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「神保町フリーミーティング #01 ~POTENZA RE-71R 開発者との夕べ~」開催

山野哲也選手、橋本洋平氏と開発者がRE-71Rの開発秘話や最適な使い方を紹介

2015年6月18日開催

ブリヂストン グローバルモータースポーツ推進部 部長 堀尾直孝氏

 Car Watchが主催する「神保町フリーミーティング #01 ~POTENZA RE-71R 開発者との夕べ~」が、Car Watch編集部のある神保町三井ビルディングのセミナールームで開催された。

「POTENZA RE-71R開発との夕べ」と題する今回は、まず冒頭にブリヂストン グローバルモータースポーツ推進部 部長 堀尾直孝氏による挨拶が行われたあと、ブリヂストンからRE-71Rの開発に携わった藏田崇之氏、開発ドライバーを務めた山野哲也選手に加え、Car WatchでGAZOO Racing 86/BRZレースの参戦記を連載しているモータージャーナリストの橋本洋平氏も参加する形でトークショーやプレゼンテーション、質疑応答などが行われた。

RE-71Rの開発に携わった藏田崇之氏
RE-71Rの開発ドライバーを務めた山野哲也選手
RE-71RでGAZOO Racing 86/BRZレースに参戦している橋本洋平氏
スタッフ用の席まで動員する満席状態でフリーミーティングを実施
会場では「POTENZA RE-71R」の実物やPOTENZAブランドの歴史を紹介するパネル展示、ビデオ映像などを用意
RE-71Rの構造や先代モデルからの進化ポイントなどについて詳しく解説する藏田氏

 42名の参加者を迎えて19時30分に開演したフリーミーティングは、まず藏田氏によるPOTENZA RE-71Rのプレゼンテーションから始まった。

 RE-71Rの開発コンセプトについて藏田氏は「圧倒的に速いタイヤで、あらゆる路面や環境で最大限のグリップを発揮する。そのためにはグリップ向上が必要という明確な目標を立てました。結果としてタイムアップに繋がっています」と、ハイグリップラジアルタイヤのなかでも、圧倒的に速いタイムを刻む性能を持たせることが開発のテーマであったと語った。

 実際の開発行程は、基礎開発、シミュレーション設計、ブリヂストンが開発したグリップ状況を可視化できるアルティメットアイ、実車テストという流れで進んだという。グリップ状況を可視化できるアルティメットアイでは先代モデルとの比較を行い、グリップロスが発生している部分を突き止めた。これにより、RE-71Rは「新ラウンドプロファイル」や「セブングルーブ」などの新形状とトレッドパターンを採用した。

フリーミーティングの会場で紹介されたスライド資料

 実車テストを担当した山野選手の評価は、タイヤに横力が入っている状態で縦方向に進もうとしてもしっかりとグリップし、コーナーでのステア角が少なくなっている。コーナーリング中のGとボトムスピードが高くなったため、タイムも大幅に向上していると太鼓判を押したという。

 プレゼンテーション資料も織り交ぜて藏田氏がRE-71Rの開発コンセプトを解説したあとには、テストドライバーを務めた山野選手と橋本氏、藏田氏の3人によるトークセッションに移っていった。

 山野選手は開発テストを振り返り「縦に入っている2本の溝を決めるのに相当な距離をサーキットで走り込みました。2本の溝を3本にすることや、1本にして太くするなど考え方はさまざまで、溝を入れる位置や深さについても、数mmの違いで別物のハンドリングになってしまいます。結果としてこのパターンになったのは、低速コーナーでも高速コーナーでも同じ挙動になったからです。速さを極めていったベストな縦溝だと思っています」と語る。縦溝を決めるだけでも相当なテストを繰り返し、溝を入れる位置や本数、深さなどを決定していった様子を振り返った。

展示されていたRE-71Rの実物を使い、特に力を入れて開発したというセンターにある2本の溝などについて解説を行う山野選手

 さらに山野選手は、RE-71Rのトレッドパターンの特徴でもあるセブングルーブについて「パターンに関しても私はこだわりを持っていて、相当なテストを行いました。どのタイヤでもパターンが動いてしまうのが嫌で、一般道を走っていてもパターンが動くと残念に思ってしまいます。スリックタイヤはパターンがないからブロックが動かなく、サーキット走行に向いています。なので、パターンが極力動かないことを目指しました。RE-71Rは一般道でも使われるため、ウエット性能も重視しなければなりません。サーキットでの性能と一般道での走行で最適なパターンを求めたときに生まれたのがセブングルーブでした。ブリヂストンではグリップ状況が可視化できるアルティメットアイを持っていて、これを使うことで開発がスムーズに進んだのは言うまでもありません。数多くの実走行テストとアルティメットアイによる両面での開発により、理想的なパターンが完成したと思っています」と解説。サーキット走行ではスリックタイヤに近い性能を持ち、かつ一般道でのウエット走行も十分に対応するために2本の縦溝とセブングルーブが生み出されたことになる。

 そんな先進技術のアルティメットアイと山野選手のこだわりから生み出されたRE-71Rを初めて試乗会で使ったときの印象について、橋本氏は「コースに出て行ってすぐに先代とは違うタイヤだと気づきました。RE-11Aはリアの安定性に気を使うことがありましたが、RE-71Rは同じ速度でコーナーに進入しても難なくクリアしてしまう。オーバースピードで進入してしまったときでも安心できる不安感のなさが最大の特徴だと思っています」と、安心してサーキット走行できることがRE-71Rの特徴だと話していた。

「サーキットでの性能と一般道での走行で最適なパターンを求めたときに生まれたのがセブングルーブ」と語る山野選手
「不安感のなさがRE-71Rの最大の特徴」と語る橋本氏

 開発テストを振り返ったあとには、サーキット走行で使用されることが多いRE-71Rにおけるタイムの出し方についての話題になった。フリーミーティングが開始される前に橋本氏は、GAZOO Racing 86/BRZレースで撮影した自身の車載映像を山野選手に見てもらったことを明かし、スキール音を聞いただけで山野選手がタイヤの状況を的確に判断していて驚いたと語った。

 山野選手は「橋本さんの車載映像を見て、タイヤを鳴かせすぎでタイヤにストレスをかけ過ぎていると思いました。スキール音が鳴るのはいいのですが、『すすり泣く』程度がベストで『号泣』させてはいけません。橋本さんは号泣させていたので、突っ込みすぎる傾向がありました」とコメント。

 このアドバイスを受けて橋本氏は「RE-71Rはグリップが高いので、ついコーナーへのブレーキングやコーナリングスピードを上げようと頑張ってしまいます。タイヤを鳴らせば速く走っているように感じるので、無理なストレスをかけ過ぎていたのかもしれません」と答え、最近になってタイヤに無理な負荷をかけて走るより、しっかりと緩急を付けて運転するほうがタイムアップすることを痛感したと述べている。

GAZOO Racing 86/BRZレースで撮影した橋本氏の走行風景とタイヤの使い方についてやりとりする両氏。橋本氏はこのほかにも、サーキットでタイムアタックするときのRE-71Rの適切なウォームアップ方法などについて質問。山野選手は「タイヤが一番暖まるのは縦方向の荷重」であるとアドバイスしていた
「スピード域が高くなるほど横方向のストレスを少なくするのがセオリー」とタイムアップの秘訣について解説する山野選手

 山野選手はタイムアップの秘訣について「クルマは4輪で走っているので、コーナリング中でもすべてのタイヤを使うのがよい運転です。1輪だけでスキール音が鳴るよう走らせると、ほかのタイヤが働いていません。なので、4つのタイヤをしっかりと接地させてグリップさせることが重要です。また、タイヤは転がさないといけません。横方向に無理に力を入れて倒してしまうよりも、縦方向にどうやって転がすかが肝心です。スピード域が高くなればなるほど横方向のストレスを少なくするのがセオリーで、そのときにスキール音は判断の一因になります」と解説。サーキット走行では4輪をしっかりと使うことを意識して、横方向に無理にストレスを掛けないことがタイムアップに繋がるとのことだった。

 RE-71Rの開発秘話とサーキット走行でのタイムアップの秘訣などが中心になったトークセッションの終了後には、参加者から登壇者に対する質疑応答の時間となった。

 質問には「RE-71Rが一番グリップする温度帯は何度ぐらいですか?」「RE-71Rは摩耗が進んで7分山、5分山になったときどれぐらいパフォーマンス低下しますか?」「RE-71Rと合わせるホイールのリム幅は、標準と少し引っ張るぐらいとどちらがよいですか?」といったものがあり、登壇者はそれぞれの側面から回答。

 最初の2問は山野選手から「データで見ているわけじゃなく、あくまでボクの経験上での話しですが、サーキットを走って調子がよかったときは、手で触って少し熱く感じるぐらい。体温より少し高いぐらいだと思っています。熱すぎるような、50℃とか60℃になるとグリップは下がる傾向になると思いますね」「ボクもRE-71Rでジムカーナを走っていますが、新品でも摩耗が進んでいても、まったく同じタイムだったという経験が何回もあります。感じ方は人それぞれで、試合でもニュータイヤでスタートする人と、中古タイヤを使う人と両方いますね。ボクはこのタイヤは使って摩耗していっても、極端にパフォーマンスの落ちが少ないと思っています」と回答。

 また、3問目については藏田氏が「開発は純正装着サイズで行っています」と答え、山野選手が「これも経験則ですが、RE-71Rに限らず一般論では、太いタイヤを細いリムのホイールに履かせていいことはあまりなくて、ホイールもサイズが大きくなると重くなるのでマイナスの部分もありますが、パフォーマンスだけで見ると規定内であれば太いほうがよいと思っているので、基本的にマックスのリム幅のホイールを合わせるようにしています」と補足している。

 質疑応答で予定のプログラムは終了となったが、最後に集合写真の撮影や、登壇した山野選手、橋本氏との記念撮影も行われ、第1回の神保町フリーミーティングは和気あいあいとした雰囲気のなかで無事に閉会した。

トークセッション後には質疑応答の時間を用意。ハイレベルで具体性の強い質問が多数寄せられ、登壇者も回答に力が入る。タイヤの温度についての質問で、山野選手から「サーキットでの連続走行は、レースに出ている(橋本)洋平さんから」と話題を振られ、橋本氏は「すみません、温度測ったことないんで分かりません」と会場を沸かせつつ、「(レギュレーションで)タイヤウォーマーも使えないし、測ったところで10周でレースは終わっちゃいますから。でも、気にしていませんでしたが研究してみたいと思います」とコメントした

(真鍋裕行/Photo:高橋 学)