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コンパクトミニバンが“空力”でここまで変わるとは! 「フリード HYBRID Modulo X」体験記
「実効空力」に着目したホンダアクセスが手掛けるコンプリートカーを試乗してみた
- 提供:
- 株式会社ホンダアクセス
2023年3月3日 00:00
スポーツカーなどデカいリアスポイラーに憧れがある。筆者はあいにくそういったクルマを所有した経験がないから、見た目の“いかつさ”が自分好みなだけ。なので乗り心地や空力でどう変わるのかまで詳しくは知らない。それでも試してみたい、空力を体感してみたいという欲はあった。
ただ、「公道を走行するだけなら効果を実感することはほとんどないよ」なんて話を数十年前に聞かされた記憶がある。そもそも家族や子供がいる今、そういう空力効果のあるリアスポイラーのついたスポーツカーとは無縁だと思っていた。
そんな中、クルマの空力を体感する機会が思いがけない形でやってきた。サーキットでもないしスポーツカーでもない。6人(または7人)乗り3列シートのコンパクトミニバン「フリード HYBRID」をベースに、ホンダアクセスが手がけるコンプリートカー「フリード HYBRID Modulo X」だ。公道走行でも効果が得られるという「実効空力」に着目した同モデルに、日常用途で乗ってみてほしい、という話だった。
街乗りやせいぜい100km/h前後の高速道路で、その空力効果が本当に実感できるのか。半信半疑と言うか、最初はどちらかと言うと「疑」の方が割合としては大きかった筆者。だけれど、誇張でなく、ホンダアクセス本社から出発して目の前の道路を数十m走っただけで、「おや?」と思った。自分の知ってるミニバンとなんか違うぞ、と。
実用領域での乗り心地を高める「実効空力」にフォーカス
「フリード Modulo X」は、コンパクトミニバン「フリード」をベースに、ホンダアクセスが専用装備で内外装にチューニング・カスタマイズを施したコンプリートカー。2017年12月にModulo Xの第4弾車両として登場し、その後フリードのマイナーモデルチェンジに合わせて2020年5月に「実効空力」を効かせたエアロをまとって登場。さらに2022年7月にも装備やカラー設定など一部改良が施された。
エンジンやモーターの出力、タイヤなど、基本的なスペックはベース車両と同一(全長だけは25mm長くなる)。外観の見た目も、ベース車両と比較すれば「全然違う」と誰もが気付けるけれど、華美な装飾が施されているわけではないので悪目立ちしない。ノーマルから大きくかけ離れていない「大人カスタム」とでも言うべき自然なスタイリングで、それでいて確かな存在感や雰囲気を漂わせている。
そんな「フリード Modulo X」における一番のこだわりは「実効空力」だと言う。サーキットのレースカーのように、車体を路面に押しつけて操縦安定性やグリップ力を得ることを目的とした超高速域で求められる「ダウンフォース」のような空力ではなく、日常の走行シーン、それこそ街乗りのように低速域であっても実感できる空力設計になっている、というのが“ミソ”らしい。
そのための装備が「専用フロントエアロバンパー」「専用フロントグリル」「専用リアロアースカート」をはじめとする空力デバイスと、「専用サスペンション」や「専用アルミホイール」となる。走行時のリフトバランスについても、ベース車だと前下がり気味になっているところ、「フリード Modulo X」では前後リフトバランスを整えることで、四輪にほぼ均等に荷重がかかるようなセッティングにしているのだそう。
ホンダアクセスの開発エンジニアと、元レーシングドライバーでありModulo開発アドバイザーの土屋圭市氏の手により、細部までこだわり抜き、煮詰められた設計とセッティングによって、上質な走りを実現したという「フリード Modulo X」。その裏側には、シビック TYPE Rのようなスポーツカーに乗っていた人が、家族ができてファミリーカーを買うことになったときの1台、といったようなコンセプトもあったのだとか。
ステアリングからの情報量の多さと、「固め」のようでそうではない絶妙のセッティング
そんな「フリード Modulo X」のハンドルを握って走り出してすぐ、ミニバン「らしくなさ」を感じてしまった筆者。真っ先に受けた印象は「情報量が多いぞ」というものだった。粗い舗装道路、その路面の細かな凹凸がステアリングを介して、文字通り手触りとして感じられるかのように伝わってきたのだ。
かつて筆者は同じホンダのミニバン、ステップワゴンを所有していたこともあるが、家族を乗せることが多いこうしたファミリーカーの場合、もっとフワッとさせて振動を極力低減させることで優しい乗り心地にする、というのが当たり前だと思っていた。ところが「フリード Modulo X」は、それとは違った方向性のようだ。
これは主に、吸収性と「いなし」を与えたという「専用サスペンション」、あるいは剛性バランスを最適化したとされる「専用アルミホイール」によるところが大きいのだろうか。タイヤが拾うインフォメーションを事細かにドライバーに伝えてくるので、しっかり路面を捉えながら走っていることが理解できる。でも、それが敏感すぎると思うほどでもない。確かに1つ1つの凹凸すら把握できそうな感触があるけれど、突発的な段差の衝撃は角を丸めたかのようなフィーリングに変換される。不快に思う振動成分は取り除かれているのか、長時間走行で疲労が蓄積されていくようなことはなかった。
ステアリングに加えて、シートなどからも伝わってくる振動や音、上下動の減衰感も含めると、ありがちな表現をするならば「固い」とか「スポーティ」ということになるのかもしれない。ただ、足まわりをガチガチに固めて動かなくしたのではなく、ストロークはしっかり残しつつ、しなやかに動いて路面への追従性を高めた味付けになっているように思える。
Rが小さめのコーナーでは思ったよりロールせず、四輪でしっかり路面を捉えて進んでいることを感じるし、上下に大きなうねりがある路面では車体の無駄な上下動が抑えられているのが分かる。クルマ通りが多く、その跡がわだちのようになっている幹線道路に右折で進入するときなんかは、より顕著だ。背の高いミニバンだと前後左右に揺さぶられやすく、筆者出身の北海道の言葉で言えば「わやくちゃ」な乗り心地になってしまうものだが、「フリード Modulo X」は違う。踏ん張るところは踏ん張り、抜くべきところは抜いて、うねった路面をうまくいなしてくれているようだ。
さらに付け加えると、家族を乗せて140kmほどドライブする間、家族からは「固い」とか「疲れる」とか、そういった言葉は出てこなかった。印象を問いただしても「違和感はないよ」と言うだけ。ステアリングを握っているドライバーはスポーティな運転感覚を感じてちょっと不安だったのだけれど、実際のところ同乗者にはそう思わせない絶妙なセッティングに仕上がっているのかもしれない。
もちろんこのあたりは「専用サスペンション」だけでなく、「実効空力」エアロの影響もありそうだ。狭いワインディングロードでは、先ほど書いた通り余計なロールがないこともあるけれど、それだけでは説明が付きそうにないライン取りのしやすさがある。安定した姿勢で安心して走り抜けることができ、なんだか気持ちがいい。全幅1695mm、かつ3列シートのわりに短い全長4300mm前後というコンパクトで取りまわしのいいフリードの素性のよさを、「フリード Modulo X」なら最大限に活かしきれるのではないか、とも思える。
高速道路は、風を切り裂いて突き進む1本の槍のような安定性
速度域が上がる高速道路になると「実効空力」の効果は一段と分かりやすい。たとえるなら、「フリード Modulo X」は風を切り裂いて突き進む1本の槍のようだ。横風には強いとは言えないミニバンであるにもかかわらず、路面に吸い付くかのように、レーンの中央をブレることなく走り続けられる直進性や操縦安定性の高さをまず実感できる。
今回試乗させてもらった期間には、強風が吹いていることの多い東京湾アクアラインを何度か往復した。横風11mと表示されていたときもあったが、それでも風にあおられるような感覚はまったくなし。高速道路でトラックなど大型車の横を追い抜くタイミングでは、逆方向に押し返されるくらいの風圧を受けて不安を覚えるものだが、それもほとんどなかった。「押されるぞ」と覚悟していたのにすんなり追い抜けて、むしろ肩透かしを食らうような感じ。
また、車線変更するときには、運転が上手くなったのではないかと錯覚するほどだった。できるだけ浅い一定の角度で、車体の向きをほとんど変えることなく流れるようにレーンを移る理想の車線変更が、意識せずに毎回成功するのだ。
たとえば車線変更のために少しだけステアリングを切ったとき、風に押さえつけられるように感じて思ったほど向きが変わらないことがある。かといって舵角を増やすと、今度は横(斜め)向きの風の力が強く働いて急角度で進入してしまう。まっすぐ進ませようとする風の力と、向きを変えさせようとする風の力、その両方の狭間を行ったり来たりするステアリング操作にならざるを得ず、スムーズとは言えない車線変更になってしまいがちだ。
でも「フリード Modulo X」はまさしくオンザレール。まるで特急列車……は言い過ぎかもしれないけれど、ごく最小限の修正舵でビタッと、ド安定で高速走行を続けることができ、そのおかげで疲労感も少ない。運転が上手くなったと勘違いできるせいか、このモデルにはHonda SENSINGの「車線維持支援システム(LKAS)」も搭載されているのに、むしろLKASはオフのまま、ずっと手動で運転していたくなる。
自転車積載、3カメドラレコ、大画面モニターなど、ユーティリティ&エンタメ性能も高し
「実効空力」エアロや専用足まわりなど、外装のチューニングとセッティングで車体性能を引き出し、高めている「フリード Modulo X」のスゴさは確かに実感できた。ただ、試乗していて個人的に気に入った部分は、そういった外装からくる走行性能に加えて、快適な移動につながる車内装備にもたくさんあった。
1つは、3列シートという余裕のある車室空間の作り。好きな座席で家族が過ごせることで、ドライバー以外は退屈なクルマ移動を快適にできるし、3列目シートを跳ね上げてたためば、ロードバイクやクロスバイクを楽に積んで運べるのもうれしい。郊外まではクルマで移動し、駐車場に停めた後は自転車に乗り換えて、信号の少ない道をロングライドしたりヒルクライムを楽しんだりする、なんて使い方にも向いている。
移動を退屈にしない、という意味では、メーカーオプションの「9インチ プレミアム インターナビ」と、それと組み合わせられるディーラーオプションの「15.6インチ リア席モニター」はゼッタイに欲しくなるアイテムだ。大画面モニターでテレビ、DVDを見られるのは当たり前として、ディーラーオプションでHDMI入力(HDMI接続ジャック)も追加できるから、手持ちのスマートフォンから写真や動画を映し出して楽しんだりもできる。
それと、車両の前後だけでなく車内の様子も記録可能な3カメラの最新「ドライブレコーダー」を、ディーラーオプションで装着できるところにも注目したい。万一事故やトラブルに遭遇したときの証拠映像を残せる、というのがメインの役割ではあるけれど、車内の様子も記録することで、自分たちがカメラに映っていることを意識して安全な運転を心がけるようになる、という自制を促す面でも効果があるだろう。
最後にシート。「フリード Modulo X」ではベース車と表皮が異なる「専用ブラックコンビシート」が標準装着されている。中央部分はスエード調に、サイドはプライムスムースにそれぞれ変更され、ホールド感が増しているとともに、ファミリーカーにしてはもともとホールド性の高い形状もあって体勢がズレにくい。長時間の走行でも「固さ」や「疲労」を感じにくかったのは、このシートの作りも関係していそう。寒い季節でも乗り始めのときに冷たく感じにくい素材なのもいいところだ。
車体のポテンシャルを味わい尽くせるModulo X
クルマの空力は限定された車種や走行シーンでしか発揮されないのでは、なんて思い込んでいたけれど、「フリード Modulo X」の「実効空力」は公道でもきちんと感じ取ることができた。しかも、大げさな外観に変わるわけではなく、違和感のないスタイリングで実現しているというのがなんともニクい。車体性能をフルに引き出したいけれど、やんちゃな外観になるのは避けたい、と思っている人にとっても、Modulo Xのコンセプトはマッチするように思う。
ところで、今回残念ながら試せなかったのが悪天候時のドライビングだった。車両をお借りしている期間中ずっと晴れ続きで、雨天や積雪時に「実効空力」や足まわりのチューニングがどんな威力を発揮するのか確かめてみたかったなあ、というのが正直な気持ちだ。
路面にある1つ1つの凹凸を把握できるかのような情報量の多さは、きっと滑りやすい路面での適切な状況把握や操作に関係してくると思われる。おそらく安全運転にもつながるのではないか。そんな風にさまざまなシチュエーションで車体のポテンシャルを味わい尽くすのも、「フリード Modulo X」ならではの楽しみ方の1つなのかもしれない。
Photo:安田 剛