インプレッション

プジョー「208(PureTech3気筒ターボ)」

パワートレーン一新

 かつて「206」が人気を博したプジョーは、ピークの2002年には日本での年間販売台数が1万5000台を超えたこともあったほどだった。ところがその後は徐々に落ちて、それでもかろうじてフランス勢の中ではトップの座にいるものの、一世を風靡した当時を思うとちょっと寂しい状況となっているのは否めない。

 そういえば、もっと売れてもおかしくない「208」に元気がない。では「208」がイケてないのかというと、そういうわけでもない。2012年の発売から約3年で世界累計生産は100万台を達成しており、世界的に見ると「208」の販売状況はけっしてわるくはない。ところが日本市場では、デザインのことはさておいて、トランスミッションが通用しなかった。

 そもそもプジョーは昔からトランスミッションについては何かと不満が聞かれることが多い。「208」については、2012年11月の発売当初はBMWとの共同開発による1.6リッター4気筒ターボエンジンが主体のラインアップに、MT(アリュールは5速MT、GTは6速MT)と4速ATが設定された。

 そして2014年1月には、直列3気筒DOHC 1.2リッターの自然吸気エンジンに5速の「ETG(エフィシェント・トロニック・ギアボックス)」と呼ぶセミATの組み合わせがメインとなったのだが、これがあまりよろしくなかった。スムーズさに欠ける走りは、正直あまり誰にでも薦められるものではなかった。

 ところが2015年10月、そんな状況を打破することになるであろう、快心の改良を実施した。件のパワートレーンが一新され、「308」譲りの仕様となったのだ。「インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー2015」の1.0〜1.4リッター部門で最優秀賞に選ばれた1.2リッターの「PureTech」3気筒ターボエンジンと、「EAT6」と呼ばれる最新の6速ATという組み合わせである。

2015年10月にフェイスリフトした「208」。撮影車はアリュールで、ボディサイズは3975×1740×1470mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2540mm。ボディカラーはリオハ・レッド。価格は237万円
新型208では新デザインのバンパーを採用するとともに、アリュールでは「イコライザー」と呼ばれるグリルアクセントが与えられる。LEDランプ内蔵のハロゲンヘッドライトユニットにはハウジング部にブラックとクロームの2トーンの処理が施され、シャープさを演出。テールランプはライオンの爪跡をモチーフにした新デザインのもの
アリュールは16インチアロイホイールを装着(タイヤサイズ:195/55 R16)

 さらにはフェイスリフトにより、見た目もシャープな印象が高まった。特徴的だった「207」から一転して、いささか没個性になった「208」のデザインには、やや物足りなさを覚えた半面、やけに女性に受けがよいように感じていたのだが、今回の改良で男性が乗っても絵になるようになったと思う。

 ヘッドライトユニット内のポジションランプには、兄貴分の「308」では点タイプのLEDのところ、こちらは線タイプのLEDが与えられた。また、前身の「207」ほどではないにせよフロントグリルが強調されたほか、パンパーやヘッドライトの形状とイメージをだぶらせたような開口部のデザインとされた。ライオンの爪跡をモチーフにしたというテールランプのデザインも印象深い。

インテリアはシックなブラックを基調にしたもので、アリュールではシート素材にハイクオリティファブリックを採用。撮影車は花粉や埃を除去してくれるアクティブカーボンフィルター内蔵の左右独立調整式オートエアコンを標準装備するほか、アリュールにオプション設定される「Cielo Package」に含まれるパノラミックガラスルーフを装着
分割可倒式のリアシートを折り畳むことで、ラゲッジスペースは最大で1076L(VDA方式)まで拡大することができる

軽やかで力強い走り

 久々に「208」のシートに収まると、独自の設計思想が生み出した「i-Cockpit」をいち早く導入したインパネはやはり個性的であり、低めのウエストラインとも相まって開放的に感じられる。「308」では極端なまでにスイッチ類をインパネから消し去ったことに驚かされたが、こうして見ると「208」でもそれにチャレンジしていることが分かる。

 たしかに「308」のほうが見た目のインパクトはあるとは思うが、少なくともエアコンの温度調整は、左右に設定されたスイッチで運転席と助手席でそれぞれ温度設定できるようになっている「208」の方が圧倒的に使いやすい。また、パーキングブレーキがレバー式なのも「308」との違いである。

 撮影車両に装着されていた「シエロパッケージ」に標準装備される大開口のパノラミックグラスルーフは、とても開放感のあるドライブを楽しませてくれる。そして走り出すと、当然といえば当然ながら、最初のひと転がりからETGとはまったく感触が違う。なめらかに加速し、シフトチェンジするときに駆動抜けしていらいらさせられることもない。

 そして圧倒的に力強い。自然吸気版のエンジンも排気量のわりにはトルクがあったように思うが、やはり過給機が付いた分ずっとトルクフルだ。それもごく低回転から、その走りは軽やかで力強い。ATの制御はいたってスムーズで、かつダイレクト感もあり、走りへの期待にも応えている。もちろんストップ&スタートシステムも装備している。

パワートレーンは直列3気筒DOHC 1.2リッターターボ「PureTech」エンジンに最新の6速AT「EAT6(6速エフィシェント・オートマチック・トランスミッション)」の組み合わせ。最高出力81kW(110PS)/5500rpm、最大トルク205Nm(20.9kgm)/1500rpmを発生。アイドリングストップ機構などを備え、JC08モード燃費は18.2km/Lをマーク

高速のロングドライブもストレスフリー

 フットワークは、プジョーと聞いて多くの人がイメージするであろうしなやかさと、現代的な引き締まった味を上手く併せ持っている。

 快適性が十分に高い中で、高速巡行では小さな車体であることのハンデをそれほど感じさせない、フラットで落ち着いた乗り味を持っていて、ロングドライブも苦にならない。加えて先に述べた頼もしいパワートレーンは、高速道路でもストレスを感じさせることはない。このクラスでこれほどの動力性能を持っていれば十分以上だ。

 一方で、市街地では4mを切る全長と、1740mmという全幅がもたらすコンパクトサイズにより取り回しに優れるのも、言うまでもなく「208」の強み。その機動性を生かしてコミューター的に使うもまたよしだろう。

 安全装備については、約5〜30km/hの間で走行中に作動する自動ブレーキ「アクティブシティブレーキ」や、縦列駐車の際に駐車可能なスペースを検知し、そのステアリング操作を自動で行なう「パークアシスト」などが設定されている。ただし、自動ブレーキに2輪車や歩行者検知機能はない。また、「308」のようなACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の設定がないこともやむなしである。

 というわけで、最初からこの仕上がりだったら「208」のイメージもずいぶん違ったものになっていたはずと思わずにいられなかったというのが正直なところ。今回の改良でハンデを抱えていたパワートレーンが反対にクラストップレベルの仕上がりとなり、むしろアドバンテージとなったことや、よりスタイリッシュにリフレッシュされた外観などは、「208」にあらためて目を向けてもらうためのよい機会になるのではないかと思った次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:原田 淳