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EVで躍進する、テスラモーターズの生産拠点「テスラファクトリー」を訪ねて

トヨタとGMの合弁工場「NUMMI」がEVの生産拠点に

 テスラモーターズの生産拠点「テスラファクトリー」は、米カリフォルニア州フリーモントにある。サンフランシスコ国際空港から高速道路を使って約30分。高速道路を降りてのどかな町並みを過ぎると、いきなり「TESLA」という大きな看板が現れる。

テスラモーターズが同工場で生産したEV(電気自動車)は、2014年実績で3万4000台。2014年9月下旬には約2週間にわたり工場のラインを停止し、工場の生産能力の増強を行い、2015年末までには生産台数を50%増に高める考えだ。このほど、テスラモーターズの生産拠点を訪問する機会を得た。その様子をリポートする。

フリーモントにあるテスラモーターズの工場の入口

 テスラモーターズのフリーモントの工場は、かつてGM(ゼネラル・モーター)が自動車の生産拠点として稼働させていた場所だ。1982年には一度閉鎖したものの、その後、トヨタ自動車とGMの合弁工場である「NUMMI(New United Motor Manufacturing)」として、1984年に再稼働。26年間にわたり、トヨタおよびGM向けの自動車生産が行われてきた。トヨタにとっては、初めて日本以外で自動車生産を行った場所でもある。GMはトヨタの生産方式を採用。最盛期には年間50万台の自動車がここで生産されていたという。だが、GMの経営破綻に伴いトヨタとの合弁を解消。NUMMIの閉鎖が決定した。

 そこに目をつけたのがテスラモーターズだった。同社は、2010年にこの工場を買収。既存の設備も譲り受け、2012年6月からEVの生産工場として稼働。2013年には2万2000台を生産した。

「財務部門の担当者は、シリコンバレーでしか勤務したことがなかった。そこで、NUMMIで勤務していた経験者をコンサルタントとして採用し、内部の施設の譲渡に関しても、このコンサルタントを通じて判断し、プレス機や輸送用のクレーンなども譲り受けた。大規模な部品を移動させるための大型クレーンも、通常ならば中古で10万ドル以上するものだったがこれを無料で手に入れた。このクレーンを撤去するためにはさらに大きなクレーンを導入し、100万ドル以上の費用がかかるためトヨタにとってもメリットがあることだった。工場内には8つのクレーンがあるがすべてをあわせて10万ドルですんだ」(テスラモーターズ ツアープログラムマネージャーのAdam Slusser氏)という裏話も明かす。

納車を待つテスラ モデルS
工場構内では自由にバッテリーチャージができる
EV専用のパーキングエリアも用意されている
構内には太陽光発電パネルも設置されている
工場内には天窓が用意され、光が入るようになっている

 また、北米で最も大きいとされるプレス機も、GMから400万ドルで購入したという。これも中古で購入すると、5000万ドルはするものだという。

 工場内の組立ラインは、赤と白に塗られた斬新なものであり、生産拠点のイメージを一新させるものだ。また多くのロボットを活用しており、自動化という点でも先進性を感じさせるものだった。「NUMMIの社員の多くがそのまま雇用されたが、NUMMI時代の不満は、もっと働きやすい環境にしてほしいということだった。そこでテスラでは、社員が休憩するためのカフェを作ったり天窓を作ったりして、作業環境を明るくするといった改善を図った。多くのシリコンバレー企業がそうであるように、ここでは飲み物やスナック類は無償で提供されている」という。工場内には作業中に音楽も流れている。

 テスラファクトリーでは、現在、投入から5日間で1台が完成することになる。そのうち、2日間がプレス成形などを行うスタンプセンターでの作業に費やされるという。

 組立作業を行うボディーセンターでは、車体の中心部分、右のドア部分、左のドア部分という3つのラインが流れており、それぞれに組立作業を行いながら、1台の自動車として完成させていく。そのほとんどの作業はロボットによって行われる。工程で必要とされる部品の投入や、ロボットやツールのメンテナンスのみが人手で行われており、ロボットの数は全体で160台以上が使用されているという。

スティールセンター。鋼板のプレスを行う
プレスされて完成したものを積み重ねる
北米で最も大きいとされるプレス機。GMから400万ドルで購入した
プレスされたドア部。最後は人が完成度を確かめる
テスラは材料から部品を作る内製化を促進している。複雑な形状のフレームもインゴッドから作りあげる
組み立てを行うボディーセンターの様子
本体部分の組立作業を行う
溶接などの作業を行う。作業はすべて自動化している
ロボットの手先はさまざまなものに変更することが可能だという
一部の作業については人が行うものもある
こちらは右側ドア部分を製造しているライン。多くのロボットが稼働しているのが分かる
左側ドア部分が組立ラインに投入される
ここでの組み立てが完了すると塗装ラインを経て、最終組立ラインに入る
最終組立ラインの様子
作業を行う前の移動は持ち上げて行う

「溶接には、CMT溶接という方法を採用している。また、溶接、接着などの組み立てに行われる7種類の作業はすべてロボットで対応可能であり、ロボットの手先を変えるだけで、作業内容を変えることができる。自動車に新たなオプションが追加された場合にも、ロボットの手先を変えるだけで、新たな作業が行える。効率性の点でも大きなメリットがある」とする。

 ボディーセンターで組み立てが完了すると塗装工程に移動する。塗装工程は、NUMMI時代からそのまま使用されていたものであり、トンネルを通過すると塗装が完了する。塗装完了後には最終組立ラインへと入ることになる。ここで使われているロボットはすべて日本製だ。

 最終組立ラインでは、トリムライン1で、一度取り付けたドアを外してから作業が行われる。また、隣接する形でモーターの生産なども行われるほか、サブ組立ラインでは計器パネルなどの組み立て作業も同時並行で行われ、トリムライン3で自動車本体に取り付ける。計器パネルなどはすべてこの工場内で内製されているという。また、ここでは組み込み用のパーツなどは自動搬送車を使って供給されており、その路線は自由に移動させることができるという。

 バッテリーやパワートレインなどの最も重たい部分は最後に組み込まれることになるが、ここで自動車の重量が一気に増えるため、2つのロボットを使って移動することになる。移動後、再びラインに戻され、タイヤが装着される。タイヤ装着後には、エレベータを使って、自動車が初めて地上に降ろされることになる。続けて、シートやカーペットの装着、オプションで用意される子供用のシートなどを装着。自動車に必要とされるウォッシャー液などもここで装填される。シートは、左側から運び込まれて自動車の中に設置される仕組みだという。

 最後にドアが再び取り付けられて、自動車が完成。ホイールアライメントや水圧検査を経て、工場内のテストコースで様々な走行テストを実施。時速100マイルまでの走行も行うという。

「EVは、内燃機関を持つ自動車に比べて部品の数が少ないという特徴を持つ。パワートレインは17個の部品しかない。また、EVは排出ガスがないため、工場内でのテスティングのための換気装置が不要であり、工場内ではガスの臭いがしない。モデルSとモデルXでは、6割が同じ部品を使っており、効率よく生産ができるというメリットもある」という。

 現在、テスラファクトリーでは、生産ラインおよび営業などの事務担当者などを含めて4000人が勤務。部署によって異なるものの、8時間および10時間の2交代制で生産を行っており、旺盛な受注に対応しているという。勤務前には、変更点や改善部分の情報を共有してから作業を開始する仕組みが定着しているのも特徴だ。

自動車をラインに移動させるロボット。これがウルヴァリンと呼ばれるロボット
こちらはアイスマンと呼ばれるロボット
作業は自動車がライン上を移動しながら組み立てを行う仕組みだ
作業者が部品を取る位置などに工夫を凝らしている。ちなみにボンネットに張られている紙にはオプションの内容が記載。赤いカバーは傷がつかないようにする保護カバーだという
タイヤなどが装着され、完成に近づいてきた。このあとに全量を検査して、出荷されることになる
工場内は敷地が広いため、誰もが自由に使える自転車を使って移動する人が多い
濃いグレーのなかが自転車の走行レーン。工場全体に張り巡らされている
ファクトリーツアーは専用のカートに乗って工場全体を回ることになる

 2014年9月下旬に行われた工場の改善は、フリーモントの工場を大きく進化させることになった。実際、2週間にわたる生産停止期間中の生産能力の増強は、大規模なものだったといえる。

 作業場所として、1.6km分のスペースを新たに確保するとともに、世界最大級のロボットを10台導入。116km分のイーサネットケーブルを使用したネットワーク環境を構築したという。

 コンベアーと先端ロボットを採用したパワートレイン部門では、1日に加工できるバッテリーセルの数が80万個から100万個へと増強。ホワイトボディー部門では、新たな溶接ロボットを追加したことで、アップタイムを10%改善したという。組立ラインでは13台のバッファを用意し、生産のボトルネックを防ぐという仕組みも採用した。

 赤と白の塗装もこの期間に進められ、天窓の採用、照明のLED化のほか、工場内に植物を配置して緑を増やすといったことも行われた。塗装のために4万5425Lのペンキを使用し、1万8581平方メートルのエポキシ樹脂フローリングが敷かれたという。

 最も劇的な変化を遂げたのは組立ラインだ。頭上にあった鉄や機械構造を撤去。より小さなスペースで、車を丸ごと持ち上げるロボットが稼働しやすいようにし、高い精度で操作ができるようになったという。

 このロボットは近い将来にはバッテリーパックを自動で自動車に組み込めるようになり、最も人手がかかる工程が自動化することになるという。そして新たに設置されたロボットには、映画などで人気のX-MENに登場する人物の名前がつけられているのもユニークな点だ。

 トリムラインで帯電レールから自動車をフロアに下ろすロボットはエグゼビアと呼ばれ、その後の作業で、生産ライン上に移動させるために力仕事を行うロボットにはウルヴァリン、アイスマン、ビーストという名前が付いている。また、ストームとコロッサスと呼ばれるロボットはシャーシラインの終わりで作業を行い、バルカンとハボックと呼ばれるロボットは組立作業が完了した自動車をレールに乗せ替える役割を担う。また、サンダーバードとサイクロップスという2台のロボットは、バッテリーを搭載した後の重たくなった自動車を2台が力をあわせて運ぶことになる。

「これらのロボットは我々にとってスーパーヒーローのような存在。それに見合った名前をつけた」。こうした大規模な生産能力の向上によって、現在では週1000台を生産。今後、生産設備の微調整により、生産量をさらに増加させることができるとしている。

工場内にあるフリーモントストア兼デリバリー&セールスセンター
フリーモントストア&デリバリーセンターの受付の様子
ストアではテスラグッズが購入できる。キーホルダーが売っていなかったのはテスラのこだわりか
テスラ モデルSを展示。自由に触ることができる
センター内のディスプレイでは充電ポイントが全米にあることを紹介
全米に設置されているスーパーチャージャー
今回、テスラ モデルSに試乗する機会も得た
テスラのハンドルまわり。大きなディスプレイが目につく
ディスプレイを操作してルーフを開閉
細かい設定もディスプレイから操作できる
たとえばシートのヒーターも個別に操作できる
充電ができるスーパーチャージャーの位置を地図上に表示
後方の様子もカメラの映像をディスプレイ上に表示する
トランクはかなり広い
これはフロントのトランク。ここもかなりの荷物が入る
充電している様子
足まわりの部分
テスラーのキー。といってもこれを持ち込めば自動的に始動する。トランクの場所を押すとトランクが開く仕組みだ
一般の公道を試乗しているところ。かなりの加速感がある
公道のスピード標識を認識して速度調整を行う機能も搭載している
スピードメーターの赤い表示がテスラ特有の電動パワーブレーキがかかっていることを示す

 約50万平方メートルの工場敷地は、まだ使われていない場所が多いが、現在生産している現行のモデルSの量産に加えて、今後はデュアルモーター駆動システムを搭載したモデルSの増産を加速。さらに、今年からはモデルXの量産が開始される予定であること、2017年には普及モデルであるモデル3の生産も見込まれており、ますます生産ラインが増強されるのは明らかだ。「将来的には、かつてのNUMMIで生産されていた50万台規模の能力を持つことになるだろう」と、同社では語っていた。

 また、「テスラは、昨年、EVに関する特許を公開しており、より多くのメーカーにEVを生産して欲しいと思っている。EVの拡大に向けては努力を惜しまない」と語る。自社の事業拡大に留まらず、全世界にEVを拡大していくための取り組みにも余念がないといえる。

(大河原克行)