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三菱電機、「クラス世界最小のEV用モーター」などを公開

「2013年度研究開発成果披露会」を開催

出力60kWのモーターとして世界最小の「EVモータードライブシステム」
2014年2月13日開催

 三菱電機は2月13日、2013年度の研究開発成果披露会を三菱電機本社で開催した。研究開発成果披露会は当該年度の研究成果を発表するために同社が毎年開催しているもので、今年で31回目の開催となる。このなかで、60kWクラスとして世界最小のEV用モーターなどを公開した。

三菱電機 代表執行役 執行役社長の山西健一郎氏

 冒頭では三菱電機 代表執行役 執行役社長の山西健一郎氏が挨拶し、「三菱電機では強い事業をより強くするためのVI戦略、強い事業を核とするソリューション事業を強化している。先日の第3四半期決算も好調で、連結売上げ高4兆円も視野に入ってきた」と好調な業績を強調。2013年に開催が決定した2020年東京オリンピックの年は、三菱電機の創業100周年でもあるとし、「2014年は100周年に向けて行動を開始する年として位置付け、さらなる研究開発へ挑戦したい」ともコメントした。

 会場では、クラス世界最小サイズのEVモーターや準天頂衛星システムなど、同社が研究開発してきた10点の開発成果を展示し、一部のデモンストレーションなども行われた。そのなかからいくつかをピックアップしてリポートする。

「EV用モータードライブシステム」

 出力60kWのモーターとして世界最小という「EV用モータードライブシステム」は、フルSiC(Silicon Carbide)化されたインバーターをモーターと同軸線上に一体化することで小型化を実現したEV用モーター。2013年3月に試作機が発表されていたもので、当時は出力70kWとされていた。従来のSiインバーターを使ったタイプではインバーターが別ユニットで大型のものが多かったが、これをフルSiC化してモーターに内蔵することで省スペース化している。フルSiC化によって耐圧絶縁領域が薄くなったことで抵抗値も大幅に低下し、電力損失も低減された。また、水冷式の冷却システムを筐体外周部に内蔵し、インバーターとモーターの冷却器を一体化したことで冷却性能を向上させている。2018年をめどに事業化する予定。

以前にモーターショーで展示されたSiインバーターモーター(右)とのサイズ比較
SiCデバイスによる損失の低減
内部構造
水冷システムは筐体外周部に内蔵。インバーターをモーターと同軸線上に一体化している

「準天頂衛星システムを用いたセンチメータ級測位技術」

赤いマーカーが準天頂衛星、青いマーカーがGPSのみの測位結果

「準天頂衛星システムを用いたセンチメータ級測位技術」の展示では、準天頂衛星を使った測位結果と、GPSのみを使った測位結果の誤差を実寸大で展示した。写真の赤いマーカーが準天頂衛星の測位結果で、青いマーカーがGPSのみの測位結果。赤いマーカーが中央にセンチメータ単位で収束してるのに対し、青いマーカーはメートル単位で周囲に分散しているのが分かる。

 準天頂衛星を使ったセンチメータ級測位は、まず通常のGPSから得た信号を日本全国1000カ所に設置された地上の電子基準点で受信し、電離層や大気の影響などによる誤差を修正する。誤差を修正したデータは1/1000にデータ量が圧縮され、センチメータ級測位補強情報として準天頂衛星に送信。準天頂衛星はその情報を地上の利用者に送信することで精度の高い位置情報を配信できるというしくみだ。

 実際に高速道路を走る実証実験では、センチメータ級測位ではクルマが車線変更した場合も正確にトレースするが、GPSのみの場合は車線変更程度の位置情報の違いはほとんどトレースできない。また、一見直線に見えてもときどき道路からはみ出した座標になってしまう場合がある。冒頭の実寸大展示を見ればその違いもイメージしやすいだろう。

 現在打ち上げられている準天頂衛星は「みちびき」1機のみで、この状態では24時間のうち8時間しか利用できない。これを2017年までに4機体制とすることで、24時間運用を可能にする計画となっている。

センチメータ級測位結果とGPSのみをつかった測位結果の実寸大展示
準天頂衛星「みちびき」の模型
「みちびき」の軌道イメージ
準天頂衛星システムの利用イメージ

 また、衛星などで使われている複合材料を民生品に展開するという試みについても展示された。衛星で使われる軽量・高強度な複合素材であるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を民生品に利用するためには、生産性向上や難燃性の付加といった課題があったが、難燃性を付加した樹脂を炭素繊維にしみこませ、成型まで行えるという「真空含浸成形(VaRTM:バータム)」法を開発して量産性を高めた。2014年度には超高速エレベーターのフレームや産業用換気扇への適用を実現するという。

高速エレベーター用のCFRP製ガイドカバー(試作品)
鉄道車両空調機用CFRP製カバー
鉄道車両空調用の金属ファン。重量は9.6kg
鉄道車両空調用のCFRP製ファン。重量は5.1kgに軽減

「スマートエアコーティング」

「スマートエアコーティング」は、ほこりなどの乾燥した汚れだけでなく、水分や氷などの付着も抑えることができるというコーティング技術。表面にマイクロメートル単位の凹凸を作ることで空気の膜を作り、この上にナノメートルレベルの超撥水材料を組み合わせることで汚れを弾くというしくみ。金属やプラスチックなどさまざまな素材に対して柔軟にコーティングできることも特徴で、家電製品や各種アンテナ類、屋外設備などへの展開が期待されている。雪や泥をはじくという点でクルマのボディーへの加工を期待したいところだが、加工時に凹凸を作り出して利用する性質上、磨いて凹凸がなくなってしまうと機能が失われてしまうため、現時点では難しいそうだ。ただ、リアビューカメラのレンズ表面などに加工する用途などには使えるかもしれないとのこと。

右端がスマートエアコーティングによるもの。まったく水が付着していない
スマートエアコーティングを施したさまざまな素材の上に水滴を垂らすデモ
編み目上の素材の上でも撥水作用によって水滴が転がるように滑っていく

「パルスCO2レーザーを使った微細加工技術」

「パルスCO2レーザーを使った微細加工技術」は、半導体分野で実用化が期待されているガラス回路基板を実現させるため、ガラス板に微細な穴開け加工を行える技術。パルスCO2レーザーを使い、世界最小となる直径25マイクロメートルの貫通穴を毎秒200個開けることができる。この速度は現状でも十分生産ラインに乗せることができる速度だという。現在は研究開発の段階だが、今後は基板メーカーや材料メーカーらと連携して実用化を目指す。

25マイクロメートルの穴が開けられたガラス基板のサンプル
ガラス板を穴開けすることでカットしたサンプル。線状にカットするのではなく多数の小さな穴を繋げていってカットすることで、ガラスへの熱などによる影響を低減させる

「5GHz帯高効率高出力GaNデバイス」

 5GHz帯半導体デバイスとして世界最高出力となる「GaNデバイス」は、Gallium Nitride(窒化ガリウム:GaN)を使うことで250Wの出力電力を実現したもの。電力効率は56%。従来品の60Wに対して約4倍の出力を持ち、増幅器サイズの小型化が可能になる。現在、真空管ベースの電子管が使われている5GHz帯気象レーダーを半導体増幅機に変換する用途に期待されているという。また、コンパクトで消費電力が低いことから小型の無人機用のレーダーや、太陽電池と組み合わせて災害などで停電した場合でも運用可能な携帯基地局での利用なども視野に入れている。

「高周波GaNデバイス」
現在の気象レーダーに使われている電子管の写真。真空管が使われているためメンテナンスに手間がかかる

(清宮信志)