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【Honda Meeting 2017】「二輪車用エアバッグコンセプト」など2輪車での安全に対する取り組みを紹介

西村直人のホンダ最先端技術レポート 2輪車編

2017年に世界累計生産台数が1億台を突破する見込みの「スーパーカブ」(写真は会場に展示してあったEVカブのプロトタイプ)

 蕎麦屋の出前に郵便配達や新聞配達とくれば、ホンダ「スーパーカブ」と続くのが日本の2輪文化だ。1958年に初代スーパーカブである「スーパーカブC100」が発売されてから59年が経過した今年、世界累計生産台数は1億台を超えるとホンダの公式サイトでは発表されている。

 15年ほど前までは、たとえばベトナムではバイクのことをすべて「カブ」と呼んでいたという逸話が残っているように、世界中の人々の移動を支えてきたスーパーカブ。ホンダは自社を紹介するコメントの書き出しに「二・四・汎」という言葉をよく使う。これは2輪(バイク)・4輪(クルマ)・汎用製品(発電機など)を示したものだが、最初に「二輪」がくることは創業者である本田宗一郎氏の熱い想いがそのまま後生に伝えられているという何よりの証だろう。

「Honda Meeting 2017」では、ホンダの2輪に対する取り組みのうち「安全に対する考え方」が示された。ホンダでは共存安全思想のもと、クルマやバイクに乗っている人だけでなく、道を使う誰もが安全でいられる「事故に遭わない社会」の実現を目指しているという。言い換えれば、これは人、クルマ、自転車を含む2輪車が共存する「混合交通社会」における安全を第一に考えていることを示す。ホンダではそうした混合交通社会の実現に向けて、「ヒト(安全運転教育)」「テクノロジー(安全技術)」「コミュニケーション(安全情報の提供)」という3つの領域における活動を相互に連携させながら展開し、世界各地の交通環境や、地域の実情に応じて最大限の効果になるよう活動を継続中だ。

 しかしながら、一足飛びに最先端の安全技術を展開していくのではなく、「教育や認知としての事故防止」として①教育/モラル(00次安全)→②未然防止(0次安全)を掲げ、「技術による傷害軽減」として③危険回避(1次安全)→傷害軽減(2次安全)の4段階を経ることで、より安全な2輪社会の実現を目指しているという。以下、その代表的な取り組みを説明する。

会場ではアドベンチャーモデル「Africa Twin(アフリカツイン)」やスーパースポーツモデル「CBR1000RR SP」の展示も行なわれた
ホンダの安全の考え方

 ①教育/モラル(00次安全)では、「ライディングトレーナー」を活用した取り組みが紹介された。これはライダーの危険予知や危険予測などの予知能力を向上させることが狙いで、これには2輪車の安全運転教育機器の普及も含まれる。また、こうした安全運転教育機器の普及によって運転診断機能を拡充させるなど副次的な効果も得られるという。ライディングトレーナーは2005年11月より欧州で先行発売され、日本では2006年2月からホンダの2輪車正規取扱店や法人向けに販売がスタートした。

 ハンドル操作部/ギヤチェンジやブレーキ操作を行なうペダル操作部/シート/映像用モニター設置ボード/フレーム、そしてパソコンにインストールする専用ソフトウェアがセットとなっているので、利用者はパソコンとモニターを用意するだけでよい。付属の専用ソフトウェアでは、日本語、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、オランダ語、トルコ語の9カ国語に対応する音声や文字表示能力を有しており、画面上に表示される2輪車も実在する15車種の外観を採用。また、その15車種のメーター表示やエンジン音、エンジン出力特性なども忠実に再現している。

 トレーニング内容も豊富で、ギヤチェンジや練習走行を体感する「初心者操作練習」や、市街地走行やツーリングを想定した「危険予測走行」など、全22コースが設定されているほか、一般道路や高速道路、ワインディング路、さらには夜間走行や濃霧などの悪天候での体験走行も可能。また、昨今普及率が高まっている2輪車向けのADASトレーニングとして、ブレーキレバーを握ると後輪にも制動力が部分的に加わる前・後輪連動ブレーキである「コンビブレーキ」や、コンビブレーキにABSを組み合わせた「コンバインドABS」の体験機能も加わっている。現在、世界53カ国で約5000台が活用されており、今後もさらなる普及を目指すという。

「二輪用エマージェンシーストップシグナル(ESS)」について

 ②未然防止(0次安全)では、「二輪用エマージェンシーストップシグナル(ESS)」が紹介された。これは急ブレーキをいち早く後続車両に伝えることで、ライダーや後続車に対して安心・安全を提供することが狙いだ。50km/h以上で走行中に急ブレーキ(減速度が6m/s2を上まわるか、ABSの作動を検知した場合)が掛けられたとシステムが判断すると、通常のブレーキランプの点灯に加えて、ハザードランプ(前後左右4カ所のウインカー)が自動で高速点滅(4Hz/1秒間に4回)して後続車などに注意を促す。すでに4輪車では普及している先進安全技術だが、2017年に技術指針が改正されたことを受けて2輪車でも導入することが可能になった。2輪車のウインカーは4輪車のそれに比べると発光面積が小さいことから目立ちにくいといった見方もあるようだが、最近では2輪車にもLEDウインカーが採用されてきていて、光量が増えているため被視認性は向上してきている。また、LEDは高速での点滅性能にも優れているため、今年度中にも具現化するであろう2輪車へのESS採用拡大は歓迎したい。

小型スクーターに搭載可能な「二輪車用エアバッグコンセプト」
「二輪車用エアバッグコンセプト」について

 ④傷害軽減(2次安全)では「二輪車用エアバッグコンセプト」が紹介された。ホンダのフラグシップ大型バイク「ゴールドウイング」では、2007年6月からエアバッグ搭載車が販売されているが、今回紹介された二輪車エアバッグコンセプトは小型スクーターに搭載できるエアバッグとして開発が進められている。交通事故総合分析センター(ITARDA)による国内事故データでは、2輪車事故の特徴として「出会い頭の事故が全体の37%」であり、「損傷主部位の42%が頭部」で占められていることが示された。

 これを受けホンダでは、衝突相手が支持するエアバッグという新しいコンセプトを開発に採り入れている。これは衝突相手となる車両のボディを展開したエアバッグの支えとして活用することで、ライダー頭部の保護を成立させるというもの。効果のほどは非常に大きく、4輪車の側面に50km/hで走行する2輪車が直角に交わる事故を想定した「負傷低減性能確認試験」では、これまでライダーが瀕死となってしまう負傷レベルPAIS 5に相当するものであったものが、この2輪車用エアバッグコンセプトが展開することで負傷レベルはPAIS 0とほぼ負傷なしとの状態になることが分かったという。ホンダでは2020年までに商品化を目指すとともに、さらなる小型軽量化を進めることで後付けにも対応していきたいという。