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ブリヂストン、「春の“安全”イノベーション祭り2016」リポート(後編)

路面の状況を感知するセンサー「CAIS」、超低燃費タイヤ「オロジック」について紹介

2016年4月9日 開催

 ブリヂストンは4月9日、栃木県にあるブリヂストンプルービンググラウンドにおいて、報道陣を対象にした「ブリヂストン 春の“安全”イノベーション技術体験会2016」を開催した。前編では2月に発売した新タイヤ「Playz PX」について紹介したが、本稿では後編として路面状態判別技術の「CAIS(Contact Area Information Sensing)」、超低燃費タイヤ「ologic(オロジック)」について紹介したい。

路面状態判別技術「CAIS」とは?

「CAIS」の目的

「荷重を支える」「駆動力や制動力を伝える」「路面からの衝撃をやわらげる」「方向を転換する・維持する」という重要な部分を受け持つタイヤは、“クルマの足”とも言われるものである。しかし、人間の足にあってクルマの足にないものがある。それが「感じる力」であり、もしタイヤに感じる力を持たせることができ、その感じた情報を例えばドライバーへ伝える、あるいはクルマに伝えることで安全の注意喚起や車両制御の高度化に使えないだろうかという発想から生まれたのが、路面状態判別技術の「CAIS」という技術だ。CAISはカイズと読み、これはContact Area Information Sensingからきた造語である。

 さて、具体的にタイヤに感じる力をどう持たせるかという基礎技術だが、これはシンプルにタイヤの内側にセンサーを取り付け、そのセンサーが計測したデータを有益な情報に変化するための解析処方を開発していくというもの。

 このCAISの技術については、すでにトラック用として「摩耗量推定技術」が発表されていて、これはタイヤ内部に取り付けられた加速度センサーが集める加速度信号からタイヤの摩耗量を推定するというもの。精度的にも実際の摩耗量から1mmくらいの誤差に収まるほど完成度が高いものだ。

 そして今回の「ブリヂストン 春の“安全”イノベーション技術体験会2016」では、CAISの「路面状態を判別する技術」について紹介された。システムの概要を説明すると、タイヤの内側に加速度センサーを取り付けて、そこで得たデータをセンサーと一緒に組み込んでいる無線通信機でクルマの受信機に送るという仕組み。ただ、加速度センサーからの信号は多くの情報量を持っているので、それを送るには電力が必要になる。そこで今回のCAISでは、タイヤの内側に小型の発電機をいくつか入れて、そこで作る電気でセンサーや無線通信機を動かすということも行なわれている。

 さて、この加速度センサーからのデータを元に何が判別できるのかというと、「乾燥」「半湿」「湿潤」「シャーベット」「積雪」「圧雪」「凍結」という7種類の路面状況が判別できる。この見分けについては加速度センサーの波形を数値化するという技術が使われているが、そもそも加速度からどうやって路面状況を見分けているのかという疑問があると思うので、そこを説明したい。

 CAISではタイヤの内側に加速度センサーを付けていて、これで回転方向の加速度を測っている。これは以下に掲載したイラストの写真でも分かるが、タイヤが宙に浮いた状態では加速度変化は起こらないので加速度は0となる。ところが、タイヤが路面に接地しているときは接地面にタイヤの変形が起きているので、タイヤの回転でセンサーが変形ポイントにくると、そこで回転運動にブレーキが掛かる。そして路面から離れるとまた加速するという感じで加速度に変化が出るので、センサーはその値を読み取ることができる。このときの値はタイヤの振動周波数として読み込むが、乾燥したアスファルトや濡れた路面など、路面状況ごとに周波数に特徴があるので、その波形の特徴を独自の解析技術によって数値化している。その数値をさらに独自のアルゴリズムに当てはめることで7種類の路面状況の判別を行なっている。

今回発表されたCAISは、タイヤ内部に加速度センサーと発電機を組み込んだ構成。従来のCAISはタイヤの摩耗状況を検知するものだったが、今回は路面状況を判別する機能を持っている
加速度センサーの説明。路面と接地する部分で減速Gが発生し、路面から離れると加速。これを波形に変換して路面の状況を見極めるのがCAISの技術になる
CAISは2015年冬からネクスコ・エンジニアリング北海道の道路管理で試験運用されている

 この技術は2015年の冬期からネクスコ・エンジニアリング北海道の道路管理で試験運用されている。これはスマートメンテナンスハイウェイ構想のための一環で、冬期の道路管理の最適化を目指すためのもの。

 具体的には高速道路を巡回パトロールするプローブカーにCAISのシステムを搭載し、目視の代わりにCAISで路面をセンシング。ここで得た情報はインターネット回線で管理事務所のサーバーに蓄積され、その情報を元に薬剤散布をするか、それとも除雪を優先するかといった処理方法を決定するという仕組みだ。また、100mごとに路面状況を見ているので処理が必要な区間をピンポイントで判別することも可能だ。すると融雪剤を撒くにしても必要なところに必要なぶんだけの散布で済むので、効果的なオペレーションができるようになったという。

実際にCAISを体験

 このCAISについては、テストコースでの同乗走行の機会を設けてもらったので、その動画を掲載しておく。試乗車は日産自動車「エクストレイル」(先代)で、搭載しているシステムはネクスコ・エンジニアリング北海道の道路管理で試験運用されたプローブカーと同等のものだという。右フロントタイヤにCAISのセンサーと発電機が仕込まれていて、右リアタイヤの後ろには路面判別の補助として、路面に載った微妙の水を巻き上げる音を集音するためのマイクも付けられている。室内には路面判別用のモニターが装着されていて、ドライからウェット路面に変わったときに表示も変わるので、そこも確認していただきたい。

路面状況判別 CAISシステム装着車両による走行デモンストレーション(1分8秒)
この技術は2015年の冬期からネクスコ・エンジニアリング北海道の道路管理で試験運用されている。センサーを積んだプローブカーが得た路面状況はデータ化されてサーバーにアップロード。それを元に的確な処理を行なえるようになる
CAISは安全運転に活かせる技術。走行中の路面状況をタイヤから教えてもらうことでドライバーに注意を促したり、その情報を車両制御システムが使用すればより高度な制御が可能になる。また、情報を共有することで広範囲にわたる路面状況を知ることができる
試乗車はネクスコ・エンジニアリング北海道で使われているのと同じシステムを搭載している
試乗車はエクストレイル。右前タイヤに加速度センサーを入れている。センサーでは拾えない軽い水濡れはリアに付けたマイクで水の音を計測。極寒地では薄い水の層がアイスバーンになるので、この計測は重要なものだ
計測値は室内のモニターで確認できる。リアには解析器を積んでいる。計測は100mごとに行なわれる

 現状、CAISは限定されたところでのみ使用されているが、ブリヂストンではCAISのメリットをもっと幅広い層に使ってもらうことを望んでいるという。タイヤをスマートセンサー化することで、ドライブ中に「危ない路面を走っています」という情報をドライバーに伝えたり、その情報を車両制御システム側に発信したりすることで、急制動を行なう場面で路面の状況にあったブレーキの効かせ方をするといったことも、CAISを使えば細かく設定できるようになるだろう。ちなみに現状のABSは、最初の制動をあえて強めにすることで路面の状況を読み、以後の制動力の掛け具合を調整しているのだが、CAISを使えば最初から適切な効かせ具合で制動に移れるので、現状のABSより制動距離が短くなることも予想される。

 さらにこの情報をインターネットを通じて多くのクルマと共有できるようになれば、進路上の道路状況を先読みできることになるので、ブリヂストンでは現状よりもより安全なクルマ生活が行なえるようになることを期待しているとのことだった。

次世代低燃費タイヤ技術「オロジック」を解説

オロジックについて

 次は現在開発中の次世代低燃費タイヤ技術の「ologic(オロジック)」について紹介しよう。オロジックの研究はブリヂストンの中央研究所 研究第2部が行なっている。

 このオロジックではいくつかのコンセプトを持っており、まずは「幅を狭くしよう」というものがある。ただし、幅を狭くしただけではただの細いタイヤになってしまうので、「径も上げていく」こと、さらに「内圧を高めにしよう」という3つのコンセプトがあり、これらを活かしてタイヤの性能を上げていこうというもの。とくに環境性能を向上させて省燃費化に貢献すること、そして低燃費化と安全性能を両立させたいという考えがこめられているということだ。

 低燃費化に関係する要因は、主に「タイヤの転がり抵抗」「クルマの空気抵抗」「クルマの重量」が挙げられるが、日本と欧州ではその重要度の割合が異なっていて、走行の平均速度が高い欧州ではタイヤの空気抵抗の軽減を意識する割合が多いという。タイヤの空気抵抗を軽減させることができればより省燃費化が図れるわけで、そこでオロジックの特徴である細身のスタイルが生まれたのだ。

 しかし、目指すのは省燃費化だけでなく安全性を向上させることも含んでいるので、オロジックでは高内圧との相乗効果を発揮できる最適サイズの提案と、ブリヂストン独自の構造、材料最適化技術も組み合わせ、従来のタイヤと一線を画す環境性能を実現する新概念の次世代タイヤを作りあげている。また、通常はクルマのことを十分考慮しながらタイヤの開発をしていくわけだが、オロジックではクルマへの装着やマッチングなどは一旦置いておき、「タイヤ単体で考えたらどういうものがよいのか?」という概念からスタートしている。

 そんなオロジックに搭載された技術についてだが、まずは転がり抵抗軽減についての考え方から解説する。タイヤの転がり抵抗は、タイヤの質量やゴムのボリュームといったところが大きく関係しているが、タイヤの質量では主に路面と接するトレッド部分でエネルギーのロスを生む。従来ではこのロスを減らすために材料を変えたり、ゴム自体を減らしたりといったことが行なわれてきたが、一般的なタイヤでこれらのパラメーターを変えていくと、ブレーキ性能やグリップ力の低下が見受けられたという。

 そこでオロジックでは「タイヤの変形」という部分に着目。径の大きなタイヤの方が路面との接地面でクルマの荷重を支える際の変形度合いが減り、さらにタイヤ幅が狭いので抵抗が減るということが分かった。

次世代低燃費タイヤ技術のオロジックは、タイヤ単体で省燃費化のために何ができるか、という発想から生まれたもの。その答えが幅が狭く径が大きいというスタイル

 次にサイズと内圧との相乗効果を使った転がり抵抗の技術について。オロジックでは径を大きくしつつ偏平率を低くしている。そして転がり抵抗軽減のためにはタイヤを丸く保つことが非常に大切になるそうだが、この丸さを保つという面での究極の姿が鉄道の車輪になり、鉄製でたわみがないので転がり抵抗は非常に少ないものになっている。しかし、クルマのタイヤでは乗り心地の確保、カーブを曲がるためにゴムを使っていて、ある程度の変形も必要になる。その変形を適切なところで抑えることで転がり抵抗は下がり、グリップも発揮することができる。そして前出のようにタイヤ幅を狭くすることで転がり抵抗軽減に貢献している。また、幅が狭ければ空気抵抗も減るわけだが、この空気抵抗は速度の2乗に比例するということが分かっているので、スピードが高まるほど抵抗は増大する。そのため、空気抵抗を下げることは転がり抵抗を下げること以上の効果があるといわれている。

 また、タイヤが多少細くなったといっても全体の面積でいえば大きな影響はないそうで、断面積で言えば1%にも満たない変化になる。では、この技術の効果はないのかというとそうではなく、とくにクルマの後方に発生するドラッグが軽減されることが効果につながっているとのこと。ちなみにタイヤ幅ごとの違いを見るため、155/55 R19と205/60 R18をそれぞれ履き、同じコース、同じクルマを使って速度を120km/hまで上げたあとギヤをニュートラルに入れ、0km/hになるまで惰性で走らせる比較テストを行なったところ、155/55 R19のほうが車速の落ち具合や止まるまでの距離が伸びている結果が出ている。

 次に安全性能に関わる部分としてウェット性能についても紹介。オロジックはタイヤ幅が細いので、水の上を船のように切り裂いて通っていく特徴があり、それだけにトレッド面にある溝の堆積を減らすことができるという特徴を持っている。溝が減らせるとタイヤの接地面が増えるので、曲がることや止まる性能の向上にもつながっているということだった。

転がり抵抗の軽減と空気抵抗軽減の方法と効果をまとめたもの
ウェットグリップやハンドリングのよさなど安全に繋がる部分もしっかり考えてある
オロジックを履けるタイヤハウス形状を持つクルマが増えてくれば、このタイヤが主流になっていくのかもしれない

上々なフィーリングのオロジック

オロジック装着車(上)と非装着車(下)でその違いを体感

 さて、このオロジックもテストコースで試乗することができたので、その印象を書いておこう。165/60 R19サイズのオロジックと、比較用として185/65 R15サイズのタイヤを履く日産のEV(電気自動車)「リーフ」でテストした。

 コースはアップダウンのある峠道っぽいステージ。比較タイヤとの違いでいちばん最初に感じたのは転がり抵抗が少ないことで、スロットルをOFFにした際の速度低下が明らかに少なかった。そしてカーブでのフィーリングはというと、ハンドルを90度以上切り込むようなところをあまり減速せずに曲がってみたのだが、腰砕けになる感じがないどころかハンドルから受ける印象はかなりしっかりしたものだった。コースにはS字コーナーも用意されており、ここの切り返しもハンドルの切り込みとノーズの回頭性に違和感はなく、いたって素直なフィーリングで抜けることができた。

オロジックのルックスはかなり特殊。外径が大きいのでタイヤハウス形状やサス形状次第で履ける・履けないが決まる。タイヤが細い分、水の影響を受けにくく、結果的に溝を減らすこともできている

 イベント当日の10時ごろからはじまった「ブリヂストン 春の“安全”イノベーション技術体験会2016」は、最後のオロジックの試乗が終わるころには15時を過ぎていたが、時間の長さが気にならないほど興味深い内容の1日だった。クルマに関わる技術の進化は各分野でどんどん進んでおり、新技術の情報に敏感なCar Watch読者の方にはタイヤの進化に関しても今まで以上に注目していただきたい。

デモンストレーションの1つとして、溝ありタイヤと溝なしタイヤのウェット路面での制動力比較が行なわれた。こちらは溝のあるタイヤを履いたテスト車。かなり短い距離で止まっている
こちらは溝なしタイヤ。テスト用に機械で溝を減らしたものを履く。溝がないとやはりなかなか止まれないことが分かる
ウェット路面で80km/hからの制動テストを実施(22秒)

(深田昌之/Movie:石岡宣慶)