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ホンダの量産EV「Honda e」の価格、バッテリ容量、価値について、開発者 人見康平氏と安藝未来氏に聞く
「ネクストジェネレーションのクルマ」と人見氏
2019年9月17日 00:00
フランクフルトモーターショーで量産車タイプが発表になった本田技研工業のEV(電気自動車)「Honda e」。特徴的なデザイン、そしてホンダとして新しい価値を提案するEVとして大きな話題となっていた。
基本的な仕様は、後輪駆動のEV専用プラットフォームを採用。パワートレーンには、100kW(136PS)または113kW(154PS)の2つの出力、315Nmのトルクを発生する電動モーターを採用。バッテリーは35.5kWhの容量で1回の充電で最大136マイル(約219km)走行可能としている。0-100km/h加速は約8秒。
価格についても欧州での価格が発表になっており、ベーシックグレードは2万9470ユーロ(約355万円)。日本での発売予定は来年で、販売価格は未定。税率変更や為替変動もあるだろうが、おおよそ近い価格帯での販売となるだろう。
この「Honda e」を開発した本田技術研究所 四輪R&Dセンター 四輪R&Dセンター LPL 主任研究員 人見康平氏、同 オートモービルセンター 第10技術開発室 技術企画ブロック 研究員 安藝未来氏に共同インタビューする機会を得た。本記事ではその模様をお届けする。
「ネクストジェネレーションのクルマ。CASEの階段を上がったときに、スモールカーはどうなるんだろう」(人見氏)
──フランクフルトショーで、「Honda e」の量産モデルが初めて発表になりました。量産モデルの発表を行なった今の気持ちを教えてください。
人見氏:ジュネーブショーから、もっと言うとずっとクルマを出しても特別に出したという気持ちではないのですが。(クルマは)ご存知のようにどこが変わったんだと思うように変わっていません。でもまあどうですかね、1人になって寝れなくて、よく考えたりするんですけど、よくできたなと。
最初、思い切ったことをしようと、今までにないものを作ろうといって、何かできるわけないよとみんなに言われたのを思い出して、それが本当に作り上げられたなと。
だけど、こういうショーで出すとやはり他社がいるわけで。そういうのを見るとまだまだやらなければならないことがあるわけで。半々になっちゃいますね。
──安藝さんはコネクテッドの部分を担当とのことですが、コネクテッドの部分については、ヨーロッパでのサービスが発表になりました。それについて、どうですか?
安藝氏:今回、僕がびっくりしたのは、おととい人見さんと一緒にいたときに、さんざん僕たち現場寄りはチャレンジングなことが多かったので、「厳しい厳しい」ってことがあったんですけど、「いいからやれよ」って言ってくれて。「満を持してホンダが出すEVだ。いいからやれやれ」って言っていたんですけど。おとといぐらいに「やり過ぎだ」って言われて(笑)。
「なんでですか?」って聞いたら、本人的には高めの目標を設定したつもりで、開発しているうちに犠牲になるところもあるのではないかと。ただ、僕たち的にはそれが目標だから、また、本当にこのクルマ、Honda eを作らなければならないと思ったので、がんばった結果、ほぼほぼ当初の想定どおりのクルマになりました(笑)。
人見氏:使い方が分からなかった(笑)。え、こんな機能あったっけ? みたいな。
安藝氏:だからそういうくらい、多分こんなにがんばった……。あの、普段からちゃんとがんばっているんですよ。現場もすごいがんばった成果が、ヨーロッパのこれだけ立派なモーターショーで、これだけ注目を浴びているのはすごい喜ばしいことだと思います。
人見氏:そうだね。スタートしたときは、CASEとかMaaSとかいう言葉が1つもなかった。電動車を作ろうみたいな。電気自動車は作ろうねって、それだけはあったんだけど。単に電気自動車を作るだけでは意味がない。ヨーロッパを見ながら単に電気自動車を作ったって受け入れられないよねって。価値のあるものを作らなければ意味がない。わざわざ高い電気自動車を買ってもらった人に対して、未来感であったり、質をよくしたりしなければならないよねって。
そのためには、電化を採ったり、コネクティブを採ったり、新しいデザインを採ったり、いろんなことをやってきました。
それが最近100年に1度のなんとかだとか、CASEだMaaSだとか言われて、予想が当たっているというか。予想というか当たり前の話だったんだけど、自動車しか見ていなかった僕たちにはあまり気がつかなかったことがまわりでいっぱい起きていて。それが現実になったということがね、「ああ、あのときやって、思い起こして。難しい課題を与えたけども、やっててよかったな、間違ってなかったな」と、安心と、その先がさらに難しいことなんだなと。
崖っぷちから一歩飛んだけど、飛び先って従来のガソリン車の延長線上にはない。そこは飛んだんだけど、その先のMaaSみたいな話。サービスとかエネルギー、電気、トータルエネルギーみたいな話を考えたときに、まだまだやらなければならないこと、考えなければいけないことがいっぱいあるなということ。だんだん分かってきた。1番やらなければいけないことが。
──先ほどやり過ぎという話が出ましたが、具体的にどこをやり過ぎたのですか?
安藝氏:大画面の中はやり過ぎました。言われたことを全部やりましたから。みんなにいろいろ言われたのですが、水槽まで作りましたから(笑)。
人見氏:大画面にするときに、2画面の価値を出せといったときに、2画面のものが世の中にないんですよ。そういうスクリーンを持っているものがないんですよ、世の中に。しょうがないから、水槽でも作っとけ、水族館で魚が泳いでいるようなスクリーンセーバーみたいな。こんな風にしたらいいんじゃないんですかみたいな。まさかそれを本当に量産車に入れてしまうというか(笑)。
──では、量産車にはその水槽アプリが搭載されているのですか?
安藝氏:実際はアプリストアから配信する形になります。
人見氏:水族館みたいなのができるんだったら、例えば電池の量が減ってきたら水の量が減ってくるとか(笑)。ドンドン楽しい話が出てきて。(横に長い画面なので)うなぎを作れとか(笑)。
安藝氏:開発メンバーの中で、コネクティビティをやっていたメンバーは従来のクルマ開発のメンバーではなくて、ITインフラ基板をやっているメンバーだったりします。新しいことを学んだっていうのもありますし、結構文化の違いで衝突したりとかありまして。結果、あそこまでこぎつけた。
人見氏:次はカラオケかな(笑)。みなさん笑う人が多いのですが、(電気自動車なので)クルマが静かで、音が外に漏れない。空調が効いて、通信できて、こっち側(の画面)に歌詞が出る。歌詞が長ーく出るというメリットが(笑)。
──仕様的なことを聞きたいのですが、Honda eは35.5kWhのバッテリ容量を持っていて、価格的には日本円で約350万円くらいの車両価格が発表されています。この車両価格は、人見氏が想定した価格なのでしょうか? それとも、このくらいの車両価格にしたいから、バッテリ容量が35.5kWに決まったのでしょうか?
人見氏:電池と値段を位置付けるのは、あまりよくないです。積まなければ安くなるし、積めば高くなるし。僕らが作りたかったのは、EVだけを作りたかったのではなく、ネクストジェネレーションのクルマ。CASEの階段を上がったときに、スモールカーはどうなるんだろうと。それを見せる、分かりやすく見せることが必要です。
コストはもちろん大切だし、全員の人に受け入れられればいいのだけれど。そうじゃなくて、まずはそれを認知してもらう。未来の入口というのはこういうのだよと。2000年、2010年の延長上ではなくて、2030年くらいのものを戻してきたら、技術上戻らなければならないんだから。こういうクルマなんじゃないの? って、言いたい。そういうのを作りたい。
そのときのコストというのは本当は安くしたかったんだけど、コストはやはり商品性もあって。このくらいのことをやらなければできない。もしくは、そういう風な思いになってもらうには、こういう金額くらいの、申し訳ないけどもいただきますと。まあまあ、約350万円というのは苦しいところなのですが。
AER(All Electric Range、全電気航続距離)の話というのとは、切り離して考えたくて。クルマの価値をAERで計ってしまうのは電気自動車の中ですごくありがちなことなんだけど。ガソリンエンジン車って、ガソリンタンクの大きさで価値を語りますか? というように、ちょっと違う話になっちゃう。
例えばAERのグラフというのは、バッテリをいっぱい積めば距離は伸びます。比例かどうかは分かりませんが。それはバッテリを積めば積むほど距離を走りますから、「積んだ方がいいですよね」っていうのは、ここ(とグラフを指しながら)だけ見たら当たり前。ではなんでやらないかというのは、バッテリをたくさん積んだらマイナスになることがあり、車体がでかくなっちゃう。Aセグで作っているつもりでも、Bセグになっちゃう。
本当はスマートフォンでもいいのに、なんだか知らないけどタブレットを買わされちゃうみたいな。これ、駐車場入んないじゃない。
こっち(スマートフォン)は毎日充電しなければならないけど、こっち(タブレット)は毎日充電しなくてもいいですよって。すると(1回の)充電時間も増えていってしまいますよね。バッテリがでっかいから充電時間が増えちゃう。コストも落ちない。ウェイトも上がります(重さも増えます)。だから、僕らはこれ(電気自動車)を安く作って、ある程度のところに限って値段が高いところは別の理由で上げていく。たとえば質感とかね。
だから、端的に言ってしまうと、35.5kWhのいくらですとなっちゃうけど、ものの考え方としては、小さく作って、安く作る。電気自動車としては、そこそこの値段でやめたい。その代わり、スモールカーでいいんだからそうしていく。そこの人たちに売っていく。
でっかいクルマで距離を乗る人たちには、そのようなことはまったく言う必要がないですよね。その分を、分かりやすい未来感。電気自動車に乗るのであれば、人に自慢もしたいだろうし、未来感は味わいたい。これからこういうものなんだよねって言いたい。ちょっと大げさだけど。かなり大げさかもしれないけどね(笑)。分かりやすく人に説明しやすいみたいにね。そういう製品の受け取り方をしてほしい。
──開発を始めた当時はMaaS、CASEという言葉がない時代とのことでした。問題は今、ビジネスモデルを作ろうとしている中で、開発コンセプトが変わったりであるとか、位置付けが変わったりであるとかありますか? Honda eの中で。
人見氏:eが「ネクストジェネレーションのクルマを作ろう」となってからはまったく変わっていないし、eMaaSというのは、ホンダが付けたeMaaS(いいまーす)ってしゃれではないけど(笑)、言っていることでね。世の中的にどのようなMaaSがよいのかは地域によっても違うし、年代によっても違うと思うし。フィンランドのMaaSがあれば、日本の田舎のMaaSがあるかもしれない。それぞれに地域最適なことをよく考えていかなければならない。
僕は作り手として、Honda eとしては世の中に出して、MaaSの一員として使えるように、ある人たちをしっかりサポートできるように、しっかりコネクテッドを付けたり、V2Gといわれるエネルギー連携を付けたり、バーチャルキーをスマホでできるようにしたり。それ(MaaS)に対して備えることしかできていない。MaaSの中に完全に入りきってやる。それをできるような、実証実験ではないけど、出だしをしやすいようなクルマとして仕上げています。
──イメージなんですけど、Honda eMaaSと言い出したときに、市販する第1号モデルという位置付けでよいのですか?
人見氏:MaaSというものが完全に定義されているものでもないし、ホンダの提案としてはありかもしれないけど。決めるのは使う人たちであり、そこにピッタリとしていなければ、合っていると僕の口からはとても言えないし、このクルマがあるからeMaaSが成り立ちますと、そういうことではない。
ただ、MaaSに使う素養、買ってもらう魅力を作って、それに積極的に入れるようにしようとしているのがこのクルマかなと。ちょっと回答になってないかもしれないし、順番もいろいろあるし。
──MaaSで社会の使い方、クルマの使い方がいろいろあるように、そのどこにでもフィットするようなクルマにしたということですか?
人見氏:そのような偉そうなことが言えるようなものではなくて、まずはMaaSとして使ってもらいたい。それは値段を度外視してしまうのかもしれないけれども、完全にMaaSがすぐにできるとは思えないから、そういうものに役立つ……役立つっていうのかな。実験を含めてできるように。そこから、次が本番だと。それぞれに具体的なスペックだとか、必要なものが明らかになっていくと思うんですよね。
今のクルマはMaaSの準備をして、ただし個人所有のクルマとして、魅力のあるクルマとして買ってもらうということを大事に考えています。
MaaSは難しいと思います。モビリティだけのMaaSだったらそのうちできると思うんだけど。エネルギー、トータルエネルギーみたいなことも考えなければいけない。それから街の計画も考えなければいけないとなると、簡単には──ホンダだけ、もしくはモビリティの人たちだけで決めることではない、ですよね。
だからまだまだ検討中で、いろいろなところで実証実験をやっていく。それを見ながらある程度は共有するのか、ある程度は分けていくのか考えていかなければいけないのでないかと。それは個人的な意見ですが。
──EVにおいて、クルマとしての価値はどのようなところを重視していくのですか?
人見氏:やはりクルマを買うとき、クルマを買いたいなぁってときに、「ぶっさいく」なクルマは買いたくないから。なんで買ったのって言われたくないし。新車を買ったんだよねぇってときに「カッコイイ」って言われたいから、やはりデザインが1番ですよね。外から見たときのデザイン。
次に乗ったときのインテリアデザインですよね。次にというか、メーターの辺りとか、シートの辺りとか。その辺りのデザインは、新しいクルマを買ったんだから、ヒエラルキーに乗るようなクルマではない、次世代のクルマ感を出してほしい。
それからやっぱり、ホンダのクルマを買ったんだから、「走りますよねぇ」と。期待されるダイナミクス性能。それはやっぱりガソリン車と違うだろうし、スモールカーだからいいことと、スモールカーなのにすごいこと。これを両立させることが絶対、マストです。
それから、専門家であるアッキー(安藝氏)みたいなところで、IoTの連携もできればエネルギーの連携もできる。自動車としてモビリティの未来の価値、止まっているときの価値も含めて。電気自動車が止まっていても価値があると。エネルギーとしての価値もあれば、部屋としての価値もある。エアコン付きだしね。そういうふうなところですよね。
クルマとしての価値と言えば、デザイン、走り。ここは従来のクルマをデチューンしちゃったら意味がない。ただし、従来のクルマの延長じゃつまらない。ちょっと速いとかね。だから、0ー100は8秒と書いてあったときに、本当のタイムを記して、質感のある走り。たとえばスポーティで荒々しく速い、それも1つだけどそういう風にはしたくなかった。速く感じるけども、すごくいいクルマに乗っているなとしたい。
みんながみんな(アクセルを)全開で踏むわけではないとしたら、品質感。それをスモールカーでやるとするのは、ガソリン車では非常に難しい。それが電気になると非常に有利な点がいっぱいある。それを使わない手はない。
今までにないクルマ、RR(リアモーター、後輪駆動)にしたかったのは、転舵角を45度以上切りたかったから。スモールカーとしても超一流の性能を出せるようになる。できなかったことをできるようにする。できることも延長する。それが、自動車としての進化というか、(従来の自動車の)延長上にない進化をしている。
──例えば、リアモーター、リア駆動にした理由は最小回転半径を小さくできるようにしたこととか、ビークルダイナミクスの向上とか?
人見氏:そうですね。それからパワフルなモーターですね。CR-Vのモーターをそのまま使っちゃっているから。100kWくらいのモーターを(Honda eは、100kW[136PS]または113kW[154PS]の2種類のモーターが設定されている。トルクはいずれも315Nm)。これはリアのほうが扱いやすい。
──フランクフルトショーでは、多くのZEV(ゼロエミッションビークル)が走っているのですが、いろいろ音のするクルマもあります。その辺りは。
人見氏:難しいですね。風切り音なんかも。普通だとエンジン音が上がって、風切り音が上がっていっても、完全に音を切り分ける人はいないので、なんとなく(境界が)ぼけているところがある。(電気自動車は)完全に風切り音が聞こえたりする。ロードノイズが聞こえる。ブレーキを踏む音が聞こえる。センシティブな人は、落ち葉を踏む音が聞こえる。しょうがないんだけど(笑)。
音に対する感覚が、やっぱりランクが違うというか。同じ何デシベルですよ、では通用しないものになってくる。それでかなり苦労している。ガラスのサッシュレスを使いたい、厚いガラスを使いたいといろいろやって。Honda eはスモールカーですが、4人乗りで後席も乗れるようにしてありますけど、基本的には後ろにモーターがあるというのは静かですね。全席でね。
それから、ドアミラーを外したことによって、ドアミラーの風切りがだいぶ小さくなっている。カメラミラーにして。あれは、かなり効いていると思います。そして、雨どいのチャンネルも埋めてしまってなくしている。そこの風切り音も少ない。
──ドライブトレーンが後ろに行ったから、デフとかドライブシャフトの音も入りづらくなっている?
人見氏:モーターのキーンという音も、ちょっと離れると聞こえないですね。
──前後重量配分はリア寄りですか? 40対60のような。
人見氏:いやいや、電池があるから。電池に支配されるので、ぴったし50対50です。本当にクルマとしてはとてもいい。しかもオーバーハングがほとんどない。ということは、重心のかかっている位置もすべてタイヤの中にある。これは重量配分が50対50と言っているのと単に言葉では同じだけど、こんなにいいディメンジョンはない。
重心高も低いからあまりロールをしないので、スプリングも弱くできて、乗り心地もちょっとよくなっている。すごくいいことがいっぱいあるんですよね。これを、スポーツに振るのか、質感の高い新しいクルマにするのかというところが悩みどころだった。
欲が出ちゃうと従来っぽいクルマになる。だから質感の高さみたいなところに振った。だから、0-100km/hが8秒というとちょっと遅いかもしれないけど、80km/hまではものすごく速い。そこから先はもうやらないということをしています。
重心点は500mmです。NSXよりちょっと高いですね。ただ、アイポイントは高いから、ちょっと変わった感じですよね。今までにない感じです。
──リア駆動だと、エネルギー回生が効率よく取れないのでは? そこはどう解決したのか?
人見氏:そこはもう割り切って、危険なことはしない。VSAを介入させたりして、無理な回生は取らないようにしている。
──それでも、リアホイールドライブの魅力がある?
人見氏:それ(回生効率を狙ってフロントホイール駆動にすること)によって取れる回生量でAERがどのくらい延びるかっていうと、7kmとか、8kmとか。大きく聞こえるけど、その7km、8kmをお客さまが注意して使い切るのか? というのだったら、普段乗ることの楽しさ、それから空力などもそうですけど、ロングルーフにして、ぺんぺんにして、フェンダーを真っ平らにして空力をよくする。まあ、それで3kmか、4kmです。そのために空力を採るかという。
(航続距離を)220kmと決めて、それ以上1km、2km増やすんだったらいいタイヤを履きなさいと。空力よりも、いいデザインにしたい。好きなデザインにしたい。抑揚のあるデザインにしたい。回生を取らず。欲をいろいろなところに持つと、いろいろなところがマイナスになってくる。
それに対して、スモールで220kmと決めたんだったら、ここを守ったんだったら、後は普段の使い勝手とか、クルマのよさを取り戻そうよと。それでは足りないという人は、やっぱり違うクルマを乗ってもらうしかない。そこはあきらめなければいけない。全員を全員うまく取り込むことはできない。このクルマの役目としては、220kmの中できちっと走ってもらう、楽しく走ってもらうと。
──このプラットフォームベースで、これから派生車種は? 例えばフロントにちょっとモーターを載せて生活4駆みたいなものも考えていますか?
人見氏:僕の頭の中では、ちゃんとフロントとリアにモーターが置けるようになっています。実際にやるかどうかは事業性の問題がありますね。売ってくれる地域とかありますので、なかなかそれをできるとかやるとか言うことは……。
──本田技術研究所として準備しているということ?
人見氏:研究所というとまた難しくなる。私たちの開発チームの中では、きちんと予備設計をしているということ。だからホイールベースも2530mmと、まったくフィットと変えていない。同じ寸法で作ってあって、何が来てもよいように考えてある。
──電池はブルーエナジーの供給ですか? 海外の電池メーカーとかは?
人見氏:パナソニックです。新型のやつ。あまり言うことはできないのですが、表に出ている中で言うとCATL(寧徳時代新能源科技)といろいろやっていますとか。それから中国で実際に売っているクルマはそういうところで調達しているとか。アメリカであれば、GM経由でやっています。電池メーカーはいろいろなところと考えている。
昔ほど電池を一緒になって研究して作り上げなくてもよくなっている。電池会社もEV用の電池に対してノウハウができている。一緒に作るような時代から、選べるような時代になっている。当たり前なんですけどね。それはそのときの場所だったり、値段だったり、規模だったりを考えて適切なものを選んでいくのではないか。
──コネクテッドの部分で、Honda eは新しい世界を作ろうとしていますが、それを作る上で一番気をつけたことはなんですか?
安藝氏:パッケージングですかね。パッケージングというとボディみたいなイメージになってしまうかもしれませんが、そうではなくて、複数のコネクティビティ機能を1つにまとめるところです。今まで、コネクティビティってどちらかというとモデル主導ではなくて、例えば弊社だったらインターナビのようなコネクテッドサービスを訴求していました。今後もその流れはそうなのですが、今回はHonda eというクルマに対してどういうコネクティビティの組み合わせなら、機種コンセプトのシームレスライフクリエーターが実現できるのか。お客さまがつっかかったりせずに、普段の生活の流れを妨害しないようなライフスタイルを提供できるかというところです。そこにすごい気を使いました。
欧州のメディアさんにも「ウリの機能はなんですか?」という質問があるのですが、そうではなくていろいろな機能をどういう風にまとめたかというのが、Honda eのコネクティブです。
人見氏:コネクティブって、いわゆる今のコネクティブはホンダの中で閉じているようなコネクティブに対して、今度のコネクティブは積極的に外にデータを求めていったり、外のアプリを動かしたり。本当のコネクテッドになってきたのではないかと。そのために、大変な苦労を(と安藝氏を見る)。
安藝氏:人見さんに言われたのは、「お客さんがこういうのを求めているよ」「社会がこういうのを求めているよ」と。難しいのは、弊社だけではできないとか、社内も今までのクルマ作り、ハード中心のクルマ作りに特化しているところがあるので、こういうものになったときに難しいものがある。そこをPL(プロジェクトリーダー)として、いろいろなところに、ありとあらゆるつてを頼る人的コネクトが必要だったというのが、一番大変だった。
人見氏:レギュレーションとか、セキュリティとか。今までは外に出ていないので、そういうことはあまり意識しなかった。レギュレーションで結構引っかかったりしてね、各国の。
安藝氏:それこそちょっと前に話題になったGDPR(General Data Protection Regulation)とか。今までの機種開発だと、それはなかった。
──今回のフランクフルトモーターショーで、ポルシェがタイカンを出し、フォルクスワーゲンがID3を出し、オペルがコルサSを出し。このタイミングにホンダがEVを出した。もちろん、前々からこのタイミングで出すとアナウンスされていましたが。やはり、欧州委員会のCO2排出量規制の関係で、このタイミングで出しておくと、EVは1.7倍分とかいう理由もあったのですか?
人見氏:意識していないと言うと「うそつけぇ」て言われちゃうから(笑)。それはもちろん意識はしているんだけど。それはいい機会だというか、このクルマは急に考えた訳ではなくて、ずっと前から本当に1人でずっと考えていて、その次は数人で考えていて。LPL(ラージプロジェクトリーダー)だけど、(スタッフが)誰もいないときにね、ちょっと電話して手伝ってくれない? ということから。CASE、MaaSなんか知ったのも、その時代にクルマではないことを一生懸命、いろいろな講演会とか聞きに行ったり、エネルギーの話だったりとか。そのときにやっぱり気がついたこと。
EVとしてそろえたって言われるけど、僕らはEVを作っているわけじゃなくて、ネクストジェネレーションのクルマ、要するにCASE(の階段)を上るクルマを作っている。そのために必要なことをやっているという。そういう見方で見てもらえたら。それがドンピシャのストライクではなく、ちょっと大げさに作っていますけど、それはユーザーにそういう気持ちをハッキリ分かりやすいようにしています。
単にガソリン車をEVにするプログラムをやっているつもりはない。そんなワガママな、それでいいんでしょみたいな。ディーゼルがだめだから、ガソリンをEVにすればいいんでしょみたいな。そんなことしたら、電池なんかなくなっちゃう。そんな電池ばっか積んだら電池がなくなっちゃう。
今問題なのは、環境だったり、技術の進化だったり。それを何に使うのか。EV化を使って、MaaSを使って、いかにモビリティを効率よく使って人類が長生きするかっていうか。そういう次元に入っている。それを私は危機だと思います。
ZEV法を危機だと言うけれど、まあ、それもそうだけど。そのようなことを考えているときに、まわりを見たらそうじゃないよねという時代に入っている。それは本当に私たちのモビリティ全体だったり、もしくはEVやHonda eなんて1機種の問題ではないし、ホンダ全体の問題でもないし、クルマ全体の問題を超えてしまった人類のモビリティのあり方を強くやっていかないと、自分のクルマだけいいということじゃない。
大きなヨーロッパの流れに乗っていることは、それは間違いない。でも、作っている本人として、こんな形にして、こんな形態を作って、クルマをやっているという理由は、もう少し大きな考え方でやっているつもりです。
──今までエンジン車だと、燃費を競っているというか。ZEVになると、航続距離、電費にフォーカスがあたらなくなっているように思うのですが。ホンダは小さくて、軽いEVを作ろうというのは、電費も考えているのですか?
人見氏:もちろんそうです。でっかい電池を使って、通勤に90kWhのSUVで行く。本当にもったいないし、電費もわるくなるし、そのうちの電池はほとんど使わなくてよい電池。一生使わない領域まで、買って走って捨てちゃうんです。リユースするかもしれないけど。無駄にするのは、やっぱりない。
ただ、航続距離だけ言うと電池だけ積むと話がずれてくるから、ウェルツーホイール(W2H、Well to Wheel)みたいなものを含めて、ライフCO2みたいなことも考えていると思うけど。クルマとしての魅力とか、価値とか全部捨ててしまうのはまだ早いかな。
電気をみんなも真剣に使うべきだと思います。限られたもの。電気というか電池をね。だから、こまめに充電すれば済むものを、1週間やらないためにでっかい電池を買いますみたいな話は、それこそおかしな話になっちゃう。だから、これ(とスマートフォンを指す)で済む人は、これ(とタブレットを指す)を買わないでください、ということです。
これ(タブレット)は便利かもしれないけど、これ(スマートフォン)でよいのであれば、毎日充電する。電気自動車はそういうものだということをみんなで啓蒙しないと。そうやって使えば、スタンドに行かなくていい。そうしたら、そういうふうになったら、充電箇所をどんどん増やしてくれるかもしれない。電柱の下にできるじゃない。電気はタンクをもっていくしかないんだから。あの(電柱)の下にコンセントを付けておけば、誰でも充電できるようになったら、みんな電気自動車に行くかもしれない。
だから、みんなで電気をうまく使う、電池をうまく使う方法を考える。シェアリングを含めて、総台数を含めて。そういうやり方をしていかないと、モビリティだけでみんなが死亡しちゃう。そういう面もあって小っちゃくしているし。これ以上はいらないんじゃないの? 大きいクルマに乗るんだったら、今だったらガソリン車や電車でも乗ってくださいという。投げやりに聞こえるかもしれないけど(笑)。
でも、それがMaaSだよね。それを受け入れなければいけないのではないかなと。それを受け入れないと、みんなが身勝手なことをしちゃうっていうかね。
人見氏、安藝氏への共同インタビューから分かるのは、このHonda eを従来のクルマの価値観の延長で作っていないということだ。ガソリン車に匹敵するような航続距離を目指して大容量の電池を積まず、約220kmとスモールカーの使われ方を想定した必要十分な航続距離を実現することで、クルマとしての新しい価値観を作り上げていった。そして、その価値観に十分な手応えを感じていることがうかがえる。
新しい価値観を提供する1つの要素になる安藝氏が担当したコネクテッド、そして人見氏が自信を持って語る走りなど動的質感の高さなど、2020年に予定されているHonda eの日本発売が待ち遠しい。