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日産「名車再生クラブ」が「チェリー FII クーペ GX-T TSレース仕様車」再生完了を宣言
12月11日の「NISMO FESTIVAL 2016」でサーキット走行を一般公開
2016年12月5日 19:23
- 2016年12月3日 開催
日産自動車の歴史的車両を復元する「名車再生クラブ」は12月3日、神奈川県厚木市の日産テクニカルセンターで「チェリー FII クーペ GX-T TSレース仕様車」の再生完了宣言式を開催した。
2016年の再生車両は6月22日に行なわれたキックオフイベントで発表され、その後、車両の分解、ならびに各部品の分解修繕などを行ない、11月22日には富士スピードウェイで走行テストと最終調整を実施。今週末の12月11日に富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)で開催される「NISMO FESTIVAL 2016」で一般来場者の前でサーキットコース走行が披露される。
宣言式で名車再生クラブ 代表 木賀新一氏は「述べ5カ月、キックオフが遅れて6月25日から時間がかかりましたが、このようにきれいに仕上がって、来週のニスモフェスティバルでの実演走行を前に、11月22日には富士スピードウェイで走行テストを実施しました。非常に元気に走って、ストレートの音を聞いたときには私個人も拍手していました」と語り、再生の仕上げとしてボンネットフード先端のエンブレム取り付けを行なった。
日産の名車再生クラブは、2006年4月に日産テクニカルセンター内の開発部門従業員を中心にサークル(現在はクラブ化)として活動を開始。クラブの目的は、1つめには日産の財産である歴史的な車両を当時の状態で動態保存するということ。2つめは、古いクルマを再生する過程で先達のクルマ造りや技術的な工夫、考え方などを学ぼうという姿勢から活動している。活動時間は基本的に勤務時間外で、土曜日や日曜日を使って実施され、組織は毎年平均で100人、コアメンバーは12人。近年は関連会社からも参加が増えているという。
これまでの再生車両は、一番最初が2006年に再生した「240RS(1983年モンテカルロラリー仕様車)」。これがきっかけでサークルとしての活動が始まり、基本的に市販車ベースのレーシングカーやラリーカーを中心に、ほかにもEV(電気自動車)「リーフ」の発売に合わせて電気自動車を再生してみたり、2014年には「こどもの国」の要請に基づいて「ダットサンべビイ」という特殊な車両の再生も手がけている。
2015年には本格的なレーシングカーを手がけたいというメンバーからの希望もあり、「NISMO GT-R LM ルマン仕様(1995年ル・マン24時間耐久レース 総合10位/クラス5位入賞車)」を再生。同年のニスモフェスティバルでは、当時にル・マン参戦ドライバーを務めた近藤真彦監督がステアリングを握ってドライブ。10年に渡るクラブの歴史で大きな存在のクルマとなった。
今年は、サニーの誕生50周年、同時にA型エンジンも誕生50周年を迎えている。A型エンジンは非常に名機であると評判だが、これまでクラブでは取り上げたことがなかった。このため、生誕50周年ということから選択された。A型エンジンはOHVながら高回転を実現し、レースでも活躍。また、発足から10年のクラブ活動のなかで、まだFF車が取り上げられたことがなかったことなどから「1975年 チェリー FII クーペ GX-T」が選ばれた。
キックオフの6月22日以降、情報収集から活動が始まり、当時の改修資料や図面、実際のエキシビションレースの写真などを各方面に協力してもらって入手、再生の参考としたとのこと。
エンジンとトランスミッションに関しては、エンジンを車体から降ろして分解、確認したところ、完全にノーマル状態の1.2リッターエンジンが搭載されていた。これを当時の資料を使い、レース仕様に近づける形でレストアして組み上げられている。この再生車両は実際にはレースに出たことはなかった個体だが、エンジン以外の造りはレース仕様そのもので、各所に本気のモデファイが施されていたそうだ。実際のモデファイ内容としてはフロントサスペンションのスタビライザーが2本設定され、ドア内部に穴を開けて軽量化されているなど見えないところまで多彩な改造が施されており、発見も数多くあったという。
スペアタイヤのスペースに収まる丸い形状の燃料タンクは着いていたものが当時のもので使用できず、ATL製の新しいタンクに交換。それに伴い、取り付けの穴や周辺の鉄板を1度切って新しく蓋が作り直されている。エンジンルーム内のエアインテーク部分は、アルミ素材が腐食して割れていたため、当時のものをコピーして新造された。ホイールは部品ごとに分解して確認し、組み直されたのだが、このときに前後でアルミ製とマグネシウム製が混在していることが分かったという。ボディの再塗装は白をベースとして2回塗り、マスキング過程を考慮して青、黄色と塗り重ね、一番速い方法で塗られている。
点火系は現代の部品に交換されたが、メーター類は当時のオリジナル部品を再生して使用。エンブレムは残っていたオリジナルの部品は透明樹脂を塗装して装着。ブレーキに関しては、フロントブレーキのキャリパーをはじめ、配管、マスターシリンダーは新品に変更。リアのドラムブレーキについてはシリンダーをオーバーホールして再装着された。ステアリングホイールは表皮がかなり痛んでいたので、バックスキンにアップグレードして巻き直された。
以上のような再生過程を経て、11月22日には富士スピードウェイで走行テストを実施。現場でキャブ調整などを行ない、快調に走ることが可能となった。
今回の再生に関して協力した企業は、大場板金(部品要求全般)、亀有エンジンワークス(エンジン部品)、カルソニックカンセイ(ラジエーター)、竹口自動車(エンブレム)、東名パワード(エンジン技術サポート)、ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(ブレーキキャリパ、再生作業サポート)、バラクーダ(ドライブシャフトブーツ)、宮内産業(ステアリングホイール)、ロックペイント(車体塗料 PITWORKペイント)といった各社(並びはあいうえお順)で、再生のために必要なパーツや塗料などの提供、製作工程や技術のサポートなど多くの支援が行なわれたとのこと。
日産が所有する「チェリー FII クーペ GX-T」は、座間の記念庫まで含めてもこれ1台のみ。ほかには生産車が残っていないそうで、貴重な1台が再生されたことは関係者にとって嬉しい発表となっている。