試乗レポート

日産の新型「エクストレイル」、夢の可変圧縮比エンジンとe-4ORCE技術の完成度やいかに

新型「エクストレイル」に公道で試乗した

最上級のGグレードに試乗

 いよいよ公道での試乗の機会がやってきた。試乗車は最初にデリバリーされる4輪駆動仕様のe-4ORCEで、グレードは最上級のGとなる。

 4代目となる新型「エクストレイル」はe-POWERのみの設定で、4WDとFFがあるがメインとなるのは4WDだ。プラットフォームも含めたすべてを一新したエクストレイルのセールスポイントは上質になった内外装。そして夢の可変圧縮比を実現したe-POWER用の1.5リッター3気筒ターボ。出力を上げたモーターと4輪を繊細に電子制御するe-4ORCEの技術になる。

 追浜のテストコースで乗ったものの、公道でどのような印象を持ったか進めていこう。ルノー、日産、三菱自動車のアライアンスによって誕生したCMF-CDプラットフォームは各社によって細部が異なるが、基本的に同じベースのもとに作られ、ホイールベースは同じ2705mmとなる。サイズは4660×1840×1720mm(全長×全幅×全高)で先代より30mm短く、20mm広い。全体にギュッと締まって精悍になった印象だ。

今回試乗したのは7月に発売となった新型「エクストレイル」。2WD、4WDそれぞれにベースグレードの「S」、中間グレードの「X」、上級グレードの「G」を用意し、2列シートの5名乗車が基本。4WDの「X e-4ORCE」だけ3列シートの7名乗車仕様をラインアップする。撮影車は「G e-4ORCE」(449万9000円)で、ボディサイズは4660×1840×1720mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2705mm。従来モデルから30mm短く、20mm広く、20mm低いロー&ワイドなプロポーションを実現した
新型エクストレイルのフロントまわり。ヘッドライトは上段にポジションランプとターンランプを、下段にメインランプを配置し、上質感を演出する2階建ての構造を採用。リアコンビネーションランプのインナーレンズには日本の伝統的な切子パターンからインスピレーションを得た精密でキラキラと光り輝く加工が施された
Gグレードのみ19インチアルミホイールを装着し、タイヤはハンコック「Ventus S1 Evo3 SUV」(235/55R19)を組み合わせる

 試乗車はタン内装で上質感があって落ち着いていた。正面の液晶ディスプレイとダッシュボード上に置かれるマルチメディアディスプレイも整理されて見やすく、使いやすくなった。

 ドライビングポジションを合わせるが、ペダルもスーと足を延ばした位置にあり無理がない。シートの前後上下の移動量も大きくほとんどの体型に人に適応できる。

 前方視界はボンネットが見えること、水平基調のダッシュボードで把握しやすい。ボディサイズは横に大きくなっているが、走り始めるとサイズ感はちょうどいい感じに収まる。

インテリアではタフさと上質な心地よさを兼ね備えたデザインを目指し、コンソール部分を宙に浮かせたブリッジ構造のセンターコンソールにはラージサイズのカップホルダーを用意し、コンソール下にはティッシュボックスやひざ掛けなどが収納できるスペースを用意
シフトまわり。走行モードはSTANDARD(2WD)/AUTO(e-4ORCE)、SPORT、ECOに加え、e-4ORCEではSNOW、OFF-ROADを用意。全てのモードでより強い減速力が得られるBレンジの設定が行なえる
センターディスプレイに採用されているのは12.3インチのNissanConnect ナビゲーションシステム。自然な言葉で操作できるハイブリッド音声認識機能やAmazon Alexaを搭載
メーターには2種類の表示モードを選択できる12.3インチのアドバンスドドライブアシストディスプレイを採用
タン色のナッパレザーを用いた前後シート
ラゲッジスペースは従来から開口幅を広げるなどして9.5インチのゴルフバックが4つ積載できるようになった(従来では9インチが4つ)。災害時の非常用電源などで活用できる100V AC電源(1500W)などを用意するのも新しい

発電用エンジンとして素晴らしい完成度

 スタートボタンを押してe-POWERのシステムを起動させ音もなく走り始める。スタート直後はバッテリのみによる駆動だが、発電用の1.5リッター3気筒VCターボエンジンが始動しても振動は極めて小さく、回っていることすら感じられない。音も極めて静かなので発電用エンジンとして最高じゃなかろうか。音質と振動共に素晴らしい完成度だ。

 装着タイヤはハンコック「Ventus S1 Evo3 SUV」でサイズは235/55R19となる。走行ノイズに関してはエンジンからの騒音が遮断されているので、ハンコックの小さなパターンノイズが目立ってしまったが、静かなSUVだと改めて感心する。

 加速時にはラバーバンドフィールは全く感じない。VCターボの余力がなせる業だ。VCターボは圧縮比が8:1~14:1まで可変させることができるのが最大の特徴だが、e-POWERは発電用として開発されたので回転は抑えることができ、低回転で大きなトルクを出しており、回転を上げないので燃費も向上する。通常は必要に応じて1500rpm~2000rpmぐらいで回転しているが、加速時にはそれに合わせて最大5000rpm附近まで回るようにコントロールされている。そのためアクセルペダルを強く踏み込んだ時もリズムよくエンジン回転が上がり自然なフィーリングだ。いずれにしても静かな室内である。

第2世代のe-POWERでは、モーターを駆動するための電力を発電するエンジンに日産が世界で初めて量産化に成功した可変圧縮比エンジン「VCターボエンジン」を採用。この直列3気筒DOHC 1.5リッターターボ「KR15DDT」型エンジンは最高出力106kW/4400-5000rpm、最大トルク250Nm/2400-4000rpmを発生する無鉛レギュラーガソリン仕様。「BM46」型フロントモーターは最高出力150kW/4501-7422rpm、最大トルク330Nm/0-3505rpmを発生。e-4ORCE仕様では「MM48」型後輪モーターをセットし、最高出力100kW/4897-9504rpm、最大トルク195Nm/0-4897rpmを出す。WLTCモード燃費は2WDが19.7km/L、4WDが18.4km/L(3列シート車は18.3km/L)

 乗り心地もサスペンションの路面追従性に優れており、細かいショックはよく吸収されている。荒れた路面ではリアからの突き上げは少し大きめだが、微振動はあまり感じられない。タフなSUVらしいセッティングだと思う。

 ゼログラビティコンセプトによるシートは試乗を終了してもあまり疲れを感じなかった。個人的には座面とバックレストの面圧が高くなるところがもう少し柔らかいとシックリくるかなと感じたが、人それぞれでシートの最適解を求めるのは難しい。

 後席はレッグルームは広いがフルフラットにする関係で座面が少し短いのが惜しい。その代わりラゲッジルームの広さはクラス随一だ。また、後席は荒れた路面で突き上げ感があり、よりクッションストロークがほしいところだ。

 ブレーキコントロールは先代のエクストレイル ハイブリットは得意科目ではなかったが、新型ではストロークと踏力のバランスがよく、コンベンショナルなブレーキと比べても遜色がない。例えばフットブレーキで停止寸前の微妙なブレーキタッチも使いやすくなった。

 ハンドル応答ではしっかりとして反応し、操舵力も若干重めの設定だ。ステアリング系も剛性が向上しているので応答初期はダイレクト感がある。欲を言えばもう少し切り始めの反応が鈍いといわゆる“スワリ”がよくなるように感じられた。

 山道ではしっかりしたハンドル応答性とグリップで、コーナーでも安定性が高く頼もしい。軽快というよりもどっしりした感触だ。コーナリングパワーも適度にあるが軽快さがあってもよいと感じた。

 ドライブモードはセンターコンソール上のダイヤルで変えることができ、AUTO、SPORT、ECO、SNOW、OFF-ROADが選択できる。回生ブレーキが強くなるのはAUTOモード以外のすべてのモードのアクセルOFFで減速力が少し強くなる。数字にするとDレンジではAUTOモードで0.05G、それ以外では0.12GでアクセルOFF時に軽いエンジンブレーキをかけたように走る。ただしe-PedalをONにすると全モードで0.2Gの減速になる。このe-Pedalボタンはセンターコンソールの別スイッチで置かれる。アクセルのゲインはSPORTとOff-Roadで最強となり、ECOとSNOWではAUTOより弱くなる。当然ながらAUTOモードがガソリン車から乗り換えてもっとも自然だ。

 山道ではSPORTモードを使うとアクセルOFF時に適度な減速Gがかかるので走りやすい。さらに全モードでe-4ORCEは4輪の駆動力配分を行なっている。例えばSNOWモードでは後輪の駆動力を上げて安定性を向上させ、アンダーステアとなった場合はブレーキ制御も入れて旋回力を上げるような設定だ。オンロードでもSNOWとSPORTの差が分かるほどだが、駆動力配分はグラフィックで表示されると自車の特性が分かるので嬉しい。残念ながら現時点ではe-POWERのエネルギーフローのみの表示になっている。

 高速道路ではプロパイロットを作動させる。追従では前走車についていくのもうまい。前車の減速に合わせて巧に車間を保つ。レーンキープもライントレース性が高く、ハンドル制御は強くはないが比較的正確に車線を維持できる。クルーズコントロールは135km/hまで許容するが、高速道路に120km/h区間が多くなってきた時代に妥当な落としどころだと思う。

 気になる燃費はワインディングや高速道路を使った走行で13.6km/Lだった。WLTC燃費はe-4ORCEのGグレードで18.4km/Lとされている。

 また、オーテック仕様にも試乗したが、装着タイヤは255/45R20のミシュラン「プライマシー4」で一般道からワインディングロードまで応答が適度にシャープで乗りやすかった。乗り心地も荒れた路面を走破したときのバタつきもよく抑えられて、よくマッチしていた。以前乗せてもらったテストコースでの試乗では少しキビキビしすぎるかなと思ったが、リアルワールドでは軽快なハンドリングとしなやかな乗り心地に感心した。車両重量にマッチしているようだ。

 日本の道でも使いやすいサイズで乗るほどに味のある新型エクストレイル。特にVCターボの実力に感銘を受けた。

エクストレイル「AUTECH」ではドットパターンのフロントグリルやブルーに輝くシグネチャーLEDを採用するとともに、メタル調フィニッシュの専用パーツを車体下部に装備。また、エクストレイルで唯一20インチアルミホイール(タイヤはミシュラン「プライマシー4」)をセットする。価格は420万5300円~504万6800円
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛