奥川浩彦の「WTCCフォトコンテスト」攻略ガイド【前編】
初めての流し撮りの手引き


 小林可夢偉3位表彰台の余韻が残る鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)に今年もWTCC(世界ツーリングカー選手権)がやってくる。日程は10月20日~21日の2日間。それに合わせ、今年もCar Watch、デジカメWatchが主催のWTCCフォトコンテストが開催される。ということで、昨年に引き続きWTCCフォトコンテストの攻略ガイドをお届けしたい。

 WTCC(World Touring Car Championship、世界ツーリングカー選手権)に関しては、「開催目前、今年も鈴鹿にWTCC(世界ツーリングカー選手権)がやってくる!!」、フォトコンテストの募集要項に関しては「WTCC(世界ツーリングカー選手権)フォトコンテストを今年も開催!!」の記事を参照いただきたい。

 昨年、鈴鹿サーキットで初開催となったWTCCの前に、WTCCフォトコンテンス攻略ガイドを4回に分けて書いた。第1回は撮影用の機材の選び方や金網対策など、第2回は流し撮りなどの撮影方法、第3回は鈴鹿サーキット東コースの撮影ポイントの紹介、そして最後は激感エリア編だ。

 基本的なところは変わっていないので、昨年の記事も参考にしていただきたいが、今年はアップデート版として、昨年撮影した実際に鈴鹿サーキットを走るWTCCのマシンの写真を追加し、昨年の内容を補足する形でご紹介したい。昨年のフォトコンテンス入賞作品についても、撮影ポイントなどを解説する。

機材選びについて
 機材選びに関しては以前に解説したものと全く変わっていない。筆者は6月にマレーシア行われたSUPER GT第3戦でEOS 5D Mark IIIを試用してみた(関連記事:奥川浩彦の「EOS 5D Mark III」でモータースポーツ撮影に挑む(前編)奥川浩彦の「EOS 5D Mark III」でモータースポーツ撮影に挑む(後編)を参照)。

 結果として筆者には撮像素子がフルサイズのデジタル一眼レフよりAPS-Cの方が合っていると確信した。目的や体力、財力によって選択肢は異なるが、初心者がモータースポーツの撮影を始めるなら撮像素子がAPS-Cのカメラを選んだ方がよいだろう。

初心者は正面受けがおすすめ
 モータースポーツの撮影というと流し撮りを思い浮かべる方が多いと思うが、初心者はマシンを正面から高速シャッターで写し止めるのが最も簡単だ。下の3枚の写真は、2コーナーからS字に向かうストレート部分とS字でマシンを、正面からシャッター速度1/320秒で撮っている。真正面から撮る場合は、最初は1/1000秒くらいで撮るとブレずに撮ることができる。

昨年フォトギャラリーに掲載した写真。2コーナーからS字に向かうマシンを1/320秒で撮影S字で撮影。少しタイヤウォールが見えるS字を抜けたところ。マシンが斜めになるとよりタイヤウォールが見える

 この撮影には1つ難点がある。正面からの撮影は、横からの撮影に対し被写体との距離が遠くなるので、少し長めの望遠レンズが必要となる。撮影場所にもよるが300mm以上のレンズが欲しくなることが多い。

 筆者が1/320秒で撮っている理由は、マシンが真正面から少し斜めになったときにタイヤやホイールが回転するように少しシャッター速度を落としている。1/1000秒で撮り始めて慣れてきたら1/500秒、1/320秒とシャッター速度を落としていくと絵のバリエーションを増やすことができる。

 初心者には少しハードルが高いが、正面からの撮影でもスローシャッターを切ると印象の異なる絵を撮ることができる。次の写真は2コーナーと最終コーナーでシャッター速度1/30秒で撮っている。どちらも300mmのレンズを使用しているので、35mmフィルム換算で焦点距離480mmの望遠レンズだ。望遠レンズでスローシャッターを使うのは簡単ではないが、繰り返し練習すれば撮れるようになるはずだ。

2コーナーで撮影最終コーナーを観客席から撮影
正面から1/500秒で撮影

 この最終コーナーを観客席から撮った画像を少し解説してみよう。撮影場所はQ1席、使用したカメラはEOS 7D、レンズは300mmF2.8だ。最初はシャッター速度1/500秒で撮影を開始。東コースのショートカットから最終コーナーへ駆け下るマシンを正面から写し止めた。

 絵としては面白味がないが、タイミングよく?ハフ選手が飛び出してくれたので連写した。アクシデントを撮るときは、スローシャッターより高速シャッターの方が望ましい。

 連写した3枚目をトリミングしたのがフォトギャラリーに掲載したこの画像だ。

クリックするとフォトギャラリーサイズ(1920×1080ピクセル)が開きます

 ここから徐々にシャッター速度を落としてみよう。1/250秒にすると少し動きが出るがまだまだ面白味がない。1/60秒にするとかなり動きが出ていい感じだ。さらに1/30秒にするとカッコイイ絵になった。1/30秒で撮った写真はトリミングしてフォトギャラリーに掲載している。

1/250秒にすると少し動きが出た1/60秒にするとかなり動きが出てきた1/30秒にするとカッコイイ絵になった
右上の画像をレタッチし、フォトギャラリーに掲載したもの

横からの流し撮り
 さて、次は横からの流し撮りだ。モータースポーツを撮ろうと思った方が憧れるのが流し撮りだろう。筆者自身がそうで、レース雑誌に掲載されたレース写真の撮り方の記事を読み、そこに載っていた流し撮りの写真を見て「撮ってみたい」と憧れ一眼レフカメラと望遠ズームを購入した。

 まずS字で撮った画像を見ていただこう。写っているのはS字2つ目の左ターン。逆バンクへ下る手前のカーブだ。撮影場所は観客席でD席の中段あたりから撮っている。余談だが筆者はこの場所が昔からお気に入りで、マシンとの距離のバランスがよく、報道エリアで撮るよりマシンが美しく撮れるポイントだと思っている。4枚の写真は同じ場所からシャッター速度を1/250秒、1/200秒、1/160秒、1/125秒と変化させて撮ったものだ。

シャッター速度1/250秒シャッター速度1/200秒
シャッター速度1/160秒シャッター速度1/125秒

 4枚の写真の車体はそれほどの差はない。タイヤも回っている。違いがあるのは背景で、アスファルト、縁石、手前の芝あたりを比較して見ていただきたい。シャッター速度が遅くなるにつれ、徐々にスピード感が出てくると思う。

 筆者の好みでは1/160秒、1/125秒はOK、1/200秒以上はNGといったところだが、シャッター速度を遅くするとマシン自体がブレる確率が高くなり、ボツ写真ばかりになるので最初は1/250秒くらいで撮り始めた方がよいだろう。

 4枚の写真のうち、3枚目と4枚目は、レタッチして昨年のフォトギャラリーに掲載している。筆者はある程度フレーミングはゆとりを持たせて撮り、後からトリミングをして掲載している。EOS 7Dの場合元画像の解像度は5184×3456ピクセルで、Car Watchの掲載サイズは1920×1080ピクセルなので、小さめに撮っても充分使用できるからだ。

フォトギャラリーに掲載した画像

 昨年のWTCCのフォトギャラリーの画像には撮影時のシャッター速度、絞り、レンズなどのExif情報を残してある。レンズはトリミングをしているのであまり参考にならないが、シャッター速度とスピード感はデータを見ると参考になるだろう。WTCC以外のフォトギャラリーも同様にExifデータを残していあるので参考にしていただきたい。最新のフォトギャラリーは小林可夢偉、F1日本グランプリ表彰台記念 フォトギャラリーだ。

流し撮りの基本は1/125秒
 筆者は流し撮りの基本はシャッター速度1/125秒と思っているが、被写体の速度、被写体までの距離、被写体の背景、レンズの焦点距離、掲載サイズによって同じシャッター速度でもスピード感が異なるので、様々な条件を考慮してシャッター速度を上げ下げしている。

 被写体の速度と距離の関係、レンズの焦点距離に関しては昨年の記事に解説があるので、それを参考にしていただきたい。被写体の背景はアスファルトなどシンプルな場合シャッター速度を上げてもスピード感が出る。看板、観客席などゴチャゴチャしたものが背景になるときはシャッター速度を落としたい。目の錯覚なのだが、Lプリントだとスピード感のない写真もA4とか四つ切りといった大きなサイズで見るとスピード感が出る。モニター上なら800×600の画像より1920×1080の画像の方がスピード感が出るので、シャッター速度を上げることができる。

 様々な条件で流し撮りのスピード感は変わるが、幸いデジカメはモニターで撮った画像を確認することができる。シャッター速度を変えながら数枚撮ってみて、確認してからシャッター速度を決めればよいだろう。この際の注意点はデジカメのモニターよりもパソコンの画面で見るとスピード感は増す。逆にデジカメのモニターでブレていなくてもパソコンの画面で見るとブレがハッキリ見える。このあたりを考慮しないと、撮影後にガッカリすることになるだろう。ファインダーの見方、スタンスの構え方なども昨年の記事で解説しているのでそちらを参考にしていただきたい。

 次回は実際にレースが行われる鈴鹿サーキットの撮影ポイントなどを解説したい。

(奥川浩彦)
2012年 10月 12日