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西村直人のテスラ「モデルS」の自律自動運転を考える
(2016/1/19 18:56)
テスラモーターズの自動運転補助機能である「オートパイロット」「オートレーンチェンジ」「オートパーク」が日本に導入された。これはテスラ「モデルS」のプログラムを最新ソフトウェアにバージョンアップすることで実現する。また、上記3つの補助機能は国土交通省の認可を受けており、公道での使用が正式に認可されたことになる。
そのバージョンアップを行ない自動運転補助機能が働くモデルSへの試乗が叶うという。しかも“運転席に座りドライバー役でどうぞ”のおまけつき。これまで自律自動運転技術を搭載した車両の公道試乗は“運転席以外での同乗試乗”というお約束があった。筆者は2013年からトヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、メルセデス・ベンツ、Daimler Trucks、Freightliner Trucksの自律自動運転車両に試乗してきたが、Freightliner Trucksを除いてすべてが同乗試乗で、さらにいえば日本において運転席での試乗が叶ったのはテスラが初である。よって期待は大きくふくらむ。
試乗コースは、2015年11月に「リーフ」をベースに自律自動運転技術を搭載した日産の実証実験車「ニッサンインテリジェントドライビングプロトタイプカー」(Car Watchにレポート掲載)での走行ルートに近く、東京都江東区の臨海部で行なわれた。高速道は走らず一般道のみとの限定がついたが、それでもモデルSの自律自動運転技術がもたらすドライバーサポートは手厚いものであり、そしてユーザーフレンドリーである(扱いやすい)ことも理解することができた。この点は筆者にとって意外な一面であったのだが、まずは車両のシステム構成から紹介したい。
自律自動運転技術で大切なことは2つ。「センサー精度」と、そこから得られた「情報の取捨選択」にある。センサーは人間で言えば「眼」にあたり、ものごとの優先順位を判断する「脳」は車両が搭載するプログラムである。モデルSの場合、センサーではすでにCar Watchでも紹介されているとおり、車両前のナンバープレート下に配置された「ミリ波レーダー」(25GHzと77GHzの2種類と推察)、ルームミラー付け根部分より前方に向けられた「光学式カメラ」、車両前・後部にそれぞれ6カ所の合計12カ所設置された「超音波ソナー」だ。つまり、3種類のセンサーでシステムが構成されている。一般的に後側方の車両検知には24GHzの準ミリ波レーダー、もしくは25GHzのミリ波レーダーを用いるのが現在のトレンドだがモデルSにはそれらは装着されない。また、テスラからはこれ以上詳細な情報公開はないが、試乗した際の制御性能から考えると、各センサーからの情報を融合させたフュージョン方式を用いているはずだ。
そう考えた要因はバックビューカメラの存在にある。ご存知のとおり、バックビューカメラは後退時に車両後方の一部を確認するために取り付けられているものだが、モデルSのバックビューカメラは広角で搭載位置もナンバープレートより高め。よってここから映し出せる範囲は広くて遠く、後方確認用としても活用できる。これに超音波ソナーの正確な測距性能(約5mほどの範囲でcm単位)を組み合わせれば自動運転補助機能を機能させるために必要な外界認識性能は得られるのではないか……。加えて、日産「エクストレイル」ではバックビューカメラの情報を後側方の車両検知に活用し、警報ブザーとインジケーター表示で接触回避をサポートする技術を実用化しているが、このことも筆者がフュージョン方式と考える裏付けだ。
ステアリング操作は車両が搭載しているEPS(Electric Power Steering、電動パワーステアリング)で発生可能な操舵トルク範囲内で制御され、制御途中、ドライバーによって一定以上の操舵力が与えられると直ちに自動運転補助機能は解除される。また、アクセル&ブレーキ操作についてはACC(Adaptive Cruise Control、定速走行・車間距離制御装置)での制御に準じ、ドライバーによるアクセル操作は受け入れつつ、同じくドライバーのブレーキ操作によってシステムが解除される点もACCと同じだ。加・減速度についてテスラから情報公開はないが、試乗した限りでは国土交通省が定めたACC使用時におけるそれぞれの値を超えない範囲であろうと考えられる。
自律自動運転を目指したオートパイロット
さて、こうしたシステムの上に成り立つオートパイロット、オートレーンチェンジ、オートパークだが、このうちオートパイロットは、主に高速道路と自動車専用道路において自律自動運転を目指した装備であり、ステアリング、アクセル、ブレーキの操作を一定範囲(条件)のなかでシステムが制御する、いわばADAS(Advanced Driver Assistance Systems)の1つである。また、オートパイロットを司るベースのADASはモデルSに搭載されているACCであることから、ACCに“ステアリング制御機能を追加した”のが、このオートパイロットであるといえる。
システムの起動方法は極めて簡単だ。ACCの「復帰」(システム再開)にあたるレバーを手前に2回連続して引くことでオートパイロットモードに入る。モードに入るための条件は光学式カメラが白線を認識していること、ミリ波や超音波の各センサーが正しく機能していることだが、ドライバーにはそれらが正しく機能していることをメーター内の「青いステアリングマーク」で知らせてくれるので、“いつ・どこで”オートパイロットを使うことができるのか迷うことがない。ユーザーフレンドリーであると感じた理由はここだ。ちなみに、この青いステアリングマークが点灯している間はオートパイロットが働き、ステアリングに手を添えてなくとも機能は継続される。しかし、日本では手放し運転が状況により道路交通法に触れる可能性があるため必ず手を添えておく必要がある。
オートパイロット時の自車速度はACCでセットした車速値を上限としながら、光学式カメラで規制速度を示した「規制標識」を認識している場合はそちらの速度が優先され、規制速度の+10km/h(規制速度が40km/hなら50km/h)を上限として、前走車との安全な車間時間が保てるように車間距離が調整される。
2008年からACC搭載車両を愛車とし、高速道路での長距離走行ではほぼ100%ACCを活用している筆者からすれば、オートパイロットはすんなり受け入れることができた。車速0km/hまで機能し、前走車が発進すれば、ACCでは必要なワンアクション(アクセルを軽く踏む/復帰のレバー操作)を一切することなく、何秒、何分経過した後でもドライバーはなにもせずに再発進してくれる。確かに、アクセル&ブレーキ操作による前後方向の速度調整をシステムに委ねるには慣れが必要だが、システムの特性を理解しセンサーが不得手な状況さえ理解し、いつでもそれをオーバーライドできる準備させできていれば、この上ない運転サポートシステムとして活用できる。
しかし、ステアリングによる左右方向はACCを使い慣れている筆者でも不安があった。正確には試乗中の約8割の道のりではシステムによるステアリング制御に運転操作を部分的に任せることが可能であったが、規則的に敷かれている道路の白線が乱れた場合、たとえば道路の車幅が一気に広がったり、片方の白線だけが斜め方向に増えたりしたときには、正しい進路が取れなくなる。ちなみに「ニッサンインテリジェントドライビングプロトタイプカー」でこうした状況に陥ると、ステアリングを小刻みに左右に振るわせながらシステムが迷っていることをドライバーに伝え、運転操作の権限移譲をドライバーに打診する。
対してモデルSの場合は、迷っていることをおくびにも出さず、一気にシステムが判断した方向へと舵を切るのだ。たった一度だが、試乗中にヒヤッとする瞬間があった。他車との接触危険度が高まったというわけではなかったが、ドライバーの想像を超えたステアリングの操舵スピードで車線変更が行なわれたため余計にそう感じられたのだ。実際にはシステムに介入が許された操舵トルク値には上限があり、ドライバーがシステムによるステアリング操作をオーバーライドして正しい方向に導くことは可能であるため心配は要らない(この時も問題はなかった)。この点はテスラ自らが「主に高速道路と自動車専用道路で」(テスラ発表のプレスリリース原文ママ)とうたっているとおりなので、外的要因に左右されることが多くなる一般道での使用には現状のシステム要素だけでは不向きであり、将来的にはほかのセンサーを追加したり、路車間通信技術と融合したりすることが望まれるシーンなのかもしれない。
自動的にステアリング操作を行なうオートレーンチェンジ
オートレーンチェンジもテストした。オートパイロットでの走行時に、ドライバーがウインカー操作を行なうと自車周囲の状況をセンサーで改めて確認し、車線変更が可能である場合には自動的にステアリング操作を行なって車線変更を完遂させる。ここでの不安は測距性能に制限のある超音波センサーにおける、後方から速い相対速度で迫ってくる車両の検知であった。しかし試乗中は渋滞もなく、車両の間をすり抜ける2輪車とも遭遇しなかったことからこのあたりの性能を確認することはできなかったが、前述したバックビューカメラとのフュージョン方式であればこの課題もなんなくこなすものと思われる。
それにしてもオートレーンチェンジによる車線変更には迷いがない。車線変更を行なう側の一定範囲に他車の存在が確認されない場合には、ドライバーのウインカー操作から1秒も経過しないタイミングでステアリングが操作されるため、慣れないうちは「死角に他車がいるのではないか……」と少々焦り、周囲に他車がいないかどうか目視による安全確認を繰り返し行なってしまった。
ちなみに、日本では本国アメリカと違ってステアリングに手を触れていないと、たとえ条件が整っていてもオートレーンチェンジは開始されないような安全策が盛り込まれ、車線変更後は、ドライバーによってウインカーを戻す作業が残る。
すでに一般的になりつつあるオートパーク
オートパークは前述した2つの機能からすると一般的なもので、超音波ソナーで駐車可能範囲が検出できた場合には、ドライバーのボタン操作を合図に自動的に駐車が始まる。それでも全長4970mm、全幅1950mmのボディを他車に対して5cm(!)の精度を保ち2回の切り返しでピタリと縦列駐車を成功させる技術は大したものだ。筆者は大型二種免許やけん引免許を所持するが、モデルSはその何倍も上手い! なお、駐車スペースからの出庫はドライバーが行なうのだが、ここにもオートスタートならぬ出庫モードがあればなおよかったと感じた。
さて、これまで見てきた自動運転補助機能だが、バージョンアップの受け入れ可能なモデルSであれば自動運転補助機能を使用することができる。具体的には2015年1月以降納車されたモデルSであれば外界を認識するセンサーである「ミリ波レーダー」「光学式カメラ」「超音波ソナー」が標準で装着されているため、このバージョンアップによってオートパイロット、オートレーンチェンジ、オートパークを機能させることができる。言い換えれば日本導入が始まった2014年9月~同年12月の間に納車されたモデルSにはこうしたセンサーが装着されていないため機能させることはできない。また、3種のセンサーを後付けすることも不可能とのことだから、モデルSオーナーは念のためディーラーにて確認してほしい。
肝心のインストールにかかる時間は回線スピードにもよるが、約2時間程度(テスラ広報部)。テスラのスタッフによると引き続き最新ソフトウェアへのバージョンアップが予定されているというから、今後の精度向上にも期待したい。