インプレッション

フォルクスワーゲン「ザ・ビートル ターボ」

ゴルフ6のGTIと同じ2.0リッターTSIエンジンを搭載

 当時のゴルフ4をベースに急造された前身の「ニュービートル」は、ユニークなエクステリアデザインと引き替えに、運転席から見える景色が不思議な感じがして、車両感覚がつかみづらかったり、後席や荷室の広さが十分でなかったりと、クルマとしては未完成な部分が多々見受けられた。

 それを許容できるデザインの魅力があったので、日本でも女性を中心にニュービートルはヒットした。これに対し、2012年4月に発売された「ザ・ビートル」のデザインテイストは、男性にも乗って欲しいという意図を感じるデザインになり、いたってまっとうな感じのクルマになった。逆に女性からは、肝心のデザインが「かわいくなくなった」と評する向きもあるようだが、そこは好みの問題ということで、ここではあえて深く触れずにおこう。

 そんなザ・ビートルは、ニュービートルほどの盛り上がりは見られないようだが、それなりに注目度は高く、販売はまずまずらしい。そこに、もっと男性ユーザーの気を引くことを狙ったスポーティな内外装をまとい、直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ「2.0TSI」エンジンを搭載した高性能版の本命モデル「ザ・ビートル・ターボ」が2013年10月に追加された。

ザ・ビートル・ターボのボディーサイズはザ・ビートルと同じ4270×1815×1495mm(全長×全幅×全高)で、重量はザ・ビートル(デザイン)比で80kg増となる1380kg(電動パノラマスライディングルーフ装着車は1410kg)

 まず気になったのは「ターボ」のモデル名だ。これまでもザ・ビートルには直列4気筒SOHC 1.2リッター直噴ターボ「1.2TSI」エンジンの設定しかなく、つまりもともとターボしかないのだが、今でも高性能なイメージが根強く残る「ターボ」の名称をあえて与えることで、同モデルが高性能であることを想起させようとしたのだろう。

 361万5000円という価格は、装備の差はそれなりに大きいとはいえ、スタンダードの「デザイン」グレードが264万9000円と100万円近い差がある。しかし、同「レザーパッケージ」が「ターボ」の登場直後に仕様向上によって価格が上昇し、記事掲載時点で343万9000万円の価格設定となったこともあり、ターボには割安感を覚えてしまう。

 最大のポイントである2.0TSIエンジンは、最新のゴルフ7のGTIに搭載された新エンジンと同じではなく、後方排気のレイアウトを持つ新世代ユニットの一員ながら、ゴルフ6のGTIと同等のスペックを持つ別のエンジンとなる。トランスミッションは湿式多板クラッチを持つ6速DSGが組み合わされる。JC08モード燃費は13.4km/Lと、1.2TSIの17.6km/L(デザイングレード)に対する落ち込みは小さいほうだと思う。ところが、デザイングレードが減税対象となるにもかかわらず、「ターボ」が対象とならないのはちょっと残念なところだ。

ザ・ビートル ターボが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ「2.0TSI」エンジン。最高出力155kW(211PS)/5300-6200rpm、最大トルク280Nm(28.6kgm)/1700-5200rpmを発生

数々の専用アイテムの付く内外装

 ザ・ビートル・ターボには、内外装にも数々の専用アイテムが与えられる。

 エクステリアではとくにリアまわりが印象的。上部にスポイラー、バンパー下部にディフューザーとクロームの輝くデュアルエキゾーストパイプが付いている。ビートルの一員らしく車体のわりに大径のタイヤを履き、力強いデザインのホイールの隙間からレッドブレーキキャリパーが覗く。

エクステリアではドアミラーとサイドスカートをブラックにしたほか、リアスポイラー、ボディー同色のリアディフューザー、クロームツインエキゾーストパイプなどを専用装備。足下では5本スポークの18インチアルミホイール(タイヤサイズ:235/45 R18)にレッドブレーキキャリパーを組み合わせる

 インテリアではスポーツシート、アンビエントライト、アルミ調ペダルクラスターなどが挙げられる。加えて、ドアミラーやサイドスカート、インパネやステアリング、ドアトリムなど内外装にブラックパーツを効果的に用いてスポーティさを強調している。

 さらにセットオプションの“Coolsterパッケージ”を選ぶと、ダッシュボード中央に油温計、ストップウォッチ、ブースト計を収めた3連メーターや、LEDポジションランプ付きバイキセノンヘッドライトが付き、左右リアウインドーはダークティンテッドガラスとなる。ちょっと価格が高い気もしなくないが、せっかくのザ・ビートル・ターボの楽しさをより引き立ててくれるアイテムであり、ぜひ選びたいところだ。

ザ・ビートル ターボのインテリアカラーはブラックで統一されたスポーティな仕上がり
トランスミッションは湿式多板クラッチの6速DSGを採用
スピードメーター下部に瞬間/平均燃費、走行距離、平均速度、運転時間、外気温度などを表示できるマルチファンクションインジケーターを備える
アルミ調ペダルクラスターがスポーティさを強調している
写真はファブリック仕様だが、オプションで本革シートも選択できる
Coolsterパッケージをチョイスするとダッシュボード中央に3連メーター(写真左から油温計、ストップウォッチ、ブースト計)が付く
ラゲッジスペース

 走りは予想したよりもずっと刺激的だ。最高出力155kW(211PS)、最大トルク280Nm(28.6kgm)という2.0TSIエンジンはいうまでもなく強力で、全域でパンチの効いた加速を示す。どことなく5気筒っぽい感じの響きを奏でる、ゴルフ6や7のGTIとは異質の、やや低めの野太いエンジンサウンドにされているのも味わい深い。

 低回転域から太いトルクを発生するエンジンと、湿式多板クラッチによるマイルドなつながりのおかげで、低回転域のトルクがやや薄く、途中から唐突に立ち上がる1.2TSIエンジン+乾式単板(※カタログには「多板」と表記されているが実質的には「単板」)クラッチのデザイングレードよりも、むしろ運転しやすさという意味でも上回るように思う。

 無論スペックで上回るゴルフ7 GTIは、さらにパワフルなことは確認済み。どうせならザ・ビートル・ターボにも同じエンジンを、と思わずにいられないところだが、何か積めない事情でもあるのだろうか? いずれモデルライフの途中で、何らかの変更があるかもしれないが……。

締め上げられたスポーツサスペンション

 プラットフォームは話題の「MQB」ではなく、ゴルフ6世代のもの。サスペンション形式はフロントがストラット式、リアが4リンク式で、ゴルフ6のGTIゆずりの電子制御式デフロック「XDS」が与えられている。ご参考まで、デザイングレードなどその他のザ・ビートルも、日本導入当初はリアがトーションビーム式だったところ、現在はすべて4リンク式となっているようだ。

 10mmローダウンしたスポーツサスペンションを備える足まわりは、スポーティモデルであることを主張するかのように、かなり締め上げられている。それでいて、235/45 R18というサイズのタイヤはサイドウォールが比較的厚いため、入力が吸収されるおかげで乗員に伝わる衝撃は小さい。加えて、前述のようにリアサスが4リンク式であることも、大前提として乗り心地に効いていることに違いない。コツコツと路面の凹凸は拾うものの、振動は瞬時に収束する。

 さらに、累進的なステアリングギヤ比を持つプログレッシブステアリングの採用により、ロック・トゥ・ロックは2.75回転から2.1回転に減少している。クイックなステアリングと素早い荷重移動を実現した足まわりにより、俊敏性も大きく増している。XDSの恩恵もあって、ハンドリング特性は概ねニュートラルで、フロントの重さをあまり感じさせることなく、どんなシチュエーションでもスイスイと小気味よく走っていける。パワフルなエンジンと俊敏で素直なハンドリングが、運転する楽しさをストレートに感じさせてくれる。

 もちろんザ・ビートルには、このデザインという大きな武器がある。そこにスポーティなルックスや走りを身に着けた、こうしたザ・ビートルの楽しさの幅を拡げるモデルが選択肢として加わったことは大歓迎だ。そして、最初に価格を知って感じたコストパフォーマンスの高さを、実際にドライブしても改めて実感した次第である。

 今後、走り系としては「ザ・ビートルR」という、高性能なバージョンが追加されるとの情報もある。もちろんそちらも楽しみだが、例えどんな高性能モデルがザ・ビートルに加わったとしても、コストパフォーマンスの高さという「ターボ」の優位性が変わることはないのではないかと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一