インプレッション

ボルボ「S60 T4 R-DESIGN ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」

 ボルボは彼らのエンジンラインアップの中で「T4」と呼ばれる、4気筒1.6リッターターボエンジンの、パフォーマンスを引き出すパッケージ・オプションの発売を開始した。この「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」と呼ばれるチューニングは全国のディーラーで取り扱われ、またチューニング後もサービスと保証を受けることができる。

コンピューター・チューンで性能向上

 実はポールスター・パフォーマンス・パッケージは、すでに6気筒3リッターターボの「T6」エンジン搭載モデルに導入されていて、ユーザー間では好評を博していたが、T4に導入されることでさらに車種が増え、より幅広いファン層が増えることが予想される。このパッケージはボルボ本社とボルボのモータースポーツ公式パートナーであるポールスター・レーシングとの共同開発による、エンジン・マネジメントを変更するコンピュター・チューンだ。

 ポールスター・レーシングについてちょっと触れておくと、1996年に創設されたボルボのカスタマイズやモータースポーツを専門に扱う会社で、ボルボ「850」時代からチューニングを受け持ち、「S40」「S60」「C30」などのレーシングチューンを行って、事実上のワークスチームに近い形態でモータースポーツに取り組み、世界ツーリングカー選手権(WTCC)や、英国ツーリングカー選手権(BTCC)に参戦している。昨年はS60を駆り、スウェーデンで行われているTAAエリート・リーグでドライバー、メーカー、チームのトリプルタイトルを獲得した。

 ポールスター・パフォーマンス・パッケージの内容は、専用のエンジンマネジメントプログラム、POLESTARリアエンブレムがセットになっており、工賃込20万円で大きなパフォーマンスを手に入れることができる。これは前述のとおりメーカー保証の対象になることも嬉しい。

実線がポールスター・パフォーマンス・パッケージ導入後の性能曲線(破線は導入前)

 エンジンは、最高出力が180PS/5700rpmから200PS/5750rpmへ、最大トルクは240Nm/1600-5000rpmから285Nm/2000-4250rpmへ向上している。出力特性は、馬力に関しては2000rpm以下のところから徐々にノーマルより出力が上がって行き、トップエンドまでそれが持続する。出力曲線としては素直なラインを描く。

 最大トルクの出方は、ノーマルが1600rpmから5000rpmまで240Nmのトルクを維持しているのに対して、パフォーマンス・パッケージではトルク曲線を延長した格好で285Nmのトルクを2000rpmから4250rpmにわたり出している。一見、パワーバンドが狭くなったように見えるが、ノーマルで240Nmのトルク曲線が下がり始める5000rpmでもパフォーマンス・パッケージは245Nm以上を出しているので、大きなトルクを維持していることは変わりがない。

 コンピューター・チューンだけで+20PS、45Nmのエクストラトルクが得られるのだから素晴らしい。しかも通常走行での燃費は変わらないという。

ノーマルと違ったパンチ力

 試乗車はR-DESIGNモデルで、エクステリアもスポーティーで活気がある。タイヤはコンチネンタル・スーパーコンタクト3の235/40 R18を履く。

 試乗拠点から出て箱根に向うが、市街地でもノーマル同様、乗りやすい。一般的に市街地で使われる回転域ではせいぜい3000rpmぐらいまでで、この回転域だとパフォーマンス・パッケージのトルクアップ分はそれ程顕著に感じられない。しかも出力曲線からも分かるようにごく低速回転域のトルクも変わっていないので、高いドライバビリティを持っている。

 ちょっと前が空いたところで加速してみると、トルクアップした恩恵が明快だ。ノーマルのT4エンジンも強力で、低速回転からのアクセルの一踏みでグイと力強い加速が頼もしかったが、パフォーマンス・パッケージはさらに粘りつくようなトルクの上昇が魅力。3000~4000rpmのトルク感はノーマルとは明らかに違う持ち味でこのパッケージを装備したユーザーはニンマリとする瞬間だろう。これで実燃費が変わらないのなら買い得感は高い。

 トップエンドの6000rpm付近は2500~4000rpm域の粘りつくようなトルク感ほどの感激はないものの、やはり20PSのエクストラパワーはノーマルと違ったパンチ力があり新鮮さがある。

 いよいよワインディングロードに入り、ポールスター・パフォーマンス・パッケージの本領発揮だ。きつい登坂もトルクの盛り上がりと共にグイグイと加速していく。トルクバンド自体もワイドレンジなので低速回転域からの力強い加速はさらに高い。

 6速のゲトラグ・フォード製のデュアルクラッチトランスミッションも小気味よく変速していく。ギヤレシオは適切で、広いトルクバンドとの相乗効果で各ギヤのカバー範囲も広く、粘りのある加速が特徴だ。コーナーで回転が落ちた時でも、この広いトルクバンドは大きな武器になる。

 シフトパドルは持たないものの、シフトレバーにはマニュアルモードがあるので、積極的にシフトできる。変速は比較的マイルドで、ショックは少ない。どちらかといえばダイレクト感を訴求する他のデュアルクラッチトランスミッションとは方向が若干異なる。

 ちなみにスタート時のアクセルワークも神経質にならないのが好ましい。発進時の段差乗り越しなどもトルコンに近いフィーリングで行なえ、ターボラグもあまり感じられないので、使い易いパワートレインに仕上っている。

 ドライビングポジションは、しっくりくるシートの着座姿勢で、大きなサイズのクルマにもかかわらず、物理的なサイズは否めないが、それほどの使いにくさは感じない。

 ステアリングホイールの握りは太めでしっくりくると同時に保舵にも力が自然に入りやすい。親指を添わせると繋ぎ目が深く、ユニークなデザインだ。ステアリングフィールも比較的スッキリとしており好感が持て、操舵力も適度な重さだ。タイヤからの反力は大きめだが、握りやすいハンドルのおかげで神経を使うことはない。

 ハンドルのロック・トゥ・ロックは3回転。それでも最小回転半径は大きめなのは、このクラスのFF車の宿命だ。

 右ハンドル化により、アクセルとブレーキペダルのレイアウトは若干左寄りだが、無理な姿勢にならずに右足がA、Bペダルに届く。アクセルからブレーキペダルへの踏みかえも引っかかる事はなくスムースだ。

モア・スポーツ!

 R-DESIGNはノーマルよりもサスペンションが20%ほど固められており、リア・ショックアブソーバーはモノチューブを採用している。乗り心地は低速ではハーシュネスはやや強めなものの、速度が上がってくると収束は自然になり、無理に押さえつけられたような不自然さもなくてフラットな乗り心地になる。

 ハンドリングは軽快というよりも、FFらしいがっしりとしたもの。コーナーリンググリップも高く、大きな旋回Gが生まれる。ステアリング応答性は俊敏という感じではないが、舵角に応じて自然と反応する。タイトコーナーではトルクベクトリングシステムが働き、アクセルをパーシャルから徐々に踏みながらもコーナーのインに向ってノーズを向けていく。タイヤの接地力をフルに使いながらトラクションを掛けている感じだ。

 大きなエンジントルクに対してはフロントタイヤはもう少し容量があってもよいイメージだが、自然なハンドル応答性やハンドル取られ等を考慮すると、ちょうどよいタイヤサイズだろう。大柄なスポーツセダンのはずだが、ワインディングを駆け回っている時はそのサイズを感じなく、楽しいスポーツドライブができる。

 ブレーキはそれ程大きなローター径には見えないのだが、踏力に応分の制動力を発揮してくれる。ワインディングを駆けている最中でもブレーキの制動力変化は感じなかった。


 ポールスター・パフォーマンス・パッケージは、型式の合うエンジンならS60以外の車種でもセット可能だ。T4エンジンの場合はB4164T型エンジンにチューニング可能で、車種ではV40、S60、V60、V70の各2013年モデル。2011年と2012年モデルへの対応版はこの4月にはリリースされる予定だ。

 冒頭にも記したが、ボルボの正規サービスと保証が受けられ、燃費に大きな影響を受けずに出力が上がるのは大きな魅力になるはずだ。

 R-DESIGNと組み合わせるとさらにマッチングがよく、モア・スポーツを求めるユーザーには恰好のチューニングアイテムだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。