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ライバルに勝つためのドライグリップ特化! ブリヂストンのサーキット向け二輪タイヤ「バトラックス レーシングストリート RS12」誕生の裏側に迫る
- 提供:
- 株式会社ブリヂストン
2026年9月30日 00:00
ブリヂストンのサーキット向け二輪タイヤ「BATTLAX RACING STREET RS12(バトラックス レーシング ストリート アールエストゥエルブ)」(以降、RS12)の売れ行きが好調だ。2026年2月に発売以降、前年同時期の前モデル「RS11」と比較して、発売当初は8倍もの販売数を記録するなど、予想を上まわる受注が続いている。
新しいRS12は公道走行も可能ではある。が、あえてドライグリップに特化し、サーキットでのパフォーマンスにこだわった。これにより、その領域におけるライバルのシェアを奪いつつあるという。
以前まではサーキット向けであっても「安全」を最優先にしたものづくりを掲げてきたブリヂストン。しかしそれが、極限環境での高いグリップ性能を求めるサーキットでは文字どおり足を引っ張る制約として働いていた。
そうした状況に対し、今ある技術の粋を結集させ、限界突破して完成したRS12。このプレミアムスポーツタイヤがいかにして生まれたのか、開発担当者に直撃した。
公道走行もできるサーキット向けタイヤ、前年をはるかに上まわる売れ行き
──RS12の位置付けや前モデルRS11との違いについて教えてください。
大庭氏:ブリヂストンの二輪用公道向けタイヤには、「RACING STREET」「HYPERSPORT」「SPORT TOURING」などのブランドがあり、その中でRACING STREET RS12は、ハイグリップタイヤのフラグシップという位置付けです。サーキットでスポーツ走行を楽しみたい方を主なターゲットとしていますが、公道用タイヤであり、サーキットでもタイヤウォーマーを使わなくていい、というのも特徴です。
前モデルのRS11は基本が公道走行用、それでいてサーキットでスポーティに走れる、というコンセプトでした。しかし今回のRS12はその考え方を逆転させて、サーキットでのパフォーマンスを追求しつつ公道でも走れるタイヤ、としています。
もちろん公道用として守るべき法規制や規格もありますし、ウェット路面で走れる性能も考慮していますが、主眼はサーキットでのドライグリップです。
──なぜコンセプトを変えたのでしょうか?
大庭氏:RS11はターゲットとしているカテゴリーにおいて他社から取り残されている、という状況にあると感じていました。同カテゴリーのライバル製品はレースタイヤの技術をふんだんに使ってサーキットパフォーマンスを追求しており、市場でかなり好意的に受け入れられています。
一方当社では、公道用タイヤについてはカテゴリーによらず、あらゆる路面における安全性を担保したタイヤ開発を行なってきました。が、ライバルに追いつくためにはその考え方を改めなければならない、ドライ性能に特化させてなんとか勝ちたいと思ったんです。
──RS11の性能は具体的にどの部分に課題がありましたか?
大庭氏:ドライグリップとその持続性です。特にフロントのグリップがあまり良くなく、持続性はリアのグリップが「タレやすい」ところに現れていました。
一方でウエット性能や耐候性などは非常に高く、ある程度目的に合ったバランスの良い製品であったものの、このカテゴリーの製品としては無難すぎるタイヤだったとも言えると思います。
──RS12を2026年2月に発売して半年ほど経ちました。ユーザーからはどんな声が届いていますか?
井上氏:大変高く評価していただいていますし、3~4月は国内で前年の8倍くらい売れました。販売店の方もいいタイヤだと言ってくれて「普段の2倍仕入れるよ」という話をいただいたものの、お客さまの注文は4倍もあって在庫が追いつかないほどでした。
一方の欧州では徐々に販売が伸びているイメージです。今度のRS12はいいらしいぞ、みたいに少しずつ評判が広がって、実際に体験した方からは「こんなタイヤには初めて出会った」というポジティブな感想が多く寄せられています。
徹底的な調査と合理的なロジックでドライ性能特化を実現
──ウェットも含めたトータル性能を大事にする会社文化の中、ドライ性能に特化するということで、社内的に合意形成が難しかったところもあるのでは、と想像します。
大庭氏:ドライ性能に特化して、代わりにウェット性能や低温時の性能を犠牲にしていいのか? という話はもちろん出てきましたし、本当に市場に受け入れられるのか? という不安も当然ありました。そのため、RS12についてはコンセプトを決める前の最初の段階で、国内外のユーザーやスタッフ、販売店の意見など、市場のデータをこれまで以上にしっかり集めて、かなり踏み込んで調査しました。
そうすると、「もっとドライ性能が欲しい」という声が圧倒的に多かったんです。仮に「ウェット性能が低下したとして問題があるか?」を探る質問も用意しましたが、このカテゴリーのタイヤで雨の日に積極的に走ることはそもそもない、という結論でした。
販売店からは、こういったタイヤを購入されるお客さまはある程度知識があり、ウェット性能、寒い時の性能の限界も理解していると。真冬の早朝からフルバンクはしないですし、基本的には皆さん「分かって」乗っているんですよね。
井上氏:今まではサーキット向けとしていても、雨や低温下でも可能な限り滑らないタイヤにしなければいけない、という考え方でした。なので溝もたくさん入れるし使える素材も限られていたんですね。
しかし今回RS12を開発するにあたっては、大庭の言った調査結果も踏まえて、たとえば「雨の日や低温では、ライダーはそもそもタイヤのこの部分を使いません」と社内で言い切ったんです。欧州のライダーにアンケートを取ってみても、気温が一定以下になったら峠には行かないし、雨の日は走らない。
であるなら、使わない部分はドライに特化してしまっても問題ないはずです。と言うと、社内でも理解してもらえました。そういうロジックでこれまでの制約をどうにか取り払ってきたんです。
ハイグリップなゴムを使うために、時間とお金をかけて、本当にいろいろな調査をしてきました。しかも大庭に相談すると、こういう素材や、こんな素材もあって、もしこれが使えたらすごいですよ……みたいなものがどんどん出てくるんですよね。徹底的な調査に加えて、そういう情熱が最終的には突破口になったのかなと思います。
──ドライグリップに特化したことで、それ以外の性能はやはり落ちてしまっているのでしょうか?
大庭氏:何かに特化したタイヤを開発するうえでは、どうしても背反する部分が出てきます。たとえばグリップを高めると耐久性を確保しづらくなりますから、そこをブレイクスルーする新技術や新しい考え方、新しい判断基準が必要になってきます。
ですが実のところ、RS12はウェット性能も低温時のグリップも、結果的には意外と良かったんです。ドライ性能を追求するべくコンパウンドをレースタイヤに使われるようなゴム素材にし、エッジの溝もなくしているので、本来であれば排水性が低下してウェット性能が損なわれてしまうにも関わらず、です。
なぜ「意外と良かった」かというと、ウェット路面だとバンク角が必然的に小さくなるのでエッジまで使わないんですね。しかもRS12ではセンターに近い領域はむしろ溝を大きくしているので、その部分での排水性はRS11より高いのです。
ドライ性能にフォーカスしたタイヤではありますが、その中でも可能な範囲で排水性を高めるなどの細かな工夫を少しずつ取り入れたことで、最終的にはドライ性能とウェット性能をしっかり両立できました。
レースタイヤ用コンパウンドに加えて、新構造「HE-MS BELT」を採用
──コンパウンド部分ではどのような工夫を取り入れていますか?
大庭氏:サーキットでのドライグリップ性能を上げることが狙いでしたので、先ほどお伝えしたとおりシンプルにレースタイヤで使われているコンパウンドにしました。ただ、そういうコンパウンドは温度依存性が高いので、温度レンジをどこに置くべきかの見極めが難しかったですね。
コンパウンドは種類によって高温でグリップを発揮するものもあれば、より低いところで性能が出るものもあります。同時に、グリップするところからしないところまでの性能曲線の変化の仕方もコンパウンドによって違いがあります。
RS12のユーザーを想定すると、完全にレースタイヤ用のコンパウンドだとうまく機能しないと考えられました。また、ウォームアップ性能、つまり温度が低いときの走り出しの不安感にもつながりそうでした。
そこで、RS12ではやや低めの温度レンジでピーク性能が出るコンパウンドのうち、温度による性能の変化がなだらかなものを選びました。ターゲットユーザーのライディングの仕方、タイヤへの入力の仕方などの実車データを踏まえつつ、比較的広い温度レンジでグリップするコンパウンドをチョイスした形です。
──タイヤの構造部分での工夫もありますか?
大庭氏:新たな構造としてフロントに「HE-MS BELT」を採用しています。まず前提として、タイヤ内部には複数本のスチールワイヤーからなる「ベルト」と言われる部材をタイヤの回転方向に巻いています。RS12もその基本構造は変わらないのですが、HE-MS BELTはスチールワイヤーに伸縮性が出るように撚り方を変えているのが特徴です。
なぜそうしたかというと、きっかけは「ブレーキングで止まれていない」ことでした。コーナーの侵入でタイムロスしていたので、荷重をかけたときにタイヤで何が発生しているのかを分析していったんです。
すると、今までのベルト構造だとブレーキをかけてタイヤに荷重がかかるとタイヤ内部でベルトが折れ曲がる、いわゆるバックリング(座屈)が発生していることが分かりました。トレッドが波状に変形して、接地圧分布の画像を見ると波状に高荷重部分とそうでない部分が連続しているような状態です。
これによって直線終わりのブレーキングから、ブレーキを引きずるようにコーナーに侵入していくところまで、フロントに荷重がかかる場面ではタイヤの接地圧が逃げていました。
そこに対してHE-MS BELTでは、スチールワイヤーの撚り方を変えて高い伸縮性をもたせることで「縮みしろ」を作っています。タイヤが折れ曲がらず均等に接地し、接地圧も逃げることがなくなるので安定感や接地感が高まります。結果的にグリップ力も維持しやすくなるわけです。
──「伸縮が大きい=タイヤが変形しやすい」ということで、フィーリングにも影響がありそうです。
大庭氏:たしかにスチールワイヤー1本1本で見れば従来型構造の方が強度があります。HE-MS BELTは伸縮性が大きくなる分、剛性感が低下する方向にはなってしまうかもしれません。
ただ、そのあたりはスチールワイヤーの本数を増やしたり、トレッドのパターン剛性との兼ね合いを考えて設計したり、カーカスと呼ばれる部材の設定を変えたりと、構造のチューニングで補っています。
──RS11の課題として挙げていた「リアがタレる」点についてはどう対処しましたか?
大庭氏:前モデルのRS11では、走った時にトレッド表面がザクザクの摩耗肌になってしまうことが、タレてグリップ低下する原因でした。その改善のために、該当する領域のコンパウンドを変更しています。
左右のエッジと中央で3分割にした「3LC(3 Layer Compound)」の各部位でコンパウンドを変えているのですが、トラクションをかけていくセンター部は荒れにくく、それでいて力をかけていく(加速していく)ときに高いグリップが得られるコンパウンドとしました。連続走行したときもタレにくくなっているはずです。
──鈴鹿8耐をはじめ世界耐久選手権(EWC)にも参戦しているわけですが、そういったレースシーンでのノウハウも盛り込まれている?
大庭氏:1つは今お話ししたフロントのHE-MS BELT。それとウォームアップ性能でしょうか。EWCの欧州ラウンド、特にル・マン24時間耐久レースでは寒い時間帯のパフォーマンスで苦労した経験がありましたので、低温でも機能するように技術開発してきました。そこはコンパウンドや構造面の工夫が大きいと思います。
頑張らなくても高性能を引き出せる&実感できる
──開発において特にこだわったポイントを教えてください。
大庭氏:一番こだわったのは、誰が乗ってもすごいグリップ感を体感できるようにすることです。サーキットでラップタイムを追求しようとすると、どうしてもマシンセッティングやライディングの仕方を突き詰めていくことになります。が、多くの人はそこまですることはありません。
そんな人でも、プロライダーが体感しているようなグリップ感、旋回性能がRS12では得られます。ビギナーの方がノーマルバイクで乗ってもすごく曲がっていく感触が味わえて、セッティングを突き詰めた時のフィーリングってこんな感じなのかも、と思ってもらえるはずです。
──どんな場面だと性能の高さやほかとの違いを感じやすいでしょうか?
大庭氏:公道非対応の「BATTLAX RACING R11」や他社のサーキット向けタイヤは、ある程度頑張って荷重をかけ続けないとグリップを発揮できなかったりしますが、RS12は頑張ろうとしなくてもフロントの旋回性の高さを感じやすく、早い段階でアクセルを開けていけます。
最近は走行データを手軽に確認できる車種も増えてきていますので、交換前後でバンク角やアクセル開度などを比較してみるとおもしろいかもしれません。
井上氏:今、大庭が言ったように、RS11を限界まで使えていた人だと、RS12にしたときはもっとバイクを倒せて、ブレーキングや加速における限界域の違いも感じられると思います。あるいは上級者でなくても以前より倒していける、曲げていけると感じられるはずです。
また、私自身も感じたことですが、サーキットじゃなくても、乗り始めてすぐに路面のゴツゴツをあまり拾わないタイヤのしなやかさに気付けます。「今までと違うな」とうれしくなりますし、「いいタイヤにしたぞ」という満足感が得られたりもするんですよね。
──サーキットビギナーでも一歩先の世界が見える、みたいなところもある?
井上氏:そうです。たとえば同じ100km/hでも、250ccのバイクと1000ccクラスのバイクとでは余裕が全然違いますよね。それと同じで、RS12もグリップに余裕があるので、サーキットやワインディングなどで怖さを感じることなく楽しめると思います。
コーナリング時にタイヤが変形することでグリップを得る傾向にある他社製タイヤと、自然にゴムを路面に押し付けてグリップさせるRS12。両方でそれぞれの得意な条件で比較した場合、サーキットのラップタイムはわれわれの方が短いと社内評価では確認しています。
──先ほどお話に出たR11はサーキット用で販売ルートも限られていますが、あえてRS12と比べるとどういう違いがあるのでしょうか?
井上氏:RS12のショルダーに使用しているようなレース向けのゴムが、R11ではセンターを含め全面に使われているのが大きな違いです。たしかにセンターも同じゴムだとストレートでのトラクションのかかり方にも違いが出てくるので速いのですが、摩耗するのも速いんですよね。その点、公道対応のタイヤであるRS12は高速道路を走ってもちゃんとタイヤがもつ、と言えます。
大庭氏:R11はセットアップを突き詰めてこそのタイヤでもあります。適切な温度域が異なる「ソフト」と「ミディアム」の2パターンがあるので、基本的に2セットを使い分けることになりますし、タイヤウォーマーの使用も前提です。RS12はそうではなく、先ほどお話ししたようにパッと乗って、すごいグリップを引き出せる、というのが強みですね。
開発者人生の集大成、現時点で考えうる最高の製品に
──最後に読者に向けてメッセージをいただければ。
大庭氏:開発の立場でも、本当にいいものができたという実感があります。15年ほど開発に携わっていますが、私の会社人生の一番の集大成と言えるくらいです。「今までとは違う」ということが分かる、高性能を体感しやすいタイヤですので、買っていただいて損はないはずです。
ちなみに性能だけでなく見た目にもこだわっています。溝が少ないので、真横からだとスリックタイヤのように見えるんですよね。こういう少し攻めた感じも、今までのブリヂストンらしくないところに思ってもらえるのではないでしょうか。
井上氏:「本気でわれわれの持つ技術を全部出して、ライバルに勝てるタイヤを作りたい」と思って開発しました。BATTLAXが誕生してから40数年、ずっとその領域でライバルに勝てなかった。だったらこの世代で勝とうよ、というのを合言葉にしてきたんですよね。
ブリヂストンには優れた技術が実はたくさんあるものの、安全性やコストなどさまざまな制約から実際の製品には採用できていません。しかしコスト面については、フラグシップタイヤのRS12であれば、多少は高額になっても本当にクオリティが高ければ受け入れていただけるのではないかと思いました。
安全性についてもマージンを大きく取りすぎているせいでこの素材はダメ、となっていたところもあります。そこで、もう一度安全性のラインを考え直してみてはどうか、という提案もしました。
いろいろなしがらみがありながら、RS12は現時点で考えうる最高の製品を出そうという考えで作ったタイヤです。今までとは違うブリヂストンの本気のタイヤを、「分かる人」にぜひ使ってもらいたいですね。
公道試乗でも感じ取れる上質さと安心感
インタビュー後、RS12装着車を試乗してみた。スケジュールの都合上、公道での走行となったものの、タイヤの上質さ、安心感の高さはシートやハンドルに伝わってくる感触からもよく分かる。井上氏が語っていたように、走行中に迫ってきた少し身構えてしまうような段差でも穏やかに吸収してくれる。
今回試乗した車両は、カッチリした乗り心地の印象があるBMW Motorrad S1000RRだが、それもRS12のおかげで少しマイルドになっているようだ。路面の凹凸の敏感すぎる部分はフィルターし、大事なインフォメーションをその分多く受け取ることができる。
そしてワインディングでは、成り行き任せでタイヤに荷重を預けられ、個人的に気持ち良くコーナリングできているときの「リアタイヤに乗れている感」もすぐに得られた。
こういった感覚が得られると「滑らない」という確信をもてるようになる。最大の不安要素がなくなることで周囲により気を配りつつ、視界を広く保ちながら走れるため、公道でもサーキットでも安全に間違いなくつながるだろう。
これが安定した路面のサーキットであれば、もっと大胆なライディングも自分のスキル内に収めながら走れそうだ。今まで限界と感じていたところのもう一歩先まで踏み込んでいくのも難しくないのでは、と思う。
Photo:安田 剛

















