ニュース
【インタビュー】9型大画面カーナビ「イクリプス AVN-ZX02i」の開発者に聞く
トヨタ車用カーナビも開発する富士通テンのこだわりとは?
(2013/2/18 00:00)
“ECLIPSE(イクリプス)”ブランドでカーナビやドライブレコーダーなどさまざまな車載製品を展開する富士通テン。そのイクリプスのフラグシップモデルとなるのがカーナビ「AVN-ZX02i」だ。その特長は業界最大級となる9型大画面を採用しているほか、携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」との連携機能を備えていることにある。
iPhoneやAndroid端末などスマートフォンとの連携は、カーナビにとってもはや当たり前になりつつある機能だけれど、携帯ゲーム機との連携を実現したのはチャレンジングかつ斬新だ。だが、イキナリこういったことを始めたわけではなく、同社には新しいことに取り組んできたという“歴史”がある。今では当たり前となったオーディオとビジュアル、それにナビゲーション機能を2DINサイズに凝縮した、いわゆるAVNタイプの車載機を1997年にいち早くリリースしたほか、CD/DVD/MDの3デッキモデルやナビ用と音楽用にHDDを2基搭載したモデル、運転席と助手席に異なる映像を映し出せるモデル、フィルム型のGPSアンテナの採用など、常識を破る数々の「業界初」を世に送り出しているのだ。
また、同社は市販カーナビを手がけているが、トヨタ自動車の純正カーナビの多くも同社製のものになる。品質に厳しいことで定評のあるトヨタに純正採用されていることからも、富士通テンの作り出すカーナビの堅実さをうかがえるのではないだろうか。
今回、そんな同社のカーナビ開発に懸けるコダワリなどを中心に、富士通テンCI技術本部の永元覚さんに話をうかがった。
──まず、ECLIPSE(イクリプス)というブランドは、他社に先駆けて意欲的なモデルをリリースしているイメージがあります。AVNもそうですし、シャープ製のパネルを使った運転席と助手席で違う画像が見られるモデル(AVN887HD/2007年発売)とか、メモリーナビも早い時期でした。
永元氏:あまりそういった意識はないのですが。逆に遅すぎると思っているぐらいですね(笑)。
──SNSへの対応も世間がまだ話題にしていない時期だったように思います。
永元氏:そうですね。好きモノ(笑)が集まった先行開発的な部隊がありまして、そちらで検討・開発を行っています。
──なるほど。では、カーナビ開発において重視しているポイントを教えてください。
永元氏:弊社の場合、店頭で販売する市販モデルだけでなく、自動車メーカー向けのいわゆるメーカー純正モデルも開発しています。車の中で使う商品なので「車内でいかに安全に使えるか」という部分が基本になりますね。地図の分かりやすさや適切な情報量、音声案内のタイミング、操作系の統一といったあたりはかなり気をつかって開発しています。1997年に初のAVNモデルを発売したのも、当時普及し始めていたエアバッグの動作を妨げないようにとの安全性の面を重視したのが1つの理由です。
──地図の分かりやすさ、というと具体的にどんな部分でしょうか?
永元氏:地図を見た時に必要な情報を見つけやすいというところですね。文字の重なりをなくしたりとか、色分けなどもそれを意識してあえて抑えた色調にしています。よく、地味だといわれますが(笑)。地図画面に表示されるL字型のメニューもそれを踏まえたもので、必要ない時は非表示にできるようになっています。
──地図や機能といったスペック的な部分は雑誌やWebなどのレビューでも知ることができますが、目に見えない部分で「ぜひここに注目してほしい」というコダワリはありますか?
永元氏:一番はレスポンスですね。電源を入れてから地図が出るまでの速度や地図のスクロールといった部分はもちろんですが、バックカメラやフロントカメラといった外部入力もすぐに使えるようにしています。駐車場などから出発する場合、すぐに確認することができないと不便ですし、安全にかかわる部分でもありますから。
──確かに起動時間など全体的に速いイメージがありますね。
永元氏:かなりコダワってチューニングをやっています。これには社内基準があって、1つの機能を使うのに画面操作が○タッチ以内とか、動作を終えるまで○秒以内とか、決められています。機能を追加した際には基準に沿ってテストをして、これじゃダメなのでヤリ直し、なんて感じですね。
──そういったコダワリからか一度、御社のナビを購入すると次も、というユーザーが多く感じられますね。「DIYでクルマいじり」を連載中のNAOさんもそうしたユーザーの1人です。
永元氏:そうした声をいただけるのはありがたいですね。使いやすさを念頭に開発していますので「純正」「市販」というカテゴリーを問わず違和感なく使っていただけると思います。
──逆に純正向けと市販向けで大きく異なる部分はあるのでしょうか?
永元氏:基本的には同じものです。ただ、純正向けは車両側のCAN通信を使ってウインドーを下げると音量を下げるとか、ステアリングリモコン用に専用の回路を加えるなどの機能を追加している場合があります。逆に市販向けにはスマートフォン連携など、先進的な機能が搭載しやすいメリットがありますね。
──そうした点を踏まえて開発されたのが9型大画面の「AVN-ZX02i」なんですね。開発時のエピソードなどがあれば教えてください
永元氏:2DINサイズでは一般的な7型を超えるナビとしては後発メーカーなので、まずは画面サイズで苦労しました。他社さんがやっているサイズではインパクトがないですし、大前提としてインパネに収まるサイズじゃなきゃいけません。そこで9型となったのですが、リアモニターなどに使われている10型以上の大きいものや7型なら(パネル単体の購入先は)多いのですが、このサイズのパネルはあまり製品化されていないんです。何とか見つけてようやく商品化にこぎつけたという感じですね。
──7型比で1.8倍の大画面は確かに迫力があります。装着可能車種が増えるとよいのですが。
永元氏:そうですね。3月上旬にも日産自動車「セレナ」用の車種専用取り付けキットを発売するなど、装着可能車種は順次増やしていく予定です。ただ、この専用取り付けキットの開発が大変です。3Dスキャナを使って採寸するので実車が必要になるのですが、「アクア」など人気車種だとなかなか用意することができず、発売まで時間がかかってしまいます。マイナーチェンジや一部改良でちょっとでもクリップ位置などが変更になってしまうと、また作り直しになってしまいますし。
──ユーザーにとってはありがたい専用フィッティングもメーカーとして対応車種を増やしていくのは大変なんですね。ところで、7型から9型に変更したことで変わった点はありますか?
永元氏:ナビゲーションの基本部分は変わっていません。ただ、地図画面は見た目に同じ縮尺としているので、より広い範囲が表示されるようになっています。解像度自体はどちらもワイドVGA(800×480ドット)ですから、その点では若干縮小されているともいえますね。一方でメニューなどはそのままですので、視認性や文字入力などの操作性は向上しているのではないでしょうか。
──このモデルからニンテンドーDSとの連携が可能になりました。
永元氏:スマートフォン連携の発展系といったイメージです。スマートフォン以外にも何かつなげられないかと探していましたので。
──兵庫(富士通テンの本社がある)と京都(任天堂の本社がある)で関西つながり的な……?
永元氏:いえいえ、そんなことはないです(笑)。
──苦労話的なものはありますか?
永元氏:ニンテンドーDS用ソフトの開発は任天堂が主体でやっていますが、カー用品であるナビゲーションと、家庭用ゲーム機との文化の違い的なものは感じましたね。
──というと?
永元氏:ゲーム機の場合基本的には動かない場所で使うものなので、画面表示などもエンターテイメント方向になりますよね。でも、カーナビの場合は最初にお話ししたように、移動中にも使うものなので安全性を優先する必要がある、といったところです。
──家族連れにはなかなか楽しい機能なので、ソフトの追加にも期待したいところです。
永元氏:今のところ未定ですが、ご要望が多ければと言ったところでしょうか。
──スマートフォン連携についてはいかがでしょうか。
永元氏:カーナビの場合、どうしても収録されている情報がどんどん古くなっていってしまいます。それを補う意味でも必要な機能だと思います。
──デンソーのスマートフォン用アプリ「NaviCon」との連携が可能ですが、このNaviConを採用した理由は?
永元氏:最終的には位置情報の扱い方になるのですが、NaviConのように位置情報だけのやり取りであれば、アプリ側に仕様変更があっても利用可能です。それ以外をナビ側でやるとなると、そのたびに対応が必要になってしまいますから。
──現状ではiPhone連携のほうに力を入れているように見えますが、Android端末はいかがでしょうか。
永元氏:Android端末の場合は製造メーカーやバージョンによって環境が異なるのが難点ですね。
──最後にAV面ではどうでしょうか?
永元氏:クルマの中ならではの音や映像が楽しめるように、実際にいろいろな場所を走りこんでチューニングを行っています。地デジに関しても東京・名古屋・大阪にモデルコースを作って、新モデルのたびに実際に走ってチェックしています。AVN-ZX02iではアンテナとチューナーのマッチングも最適化しているので、受信感度はかなりよくなっています。
──AVN-ZX02iでは、搭載している液晶パネルとの接続をデジタル化したり、専用プロセッサを搭載したりして、画質にはこだわっているように見えます。
永元氏:専用プロセッサはVVP3(ヴィヴィッドビュープロセッサ3)になります。これにはE-iSac Display(直射日光補正機能)が用意されていまして、センサーで外光を常にキャッチして、直射日光があたっているような状態でもきれいな画面を楽しむことができます。
──今後のモデルにも期待しています。本日はありがとうございました。