インプレッション

STI「S207 NBR CHALLENGE PACKAGE」

即日完売はSTIへの信頼感の表れ

 STI(スバルテクニカインターナショナル)のコンプリートモデルには、これまでも折に触れてドライブする機会があったが、今回の「S207」は2011年の「S206」から4年ぶりとなる、ひさびさの「S」を冠したモデルであり、1年あまり前に登場した現行スバル(富士重工業)「WRX STI」をベースとする初のコンプリートモデルでもある。

 限定400台は今回も例によって即日完売だった。実は筆者がドライブしたのは、それが明らかになってからのことだ。おそらく誰かの試乗記を読んでから購入を決めたという人はいないはず。それにしても、いつもながらSTIのコンプリートモデルがこういう売れ方をするのは、STIがこれまでやってきたことに対しての、ファンの絶対的な信頼の表れにほかならないように思える。

 いよいよ貴重な1台と対面だ。ノーマルの倍近い金額の内訳は、見えるところから見えないところまで随所に手の入った各部のパーツに要したコストや、専用のチューニングにかかった手間にあるわけだが、ベース車にないエアロパーツが追加され、チェリーレッドのストライプやドライカーボン製のリアスポイラーが目を引くS207 NBR CHALLENGE PACKAGEは、見た目からして特別感がある。

 コクピットに目をやると、各部にあしらわれたカーボンパネルや金属調パネル、鮮烈な赤の差し色などが、STIのコンプリートモデルならではの雰囲気を高めている。

 レカロとの共同開発による専用バケットシートも、スポーツドライビングを想定した機能とともに、シルバーの縁取りを施すなど見た目もユニークに仕立てられている。これもまたS207の特徴的装備のひとつだ。

撮影車は、標準モデルに加えて専用ドライカーボン製リアスポイラーや2015年のニュルブルクリンク24時間レースクラス優勝記念オーナメントを装備する「S207 NBR CHALLENGE PACKAGE」(限定200台)

最大のポイントはエンジンにあり

「EJ20型」水平対向4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは、最高出力328PS/7200rpm、最大トルク44.0kgm/3200-4800rpmを発生

 そんなS207の最大のポイントはなんといってもエンジンにある。13年ぶりに手が入れられたEJ20は、Sシリーズ史上最強となる、最高出力は20PS増しの328PS、最大トルクは1.0kgm増しの44.0kgmへと引き上げられている。発生回転数についても、最高出力が6400rpmから7200rpmへと上がり、最大トルクが4400rpmから3200-4800rpmへとワイドになっている。

 そもそもWRX S4やレヴォーグには新世代のFA20ターボが採用されたにもかかわらず、WRX STIがEJ20を踏襲したのは、92.0mm×75.0mmとショートストロークで高回転型のEJ20のほうがフィーリング面では官能に訴えるものがあるからだ。S207に与えられたのは、そのEJ20をSTIが本格的に手がけた謹製エンジン。内容としては、エンジン構成部品のバランス取り、専用ECUによる制御、ベース車に対し通気抵抗を約50%低減した排気システムの採用、ボールベアリングターボの採用および過給圧アップなどが施されている。

エンジンは、構成部品のバランス取り、専用設計のECUによるエンジン制御、ベース車比で通気抵抗を約50%低減した排気システムを採用。そのほか、ボールベアリングターボによる効率化や過給圧アップなどを施した

 実際にドライブしても、それは感動モノだった。今どき8000rpmまで回るエンジンというのはめっきり少なくなった中で、回せば回すほどに、より“抜けた”感じの、爽快で痛快な吹け上がりを味わわせてくれる。このフィーリングは格別だ。

 低回転域のトルクはむしろ薄めなのだが、だからこそ中〜高回転域にかけて厚みを増したトルクの盛り上がりがより強調されて感じられる。すべてはこのエンジンフィールを味わうがためというだけでも、このクルマを手に入れる理由として十分ではないかと思う。

 6速MTの小気味のよいシフトフィールも大いに期待に応えるものだ。適度にショートストロークで、ガシッとした剛性感とダイレクト感があり、これまたSTIのコンプリードモデルをHパターンのMTで味わう醍醐味がある。

驚くほどシャープで一体感のあるハンドリング

 フットワークはまさしくスポーツカーそのものだ。最近ではスバル車自体が応答遅れの排除にこれまでにも増して注力しているように感じられるが、S207はさらに徹底している。操舵やアクセル、ブレーキのすべての運転操作に対して、ほぼタイムラグなくクルマが反応するよう味付けされている。

 これにより11:1というクイックなステアリングレシオをしっかり使いこなして、驚くほどシャープで一体感のあるハンドリングを実現しているのもまたS207の大きな魅力に違いない。

 それでいてクルマの性格に合わせて、スポーティながら快適性にも配慮されていることも感じ取れる。乗り心地はそれなりに引き締まっているが、不快なほどではない。ただ、高速道路を巡行すると、取材時に乗った限りではややピッチングが大きいことが気になったのだが、減衰力の調整次第では印象も変わることだろう。

 もう1つ、このクルマに装着されていたもので注目すべきがオプションで用意されているトランクマットだ。その効果を確認するため、ある状態とない状態で走行してみたのだが、車内の静かさがだいぶ変わる。敷くとリアアクスルまわりから伝わってくる、あまり心地よくない音が大幅に低減されるのだ。もちろんトランク形状が同じ車種にはすべて装着できるのだが、より上質なドライブを楽しみたい人に、ぜひおすすめしたいアイテムだ。

トランクマット(価格:1万6200円)

 STIのコンプリートカーはどれも印象深いモデルばかりだが、このS207も、現行WRX STI初のモデルであり、EJ20にも手を入れるという大仕事もやってのけた記念すべきモデルでもある。そして、大々的にチューニングされた名機EJ20を手に入れられる機会は少ないと思われる。

 高価ではあるが、価値あるクルマであり、得られるものも大きい。購入した400人の方々は、大いに誇りを持って乗っていただければと思う次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛