インプレッション

BMW「2シリーズ アクティブ ツアラー」

あくまで「2シリーズ」の一員

「アクティブツアラー」と名づけられたこのクルマ。すでに「2シリーズ」としてクーペとカブリオレが存在し、偶数のシリーズはスポーティ系と伝えられていたところ、クーペやカブリオレとは成り立ちのまったく異なるこのクルマが「2」の一員とされたことを疑問に思ったのだが、偶数のシリーズは奇数のシリーズに対して、“新しい”という意味もあるとのことを聞いて納得した次第である。

 といっても、BMWにとっては新しいタイプのクルマには違いないとはいえ、世間的には真っ向から競合するであろうメルセデス・ベンツ「Bクラス」をはじめ、こうしたスペースユーティリティを追求した、欧州で「MPV」と呼ぶクルマというのはすでにいくらでもある。そこに満を持して送り込まれたこのクルマにBMWならではの持ち味、とりわけ「駆けぬける歓び」がどのように表現されているかが興味深いところだ。

2シリーズ アクティブ ツアラーのボディーサイズは4350×1800×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。一般的な機械式駐車場に収まるサイズとした。モデルコンセプトとして「SAT(スポーツ・アクティビティ・ツアラー)」を掲げ、ダイナミックなスタイリングや運動性能、広い室内空間を融合。撮影車(218i アクティブ ツアラーLuxury)の218i系はブランド初の前輪駆動モデルとなっており、直列3気筒DOHC 1.5リッターツインパワーターボエンジンに6速ATを組み合わせる。価格は381万円。このほか直列4気筒DOHC 2.0リッターツインパワーターボエンジンを搭載する4WDモデル「225i xDrive アクティブ ツアラーM Sport」もラインアップする
キドニー・グリルと4灯式丸型のLEDヘッドライトなど、ひと目でBMWのモデルであることが分かるデザインとした。2シリーズ アクティブ ツアラーは安全装備も充実しており、カメラにより前方の監視を行う「ドライビング・アシスト」を全車標準装備。車線の逸脱をドライバーに警告する「レーン・ディパーチャー・ウォーニング」、衝突の危険性が高まった際にドライバーに警告を発する「前車接近警告機能」、追突が避けられない場合にブレーキをかけて衝突を回避・被害軽減を図る「衝突回避・被害軽減ブレーキ」(歩行者検知機能)などの機能が搭載される
撮影車はオプション設定となる17インチの「マルチスポーク・スタイリング481アロイ・ホイール」を装着(タイヤサイズ:205/50 R17)。足まわりでは新開発のサスペンションシステム(フロント:シングル・ジョイント・スプリング・ストラット式、リア:マルチリンク式)を採用
ルーフスポイラーやテールゲート両端のエアロブレードの装着をはじめ、アンダーボディーの最適化など広範囲にわたり空力特性を向上させる対策が図られている

 フロントマスクを見るとひと目でBMWであることが分かるものの、やはりまだ「これがBMW?」という気がしてしまうのは否めず。FFなのにフロントオーバーハングが異様に短いことも印象的だ。

 インテリアデザインはBMWの一連のエントリーラインアップとの共通性が高く、それが2シリーズ アクティブ ツアラーでは地上高の高い位置にあるわけだが、Aピラー前に小窓が設定されているのも効いて視界は良好、見晴らしもよい。

 室内空間は広々としていて開放的だ。ルーフの大部分を開口部としたグラスルーフ(オプション)もそれに一役買っている。開口部の前端が前席乗員の頭上なので、運転席と助手席の乗員はあまり恩恵にあずかれないのだが、後席の乗員は大いに喜んでくれることだろう。

 リアシートは前後スライドが可能で、最後端にするとニースペースにはかなり余裕が生まれる。ラゲッジスペースは外見から想像するよりもずっと広くて、フロア下にも深いボックスがあることに驚いた。この後席の居住性と広いラゲッジスペースこそ、まさしくFF化によって手に入れたものに違いない。

2シリーズ アクティブ ツアラーでは、空間の広がりを強調するデザインを採用するとともに、エレガントなインテリアを実現。撮影車のインテリアカラーはキャンベラ・ベージュ
重要な操作系がドライバーの手の届く範囲に配置された、ドライバー・オリエンテッドなコックピットとした
左右独立温度調節機能付きのオートマチックエアコンを標準装備。その下に「ドラインビング・パフォーマンス・コントロール(ECO PROモード付)」の操作スイッチが用意され、「コンフォート」「ECO PRO」「スポーツ」から走行モードを選択できる
8.8インチの高解像度ワイドコントロールディスプレイ
地図の拡大/縮小が可能なタッチ・パッド付き「iDrive コントローラー」
トランスミッションは6速ATを採用
メーターまわり
撮影車はオプションの「アドバンスド・アクティブ・セーフティ・パッケージ」を装着。同パッケージでは現在の車速やカーナビのルート案内、ラジオ局のリストなどを表示可能な「BMW ヘッドアップ・ディスプレイ」、ACC(アクティブ・クルーズ・コントロール[ストップ&ゴー機能付])がセットになっている
開放感のある「電動パノラマ・ガラス・サンルーフ」はオプション設定
乗降性の向上を目的に、フロントシートは着座位置がやや高めとなる「セミ・コマンド・シート・ポジション」を採用。シートマテリアルはパーフォレーテッド・ダコタ・レザーで、前席は電動(運転席はメモリー付)
リアシートは前後に130mmスライドが可能なほか、バックレストは-1.5°から+28.5°まで3段階に調節できる
リアシートのバックレストは40:20:40の3分割可倒式を採用。ラゲッジルームに設置されるバックレスト・リリースの操作で容易にバックレストを倒すことができる。用途に応じてラゲッジルーム容量は通常時の468Lから最大1510Lまで拡大できる

1.5リッター3気筒エンジン+トルコン8速ATの恩恵

直列3気筒DOHC 1.5リッターツインパワーターボエンジンは、最高出力100kW(136PS)/4400rpm、最大トルク220Nm(22.4kgm)/1250-4300rpmを発生。JC08モードは16.8km/L、使用燃料は無鉛プレミアムガソリン(タンク容量:51L)

 肝心の走りはどうか?

 BMW初のFF車であり、初のMPVタイプのクルマであることはさておき、同車は走りに関するメカニズム面ではMINIとの共通性が高いのだが、乗り味はあくまでBMWだったことを、まずはお伝えしておこう。

 それが意味するところは、前輪駆動であることを感じさせない素直なハンドリングと、しなやかな乗り心地だ。

 試乗車にはBMWでは初採用となる1.5リッター直列3気筒エンジンが搭載されていたが、MINIでもすでに確認しているとおり、性能的には申し分ない。過給機付きエンジンとしては低回転域からレスポンスに優れる上、高速巡航時にさらに加速したいような状況でもストレスなく加速してくれる。フィーリングは上々だ。

 これに寄与しているのがトルコン8速ATだ。このクラスはDCTやCVTを採用する車種も見られるが、ドライバビリティとしてはATがイチバンであることを、あらためて実感した次第である。多段化によりシフトチェンジのマナーもよく、全域でとてもスムーズ。むろんDCTのような低回転域での扱いにくさもないし、CVTのような滑り感もない。8速で100km/h程度で巡行したときのエンジン回転数はわずか1700rpmにとどまる。

 ただし、「音」が残念なのは否めない。BMWといえばサウンドにも期待せずにいられないところだが、MINIならまだしもそこはBMWの一員、もう少し何かひと工夫あってもよかったかもしれない。

前輪駆動を感じさせない

 一方で、フットワークはまさしくBMWのそれだ。

 まず、前輪を駆動していることを感じさせない、スッキリとしたステアリングフィールが心地よい。そして、ステアリングを操作した通りに素直にクルマが反応する。その感覚は後輪駆動のBMWの上級モデルと大差ない。

 乗り心地も快適だ。MINIではあえてカート感覚を表現するためかなり引き締められているが、2シリーズ アクティブ ツアラーはしなやかでしっとりとした印象もあり、これまた後輪駆動の上級モデルに通じるものがある。後席にも乗ってみたが、その快適性は変わらず。ここはMINIとの大きな違いを感じる部分であり、競合するメルセデス・ベンツ Bクラスあたりと比べてもこのクルマが上回っている部分でもある。また、先進安全運転支援装備や快適装備が比較的充実しているのも、このクルマの強みだ。

 それにしても、BMWまでもがこうしたクルマを手がける時代。さらにはすでにこれをベースとする3列シート版の情報も出ており、BMWが「SAT(スポーツ・アクティビティ・ツアラー)」と表現するこちらの路線も、ゆくゆくはXシリーズのようにBMWの1つの柱になっていくのかもしれない。

 あるいは、BMWがこれまで築いてきた“走り”のブランドイメージも、このクルマの商品性の一端になっていることに違いない。このクルマは日本でもけっこう売れそうな気がする。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸