試乗レポート

ホンダの新型「ZR-V」を荒れた路面の群馬サイクルスポーツセンターで試乗 どのグレードも走りはスポーツカー並み

2022年9月8日 先行予約開始

ホンダの新型「ZR-V」を荒れた路面の群馬サイクルスポーツセンターで試乗する機会を得た

内外装ともに上質感があり、ヴェセルの兄貴分となるZR-V

 7月の時点では今秋発売とされていた本田技研工業「ZR-V」だが、直近には2023年春に発売と改めたことが話題になった。昨今の部品供給不足の影響、そしていま他車種において発生している納期の長期化をまずは解消しなければ新型車を発売するわけにはいかないというのがホンダの考え方のようだ。

 昨年から今年にかけてはシビックシリーズが矢継ぎ早に投入されており、それこそ直近に出たTYPE Rはかなりの年月を待つ必要があるという。その状況を少しでも緩和してから次の新型車をとなるのはホンダの良心の現れと言っていいのかもしれない。

新型SUV「ZR-V」のe:HEVモデルのZグレード。ボディカラーはプレミアムクリスタルガーネット・メタリック
ZR-Vはシビックベースのプラットフォームを使用している

 実は今回試乗するZR-Vも、大きなくくりで見るとシビックファミリーの1台である。プラットフォームは「シビック」をベースとしている。「フィット」をベースとして「ヴェゼル」が大型化されたこともあり、写真で見ている段階ではどっちが兄貴分なのか理解できなかったが、上級モデルに位置するのは間違いなくこのZR-Vだ。日本では「CR-V」が消滅となり、それを受け継ぐのが事実上このクルマなわけだが、本日発表されている価格からも理解できるようにCR-Vに比べればかなり買いやすくなった。シビックと同等で4WDモデルだと少しプラスする必要があるかという感覚で買えるところは意外な設定だった。

 というのも、実車からはかなり上質な感覚が伝わってきたからだ。躍動感溢れるデザインと、インテリアに散りばめられた曲線美、さらに天井に目を向ければ指先を触れただけで点灯するスポットライトが与えられるなど、イイ車感が散りばめられている。

インテリアも新型シビックに似ている印象
前席
後席
ラゲッジスペース
後席は6:4の可倒式

 だが、見掛け倒しではなく走りをかなり磨き込んだであろうことは、試乗会の案内からも伝わってきた。今回試乗する環境はナント、群馬サイクルスポーツセンター。荒れた路面で起伏も多いことから“和製ニュルブルクリンク”とも称される環境である。まるでスポーツカーかのような扱いには思わずニンマリ。群雄割拠のSUV市場にこれから打って出るならと、走りに対する意気込みはかなりのものがありそうだし、ホンダらしさが滲み出ているようにも感じられる。

ドアのインナーパネルは立体的なデザインを採用することで高級感を表現
センターコンソールは独特の形状で、下に小物スペースがあり、左右にUSBポートを完備する
後部席用にもUSBポートが2つ備わっている

 基本的にシビックベースであるが、実際のところは当然ながらかなり違う。フロントの足まわりはサブフレームこそ共通だが、大径タイヤを収めるためにロアアーム、ナックル、そしてリバウンドスプリングを備えるショックアブソーバーを装備している。リアはCR-Vが使っていたマルチリンクをベースとして、4WDにも対応しているところがポイントで、こちらにもリバウンドスプリングを備えるショックアブソーバーが与えられる。

e:HEVのエンジンは最高出力104kW/6000rpm、最大トルク182Nm/4500rpm、モーターは最高出力135kW/5000-6000rpm、最大トルク315Nm/0-2000rpmを発生
ガソリン車のエンジンは、最高出力131kW/6000rpm、最大トルク240Nm/1700-4500rpmを発生

 パワートレーンについては1.5リッターVTECターボのガソリンモデルと、2.0リッター+モーターのe:HEVが設定されているのは変わらないが、大径タイヤに合わせてファイナルギアやトルク特性は変更している。なお、音に関する演出はシビックのように行なってはいない。ちなみにタイヤはM+Sではなくサマータイヤが奢られオンロード向きの設定。果たして、これでどんな走りを展開するのか?

e:HEVモデルは横浜ゴムのアドバンdb(デシベル)を装着。サイズは225/55R18
ガソリンモデルはブリヂストンのアレンザを装着。サイズは225/55R18

前日の雨で濡れた路面や乾いた路面、水溜まりやギャップもあった群馬サイクルスポーツセンターで試乗

SUVの試乗が群馬サイクルスポーツセンターと聞き、最初は「なぜ?」と思ったが走りに自信のあるホンダの本気を感じられた

 FFモデルの1.5リッターVTECターボから試乗すると、開けた視界と見切りのしやすさは絶妙な感じで、ボンネットの両端が盛り上がっていることで、車両感覚が掴みやすく感じた。関心したのは四輪の接地感が豊かで、安心してコーナーに飛び込めるところに感心。リアは圧倒的な安定感を生み出しながらも、ノーズは狙った通りに吸い込まれるようにコーナーリングを展開していくから面白い。

 ロールもピッチングも割と抑えられており、けれども自分が荷重移動を生み出して曲げることが可能になる寛容なところを備えている。タイヤ頼りじゃなく、ドライバーが作る姿勢次第で綺麗に曲がっていく感覚はなかなか面白い。突き上げ感を従わずにいなしていくところも好感触。

 リアシートにも座ってみたが、角が丸い感覚でスッとギャップを受け止めてくれるところが気に入った。ただ、やはり上り坂のタイトターンではイン側の接地は抜けるところがあり、アクセルを入れた瞬間からタイヤがやや空転。イン側のタイヤは割と仕事をしているような感覚があるのだが、流石に駆動方式には勝てないイメージだ。

 また、ギャップを飛び越えた後にはフロントがフルバンプするシーンが見られた。ストロークをそれほど稼げないフロント周りなだけに、仕方がないところもあるようだ。リアに関してはそのようなことがあまり感じられない。まあ、このクルマでそこまで走り込む人もいないだろうが、一応は群サイを走っているのでそれなりに走ってみた結果がそれだ……。だが、間違いなく走りが面白い! まるでホットハッチかと思えるほどの動きのよさを見せてくれたことに驚いた。

 4WDの1.5リッターターボに乗り換えると、リアに駆動を分配できることから、フロントタイヤの依存度がかなり低くなる。ZR-Vはガソリン車もe:HEVもプロペラシャフトを介してリアを回すタイプで、常時4WDとなりトルク配分を行なっている。基本ベースは前後重量配分である約58:42に準じており、加速体勢に入ってリアに荷重が乗った分に合わせてトルクをリアに寄せていくとのこと。おかげでアクセルオンをした時にリアが蹴り出す感覚もあり、少ない操舵角でコーナーを駆け抜けていく面白さまで生まれている。いっそ、シビックも4WD化してみては? なんて思えてくるほどだ。タイプRの4WD、結構楽しいと思うんですけれどね(笑)。

1日でガソリンモデルのFFと4WD、ハイブリッドモデル(e:HEV)のFFと4WDを試乗できた

 続いてe:HEVのFFと4WDを続けて乗ったが、こちらは重量がアップすることもあり、全体的にマイルドな仕立てとなっている。ただし、それが不快というわけじゃない。ロングドライブで上質さを求めるのであればもちろんコチラ。また、どの速度域でもリニアにトルクが応答することもあり、タイトターンが連続するようなシーンではアクセルのツキのよさが光っていた。対して低速では特に4WDモデルが重量に合わせた足まわりのせいか、ややハードな乗り心地と微振動が感じられた。だが、このクルマでも狙った通りに走れる仕上がりには驚くばかりだった。

助手席に開発責任者の小野修一氏が乗り、それはそれは楽しい試乗だった

 このように、どのグレードを選んだとしても走りはスポーツカー並みに満足できる。アルファベットが一気に飛び「Z」の文字を使うことになったこのクルマは、やはりこれまでにはない究極の走りが味わえるSUVだと思えた。開発トップの小野修一氏曰く「このクルマはどちらかと言うと従来のようなクルマ造りを行ないました。シミュレーション頼りになるのではなく、とにかく走り込んで仕上げてきました」。だからこそ、こんな悪条件を走って納得できる1台に仕上がっていたのだろう。いっそ、タイプRのパワーユニットを積んでみてはどうか? そんなことを考えてしまうほど走りが爽快で運転が楽しめるSUVだった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。