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NVIDIA、5W版の新型SoC「Orin」でADAS市場を本格的に志向。「2000TOPSでも、4000TOPSでも可能」とダニー・シャピロ氏

2020年5月14日(現地時間) 発表

NVIDIAがADAS市場に投入する新型SoC「Orin」。5Wで10TOPSの性能を持つように設計されている

 自社の半導体をベースにAI(人工知能)プラットフォームや自動運転プラットフォームを提供するNVIDIAは5月14日(現地時間)、車載可能な新型SoC(System On a Chip)「Orin(オーリン)」を発表した。このOrinに関するオンラインミーティングが、NVIDIA ジェンスン・フアン(Jensen Huang) CEOの基調講演後に行なわれた。Orinに関しては、同社 オートモーティブディレクター ダニー・シャピロ(Danny Shapiro)氏が詳細説明を担当した。

 Orinは、トヨタ自動車が自動運転車で採用を発表している同社製のSoC「Xavier(エグゼビア)」の進化モデルになる。2018年のGTC(GPU Technology Conference)で登場が予告されており、2019年のGTC Chainaでファミリー計画が発表されていた。

新型SoC「Orin」のファミリー計画。ADAS向けの10Wから、レベル2+の45W、ロボタクシー向けの800Wのラインアップ
2000TOPS/800W仕様。2 Orin、2 Ampere GPUs。従来のXavierベースのものに比べ6倍の性能を持つ

 Orinの基本性能に関しては、Xavierの約7倍の性能を持つという。170億個のトランジスタを集積し、12の64bit Arm Hercules CPUを搭載。AI部分のCUDAユニット数は発表されていないが、INT8(8bit整数)で200TOPS(Trillion Operations Per Second)のAI処理性能を持つとしている。

2019年のGTC Chinaで発表されたOrin単体の性能
GTC Chinaでのファミリー計画。この時点ではADAS向けの5W版Orinは用意されていなかった

 従来のXavierもそうだが、NVIDIA半導体の特徴は車載SoCからスーパーコンピュータまで単一アーキテクチャが採用されていることにある。XavierはVoltaアーキテクチャで設計されており、AIトレーニング(学習)向けのV100もVoltaアーキテクチャを採用していた。

 Orinはその次世代アーキテクチャであるAmpereアーキテクチャを採用。Ampereアーキテクチャに関してもAI学習、AIインファレンス(推論)に向けたA100 GPUを用意しており、このA100 GPUを8基搭載するAIスーパーコンピュータ「DGX A100」を発表。このDGX A100は、5PFLOPS(Peta FLoating point Operations Per Second)のAI性能を持つ。

 AIスーパーコンピュータで学習した結果を、車載レベルまですぐに反映できるという構造になっており、それを同社製のDRIVEソフトウエアでサポートしていくという、単にハードウェアを売るだけではない重層的な厚みがNVIDIAの強みになっている。

ADASまで視野に入れた5W版の新型SoC「Orin」

NVIDIA オートモーティブディレクター ダニー・シャピロ(Danny Shapiro)氏(写真はGTC Japan 2016来日時)

 NVIDIAは上から下までという強みで、これまで車載事業に取り組んできた。とくに無人のレベル5自動運転車などでは、計算する項目が多くNVIDIAの高度な計算性能が評価され、多くの自動運転実験車で採用。冒頭で述べたように、トヨタもレクサスブランドで発売する予定の自動運転車にXavierの搭載を予定している。

 一方で、その高性能さ故に消費電力が大きく、その点が弱点とされてきた。Xavierのコンピュータモジュールでも、上からレベル5自動運転向けに320TOPS/460W、レベル3自動運転向けに160TOPS/230W、レベル2自動運転向けに30TOPS/30Wをラインアップしている。ただ、逆に言えば、下限がXavierシングルチップ構成の30W。高性能なのは分かるが、すでに多くのクルマに搭載がされているADAS(Advanced Driver Assistance System、先進運転支援システム)では、そこまでの能力は要求されないものも多い。ADASクラスのレベル2では人間が運転を行なうので、カメラやセンサーで認識し、警告を行なってくれればよいためだ。

 そして、このADAS市場が一番ボリュームのある市場になる。数年前に2020年は自動運転車の元年になると言われていたが、現状そのような気配はあまりない。いくつか登場するかもしれないが、市場ボリューム的にはほんの一部となるだろう。一方、スバルの「EyeSight(アイサイト)」、トヨタの「TSS(Toyota Safety Sense)」、本田技研工業の「Honda SENSING」など、ADASはクルマの標準装備となっている。とくに日本では軽自動車からADASが広く普及し始めた関係もあって、ADASは装着されていて当たり前の機能になってきている。

 このADAS市場向けに新型SoC「Orin」では、5Wの低消費電力版を用意。10TOPS/5WのADAS向け、200TOPS/45Wのレベル2+自動運転向け、2000TOPS/800Wレベル5自動運転などのロボタクシー向けをラインアップしてきた。2000TOPS/800Wでは、Orin2つと別体GPU 2つの構成となり、ダニー・シャピロ氏によればこのモジュールを複数枚搭載することで「2000TOPSでも4000TOPSでも」ということだ。開発するためには能力は高い方がよく、大学などの開発車ではパソコンそのものを複数台搭載することも多い。上は思い切り引き上げてきたということだろう。

 気になる出荷時期についてダニー・シャピロ氏は、サンプル版を2021年、通常版を2022年、5Wの低消費電力版を2023年と語る。となると市販車に組み込まれるのはさらに先となるので、今はOrinの登場を見据えてNVIDIAのソフトウェア開発環境で開発ということになる。

 このADAS分野は出荷数が見込めるため、各社がさまざまな半導体を提供している。今まで性能はよいが消費電力もそれなりに大きなNVIDIAが不得意としていた分野だが、このOrinでその市場に本格参入していくことになる。