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【SUPER GT開幕直前インタビュー】0号車 GAINER TANAX GT-R、アンドレ・クート選手と富田竜一郎選手で2年連続チャンピオンに挑戦

富田選手が正ドライバーに昇格して新シーズンを戦う

今シーズンはチャンピオンナンバー0番をつけて戦うGAINER TANAX GT-R

 2015年のSUPER GTでGT300クラスのチャンピオンを獲得して、2016年はチャンピオンナンバーの0号車(SUPER GTではGT500の前年のチャンピオン車両が1号車、GT300の前年のチャンピオンが0号車をつける)として参戦するGAINER TANAX GT-R。

 昨シーズン、GAINER TANAX GT-R(昨シーズンは10号車)は、アンドレ・クート選手と千代勝正選手のコンビで、第3ドライバーが必要なレースと千代選手が欧州のGT選手権に出場している時には若手の富田竜一郎選手がドライブするというトリオで望んだ。

 結果は、第2戦の富士戦、第5戦の鈴鹿戦で見事に優勝したほか、富田選手がドライブした第3戦タイ戦と第7戦オートポリスで2位に入り、最終戦を前にしてクート選手がチャンピオンに輝くという圧巻のシーズンを過ごすことになった。

 今シーズンは千代選手がGT500クラスに昇格したことにより、その後任として第3戦と第5戦で千代選手の代役を、そして優勝を果たした鈴鹿戦で第3ドライバーを務めた富田選手が正ドライバーに昇格して新しいシーズンを戦うことになる。

ディフェンディングチャンピオンとしてシーズンに臨むアンドレ・クート選手

2015年SUPER GTでGT300クラスドライバーチャンピオンのアンドレ・クート選手

 アンドレ・クート選手はマカオ在住のポルトガル人ドライバーだ。欧州でキャリアを積み、インターナショナルF3000選手権(現在のGP2の前身にあたる)に参戦するなどして、主にフォーミュラでキャリアを積んでいった。そのハイライトになったのは、2000年のマカオGPのF3レースで優勝したこと。マカオで育ったクート選手にとって、地元とも言えるマカオでの伝統のレースにおける優勝は大きな意味があった。その後、2001年に来日し、2004年からは日本をベースにレース参戦を続けている。

 GAINERチームには昨年から所属しており、第2戦の富士で優勝した後、第5戦の鈴鹿でも優勝。第7戦のオートポリスで2位を確保したことで、GT300のドライバーズチャンピオンを獲得し、来日してから初めてのタイトル獲得となった。今年はディフェンディングチャンピオンとしてタイトル防衛に挑むことになる。

 レギュレーションが安定していてクルマのパフォーマンスが毎年あまり変わらないGT500に対して、GT300は毎年のようにBOP(Balance Of Performance)と呼ばれるハンデが見直されており、それによって有利不利が決まってくるため、正直シーズン開幕前に予想することが難しいシリーズの1つとなっている。それだけに、開幕前のテストでは、各チームが本当のパフォーマンスが分かって目をつけられないように"三味線を弾いている"とささやかれるなど、このインタビューが行なわれた岡山国際サーキットでの公式テストでの結果では勢力図は全く分からない。

 しかし、1つだけ傾向として言えるのは、特にFIA GT3で新型車両として投入される車両は有利になる傾向があるという点だ。というのも、BOPは前年シーズンの結果なども含めて策定されるため、前年シーズンに活躍した車両はやや厳しめに設定される傾向がある。実際、昨年の10号車GAINER TANAX GT-Rは、2015年から導入されたNissan GT-R NISMO GT3という新型車両を投入していたので、それが有利に働いたという見方が大勢を占めている。逆に言えば、今年は新型車両ではなく、逆に他チームが新型車両を投入するというシーズンになるため、一転して不利な立場ではないかという見方をする関係者は少なくないのだ。

 クート選手は「確かに簡単なチャレンジではないと思う。だが、これまでもっとつらいときもあった、最初から勝負にならないクルマで戦わないといけない時だってあった。それに比べれば不利かもしれないという程度で、かつこのチームは高い競争力をもったベストのチームの1つだ。できるだけチャレンジしていくだけ」と述べ、有利な状況ではないが、その中でもやれることはやっていくだけだとした。

 そうしたチームの強みはダンロップタイヤを装着していることだとクート選手は言う。「ダンロップの強みは、一貫して性能を発揮できることにあると思う。何かが飛び抜けてすごいということではなく、ちょっとずつほかに比べて優れているということだと考えている」と述べ、GAINERとほか1チームのみがダンロップタイヤを履いているという強みを生かし、それを結果につなげていきたいとした。

 今シーズンへの意気込みに関しては「ディフェンディングチャンピオンとして凱旋することになるので、その名に恥じないようなレースがしたい」(クート選手)と述べ、開幕戦から勝ちを狙いにいきたいと語ってくれた。

異例のキャリアを持つ富田選手。昨年10号車の第3ドライバーになったことでシンデレラストーリーへ

0号車 GAINER TANAX GT-Rをドライブする富田竜一郎選手

 2015年のGT300チャンピオンであるクート選手のチームメイトを務めるのが富田竜一郎選手だ。富田選手は自動車免許取得が21歳になってからと、近年では珍しくカートやメーカーの育成ドライバーあがりではない若手ドライバーとなる。2014年に初めてDIJONレーシングからGT300クラスに参戦し、2015年にGAINER 10号車の第3ドライバーに抜擢された。

 その富田選手にとって大きな転機になったのは、昨年の第3戦タイ戦だ。このレースでは、富田選手は千代選手の代役として第2ドライバーを担当しており、予選ではQ2のドライバーを務めることになった。その予選で見事3番手グリッドを獲得し、決勝でも非常に安定した走りで2位表彰台を獲得したのだ。その後、第5戦の鈴鹿戦では第3ドライバーを務め、優勝に貢献したことで評価を高めたのだ。それが今年のシート獲得につながったのは言うまでもない。

 富田選手は「自分にとって(2015年は)転機の年となった。GAINERのような一流チームで第3ドライバー、そして2レースでレースドライバーとして走れることになった。特に第3戦では、第2戦でチームが優勝した後で、Q2のアタックドライバーとして走ることになったので緊張していた」と説明する。

 だが、その第3戦の予選Q2で富田選手はきっちりと仕事をして、予選3位のタイムを出すことができた。その時にQ1のアタッカーを務めたクート選手は「彼に可能性があることは分かっていたが、それまでは可能性でしかなかった。しかし、彼はきっちり結果を出した」と、第3戦の予選Q2で結果を出したことで、富田選手への信頼が"可能性"から"実績"に変わったと指摘した。

相棒となるクート選手(左)の信頼も厚い富田選手(右)

 今シーズンについて富田選手は「これまで夢として追いかけてきたGT300のトップチーム。それも0号車をドライブできるというチャンスをもらって気が引き締まっている。昨年千代選手がやってのけたことを、自分がやって見せないといけない。取材なども非常に多くなっており、期待されていることは自分でも認識している。今年は自分たちのクルマはアップデートもないし、相対的なパフォーマンスがどうなのかは現時点では分からないが、その中でもやれることをきっちりやっていきたい」と述べ、レギュラードライバーに昇格した今シーズンこそ勝負の年であるとした。

 これまでSUPER GTに上がってくる若手ドライバーと言えば、メーカーの育成プログラム出身のドライバーがほとんどだったが、そもそも21歳になってから自動車免許を取得したという異例のキャリアを持つ富田選手。新たなGT300のスター候補として、今シーズンに注目したいドライバーの1人であると言って過言ではないと思う。果たしてどのような活躍を見せてくれるのか、それも今シーズンのGT300の見所の1つだと言っていいだろう。

(笠原一輝/Photo:高橋 学)