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コンチネンタル・オートモーティブ、「TechRide2014」で自動運転技術を披露

日本国内での公道実験を控えた自動運転技術の完成度を実感

「TechRide2014」では日本での公道実験を控えた自動運転技術の高い完成度が大きなトピック
2014年10月2日開催

千葉県旭市 コンチネンタル・オートモーティブテストコース

 グローバル・オートモーティブ・サプライヤーのコンチネンタル・オートモーティブは10月2日、開発中の自動運転技術の公開実験である「TechRide2014」を開催した。会場は千葉県旭市にある同社のテストコースが使用された。

 コンチネンタル・オートモーティブはこれまでも自動運転技術の開発を進めており、アメリカのネバダ州では州の自動車登録免許管理局から自動運転の承認を取得。すでに公道での実験走行も行っている。そして2014年になって同社の自動運転実験車両は日本のナンバープレートも取得し、いよいよ日本の公道での走行実験が開始される予定だ。今回のTechRideはその直前の開催だけに、コンチネンタル・オートモーティブが誇る自動運転技術の完成度に期待が集まった。

まずは実用化に向けた同社のビジョンと日本での実証実験について、コンチネンタル・オートモーティブのクリストフ・ハゲドーン氏より説明された

 さて、この自動運転という呼び名についてだが、名前から想像すると完全無人の状態でも自動的に走行する車両を思い浮かべるかもしれないが、コンチネンタル・オートモーティブの自動運転技術はドライバーが乗り込むことが前提。通常の運転と同様にシートに座って運転できる姿勢を取り、その状態で自動運転している車両をモニターすることを想定して設計されている。自動運転に関する具体的な道路法規はまだないが、安全面から考えても通常の乗車と同様の運転姿勢を取ることが現状では最適と言えるだろう。

 ちなみに、コンチネンタル・オートモーティブがドイツ、中国、アメリカ、そして日本で行った運転環境に対するアンケートでは、日本人ドライバーの多くが渋滞や混雑した道路での走行にストレスを感じているという結果になったが、コンチネンタル・オートモーティブが開発している自動運転技術は、まさにそのストレスからドライバーを解放してくれる技術でもある。

 肝心の自動運転の内容だが、現在できるのは「今、生産されているセンサーを使用して、それらが集めた情報を自動運転用のロジックが組み込まれたECUで処理。その指示によってさまざまな交通状況に対応して運転者の運転支援を行うもの」である。そのため、自動運転の実験車両には「短距離レーダーセンサー」と「長距離レーダーセンサー」、それに「ステレオカメラ」が装着され、物体検知、歩行者検知、道路標識などの認識を行う。これによって通常走行以外でも渋滞時の運転支援などが行えるようになっている。

 こういった動作では集めたデータの内容が多岐に渡り、しかも情報量が多いほうがより精密な対応ができるので、データ収集に関してはこれで十分ということはなく、これからも継続的に続けていくとのこと。そしてその実験をテストコースではなく、公道で行うことの理由についても説明された。そもそもテストコースでの実験というのは、エンジニアがあらかじめ想定した項目を検証するための内容なので、そこに予定外のできごとは存在しない。しかし、実際の公道では予測できないことも起きるので、それに対応できなければ安全な自動運転の実現は不可能。そのために公道での実験は絶対に必要との説明だった。

自動運転に対する課題とその解決策については、コンチネンタル・オートモーティブの円満字大輔氏が解説。安全で効率的な自動運転を実現するにはITとの協働が必要になるとのこと

 ただ、いきなり複雑な自動運転は無理なので、まずはネバダ州の広大な土地で実験し、次に行う日本での走行実験も交通量が少ない北海道からスタート。続いてより複雑な走行条件のデータを取るために、東北道や東名高速に舞台を移し、さらにもっと難易度の高い都市部へと進んでいくという順序になっている。公道での実験だけに、Car Watch読者がこの自動運転実験車両を見かけることもあるかもしれない。マンガやSFの世界のできごとのような自動運転技術が、目の前で走行している姿は刺激的なことだろう。

 そしてこの技術に続いて、2018年には「パーキングコンパニオン」の実用化を目指す。このパーキングコンパニオンとは「ドライバーがいなくても自動駐車を行う」という機能で、自宅の駐車場はもちろん、外出先のパーキングスペースにも正確に駐車できるものである。同時に渋滞中などに前方のクルマに合わせて自動的に運転する「ロースピードコンパニオン」も実現する予定だ。さらに2020年には「クルージングショーファー」という50~80km/h程度の速域の自動運転を可能とし、2022年以降は高速道路上のレーンチェンジなどを含めた長距離自動運転を行う「ハイウェイショーファー」の実現を目指すというプランが組まれている。

 このような自動運転を可能にするためにはクルマに装備されたセンサーの性能だけではなく、広範囲にわたる情報を常時取得することが不可欠になる。それは走行中のクルマが集めた情報の共有や、渋滞状況などのコンテンツ、進行方向にある規制などの道路状況、そして精密な地図情報などだが、自動運転を安全に行えるレベルとなると膨大なデータのやり取りが必要。そこでコンチネンタル・オートモーティブはIT業界との協力体制を整え、自動運転に必要な情報が提供される環境を用意することも課題としている。このシステムのパートナーとして、CISCOがデータの圧縮とセキュリティを担当。リアルタイムで集まるビッグデータの解析をIBM、そしてhereが高精度なクラウドベースと地図データを受け持つ。

自動運転の実現は交通事故を減らし、効率的なドライビングによる燃費の向上なども狙えるとのこと。ドライバーの負担を軽減させるだけではない多彩なメリットが生まれるという
コンチネンタル・オートモーティブの開発する自動運転技術では、CISCO、IBM、hereとの協働体制で進行する。自動車の新しいネットワーク環境も同時に作り上げるとのことだ

 このような感じで、長期間に渡り、しかも多方面との協働も必要になる大がかりな仕組みになるのだが、そこまでして実現を目指すのはただ技術の進化を誇示するためではない。クルマ社会は事故のリスクと切り離せない関係にあるが、交通事故の原因の90%は人間の操作ミスによって起きているというデータがある。それなら高度な自動運転が実用されれば事故自体が激減する可能性が見えてくるのだ。また、燃費に関してもドライバーの操作方法によってそのよしあしに差が生まれてしまうので、そこも自動運転で平均化が図れるというものである。

 コンチネンタル・オートモーティブが作る自動運転は、この先どんなに進化してもドライバーとクルマとの関わり合いがなくなることはないという。そもそも自動運転技術はその機能を使用せずに走行することも可能で、ドライバーの意図やドライバーの状態を考慮して情報を提供していくシステムの搭載により、運転する楽しさも感じることができることを目指している。この一環として、かなり先の話になるが、ITとの連携などで流れてくる膨大な情報のなかから、そのときに必要なものだけ選び出し、それをHUD(ヘッドアップディスプレイ)で表示するという技術も紹介された。

 しかも、現在コンチネンタル・オートモーティブで開発しているHUD技術では、情報を大きく表示するだけではなく、表示に奥行き感を持たせるものとなっている。これによって、例えば100m先にある目標物に対して、バーチャルな表示内容がまるで重なって見えるといった「拡張現実感」と呼ぶ情報の呈示方法を開発している。さらに今後実用化が進むであろう曲面で使える液晶ディスプレイを採用することで、ダッシュボードなど好きなところに情報が表示できるようになり、表示に使える面積も格段に広くなるので情報の量や表示サイズの選択も自由度が上がる。こうすることで、クルマのなかが効果的かつ楽しさもある空間になるので、クルマに乗るということ自体が現在とは違った意味でも楽しめるものになってくるだろう。

「ホリスティックHMI」というシステムも開発中。クルマとドライバーの関わり合いは自動運転技術が進化しても必要で、だからこそドライバーの状態や考えている意図、個人の嗜好などを反映できるシステムが必要になるという

公道実験がスタートする自動運転車両やすでに市販されている先進技術を紹介

自動運転技術を搭載したフォルクスワーゲン パサート

 ハゲドーン氏と円満字氏の説明を受けたあと、いよいよテストコースに移動して実験車両の試乗になったが、ここでは自動運転車両以外にも、コンチネンタル・オートモーティブが開発したさまざまな最新システムを搭載する車両が用意されていた。スケジュールの都合から、各車両の試乗は短時間で運転席以外の同乗のみとなってしまったが、特徴は十分に体感できたのでそれぞれ紹介していこう。

 まずはメインとなる自動運転。実験車両はフォルクスワーゲン パサートで、今回のメニューではドライバーは乗車していても、ステアリングからは手を離した状態が基本。この状態で進路上にある障害物の回避と工事区間を想定した規制線内に沿った自動車線変更などを行った。

 障害物回避に関しては、公道上でもよく目にする停車車両を避ける動作を実証。さらに今回はその車両を避けたあと、連続して違う障害物がある想定になっていた。このシチュエーションは従来のシステムでは検知の死角に入ってしまいスムーズな回避は難しかったところだが、最新のレーダー&カメラの組み合わせによってその死角をなくし、より高度な回避まで可能になったことが紹介された。そのあとは、ちょうどクルマ1台分の車幅で、なおかつステアリング操作が必要な車線規制に設定された区間の自動運転となったが、こちらもスムーズに通過。この区間の通過速度は約50km/hというスピードだったが、その速度域でも狭いレーンを正確に走れる技術は、十分に実用域にあると感じた。

規制線内の通過デモ。パイロンや壁、ブロックなどの認識も正確で、公道実験でも十分安全に走れるだろうと感じるレベル。テストコースでの実証段階を終え、あとは経験値と呼べる走行状況のデータを集めていくことが重要になる

 次は歩行者検知による緊急自動ブレーキ機能。走行している車両の直前を横断するダミー人形を検知して、自動で急制動を掛けるというデモだ。低速域でのテストだが、歩行者の飛び出しを想定しているので、ダミー人形は車内からの目線では本当に直前に、しかもそれなりに急に飛び出してくる。そんなダミー人形に接触することなく止まる見事な反応の早さを体感した。

 続いては短距離レーダーを活用した技術。見とおしのわるい場所での発進では、死角から接近してくるクルマや歩行者の発見が遅れたり、気がつかなかったりする危険性もあるが、その状況で短距離レーダーが見えない移動物体を検知して、ブザー音や警告表示で知らせてくれるというもの。レーダーは本来、人のような反射波が得にくいものは捉えるのが苦手とされていたが、実験では歩行者もしっかり検知していた。これは見とおしがよくない狭い道路や駐車場から出るときなどに非常に役立つ機能なので、すぐにでも実用化して欲しいと感じる技術だった。

駐車スペースからの後退出庫時に両サイドから接近する車両や歩行者などを検知する技術はすでにいくつかのニューモデルに搭載されて市販化されているが、今回のデモでは車両前方の死角をサーチするレーダーを搭載。これがあれば出会い頭の事故は大幅に減るだろう
最新の自動ブレーキ用レーザー装置の作動状況を可視化した展示。レーザーは3系統あり、センターは最も遠いところを照射。ただし、対象エリアは狭くなるので、2つ目は射程は短くなるが測定範囲を広げ、3つ目は広さを重視した照射という具合に組み合わせる。また、この反射波は対象の硬さも見ていて、反射によって対象が飛んできた紙などの柔らかい物体で自動ブレーキを作動させる必要がない場合、検知してもスルーする設定も組み込まれている
渋滞時などの低速走行中に、前方の走行車をレーザー照射でロックオンし、自動で追尾するデモンストレーションも体験。前のクルマが蛇行したり複雑な動きをしても、しっかり追尾する精度を披露した
ダイヤフラムの代わりにモーターを採用したマスターバックの「MKC1」。ポンピングスピードや効かせ方がより早く、正確に行えるようになる。これによって制動Gも高くなり、制動距離が短くなる

 EuroNCAPに対応するためのブレーキシステムの体験デモも行われた。このシステムの要はブレーキブースターにあり、従来のABSはマスターバックのダイヤフラムを高速で作動させてマスターシリンダーのロッドを動かしていたが、最新型ではダイヤフラムの代わりにモーターでロッドを直接駆動する「MKC1」というマスターシリンダーユニットを採用。モーター駆動なので従来より高速化が可能で、なおかつ繊細に制御できることから、ABSによる制動距離がさらに短くなっている。

 また、安全性を向上させる技術以外にも、メルセデス・ベンツの最新車両に採用された使い勝手や乗り心地を高める2つの技術についても紹介された。Sクラスに搭載されている技術は、コーナーリング中のGに合わせてシートのサイドサポートが自動で変化する機能。これによって横Gを受けてもドライバーが自分で踏ん張る必要が減り、長距離ドライブ時の疲労が軽減されるという。

 Cクラスに搭載されているのは、タッチパッドでのインターフェイス操作機能。この操作に関しては指先で文字を書く動作で文字入力が可能だったり、カーソル移動や画面切り替えがスマートフォンのように画面上の指先の動きで操作できる。慣れてしまえば手元を見なくても各種インターフェイスの操作が可能になる装備だ。

サイドサポートのホールド性が可変するだけでなく、マッサージ機能も備えるSクラスのシート。この機能もコンチネンタル・オートモーティブが提供している技術
Cクラスにはタッチパッドが採用された。パッドを指でなぞって日本語の文字入力も可能。カーナビの検索時などに非常に便利な機能だろう

 以上のような先端技術を公開したこのTechRide2014。紹介された多数の技術を体感した印象はと言えば、これからのクルマが「情報網のなかで動く乗り物」へと進化を続けていると明確に感じた。こういった自動運転をはじめとする運転補助機能が高度になっていくと、クルマに乗るという行為自体に現在とは別の意味が追加されるだろう。

 それをどう受け取るかは人それぞれだが、将来的に「クルマがそうなった」時代なら、生活に関わるほかの製品も同様に進化を遂げているはず。クルマだけが飛び抜けて進んでいる存在でなければ、ひょっとするとそれほど違和感がないのかもしれない。とにかく、技術というものは進化する方向にしか進まないので、時代ごとの先進技術の固まりと言えるクルマが最新技術を手に入れるのは当然のこと。クルマ好きならそんな進化をワクワクした気持ちで迎えたいところだ。

(深田昌之)