インプレッション

ボルボ「V40 オーシャンレース・エディション」

ボルボが“もっとも過酷なヨットレース”をオーガナイズする理由

 ボルボが2015年モデルにおいて、V40を随所において進化させているのはこれまでの別記事でもお伝えしてきたとおり。そのV40に特別限定車として設定されたのが、おなじみ「オーシャンレース・エディション」だ。

 9カ月におよぶ長期間にわたって、約7万3000kmもの距離を航行して競い合う「ボルボ・オーシャンレース」は、“世界でもっとも過酷なヨットレース”として知られている。1973年にスタートして以降、ほぼ3年おきに開催されており、2001-2002シーズンからボルボがオーガナイザーとなって5回目を数えている。

 日本が経路に組み込まれていないのは残念ではあるが、レースの模様は日本でも放映され、メディアを通じて世界中で延べ13億人が観戦すると言われている。試乗会が開催された3月下旬は、スペインのアリカンテから始まったレースが中盤を迎え、ニュージーランドのオークランドからブラジルのイタジャイを目指しているという、まさしく大会のど真ん中というタイミングだった。なお、ゴールは6月の予定となっている。

「V40 オーシャンレース・エディション」には専用色の「オーシャンブルーメタリックII」(左)と、「クリスタルホワイトパール」(右)の2色を用意

 ボルボが同レースをサポートするのには理由がある。1つは、燃料を使うことなく、風と海という地球の自然のエネルギーだけで大海原を駆けるスポーツであることに共感して。もう1つは、最新鋭の科学技術によって開発されたヨットで、チーム一丸となって無事にゴールすることが何より重要であるという安全性の考え方への共感からだ。

 件のオーシャンレース・エディションは、これまでに2001年、2005年、2008年、2012年の4回に渡って設定。前回の2012年には、V60、XC60、V70、XC70という4モデルの合計560台が同時に発売されたことを思い出すが、今回は気鋭のV40に絞ってグローバルに設定され、日本ではベース車から12万円高となる398万円の価格で限定300台が販売されている。

V40に「オーシャンレース・エディション」が設定されるのは今回が初めて

各部に散りばめた“オーシャンレース”のエッセンス

 ベース車はV40の売れ筋のグレードである「T4 SE」のレザーパッケージ車。2015年モデルにおいて各部が改良されたなかでも、最小回転半径が小さくなったことや、「インテリセーフ10」と呼ぶ安全運転支援装備が全車に標準装備されるようになったことがとくにありがたい。

 ボディーカラーは大海原を想起させる深みのある青である限定車専用の「オーシャンブルーメタリックII」と、カタログモデルにもある「クリスタルホワイトパール」の2色から選べる。左右のフロントフェンダーにはもちろん専用エンブレムが付く。スペシャルデザインのアルミホイールは波のうねりを想起させる。

 各部にオーシャンレースのエッセンスが散りばめられたインテリアも特別感がある。チャコールとブロンドが設定された専用の本革シートは、テキスタイルのアクセントとオレンジカラーのステッチが目立つ。また、専用フロアマットとラゲッジマットにもオレンジカラーステッチが施されているが、これらはヨットレースなどで目にするオレンジ色の救命胴衣をイメージしているそうだ。

特別装備となるスペシャルデザインアルミホイール「Portunus」は、ダイヤモンドカット/ダークグレー色でサイズは7.0J×17。タイヤサイズは純正品と同じ205/50 R17
左右のフロントフェンダー後方に立体的な専用エンブレムを装着
シートカラーはチャコール(黒・左)とブロンド(白・右)の2種類
本革シートにはオレンジ色のロゴやステッチが使われ、一部にテキスタイルが組み合わされる
フロアマットやラゲッジマットにもオレンジ色のステッチが入り、樹脂製のタグが設定される

 インパネの専用アルミニウム・パネルは、目を凝らして見るとオーシャンレースの寄港地がズラリと刻まれている。専用フロント・スカッフプレートももちろんロゴ入り。また、インフォテイメント系の装備でも、ボルボ センサスの起動画面が、通常はボルボの“アイアンマーク”のところ、専用ロゴが現れるのもお約束だ。

 機能装備では、フロントパワーシートやキーレスドライブが標準で付く。さらに、より太陽の日差しを感じられるように、ベース車ではオプション設定のパノラマ・ガラスルーフが与えられるのも大きい。これだけでも本来は19万円するところがもともと付いてくるのだから、下世話な話ながら単純に装備だけ見ても、同特別限定車はかなり買い得感があるといえる。

センタークラスターのパネルはアルミカラーとブラックを組み合わせた専用品。小さな文字でオーシャンレースの寄港地の名前が刻まれており、5つの●でボルボ・オーシャンレースが5回目の開催を迎えたことを表現している
ステアリングを握ったままカーナビやオーディオなどを操作できるボルボ センサスの起動画面にもオーシャンレースのロゴマークを使用
ロゴ入りの専用スカッフプレートを運転席と助手席のドアに設定
通常は19万円高のオプションであるパノラマ・ガラスルーフを標準装備

あらためてV40の走りのよさを確認

 2015年モデルのV40の走りがよくなったことはすでに体験済みのところだが、まずはあらためてそれを確認。

 下ろしたての今回の試乗車両は総走行距離がまだ700km台。1月にテストドライブした2015年モデルのV40(T4 SE)がもっと距離を走っていたこともあり、比較するとこちらは乗り心地が硬く感じられたが、もう少ししなやかになると予想される。もしも新車のV40を購入して、最初の乗り心地が硬く感じたとしても、そのうちいい感じになじんでいくと思ってもらって大丈夫だろう。

 2015年モデルでますます一体感の増したステアリングフィールはV40の美点。また、今回は1月の試乗では試せなかった高速道路も走ることができたのだが、直進安定性が高くフラットな乗り味により、いたって快適にドライブできる。市街地ではトランスミッションがトルコンのないDCTなので若干煩わしく感じることがあるものの、高速道路ではダイレクト感のある走りに終始し、T4エンジンが持つ動力性能を巧みに引き出してくれる。

高速道路ではあまり距離を走っていない試乗車でもフラットな乗り味が感じられた

「インテリセーフ10」による各種安全運転支援装備が充実しているのも、あらためてV40の大きな魅力。ACCは1回速度を設定してしまえば、スムーズな加減速で自動的に前走車に追従してくれるし、自車に迫る危険があれば的確に知らせてくれる。いたって快適かつ安全に高速巡航できる。

 そんな優れもののV40に、オーシャンレースのエッセンスを注いで独特の雰囲気を味わわせてくれる特別限定車である。しかも、前述したとおりコストパフォーマンスも高い。好みに合うなら迷わず“買い!”の1台だ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学