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ホンダの2030年に向けた取り組みが語られた「Honda Meeting 2019」レポート【Honda eMaaS編】
「OK HONDA」がトリガーの「ホンダ・パーソナル・アシスタント」、OTAによるシステムアップデートも検討
2019年7月5日 07:00
本田技研工業の将来の技術開発について発表する「Honda Meeting 2019」が、埼玉県和光市の本田技術研究所で開催された。
同社は「すべての人に“生活の可能性が拡がる喜び”を提供する」ことを2030年ビジョンとして掲げ、各領域で取り組みを行なっている。今回のHonda Meeting 2019では「カーボンフリー社会」「交通事故ゼロ社会」「Honda eMaaS」について、人々の生活の可能性が広がる社会について各分野からの解説が行なわれた。
本稿では「Honda eMaaS」について紹介する。
モビリティ、エネルギー、コネクテッドサービスについて
これまでホンダは商品は開発するものの、サービスを開発することがなかったが、新たにデジタルソリューションセンターの専門部署を設立して活動することになった。これにより製品にサービスを加えて提供することになる。
提供するものは楽しい移動、豊かな生活の喜び、そしてカーボンフリーの社会をリードするという3つだ。移動するだけでなく目的地の情報、移動中の楽しみ、生活を豊かにすることすべてを包括する。
ホンダではEnergy as a Service(EaaS)とMobirity as a Service(MaaS)を合わせたHonda eMaaSを提案しているが、内容は移動の効率化、ドライバー不足や移動弱者に対する対応、低炭素、低価格での電力の安定化に寄与することにある。
ホンダの電動化車両はFCV(燃料電池車)やPHEV(プラグインハイブリッド)、欧州でもうすぐ発売されるBEV(バッテリー式電気自動車)から電動2輪車までを揃える一方で、発電機材、持ち運び可能なバッテリーパックなどを組み合わせて再生可能エネルギーを効率よく、しかも安定して供給するシステムを構築する。具体的には自然エネルギーによる発電、消費の不安定さを平準化することだ。
電気供給の点で、BEVの位置情報などはメーカーが把握できるものの、需要と供給のバランスは地域性など専門性が高く、英国のMoixaと共同研究することで将来の実用化に備える。また、ドイツのubitricityのスマートケーブルを使うことでどこで誰が電気を使ったのかが紐付きになり、充電が比較的自由に行なえる。電動製品を一括管理するのは世界に先駆けた技術だ。実証実験は、ドイツでは路上での低価格充電などが8月から、英国ではBEVを使ったエネルギー循環実験などが秋から開始される。
一方、モバイルパワーパックは可搬型を開発し、それに充電できるステーションユニット、そのバッテリーを使うモビリティを開発することで地産地消の電気社会を作ることができる。ここでいうモビリティは、2輪では超小型モビリティなどシティコミュターを想定している。可搬型のバッテリーパックは使用する機材に応じて個数を増やすことで出力を上げられることが特徴だ。現在の標準型のバッテリーパックは約10kgあるので遠距離を手で持ち運ぶのは簡単ではないが、容量が半分のパックも開発中だ。これらは風力発電を用いた自然エネルギーの実証実験がフィリピンで行なわれているという。
ホンダは短距離から長距離まで多様な製品を提供しているが、中長距離の移動手段としてクルマを考えているユーザーに関してはストレスフリーの安心を提供することが重要であり、シュアリングを含めたサービスが考えられる。“ラスト1マイル”に象徴されるような短距離移動でも、すべての人が欲しくなるようなデバイスの開発を目指している。高齢者だけでなく、開発中の商品群の中から3輪EVのパーソナルモビリティ「ESMO」のような乗り物は高い評価を受けている。
無人ライドシェアサービスでは、GM(ゼネラルモーターズ)やクルーズとの協業の中で北米での上市を目指して車両開発を進めており、ホンダのオープンマインドをここにも見ることができる。
コネクテッドの技術では、ドライバーの心理や希望を把握し、最適なルートを選んだり不安材料を取り除いたりと、クルマ版のスマートスピーカーといった役割を果たす。人に寄り添い、ともに成長し、いろいろな人とつながる世界を構築する。
寄り添うためにはユーザーのパーソナライズが必要になるが、そのために「ホンダ・パーソナル・アシスタント」を開発中だ。ここではユーザーの言葉を理解し、周囲の情況を把握することがポイントになる。自然言語理解エンジンについては米国のSoundHoundのほか、中国のiFLYTEK(科大訊飛)が協力しており、レスポンスと言語理解能力の高さが2社の特徴だ。ホンダからはシナリオなどを提供して、自然な会話ができるようにブラッシュアップしている。また、画像認識エンジンはSenseTimeと共に個人認証、個人の状態認識を開発する。これらのデータはホンダのビッグデータ解析により個人のプロファイリングを行なって会話にフィードバックする。
実際にデモンストレーションを見ることができたが、「OK HONDA」のキーワードで立ち上がり、レスポンスよく答えてくれる。さらに質問から類推してさまざまな関連した質問にも答えてくれ、日常会話のように成立するのには目を見張った。すぐにでも実用化されそうで、車内から「OK HONDA」という声が聞こえる日も近いだろう。
VR(Virtual Reality)を使ったシミュレータ体験では未来のモビリティの世界観を感じることができたが、未来にドライバーは必要なさそうだ。
さて、現在のクルマは走行距離、経年劣化などで価値が下がっていくが、ソフトウェアのアップデートが通信機能を使って可能になると、商品の鮮度がクルマを使っているうちに上がる。このようなシステムはOTA(Over The Air)と呼ばれるが、2017年から情報系のシステムに取り入れており、2020年から安全を含めた車両制御にも導入するべく開発が進められている。
進化の速いスマートフォン連携も開発中で、実はApple CarPlayやAndroid Autoなどのは世界に先駆けて採用していた。拡張機能として「Honda Dream Drive」を開発中で、この機能を用いることで車内からのレストラン予約など多岐に渡るデジタル決済サービスを、VISAカードなどを使って行なうことができる。パートナー企業との提携も進めている最中だ。
次世代通信技術はソフトバンクと4G/5Gの通信に向けて合同実験を本格化している。基本的な実証実験は終わっており、車両側のアンテナユニットの整備について最終段階に入っているとのことだ。
最後に
ホンダはモビリティだけでなくエネルギーやロボティクスといった分野にも製品を持ち、さらにこれらを進化させること、融合させることでホンダらしい環境づくりを目指していく。
ラストワンマイルの乗り物はホンダの作業機などと共通する部分が多く、統合プラットフォームを開発して知能化することが視野に入っている。ロボットでは人と共存するロボット、日常の生活を高めるロボット、そして最終的には人に寄り添い、その夢の実現を助けるロボットが目標で、このロードマップは近い将来提示されるが、ASIMOの夢を再び見ることができるのだろうか。
すでにP.A.T.H.Bot(パスボット)は社会実証の第1弾となり、平坦なところなら移動できるので、空港や駅などで案内ロボットとしての活用が考えられる。
最後に航空エンジンについて触れておこう。HondaJetに搭載されているGE HONDA HF120ターボファンエンジンは拡販を進めると同時に、将来に向けたエンジンの開発も進める。すでにガスタービンエンジンの技術はF1を含めたターボに活用されている。
これらの技術の進化をスピードアップするために、ホンダは4月から組織を改編した。先進領域ではリサーチ機能の集約と技術開発を業務とした先進技術研究所を設立し、今後の技術で中心となり、スピードが求められるIT技術についてはデジタルソリューションセンターを設立。パワープロダクツ製品については、従来のR&DセンターXとパワープロダクツR&Dセンターから新設のライフクリエーションセンターに集約した。
以上、伝えきれないことが多いが密度の濃いHonda Meetingだった。
【お詫びと訂正】記事初出時、英国のSoundHoundとなっておりましたが、正しくは米国のSoundHoundになります。お詫びして訂正させていただきます。