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ヤナセ、「100周年記念デザインコンテスト」受賞者と審査員にインタビュー

カーデザイナーを目指す2人がコンテストに参加して経験したこととは

 ヤナセの創立100周年を記念したデザインコンテスト「こんなメルセデスに乗りたい!」。5月に選考結果が発表され、最優秀作品となる「ヤナセ100周年賞」に千葉大学大学院 工学研究科 製品デザイン研究室の大木佑太さんによる「GLACLASS+100km」、「審査員特別賞」に武蔵野美術大学 造形学部 工芸工業デザイン学科 インダストリアルデザイン専攻 S-design 佐々木翔平さんの「学生最後の旅はヤンチャベンツと」が選ばれた。

 このデザインコンテストでは、最優秀賞の特典として自らが描いたデザインを元に、世界で1台だけのスペシャルカーを製作して贈呈することになっており、その完成披露として先日行われた「スペシャルカー完成披露イベント」はすでにお伝えしたとおり。

ヤナセ、「100周年記念デザインコンテスト」で製作されたスペシャルカーを披露

http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20150902_719097.html

大木さんのデザインを使って製作されたスペシャルカー「GLACLASS+100km」

 最優秀賞を獲得した大木さん、そして審査員特別賞を受賞した佐々木さんは、最終選考の上位15作品の応募者のなかで、奇しくも自動車メーカーでデザイナーとして活躍する道を目指して大学院および大学で学んでいる2人だ。2人とも今夏に国内自動車メーカーでのインターンシップを経験し、この受賞の経験を活かしていきたいと口にしている。

 デザインコンテスト実施の狙いとしていた「ヤナセ創立100周年を機に、自動車産業の未来を担う工学専攻の学生の育成と、未来の自動車産業にもっと関心を抱くようになってほしい」というメッセージが、受賞者の2人にもぴったりとあてはまっていた。

 そんな2人に、実際に受賞した現在の心境と、デザインコンテストを経験するなかで得た感想などを語ってもらった。

「スペシャルカー完成披露イベント」で行われたフォトセッション。受賞者の2人と特別審査員の星野一義氏

「プロと実車製作で試行錯誤した経験が勉強になった」

千葉大学大学院 工学研究科 製品デザイン研究室の大木佑太さん

 最優秀のヤナセ100周年賞を獲得した大木さんは、「自分がデザインした『GLACLASS+100km』を実車として製作し、みなさまにお披露目する機会を設けてもらったのですが、嬉しさは3割であとの7割は緊張でした。学生がこのような場に来ることはありませんので……」と、この場に出席した感想を語る。

 コンテストについては、「普段の学生生活ではデザインスケッチを書くことが主で、実車の製作に携わることはありません。なので、自分のデザインがどのようにして実車として形になっていくのかを経験できたことが財産となりました。デザインスケッチを具現化するのは非常に難しく、さまざまな法規や、クリアしなければならない機能的な課題もありました。ただ、自分がかっこよく思うデザインスケッチを描くだけではなく、モディファイするときのこともデザイン時に考えないといけないことなど、勉強させられた部分は数知れません」と述べ、参加した意義について明かしてくれた。

 約3カ月ほどの製作過程を経て完成した実車に対する印象は、「あたりまえですが非常に気に入っています。製作当初はどんなスタイルになるのか想像がつかず、本当にかっこよくなるのだろうかという不安もありましたが、製作に携わっていただいたプロのスタッフの皆さんからも助言があり、大満足な実車となりました」と語り、苦労した製作過程でさまざまなことを勉強でき、今後のデザイナー人生に活かせる貴重な経験となるこの機会を得られたことに喜びを感じていた。

大きくモディファイされたフロントマスクの前でインタビューを受ける大木さん。デザインを実車化するにあたり、クルマに求められる強度や機能などの課題が多く、作業していて勉強になることばかりだったと語っている

 GLAをベースとしたスペシャルカーが大木さんの手元に届くのはしばらく先になるようだが、納車されたときには「両親を連れて旅行に行きたいですね。両親ともに『いつかはメルセデス・ベンツが欲しい』と話していたので、非常によいプレゼントができると思います。それと、このクルマで市街地を走って、まわりの人がどんな反応を見せるのかも確認したいです」とコメント。GLACLASS+100kmの最初のドライブは、両親を連れての旅行になるようだ。

大木さんをさらなる緊張に追い込んだ「モービル1 レースクィーン」の2人とのフォトセッション

「機能性についての意識を持てたことが大きな収穫」

武蔵野美術大学 造形学部 工芸工業デザイン学科 インダストリアルデザイン専攻 S-design 佐々木翔平さん

 一方の審査員特別賞を獲得した佐々木さんは、世界的なカーデザイナー 奥山清行氏に影響を受けて武蔵野美術大学でカーデザインを学んでいる4年生。大木さんのデザインスケッチとは異なり、かなりアーティスティックな作品を提出しているが、コンセプトについて聞くと「デザインコンテストなので、誰よりも目立つぶっ飛んだデザインを心掛けました。そのときに思い浮かんだのが『ヤンチャ』というフレーズでした。メルセデス・ベンツの敷居の高さを下げつつも、ヤンチャだけど下品にならないデザインを施したつもりです。個人的には流麗なスタイルや高級感、大人っぽいデザインが好きなので、それも合わせています」と述べ、20代の仲間とわいわいと騒ぎながら乗れるGLAをイメージしてデザインを行ったようだ。

「ヤンチャ」をキーワードにデザインコンテストに挑んだ佐々木さん。SUPER GTのピットで得た体験が今後のデザインに活かせそうだと語る

 佐々木さんは特別賞の特典として、8月9日に開催されたSUPER GT 第4戦「2015 AUTOBACS SUPER GT Round 4 FUJI GT 300km RACE」を現地で観戦。そのときにTEAM IMPULのピットを訪れたのだが、レーシングカーの機能的なスタイルを見て多くの刺激を受けたそうだ。「星野(一義)監督にSUPER GTの車両について説明していただいたのですが、GT500クラスのような究極のレーシングカーにカーデザイナーの入る余地があるのかと感じました。すべてのエアロパーツがmm単位で成形され、素材も高価かつ軽量なものがほとんどでした。デザインというよりは“いかに機能性を持たせるか”というのがレースの世界で、逆に普段のデザインでは素材や機能性などはあまり考えることがなかったので勉強になりました」とコメント。レースの世界で目にした経験が、今後の自身のデザインに反映されるはずだと語ってくれた。

「自動車業界の未来は暗くない」と星野一義氏

「日本一速い男」とも呼ばれた日本レース界のレジェンドであり、ホシノインパルの代表取締役社長も務める星野一義氏にインタビュー

 また、GLACLASS+100kmの製作を担当したホシノインパルから、デザインコンテストで特別審査員を務め、大木さん、佐々木さんをSUPER GTのTEAM IMPULピットに招待したホシノインパル 代表取締役社長の星野一義氏にもインタビューした。

 星野氏は「最終選考に残ったデザインスケッチを見たときには、非常にレベルが高いと思いました。カーデザインを専攻している学生が多かったのも理由の1つでしょう。選考時には、10年先の未来感やデザイナーの卵としての遊び心、そして具現化できるかどうかも審査の対象としました。結果として、2つの作品に賞を与えることになったのですが、どちらもエンタテインメント性にあふれていると思います。そのなかでも大木さんのデザインは、実車として走っている光景が想像できたのです」と選考について解説。レーシングドライバーやチーム監督に加え、アフターパーツメーカーの代表としても自動車業界に長く携わってきた星野氏が唸るほどのデザインだったようだ。

「10年先の未来感やデザイナーの卵としての遊び心、そして具現化できるかどうかも審査の対象」と語る星野氏

 今回のデザインコンテストで課題になった車両はメルセデス・ベンツのGLAクラスだったが、このクルマを日産車に精通した星野氏はどのような素材だと思っていたのだろう。「メルセデス・ベンツは純正状態でもデザインの洗練度が高く、下手に手を加えると泥臭くなったりかっこよさが表現できなかったりします。女性で表現するならば“すっぴんがキレイな人”なんです。だから、着飾ったり化粧をしたり、ファッションではごまかせないのがメルセデス・ベンツだと思います。その難しさのなかで、2人はうまくオリジナリティを出せていたのではないでしょうか。最終選考に残ったほかのデザインを見ても、自動車業界の未来は暗くないと大いに思いましたよ」と語っている。

ヤナセオートシステムズ 代表取締役社長の木田春夫氏

 主催者側として選考委員を務めたヤナセオートシステムズ 代表取締役社長の木田春夫氏も、「最初はデザインコンテストという企画にどれほどの人が興味を持つのか分かりませんでした。しかも応募を学生だけに絞っていたのでなおさらです。しかし、募集が始まるとどの作品も私が考えていたよりはるかに高い完成度で、若者の柔軟な発想を見ることができてよかったです。最終的にデザインを具現化するのが目的だったので、より実車として走っている姿がイメージできるデザインが選考されました。モディファイされた完成車を見たときには、こんなモデルがヤナセで販売されたら面白いなとも思いました。それだけデザイン性と完成度が高い車両ができあがったということですね」とコメント。

「若者の柔軟な発想を見ることができてよかった」とコメントする木田氏。スペシャルカーの高いデザイン性と完成度にも満足しているという
EMGマーケティング 執行役員 潤滑油本部長 本田貴浩氏

 ヤナセと共同でデザインコンテストを主催したEMGマーケティング 執行役員 潤滑油本部長の本田貴浩氏もインタビューに対し、「ヤナセさんの100周年を祝うために合同で企画したイベントだったのですが、私たちも当初は、カーデザインを専門に勉強している学生より、専門学校生などを含めたカスタマイズを専門にしている学生の応募が多いと思っていました。ですが、応募作品を見ると本格的なグラフィックスを用いたスケッチが多く、完成度の高さと想像力の豊かさに驚かされました。そして、まだまだクルマに情熱のある学生が多いことに安心しました。最優秀賞は、実用的で使えるクルマであることが一番だと思い大木さんの作品を選びました」とコンテストの感想などを答えてくれた。

 主催と協力を行った各企業の代表者3人が一様に、このデザインコンテストを通じて“未来のカーデザイナー”が知識と経験を得たことに喜びを感じているようだった。

モービル1を日本で独占販売するEMGマーケティング 執行役員 潤滑油本部長 本田氏と、モービル1レースクィーンの木谷有里さん(左)、Akiraさん(右)

(真鍋裕行/Photo:高橋 学)