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ブリヂストン、「春の“安全”イノベーション祭り2016」リポート(前編)
“疲れにくい”を実現した「Playz PX」を試乗で体感
(2016/4/14 16:21)
- 2016年4月9日 開催
ブリヂストンは4月9日、栃木県にあるブリヂストンプルービンググラウンドにおいて、報道陣を対象にした「ブリヂストン 春の“安全”イノベーション技術体験会2016」を開催した。このイベントでは、ブリヂストンが開発している安全にまつわる最新技術や商品を一堂に集め、それらに関わるプレゼンテーションや体感試乗などを行なう内容になっていた。
実施された内容は、まずは2月1日に発売されたばかりの新タイヤ「Playz PX」の持つ“疲れにくい”という新たな安全性能について。次に路面状態判別技術の「CAIS(Contact Area Information Sensing)」、そして超低燃費タイヤ「オロジック」についてである。
これらの内容はスライドを使っての技術説明だけでなく、テストコースでの試乗時間も用意された。また、テストコースではタイヤ溝の重要性を再認識するため、新品タイヤと溝の減ったタイヤでの制動距離比較なども行なわれ、内容は盛りだくさん。そのため今回のイベントについては2回に分けて紹介する。まずは「Playz PX」についての解説だ。
新しい安全価値「疲れにくい」とは?
この「Playz PX」には3つの特徴がある。
順番に説明していくと、まず1つ目が新しい安全価値である「疲れにくい」という部分である。ドライバー同士でよく「あのクルマは疲れない」とか、走り慣れた道なのに「このクルマだと疲れた」という会話をすることがあるが、そもそもクルマを運転するという行為はそれほどハードなことではない。しかし、実際に疲れを感じることがあり、これまではそれが明確に説明されていなかった。ところが「Playz PX」の開発では疲れの理由を探し出して特定した。それが疲れ=ストレスの蓄積という図式だ。
例えば、カーブを通過するときだけでなく、直進時にも起こるクルマのふらつきを修正するため無意識に行なっているハンドル操作や、高速道路走行時のレーンチェンジなどで起こる車線切り替え後のふらつきによる修正舵などは、知らないうちにストレスとして意識に蓄積されるのだが、これが運転時における「疲れ」の正体だったという。
そうなると疲れにくさを求めるために、ストレスという意識を明確に計測して、それが出ない乗り味を作り出すことが求められるわけだが、そこで用いられたのが慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 満倉靖恵准教授の「疲れないという指標の定量化」という研究である。
この研究では脳波を用いた感性把握を行なうのだが、そもそも脳波とは何かを説明しておこう。脳波とは頭皮表面上に観測される活動電位のことで、それを計測して周波数変換した値をいわゆる脳波と呼んでいる。参考までに書いておくと0.4~4Hzあたりがδ波、4~6Hzがθ波、7~8Hzがスローα波、9~11Hzがミッドα波、12~14Hzがファストα波、そして14~26Hzがβ波ということだ。
そしてその脳波からストレスを感じたときの状態を読み取るのだが、ここで玩具的な脳波計では「●●波が増えるとこうである」と言う感じの定義をすることもあるが、それはあくまでもエンタメ的なものであるという。そこでこの研究では、いずれかの脳波の動きを見るのではなく、すべての周波数帯の変化を見て、そこでの重要な成分を独自の数式に当てはめることで初めてストレスを定量化している。
この計測に用いられるのが満倉准教授が開発した世界初の脳波測定器「感性アナライザー」という機材。画期的な機器ながら「仰々しいものにしたくない」という考えがあったため簡易的なスタイルで完成させたが、その開発には長年かかったという。
実際に感性アナライザーを装着してみた
さて実際の実験だが、ブリヂストンのテストコースで数名の被験者に「感性アナライザー」を装着してもらい、その状態で「Playz PX」と従来品タイヤとの乗り比べを行なった。そしてそれぞれのタイヤの運転中におけるストレス値を計測するという方法だ。
ちなみにこの実験で使った「感性アナライザー」は、発表会会場にデモ機が用意されていたのでCar Watch取材班も装着させてもらった。自分の脳波というものがグラフで表示されるのは何とも不思議な感覚だが、付けたからには波形を変化させてみたい。そこで同行者に仕事的なキーワードなど精神的なプレッシャーとなる言葉を言ってもらったり、身体的な負荷をかけるため無理な身体の動きなど行なった。
するといくつかのアクションに対してタブレットに表示されるストレス値が跳ね上がるのを確認できたが、意識の上ではそれをストレスと感じていない。つまり、ストレスという現象は本来認識するのが難しいものなのかもしれない。だからこそ無意識のうちに蓄積し、気がついたころには「ドッと疲れた」という表現が合う疲労感になっているのかもしれないと感じた。
さて、話を戻すと、感性アナライザーを装着した各被験者はタイヤが異なる試乗車でテストコースを5周ずつ走行し、それぞれの脳波を比較したところ、すべての被験者において「Playz PX」を装着しているクルマのほうがストレス値が低いという結果になった。ストレスの蓄積=疲れという図式なので、ストレスが少ない「Playz PX」が疲れないタイヤであるということが実証されたということになる。
では、そのストレスを軽減させ、“疲れにくい”を実現した「Playz PX」に搭載された技術についても紹介していこう。
まずは路面との接地面であるパターン面の新デザインについては、トレッドの外側と内側で形状を変える非対称形状を採用。これは直進安定性を向上させる効果があるという。そしてカーブやレーンチェンジでのふらつきを軽減させるため、新タイヤ開発技術「ULTIMAT EYE(アルティメット アイ)」を使った走行中のトレッドの接地面を最適化する設計も盛り込まれていた。
ちなみにこのアルティメット アイとは、タイヤと路面の接地面にかかる圧力や摩擦をコンピュータで予測する技術と、精密機械によって走行時のタイヤ状況を計測する2つの技術を組み合わせたもの。これを用いることで、ハガキ1枚分の面積しかないタイヤの接地面が受ける摩擦力と圧力を最適にすることができるという。
2つ目の特徴は低燃費&摩耗ライフの両立について。「Playz PX」では耐摩耗性を高めるため、タイヤのゴムを構成する物質であるシリカを従来より微細化して原料に入れる量を増やしているのだが、シリカが一定量以上増えるとシリカ同士がぶつかり合うことでエネルギーロスが発生してしまい、それが燃費の悪化につながる傾向があったという。
そこで「Playz PX」ではシリカに加え、新たに分散性向上剤という薬品を混ぜている。その結果、シリカを増やしながらもエネルギーロスを抑え、低燃費性能を向上させることを実現した。さらに摩耗性能も従来品より10%ほど向上させつつ、ウェット性能の低下もない仕上げになっている。
3つ目は車種別専用設計を採用したところで、ラインアップはセダン・クーペ用の「Playz PX」にミニバン用の「Playz PX-RV」、そして軽・コンパクト用の「Playz PX-C」がある。
基準となるのはセダン・クーペ用の「Playz PX」で、ミニバンや軽自動車それぞれでクルマの使われ方を加味した構造を持つのが特徴だ。それについて説明していくと、まずミニバンでは車体も大きめになるし大勢で乗ることもあるので重心が高めとなる。そうなるとコーナリングやレーンチェンジでクルマがふらつくケースもある。そこでミニバン用では、OUT側のラグ溝を千鳥配置することで剛性を高めたり、IN側のブロック剛性を高めたりしてふらつきを抑えている。
つぎに軽・コンパクトカー用だが、このタイプのクルマは小回りが効くので街中で乗られることが多い。するとハンドルの据え切りや小さい回転半径で回ることも多いため、タイヤは偏摩耗しやすい状況になる。また、最近はトール系のボディ形状が好まれているの傾向にあるので、ミニバン同様にふらつきも起こりやすくなる。そこで軽・コンパクトカー用ではトレッド内側に高剛性ブロックの採用と、サイドウォールの強化といった内容が盛り込まれている。
「NEXTRY」と「Playz PX」を特設コースで試乗
このような特徴を持った「Playz PX」だが、今回はプレゼンテーションだけでなくプルービンググランド内の特設コースで試乗できる機会も設けられていたので、そこでの印象も紹介させてもらう。試乗車は現行のトヨタ自動車「プリウス」が2台。1台は「Playz PX」が装着され、もう1台はスタンダード低燃費タイヤ「NEXTRY(ネクストリー)」を装着していた。サイズは2台とも同じだ。
最初は「NEXTRY」で走る。コースはパイロンで作られたクランク路を通過後、大きなカーブがあり、最後に曲線がきつくなる。それを抜けるとスラロームという構成になっているが、比較なので車速はできるだけ出して行く方向。その条件での「NEXTRY」だが、「そこそこのペース」で走ればとくに不満は感じられないが、それ以上の速度域になるとハッキリと苦しさが出てくる。この域では少なからず緊張を感じた。
次に「Playz PX」に乗り換えたわけだが、乗り換えてすぐに違いが感じられた。足まわりのしっかり感が高まった印象で、クランクの切り返しがラク。続く速度を上げていける緩いカーブでの安定感も「NEXTRY」よりハッキリと高い。そして「NEXTRY」ではブレーキを使い減速したきつい曲線部分も、ステアリングの切り込みだけでクリア。これは「怖いけどガマンしてやってみた」というのではなくて、「安定感からのイケる感じがしたから」やったというイメージだ。
減速していない分、スラロームへの進入速度が多少上がっていたので、この区間は忙しい操作になったが破綻することなくクリアできた。試乗を本職とする人間ではないので、速度が高まってしまったスラロームではステアリング操作が遅れ気味で挙動の変化も大きかっただろうが、その状態でもタイヤからの接地感はしっかりと感じることはできたし、コース全体においても説明にあったように切り足し等の修正舵を入れることなく、ほぼ1発の切り込みで曲がれた気がする。
試乗自体は短いものだったが、たしかに「Playz PX」は安定感や安心感が高いことを体験できた。これまではその特性をただ「乗りやすい」とだけ表現していたが、感性アナライザーを使った脳波分析によって「Playz PX」の乗りやすさはストレスの軽減であり、それが疲れにくくなることにつながるという新しい視点を明確に教えてくれた機会であった。
次回は路面判定技術の「CAIS」、そして超低燃費タイヤ「オロジック」について紹介したい。