荷台保護パネルなどに使っているものとまたっく同じ素材であるため、風雨にさらされるような屋外での保管もOK。重ねられるので大きさのわりに必要なスペースが少なく済み、熱湯やアルコールを使って簡単に殺菌が可能で、耐用年数は20年と長期に渡る。熊本地震で避難民が溢れる様を見た事をきっかけに急ピッチで開発を進め3カ月後に世に送り出し、すでに5カ国で採用実績があるという。

 また、同じ素材を使った「マルチボート MAXLINER M-6」もある。こちらは簡易型のボートで、レジャーや水害時の移動手段として利用可能なもの。やはり上に重ねてスタック保管が可能で、タイで流通する船外機の取り付けにも対応するという。

「マルチボート MAXLINER M-6」
へっぴり腰になってしまっているが、軽量なので、さほど苦労せずに操縦できそうな予感

商品の企画から輸送まで、「世界で5社だけ」の一貫生産体制

 同社最大の特徴は、商品企画からデザイン、開発、試験、製造、輸送まで、すべてのプロセスをカバーしていること。同社Business Development Directorの山口隼哉氏いわく「フレキシビリティのある一貫生産」体制を構築している。

バンダパックについて詳しく説明していただいた同社Business Development Directorの山口隼哉氏

 商品コンセプトや市場における位置付けから始まり、見た目を決めるスタイリングデザインに、アルミ溶鉱炉を用いた型製造も行なう。防水・耐塩水・耐衝撃・耐振動・ヒートサイクルなどの性能を検証するための試験も自社設備でまかない、製品を保管するための倉庫を備え、世界90カ国に独自のロジスティクス拠点を持つ。「ここまでの体制を持つ工場は、当社を含めて世界でも数社ほど」と山口氏は胸を張る。

工場内部の様子

 使用する樹脂材料はABS、ポリエチレン、ポリカーボネートなど。一部製品では金属素材も扱う。製造手法としては同社が最も得意とする真空成型のほか、ブロウ成型、回転成型、射出成型(110~850tまで)とひと通りの技術を保有している。このうち、最大2m四方ほどの材料が用いられることもある大型部品の多い自動車用パーツでは、主に真空成型が用いられている。

加工用の樹脂素材である高密度ポリエチレンの“板”を成型している
成型された素材は触れるとまだ温かい

 この真空成型には同社独自のノウハウがあり、例えば材料となる板状の樹脂を素材的にいかにむらなく作るか、材料をどのように熱して成型に備えるか、といった成型前の部分だけでも繊細なコントロールを行なっているとのこと。

 さらに、その1枚の材料は型に入れると立体的に引き延ばされるため、薄くなって強度が失われてしまわないよう、必要に応じて部分ごとに強度を確保するための工夫が施される。最初に使う素材の厚みの選択や、型自体の工夫ももちろん必要だが、真空によってどこをどれくらいの強さで「吸い込む」かも重要。もちろん素材の厚み(材料の増減)も製造コストに大きく影響するため、コストコントロールも考慮に入れなければならない。

後方では先ほど作られた樹脂素材を使い、真空成型の工程を行なっている
真空成型されたトランクトレイの余分な“耳”を人の手でカット
完成品のCity用のトランクトレイが積み上がっている
梱包されたトランクトレイ。ホンダアクセスロゴの入ったダンボールで出荷される
完成したエクステリアパーツのフィッティング確認。実際の車両の外装を用いている
細かな傷がないか丹念にチェックしたうえで出荷される

日本式の「KAIZEN」も取り入れて品質向上を追求

 完全にタイの独立系企業ではあるものの、日本式の「KAIZEN」活動が取り入れられているのもユニークなところだろう。従業員から改善のための意見を日々募り、小さなことでも積極的に採用しているという。そのほかにも情報共有のための「ASAKAI(朝会)」、工場に入る前に指さし確認して心構えする「KYT(危険予知)」、気付いたことを投書できる「ヒヤリハットBOX」といった活動が行なわれている。

 山口氏は「タイの人は真面目で優秀。ただ、自分から率先して取り組むことについては遠慮がちなところもある。きちんとこちらからやるべきこと、やってほしいことを注文するのが、協力してうまく仕事を進めていくコツ」と話した。とはいえ、KAIZEN活動がしっかり根付いていることから、そうした点の意識改革も進んでいるのだろう。

工場内に「KAIZEN」活動に関わる資料を掲示している
「ASAKAI」を実施する部屋。各部門のリーダー、担当者らが毎朝10時に集まり、30分間互いの前日の進捗や問題点などを報告し合う

 設立から30年近く。製造業としては比較的短期間で急成長を果たしたバンダパックだが、その裏には、今や得意となった真空成型をはじめ、ノウハウや技術が必要になる多数の製造手法を、創業者らが自らチャレンジして試行錯誤しながら獲得してきたという地道な苦労があったようだ。

 そして現在、機械に頼るべきところは頼り、そうでない部分は積極的に人の手をかけるという割り切ったスタイルと、自社の強みを徹底的に磨いて災害救援用品など次々と新しいアイデアに活かしていく柔軟さ、さらには日本式のKAIZEN活動のように他国での成功を進んで受け入れる土壌が、バンダパックの成長を支えているのだと感じた。

唐突に始まった取材陣を歓迎するタイの伝統芸能である人形浄瑠璃。「ラコン・フン」と呼ばれているようだ
首に花飾りをかけていただいた
次に登場したのは等身大の人形
……かと思いきや、本物の人間が演じていた。現代的にアレンジされた人形浄瑠璃だという。人形に見せかけて人間を操るという、シュールさを狙ったものだとか
最後にバンダパックのオリジナル商品MAXシリーズをアピール

提供:株式会社ホンダアクセス