東京モーターショー2015

“操舵角74°”を実現するZFの都市型EVモビリティ「アドバンスト・アーバン・ビークル」

車外からの遠隔操作で自動駐車。2つのモーターで後輪を独立駆動させて高い旋回性も確保

2015年10月30日~11月8日一般公開

独ZFのCEOであるシュテファン・ゾンマー博士によるプレスカンファレンスも行われた

 ドライブトレーンとシャシーテクノロジ-、さらにパッシブセーフティの分野で活躍するゼット・エフ・フリードリヒスハーフェンAG(以下ZF)は、自動車用パーツサプライヤーとして世界で第3位に位置する企業。そのZFが初めて東京モーターショーにブース出展を行った。出展に関しての経緯やZFの歴史については、10月20日に掲載した関連記事で紹介しているのでそちらで確認していただきたい。

100周年を迎えた「ZF」が東京モーターショーにEVコンセプトカー出展

http://car.watch.impress.co.jp/docs/topics/20151020_726105.html

 さて、このZFブースでは、10月29日のプレスデーに独ZFのCEOであるシュテファン・ゾンマー博士によるプレスカンファレンスが行われた。世界におけるZFの活動報告や日本での活動にはじまり、そのなかで6月に行われたTRWオートモーティブの統合はZFの新しい道を作るカギになったこと、TRW統合が日本国内における事業の拡大につながっていることなどが明らかにされた。

 実際にジャパン・テックセンターでは日本の取引先企業へのサポート対応のほか、クルマの電動化に関する新技術の開発が計画されていることも発表。そのために今後2年間で新たに70名のエンジニアを採用する計画があることも語られた。こういった強化をつうじて日本市場に合う製品を提供していくとのことだった。

 なお、ZFのジャパン・テックセンターの所長には、10月1日付けでハンス=ヨルグ・ドミアン博士が就任している。ドミアン博士はこれまでドイツのフリードリヒスハーフェンにあるZF本社で、ZFグループのR&D部門「Advanced Engineering and Design」を統括していた人物である。

今年6月にTRWオートモーティブの統合を行ったことで、ZFの力はより強力になった。それを示すマークがこの「THE POWER OF2」。2社の力を合わせることで、2倍ではなくさらに広がりのある二乗になることを表現している
ゾンマー博士によると、ZFは今後さらに日本市場に力を入れていくとのこと。ジャパン・テックセンターを設立し、エンジニアも増やしていく予定。日本でもZFの名前が広まっていくことだろう
ブースはそれほど広くないが、展示のメインはコンパクトな都市型モビリティのアドバンスト・アーバン・ビークルなので必要十分

 続いてはZFブースの紹介だが、展示のメインとなるのはZFが力を入れている未来都市を見据えた都市モビリティのコンセプトカーである「アドバンスト・アーバン・ビークル(AUV)」。このAUVは完全自社製作というコンセプトカーで、自動運転ではなくクラウドを利用した高度な運転支援機能を備えている。パーキングに関してはドライバーが降りた状態から、車両が自動でスペースを探して駐車する機能を持っている。エンジンは搭載せず、駆動力を電動モーターで発生させるEV(電気自動車)だ。このモーターは左右の後輪に1個ずつ別々に取り付けられていて、駆動輪ながらデフ機構なしでもスムーズに走行することが可能になっており、さらに旋回時などは積極的に回転差を出すことで旋回性を高めることができる。

 また、このモーターに関しても小型の製品が採用されているところがポイント。ZFのAUVのようなコンパクトカーはリアサスペンションにトーションビーム式を採用しているケースが多く、この形式のサスペンションは左右に繋がるアクセルビームのほかに、縦方向に入るトレーディングアームがあり、リアタイヤが上下にストロークするときはこのトレーディングアームのボディー側支点を軸にして動く。そのときに、支点と反対側のホイール取り付け位置で支えている重量がサスペンションの動きに大きく影響する。つまり、支点から遠い部分に重量物があると、ショックアブソーバーやスプリングの動きが悪くなる。これは乗り心地が悪化する原因にもなるので、AUVではモーターの小型化によって対策しているのだ。

 しかし、モーターは小型化すると高回転指向になるので、モーターシャフトの回転を直接タイヤに伝えるのは問題がある。そこで、モーターシャフトとハブの間に減速用ギヤを介入させることで、回転数を落とすのと同時にスムーズな走行になるよう特性を合わせてあった。

 また、こうすることでモーター取り付け位置をトレーディングアームのボディー側支点に近づけることができるので、アームの動きに影響が出にくくなるという利点もある。この駆動系デザインはパーツ構成が小型でシンプルになるので、スマートモビリティを製造する際にも強みとなるだろう。

AUVはEVなので走行モードはスイッチを使って選択する
ラゲッジスペースのフロア部分がシースルーになっていて、モーターやバッテリーの配置がよく分かる展示となっている
後輪駆動になっていて、左右輪それぞれに独立して軽量化された小型モーターが設置される。モーターの取り付け位置がホイールセンターからずれていることが分かるだろう
小型モーターは高回転指向なので、回転数を落とすために減速ギヤを介している。この構造だとトレーディングアームの支点に近い位置に重量物のモーターが来るので、アームのストローク運動に対して重さの影響が出にくいというメリットもある

 AUVは都市部で使われることを想定しているので、狭い場所での取りまわしについても工夫がある。それはフロントサスペンションの形状だ。写真で見ても分かるように、フロントタイヤがほぼ真横に近い74°という角度までステアリングが切れるようになっているが、この動きを実現するためにZFはオリジナルのサスペンション機構も開発している。

 この構造のポイントは、ステアリングラックから出るタイロッドとサスペンションアームの取り付け方法で、フルロックまで切った状態でもタイロッドがほかのアーム類と干渉しないよう、独自のリンクを1本追加している。また、このリンクを取り付けるためにステアリングラックの位置を通常のクルマより高い位置にセットするなど、非常に興味深い構造になっていた。

ステアリング切れ角の大きさも特徴。フルロックで74°という、ほぼ真横までタイヤが向く構造だ。これによって狭いスペースでの取りまわしが良好。これはAUVが持っている自動駐車システムでも、動きをシンプルにする面で非常に役立っている。ギヤボックスのギヤ比も大きな切れ角に合わせてあるようで、通常のクルマと同じような回転数でフルロックまで切れる
この切れ角のキモとなるタイロッド部。ナックルとタイロッドの間にリンクを設けることで、大きな動きのなかでもタイロッドがアーム類に干渉しないようになっている。タイロッドの位置(ステアリングラックの位置)も普通より上側にセットされている

 AUVのサスペンション構造やモーター取り付け位置などを立った状態でも見られるよう、展示されたAUVはボディーの一部がシースルーになっているので、興味がある人は現地でじっくり観察してほしい。ZFのブースは東ホール1のE1001だ。

AUVは車内に乗り込むことも可能。フロントウインドーにはデモ映像を投影している
ステアリングの上部に小型の有機ELディスプレイを内蔵。AUVは走行データをクラウドに蓄積することで高度運転支援機能の走行クオリティを上げる機能もあり、その際のクルマの動作状況などをここに表示してドライバーとの連携を取る
パーツサプライヤーであるZFのブースと聞くと、少し入りにくいイメージを持つ人もいるかもしれない。しかし、ブース内には無料のスマホ充電サービスを設置してベンチも用意しているので、広いモーターショーの会場で歩き疲れたときの休憩も兼ねて、気軽に訪れてほしいとのこと

深田昌之