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コンチネンタル、自動運転技術の進化を紹介する「TechRide2015」開催
交通事故ゼロを目指すための新技術について見る、聞く、そして乗る
(2015/9/8 00:00)
- 2015年9月3日開催
コンチネンタル・オートモーティブ・ジャパンは9月3日、千葉県旭市にある同社テストコースでメディア試乗会「TechRide2015」を開催した。
この催しは、同社が開発中の高度運転支援システムや自動運転などについての技術解説、さらに体験試乗を提供する場だ。この日はメディア関係者が対象だったが、別スケジュールで大学教授、学生、政府関係者などに向けても開催しているという。
まずはコンチネンタル・オートモーティブ・ジャパン 代表のクリストフ・ハゲドーン氏から、コンチネンタル・コーポレーションの2014年概要について説明が行われた。このなかで強調されたのが研究開発について。
現在、コンチネンタル・コーポレーションでは研究開発を行う拠点を世界27カ国 127拠点に展開しており、合計で約2万3000人のエンジニアが勤務しているとのこと。コンチネンタル・コーポレーションの全従業員数が約20万人という発表なので、なんと10分の1を超える人員をエンジニアが占めている。そのエンジニアのうち約1万人が自動車用ソフトウェアの開発に携わっているという。
これはモビリティ社会が「完全自動運転」に向かっていく流れに対応する取り組みで、自社のソフトウェア開発技術をさらに磨き上げ、未来に向けて高度なソフトウェアを提供していくのが目標であると説明された。また、コンチネンタル・オートモーティブ・ジャパンでは新しく愛知県豊田市にエンジニアリングセンターを設立。人員も増やし、成長する日本の自動車産業への貢献度をさらに高めていくということだった。
クルマに乗るときは交通事故のリスクがつきまとうもの。その事故による被害を軽減するために衝突安全評価の基準が定められているが、コンチネンタルでは「交通事故の被害を軽減することより、事故そのものを防止する技術のほうがすべてのドライバーにとって有益である」という考えから、現在では予防安全技術に注目。それがレーダーやカメラなどの「環境認識センサー」を搭載した「事故回避支援システム」で、これらはJNCAP(Japan New Car Assessment Program)やユーロNCAP(European New Car Assessment Programme)などが行っている新車評価プロセスにも沿ったものである。将来的には、JNCAPで5つ星評価を獲得するためには、事故回避用の安全運転支援技術の搭載が不可欠になると言われている。
ただ、高い評価を得るためには1種類のセンサーだけを搭載した仕様では達成が困難で、例えばカメラの場合は露出アンダー、及びオーバーの状態や急激な明るさの変化などによって物体の確実な検知が難しくなる。ではレーダーはどうかというと、このシステムは基本的に可視性条件に左右されることはないが、センサーのビューフィールドに非常に多くの物体を検知したり、複雑な反射があった場合に、その情報から重要度を判別することが難しくなる。このように各センサーごとの弱点を補うため、複数のセンサーを組み合わせて標準搭載することが求められるのだ。
実際にユーロNCAPのロードマップには「2018年以降、5つ星評価を得るためにはさらに高いレベルの衝突安全性能を実証する必要があり、これを達成するにはマルチセンサーによるソリューションが必要になる」と明示されている。
コンチネンタルのシャシー&セーフティ部門には、交通事故ゼロを目指す「VisionZero」というスローガンがある。そもそも交通事故に至る原因の多くは人間の認知ミス、判断ミス、操作ミスによるものなので、事故をなくすためにはシステムや技術でドライバーをカバーしていくことが有効となる。この完成形ともいえる技術こそ自動運転であり、コンチネンタルは世界から交通事故をなくすために自動運転の実現を目指しているとのことだった。
その話のあとでスライドに映し出されたのは、一筆書きで描かれた3つのアイコン。絵柄はまず目を表現する「Sense」、頭脳の絵の「Plan」、そしてペダル操作する足で表す「Act」となっており、シャシー&セーフティ部門が手がけるさまざまな技術や製品を連携させていくことを示している。Senseとはカメラセンサー、短距離・中距離レーダー、サラウンドビューソリューションのことになる。PlanはSenseで集めた情報を「シャシー・ドメイン・コントロール・ユニット」(CDCU)や「セーフティ・ドメイン・コントロール・ユニット」(SDCU)と呼ばれる電子制御ユニットがどう対応するかを示し、Actでは車両の操作にシステムが直接介入して操作することを表している。
次に紹介されたのは「ホリスティックHMI」という項目について。呼び名から内容を想像しにくいと思うので簡単に言い換えると、クルマの運転に関わる操作、状況把握、求められるニーズなど多くの要件をまとめた包括的(ホリスティック)な情報を、クルマをとおしてドライバーに伝えて行く手段(HMI:ヒューマン・マシン・ インターフェイス)のことだ。
ただし、走行中に発生する情報は数多く、これを単純に車内のモニターに羅列するだけでは意味がない。仮にドライバーから不要な情報が多いと判断されれば、情報がすべて無視されることもあるだろう。そこで状況に応じた重要度やドライバーの好みなどによって情報に順位付けを行い、上位のものを優先的に表示。さらに情報の量も多すぎず少なすぎずとして、出力の仕方も興味を持たれるような表現にすることではじめて有効な情報になる。そのための基盤作りがカギになるという。
また、現時点でクルマはドライバーが全身を使って操作することで出発地から目的地まで移動する乗り物だが、自動運転が実用化された場合にはドライバーの仕事が減り、車内はインターネットを介した情報のやり取りによるコミュニケーションの場になったり、エンターテインメントを楽しむ場になっていくと予想されている。そうなると、車内のインテリアはパートごとの重要度が大きく変わってくる。つまり自動運転のシステムは、将来のクルマにおけるインテリアコンセプトにも繋がる技術でもあるのだ。そこでコンチネンタルは、ドイツをはじめとする各国でこの分野についても研究開発を進めているという。
ホリスティックHMIの実現に向けた一例として、クルマからドライバーに情報を伝える新しい機能が紹介された。それはインテリアカメラを使ったドライバーの観察で、分かりやすいところでは居眠り検知。インテリアカメラによって目の開き具合や頭部の動きなどを読み取り、居眠りしていると判断するとなんらかの警告を出すという具合だ。また、このシステムでは目線の方向も検知できるので、例えばフロントカメラやレーダーが車両前方にある障害物を検知したときに、ドライバーもそれを見ているかの判別も可能になる。この部分でも、障害物に気がついていない場合は警告を出したり、プリブレーキを動作させるなど、ほかのシステムと連携できるようになる。このインテリアカメラの実験はすでに終わっていて、2017年に登場する新型車に搭載されると予告された。
自動運転の時代が着実に近づいていることを体感!
屋内でのプレゼンテーションに続き、メディア試乗会のメインとなる各テストカーを使った技術試乗会を実施。今回は6台の試乗車が用意されていて、それぞれにコンチネンタルが開発中、もしくは開発して製品化された機能が組み込まれている。
まず最初に乗ったのは、次世代電子制御ブレーキを搭載するフォード「C-MAX」。このシステムは「MKC1」というブレーキで、マスターシリンダーへの油圧は電動ポンプで送られる。そのポンプ駆動は電気信号によるものなので、ブレーキペダルとMKC1の間は電気配線のみで繋がっている。つまりはブレーキバイワイヤ方式で、回生発電を行うハイブリッドカーやEVにも適している。さらに従来モデルより昇圧性が非常に高いので、ABSの性能を大幅に向上させることが可能だ。
また、必要に応じて実際の踏力とは無関係にブレーキキャリパーへの油圧を設定できるので、緊急回避ブレーキなどのときにドライバーの技量や身体的な差に関わらず、最適な制動力を発生させられる。試乗では、まず通常設定でブレーキ操作を体験し、そのあとはオペレーターが車内に追加したコントローラーを使って制動力を変化させる。すると、同じ踏力でも急制動したり、逆にいつまでも止まらなかったりと、通常のブレーキではあり得ない変化を体験できた。
2台目は「4輪コンフォート・エアスプリングシステム」だが、これはメルセデス・ベンツの「C 300」(海外仕様)に採用されているので試乗車はCクラス。比較用として通常のコイルサス仕様となる「C 180」が用意された。現行型のCクラスはリアショックのストロークが短めの設計のため、リアタイヤの硬さが出やすい傾向だが、ギャップ通過時の突き上げはエアサス仕様のほうがマイルド。テストコースの路肩で荒れた路面を走行するときも、エアサスは細かい振動を消しているなど、コイルサス仕様で気になる点を解消していることが体感できた。
3台目の試乗車はマツダ「アクセラ」。このクルマには「モーターオンキャリパー」を使った電動パーキングブレーキ(EPB)が装着されていた。このシステムではパーキングブレーキを小型スイッチの操作で行うので、従来のようにレバーを引いたりペダルを踏む必要がない。コンソールまわりのデザインで自由度が高まり、レバーやペダルがないぶん省スペースにもなるほか、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)での停車状態を維持しやすくなる。動作は電動式なので、スイッチを操作するだけでパーキングブレーキが設定された強さで効く。女性など力が弱い人でも確実にロックできて、ブレーキの作動が不完全で動き出してしまうような心配がない。
このシステムではとくにスイッチ操作などをしなくても、アクセルペダルを踏めば自動的にパーキンブレーキが解除されるので、戻し忘れによるトラブルとも無縁だ。さらにEPBは坂道などの傾斜状態での停止状態から再発進するとき、車両の傾き具合(上りか下りかの判別を含む)やエンジントルクの発生具合などもチェックしているので、上り、下りそれぞれの状況に合わせて繊細なブレーキリリースのコントロールを行っている。またメインのブレーキとは別系統で動作するので、緊急ブレーキとしての活用や、各種の姿勢制御用としても機能する。
4台目は「高度自動運転システム」の開発車両となっているフォルクスワーゲン「パサート」。このクルマでは長距離・短距離レーダーにステレオカメラを使い、「電子制御ブレーキ統合システム」などが搭載されている。今回はコースをパイロンで仕切って蛇行する車線を設定して自動的に走行し、そこを抜けたあと、車道脇に立つダミー人形を検知してステアリング操作による回避運動。進行方向に立つもう1体のダミー人形を検知してブレーキ操作による衝突回避という複雑なメニューで試乗が行われた。こちらも開発車両だけに、車内に装備された各種モニターに車線や障害物などの検知状況が表示され、刻々とと変化する周辺状況をどのようにクルマが把握しているのかを見ることができた。
このシステムでは、道路上の障害物はモニター上に「壁」(ウォール)として表示される。ちなみに歩道の縁石程度の高さでもウォールとして検出されるという。車道脇に立つダミーはレーダーとカメラの組み合わせによって「人」として認識。そのため、クルマの進行方向上にはいなくても、動いて「飛び出してくること」を想定してダミーとの距離を取るような回避運動を行うのだが、風が強い日などはダミーの腕が風圧などで動いて車道側に出てくると、クルマが「飛び出した」と検知して自動ブレーキが作動することもあるという。それぐらい精度は高く設定されているのだ。
そしてもう1つ、自動運転が可能になるとドライバーは車内でやることがなくなって脇見をしやすくなる。しかし、自動運転でも初期段階ではドライバーが進行方向を見て安全確認をすることが求められる。そのための機能として、開発車両のパサートはダッシュボード上に横長の「LEDピクセルライト」を装備。これは進行方向や周辺の状態をLEDの点灯で表示する装置で、今回の点灯パターンでは周辺に障害物がない場合はLEDが青く発光。壁などに接近するとその方向のLEDが赤く点灯して注意を促すようになっていた。こうした装備は実際に自動運転の車両で走り込んでいかないと気がつきにくい実用アイデアだけに、そんな現場視点からのひらめきが出るほど、コンチネンタルの自動運転技術はテストが進んでいると感じさせた。
5台目は「自動緊急ブレーキ」のテストで、試乗車はフォード「フォーカス」。搭載している技術は、長距離レーダーの「ARS 410」、多機能カメラの「MFC430」、ABSやESCを制御する電子制御ブレーキシステムの「MK100 high plus」、そして軽量なアルミニウム製ブレーキキャリパーの「FN/FNc」だ。この車両での試乗内容は、直進中のフォーカスの前に、車道の横から飛び出してくるダミーに反応して自動的に急停車するもの。こちらも車内に各種センサーが周辺状況をどのように把握しているかを確認できるモニターがあるので、検知から停止までのプロセスが分かりやすい。肝心の制動に関しても文句なし。純正装着タイヤと一般的なアスファルト路面というタイヤがロックしやすい条件でもほぼスキール音は鳴らず、それでいてかなり強烈な減速Gが発生してまさに急停車。危険を緊急回避するブレーキとしてポテンシャルの高さを体験できた。
最後は「自動パーキング」を搭載したパサート。これは4つのサラウンドビューカメラと前後バンパーの内部に設置されたコーナーセンサーの協調制御が行われている。試乗では2台のクルマに挟まれた駐車スペースでの縦列駐車を行ったが、まずは駐車している2台の横を微速で通過。このときにカメラとコーナーセンサーが駐車側の障害物と空きスペースを検知する。この読み取りの模様も車内のモニターで確認できたが、はっきりと障害物(クルマ)と空いているスペースを見分けていた。このデータを元にステアリングとアクセル&ブレーキ操作をクルマが自動で行い、空きスペースにクルマを止めた。センサーでスペースを見ているだけに前後の駐車車両とギリギリのラインを通過させる車間制御はさすがだが、駐車するための切り返し姿勢の取り方にはまだぎこちなさもあるという印象。コンチネンタルによる自動パーキングはまだ実用化されてないが、サラウンドビューカメラとコーナーセンサーを使った周辺モニターシステムは2016年登場の新型車に採用されるという。
コンチネンタル・ジャパンのTechRideは毎年開催されているイベントだが、毎回、新しい技術を披露するだけではなく、前回も紹介されていた技術がブラッシュアップされたバージョンとして体験できるのがポイントだ。こうした技術の進化過程について部外者はなかなか体験できるものではないだけに、それを体験することで自動運転の時代が着実に近づいていることがひしひしと伝わってくる1日となった。