トピック

【インタビュー】FCA ジャパン社長兼CEO ポンタス・ヘグストロム氏に将来の展望を聞く

2018年は3モデルのSUVを発表「エキサイティングな年になる」

FCA ジャパン株式会社 代表取締役社長 兼 CEO ポンタス・ヘグストロム氏。スウェーデン出身。1965年生まれ。サーブ オートモービルズやゼネラルモーターズを経て2008年にフィアット グループ オートモービルズ ジャパン株式会社代表取締役社長に就任。2012年より現職を務めている

 FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の日本法人であるFCA ジャパンは、インポーターとしてアルファ ロメオ、ジープ、フィアット、アバルトといった、イタリア車やアメリカ車のブランドを日本で展開している。2014年にフィアットとクライスラーが統合し、2015年からFCAとしてスタートした同社は、今も変わり続けている注目すべき企業だ。

 今回、同社の代表取締役社長 兼 CEO ポンタス・ヘグストロム氏にFCAの現状とその先の未来についてインタビューを行なうことができた。その中でヘグストロム氏は「2018年はエキサイティングな年になるだろう」と語る。その理由とは。

――FCA ジャパンの社長兼CEOに就任されてどのぐらいの期間になりますでしょうか?また日本についての印象も教えてください。

ヘグストロム氏:2008年に就任(当時のフィアット グループ オートモービルズ ジャパン株式会社代表取締役社長)し、約9年間務めております。日本には約20年間おりますが、とても好きな国です。初めに来日したのが1989年で24歳のときでした。ちょうど日本はバブル経済のまっただ中だったのでよい経験ができました。数年間、何度か海外に戻った時期もありますが、結局は日本に戻ってきました。もしかしたら、この先はずっと日本に居るかもしれませんね。

――FCA ジャパンブランドの特徴を教えてください。

ヘグストロム氏:FCA ジャパンは複雑な組織です。日本にある自動車インポーターのなかで、これだけ多くのブランドを展開しているのは我々だけです。そしてそのブランドごとに複数の販売網を展開しています。“FCA ジャパンブランド”としての全体的な活動ではなく、各ブランドに注力して事業を行なっています。各ブランドをしっかり育成し、販売網を支援するというのが我々の仕事です。

 複数のブランドがあるというのは、ある意味それだけ子供がいるということです。それぞれが違う個性を持っており、それに優劣はありません。1つひとつが大切な存在です。それぞれのブランドごとに独自の強みと目的があります。また販売網もブランドごとで独立しているので、お互いに干渉を起こして混乱することはありません。

――確かに御社のブランドはとても個性的です。それぞれの販売網の特徴を教えてください。

ヘグストロム氏:ご存じのとおり、FCAはフィアット社とクライスラー社が統合してできた会社です。統合前は両社ともに複数のブランドと販売網を持っていました。フィアットはイタリア系のチャネル、クライスラーはアメリカ系のチャネルです。FCAとして統合してから、1つひとつのブランドの特徴をより明確に再定義をし強化してきました。それぞれのブランドでのバリエーションや車種数を増やし、販売チャネルの統廃合を行なっています。

 アメリカ系の販売網では、今まさに再構築が行なわれている最中です。特にジープ・ブランドを中心に強化をしています。販売店数および店舗あたりの質をしっかりと向上させる取り組みとして内外装を含めたCIの全店変更を行なっています。

 アバルト・ブランドは2009年に日本で発売して以来、販売台数は堅調に伸びています。販売網は全国規模へと拡大しており、2016年よりフィアット・ブランドとともに展開しているところです。アバルトとフィアットが一体になった販売網は、イタリアのライフスタイルを体現するものと言えるでしょう。

 2017年9月6日にアルファ ロメオ「ジュリア」が発表になりました。2018年はその後続の車種の発表も予定しています。この発表を機にアルファ ロメオに関してはフィアットから独立した専売チャンネルで展開していきます。FCAはこのように明確に違いのある3つの販売網を現在展開しています。

2017年9月6日に日本でも発表されたアルファ ロメオの新型フラグシップセダン「ジュリア」

――“イタリアのライフスタイルを体現するブランド”と仰いましたが、イタリア車の優位性はどんなところでしょうか?

ヘグストロム氏:FCAが持っているブランドと他社のブランドとの違いは、FCAが持っているブランドの方がより国との結びつきが強いという点が挙げられます。例えば、フィアットを購入されるお客様は、イタリアという国自体やファッションに関心を持っている例が多いです。ジープの場合は同様にアメリカに関心を持っている方が多いですね。ジープ・ブランドのキーワードは“自由・冒険・探検”です。この3つはアメリカの文化や精神から来ているものです。そういう意味での関係性が強いです。

フィアットを代表する「フィアット500」は、1936年に初代モデルが発表され、2007年に3代目モデルが発表された(写真は現行モデル)

 イタリアのブランドに関しては、フィアットとアルファ ロメオを分けてお話しましょう。「フィアット500」は、第二次世界大戦後まもなくイタリアの大衆車として一般市民が買える価格帯で発売したものです。まさに戦後の交通機関の変革に寄与したブランドといえます。日本での展開においてもこの哲学は忠実に引き継がれており、“一般大衆が買える入門としての輸入車”という認識をフィアットはされています。全国で手に入れやすく、購入しやすい価格で乗り心地がよく、そして保守がしやすいというのがフィアットというクルマです。

 アルファ ロメオは107年もの歴史を持っています。その独自のデザインや設計、レースカーとしてのポジションというのが日本でも広く認識され、多くの人々から関心が寄せられています。従って購入される方もレースカーを好んだり、クルマのデザイン性を重視します。

 FCAの強みは、日本で展開する際に元々あるブランドの価値を調整することなく、直接当てはめていけることだと思います。むしろ、各ブランドの真の特性というものを強調して訴求すると大変前向きな反応をしてくださいます。


FCAは日本カー・オブ・ザ・イヤーで、6年連続で10ベストを受賞している

――日本カー・オブ・ザ・イヤーでは、異なる4ブランドで6年連続の10ベスト受賞をされていますが、今シーズンと来シーズンで期待のクルマやお勧めのクルマはありますでしょうか?

ヘグストロム氏:2017年はアルファ ロメオ「ジュリア」で受賞させていただき、心から皆さまに感謝しています。このような歴史をこれからも続けて行きたいと思います。ジュリアは、アルファ ロメオにとって大きなステップとなるモデルです。プレミアムの領域に投資やコミットメントという意味でしっかり足を踏み入れるクルマだからです。ジュリアは、現在ドイツ車が寡占状態になっている大変厳しいセグメントに乗り出していきます。ただ、我々としてはジュリアの品質やデザイン、性能をしっかり消費者の皆さまに訴求できれば、長い間変わらなかったこのセグメントに変化を起こせると確信しております。

12月2日に発売を予定しているジープ・ブランドのコンパクトSUV「コンパス」

 2018年はSUV車を前面に打ち立てていきたいと思います。3車種の発表を予定しています。実は、ジープ「コンパス」は12月2日に発売されますが、本格的に販売を開始するのは2018年となる見込みです。

 2018年の中ごろにはアルファ ロメオで初のSUV車となる「ステルヴィオ」を発表する予定です。そして2018年の末までにはSUVで最も象徴的な新しいジープ「ラングラー」を発表できるのではないかと思います。ですので2018年は大変エキサイティングな年になると思います。FCAとしてもさらに売り上げの向上を狙いたいと思います。


アルファ ロメオで初のSUV車となる「ステルヴィオ」

――ジープ「コンパス」の展開についてもう少し詳しく教えてください。

ヘグストロム氏:少し過去を振り返りたいと思います。ジープは2015年9月にエントリーモデルのスモールSUV「レネゲード」を発売したときに大きく販売台数が伸びました。日本では300万円台のエントリーモデルの車種が極めて大きな市場を占めているので、レネゲードの投入は日本でのジープの販売を飛躍させた大きな出来事です。2代目のコンパスはレネゲードと並ぶエントリーモデルとしてこのセグメントを強化します。

2015年9月に発売したジープのスモールSUV「レネゲード」

 新型コンパスは完全な新モデルです。あらゆる部品を新しく設計し、安全性の機能も最新のものを導入しています。さらにジープでは初となる次世代の日本向けナビゲーションを搭載しているので、大変優れた仕様のクルマとなります。またスマートフォンによるナビゲーション規格である「Apple CarPlay」と「Android Auto」にも対応しています。

 ジープ・ブランドについては現実にオフロードで使える性能を極めて重視しています。コンパスは、ほかのブランドのSUVよりも、よりSUVというジャンルの使い方に忠実であることを重視して設計されています。これがジープならではの真髄といえるでしょう。SUVセグメントには4WDではない車種も多く存在していますが、コンパスは4WDと2WDの両方のモデルを用意しています。

――輸入車を購入するのは国産車に比べてハードルが高いと感じる日本人がいますが、試乗したり購入後の保証といったところで何か特色などはありますでしょうか?

ヘグストロム氏:FCAのクルマと消費者の方との出会いの場は主に正規販売店になりますが、この販売の場を利用しやすいように更新を積極的に進めています。各販売店は自分達の得意な領域やテリトリーがあります。その領域内でショッピングモールでイベントをしたりなど、さまざまなイベントを企画していただいています。確かに国産車の販売店よりは数は少ないですが、このような活動を広げることで消費者の目から見た視認性はこれから上がってくると思います。

 先ほど“ハードル”という言葉を仰いましたが、今日の段階でハードルになっているのは、もう輸入車であるという“気持ち”だけです。“輸入車は高い”というイメージがありますが、実はそんなことはありません。フィアットは200万円以下で購入できます。ジープに関しても最低価格帯は300万円以下です。そして、現状では残価設定ローンを組むときの残価がとても高くなってきてますので、所有期間でのコストもさほど懸念いただくレベルではなくなってきていると思います。

――ブランドの強さが残価のよさに影響しているのでしょうか?

ヘグストロム氏:残価のよさの理由は、1つめとしてブランドの価値です。2つめとしてビジネスモデルです。つまり強力に販売をプッシュし押しつけるようなことはしませんし、値引きをして無理に大量に売ろうというのもありません。健全な販売モデルを維持していることが、残価の上昇に繋がっていると思います。

――百貨店のイベントでフィアット500を見かけるなど、個人的にも最近ではよくフィアット車を見るようになりました。販売状況はいかがでしょうか?

ヘグストロム氏:FCAは8年連続で売上高と販売台数を更新しております。従って日本の皆さまの所有台数も増えてきており、路上でも見かけるようになりました。このように路上でも見かけるようになるというのは売り上げにとって大きな支援となっております。

――ヘグストロム社長はよくドライブをされるということで、よく行く場所や気に入っている風景を教えてください。

ヘグストロム氏:毎日クルマで通勤をしていますので、よく行く場所といえば「目黒通り」ですね(笑)。冗談はさて置き……私は販売店を訪問するときもクルマで行きますので、さまざまな風景を目にします。日本はこれだけ人口密度が高いのに綺麗な風景がとても多いです。特に四季の移り変わりを見るのは楽しいものです。ですので、特定のお気に入りの目的地や道路はありませんが、毎年さまざまな道路から見える季節を楽しんでいます。例えば、夏には下田で海沿いの風光明媚なカーブの多い道をオープンカーで楽しみました。スキーやスノーボードも好きなので、真っ白な風景のなかドライブするのも楽しいですね。何度もジープに乗って白馬や野沢温泉に行ったりしています。

――最後にCar Watchの読者に対してメッセージをお願いいたします。

ヘグストロム氏:読者の皆さまにはFCAの世界を体験していただくためにも、ぜひ販売店へ足をお運びいただけると幸いです。FCAは色鮮やかで楽しく、エキサイティングなさまざまなブランドを展開しております。今のテクノロジー中心の時代では“運転の楽しさ”というのを忘れがちになってしまいますが、FCAは運転の楽しさというのを維持したいと思います。実際に販売店で試乗していただければ皆さま笑顔になると思います。

提供:FCA ジャパン株式会社

編集部

Photo:中野英幸