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【GTC Japan 2016】NVIDIA 自動車事業 上級部長 ダニー・シャピーロ氏記者会見
シャピーロ氏「プラットフォームを一気通貫で提供できることが他社に対しての強み」
2016年10月11日 14:06
- 2016年10月5日 開催
NVIDIAの自動車事業はメータークラスターやIVI(車載情報システム)などグラフィックスを処理する半導体向けビジネスからスタートしたが、現在はADASや自動運転、自律運転を実現するAI(人工知能)を自動車に実装する半導体を自動車メーカーや“ティアワン”と呼ばれる部品メーカーに供給するビジネスへと進化している。自動/自律運転は2020年代に急速に普及するとみられており、NVIDIAのGPUコンピューティング技術であるCUDA(クーダ)を利用したソフトウェアとNVIDIAのGPU(Graphics Processing Unit)を組み合わせたAIは、自動/自律運転の切り札になると注目を集めている。
そうしたNVIDIAの自動車事業について、NVIDIA 自動車事業 上級部長のダニー・シャピーロ氏に話を伺った。シャピーロ氏は同社 副社長 兼 自動車事業 事業本部長 ロブ・チョンガー氏の下で自動車事業を担当している幹部の一人で、実際に自動車メーカーとのやりとりなどをする同社の自動車事業のキーパーソンだ。
AIによる自動運転を、自動車からクラウドまで一気通貫にソリューションを提供するNVIDIA
シャピーロ氏は「自動車は急速に進化している。このため、弊社も従来はIVIやグラフィックスなどに注力してきたが、現在はAIによる自動運転車の実現に注力している。弊社はOEMパートナーと共に、トランスポーテーションを変えていきたい。自動車はこれまでよりもより安全で、より効率が向上し、社会にとって有益なモノになると考えている」と述べ、自動運転の技術が自動車をより安全な乗り物に進化させ、物流などを含めて交通システムを進化させていきたいとした。
さらに、「米国では自動運転が日々ニュースになっている。日本でも同じような状況だと思うが、自動運転は水面下で開発されいるような技術ではなくて、みなの目につくところで開発が進んでいる。そこには自動車メーカーだけでなく、Googleのようなテクノロジー企業も参入しており、誰もソリューションを必要としている、弊社はそれを提供する企業になりたいと思っている」と述べ、NVIDIAの方針としては、自動車メーカーであろうが、IT企業であろうが、自動運転の技術を実現する企業に向けて半導体やソフトウェアを提供する企業としてやっていきたいとした。
その鍵となるのが、同社が提供しているGPUであるとシャピーロ氏は強調する。
「多くの企業がGPUのパワーを認めている。ボルボ、フォード、ダイムラー、アウディなどの自動車メーカーとも研究開発を共同で行なっているが、そうしたメーカーが評価しているのは弊社がオープンアーキテクチャでやっていることだ。GPUや基本的なソフトウェアや開発ツールなどは弊社から提供するが、各社の差別化要因となるアプリケーションは、各社がプログラミングして、使い勝手や品質などで競争することになる。なぜなら顧客が自動車を購入する時にはそこを重視するからだ。NVIDIAは自動車メーカーに対して、1つのアーキテクチャで自動車からクラウドまでカバーできるプラットフォームを一気通貫で提供できることが他社に対しての強みになる」(シャピーロ氏)と述べ、GPUでAIを実現する仕組みを自動車上だけでなく、クラウド、そして開発者の開発環境を含めて提供することができていることがNVIDIAの強みだと説明した。
AIで実現される自動運転は、自動車だけがAIになっても実現することができない。自動車そのものがAIになるだけでなく、同時にクラウドにあるサーバーにもAIが展開され、双方向で通信が行なわれてシステムとして動作する。そして、そのAIを実現するのが、ディープラーニングと呼ばれる新しいコンピューティングモデルで、そのディープラーニングで最も高い処理能力を現在のところ実現しているのがNVIDIAのGPU、そしてそれを汎用コンピューティングに使う仕組みであるCUDAなのだ。NVIDIAはCUDAを自動車向けの半導体であるTegraでも提供しており、クラウドサーバー向けのGPUであるTeslaでも、開発に利用するPCで利用されるGeForceやQuadroでも利用できるようにしている。そのように、自動車、開発用PC、サーバーのすべて同じCUDAによるAIのプラットフォームを提供できるのがNVIDIAの強みなのだ。
NVIDIAはソリューションを提供し、自動車メーカーがアプリケーションを作り独自性を出す
Q:ボッシュなどのティアワンの部品メーカーは、AIによる自動運転より前に、ASICとレーダーなどを組み合わせた自動運転にも取り組んでいる。それらに比べてAIのアドバンテージは?
シャピーロ氏:ティアワンの部品メーカーは弊社にとっての競合ではなくパートナーだ。重要な事は、今日の基調講演で弊社のCEOが言っていたように、GPUは頭脳になるということだ。このため、固定機能のASICなどに比べて電力比性能や、性能そのものの観点で有利だ。半導体に固定の機能を持たせることは、非常に複雑にならざるをえないが、自動運転の技術は非常に早いペースで進化しており、常に機能をアップグレードしていく必要がある。そうした時にディープラーニングを活用したAIを利用することで、機能を簡単に進化させていくことができる。自動運転の進むべき正しい路はAIだと弊社では考えている。
Q:ASICと比較した場合のコストはどうなのか?
シャピーロ氏:弊社では価格モデルについては公表していない。しかし、いくつかのヒントはお話したいと思う。現在の自動車はたくさんのECUが搭載されている。しかし、それを少ないGPUで実現していけば、多数のECUを搭載する場合に比べて部材のコストを下げることができるし、かつ開発コストも下げることができる。そのように考えれば、GPUによるAIの自動運転は決してコストが高いということはないと思う。
Q:例えばMobileyeのような画像認識のベンダーは御社にとっての競合なのか?
シャピーロ氏:競合しているとも言えるし、そうでないとも言える。イメージ認識の性能という意味では、ディープラーニングを利用したAIがコンピュータビジョン(CV)よりも圧倒的に強力だ。ただ、現在この市場はまだ立ち上がったばかりで、弊社以外に誰もAIのスーパーコンピュータを作れていない。このため、他の半導体メーカーなどはそうした技術をもった他の企業を買収することに一生懸命になっている。
Mobileyeの例で言えば、アウディのzFASはMobileyeのCVとNVIDIAのGPUを組み合わせている。従って、競合ではあるが、そのように一緒に自動車の中に入っているという例もある。ただ、アウディの例で言えば、アウディが2年間開発してきたCVの画像認識を、弊社のAIを利用して4時間学習したところ4時間で簡単に実現した。このように、AIはこれまでの常識を大きく変える可能性を秘めている。
Q:自動車に搭載する場合は、機能安全を実現するために、フェールセーフ、故障診断などを実現する必要があると思うが?
シャピーロ氏:本日の弊社CEOの基調講演で説明された次世代SoCとなるXavierではASIL CレベルないしはISO26262に対応した機能安全を実現している。自動車メーカーでは、例えばボルボがブレーキとステアリングで冗長性を実現しているが、おそらく自動/自律運転を実現する際にはSoCや基板を2つ搭載するなどの仕組みになっていくと思う。
Q:今後自動車はどのようなものを検知していくことになると思うか?
シャピーロ氏:弊社では自動車を作っていないので、今後自動車メーカーがどのような選択をするかを答える立場にはない。弊社がやりたいのは自動車のシステムを作り、それを提供していくということだ。例えば、基調講演で紹介した、BB8は3000マイルを運転しただけであそこまでのことができるようになった。AIで大事なことはどれだけの距離を走らせたかではなく、どんな内容の距離を走らせたかにある。
現在はシミュレーション技術も進んでおり、潜在的に危険なシチュエーションを人間が運転するよりも遙かに安全に運転できる。そうした技術が進んだ飛行機では、今でも事故はないわけではないが昔に比べればはるかに少なくなっている。
Q:トロリー(トロッコ)問題(ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるのか?という論題)についてはどのように思うか?
シャピーロ氏:非常に難しい問題だが、自動車メーカーにとって重要な事はいかようにもプログラミングできるということを指摘しておきたい。自動車メーカーができるだけ優れたプログラムを作ることで、人が生きるの死ぬのという事故を避けることができる。自動車メーカーはプログラムをできるだけ保守的に作ることで事故を防げるし、AIのドライバーはスピード違反もしないし、お酒も飲まないし、怒りにまかせて運転したりもしない。例えば、がんに効く薬ができたとして、9割には効くが、1割には効かないという薬ができたら、社会は当然導入を検討すると思う。自動運転もそれと同じ議論ではないだろうか。
Q:米国で発生したテスラ・モータースの自動運転車の事故についてはどのように思われるか?
シャピーロ氏:大変悲劇的なことだ。現在の自動運転車は成長性のあるものではなく、ADASがそこをカバーしきることができなかった。もっと処理能力が高いコンピューターで、センサーがもっとあれば防げたかもしれない。ただし、そのテスラの事故が起きた同じ日に全米で95人の方が自動車事故で亡くなられている。自動運転による事故ということで大きく取り上げられているが、交通事故全体から考えれば小さな割合でしかない。この事故から教訓を引き出すとすれば、メーカーはよく消費者とコミュニケーションを取らなければならない、そういうことではないか。
Q:Xavierについて詳細を教えてほしい。
シャピーロ氏:現時点では詳細は説明していないが、DRIVE PX2の最上位モデルとなる2つのParkerと、2つのPascalで実現している性能が、1つのXavierで実現することが可能になり、かつ消費電力は1/4になる。もちろんそれに合わせて価格も安くすることが可能になるだろう。
Q:NVIDIAのプラットフォームを採用したら、どの自動車も同じような製品になってしまうのではないか?
シャピーロ氏:決してそうではない。自動車メーカーは既に自動車そのものではなく、自動車という体験を販売している。ブランドは安全性、スムーズなドライバビリティ、使いやすいデジタル機器など複数の体験を代弁している。自動車メーカーはそうしたところを決して他の会社にアウトソースすることはない。我々が提供しているのはあくまでプラットフォームであり、GPU、ソフトウェア、ライブラリなどであり、それらを利用して自動車メーカーが自分自身でアプリケーションを作成して独自のユーザー体験をユーザーに提供していく、それはこれまでと何も変わらないと我々は考えている。