インプレッション

プジョー「208 GTi」

名車「205 GTi」の再来

205 GTi

 筆者がこれまで乗り継いできた25台の愛車の内訳は、日本製GT&スポーツとドイツ製セダンが圧倒的に多い中で、かつて縁あって「205 GTi」をしばらく所有していたことがある。

 実はもともとフランス車にはあまり関心がなかったのだが、このクルマだけは何か妙に惹かれるものがあった。当時は2BOXカーのデザインに魅力を感じたことなどあまりなかったのに、ピニンファリーナが手がけたスタイリングは、当時はやけにオシャレに見えたものだ。

 走りに関して、プジョーは「猫足」という先入観を持っていたところ、意外と引き締まった足まわりとシャープな操縦性を持っている205 GTiは、どちらかと言うとドイツ車っぽい味だったように記憶しているが、“本場のホットハッチ”とはこういうものだということを教えてもらった気がした。

かつて205 GTiを所有していた筆者にとって、208 GTiは興味深い存在

 そして今回、208 GTiのプロモーションにあたって、可愛い女の子を描かせたら第一人者だろうと私的に思う江口寿史氏が書き下ろしたグラフィックノベルとともに、208 GTiが205 GTiの再来であることを強くアピールしていることに興味深く感じていた。それだけ205 GTiは名車だったということなのだろう。

 208シリーズは2012年秋より日本導入がスタートしており、ようやく街中でちらほら見かけるようになってきた。そして今回の208 GTiは、208シリーズの発売当初にトップモデルとして設定されていた「208 GT」と入れ替わるという位置づけになる。

 内外装は見てのとおり大幅に手が加えられており、加えて搭載する直噴ターボの直列4気筒DOHC 1.6リッターエンジンは、208 GTでは出力が115kW(156PS)だったところ、147kW(200PS)まで引き上げられている。トランスミッションは6速MT、ハンドル位置は右のみで、専用のエキゾーストシステムやスポーツサスペンションが与えられ、トレッドもフロントで10mm、リアで20mm拡大されている。

 300万円を切った299万円という価格設定もポイントだ。

208 GTiの試乗会場では、同じフランス出身のパトリックが各種シューズを展示。208 GTiの試乗者にパトリックのシューズを貸し出すサービスを行っていたので、筆者も借りて208 GTiをドライブ。実はロゴマークにライオンを掲げるという共通点があったりもする。実際に履いた感想は、クッション性が高くて歩きやすかった。それでいて、これだけクッション厚があると運転しにくいものが多く見受けられるが、パトリックは適度に柔軟性があるためペダル操作がしやすく、ペダルからのインフォメーションが伝わってくるので、運転しやすくて好印象だった。あまり奇抜でなく普遍的なデザインのところも◎

赤のアクセントが印象的

 内外装は、他の208シリーズとは分かりやすくスポーティに差別化されている。外観では、上部をチェッカーフラッグを模したデザインとし、下部に赤のラインを配したフロントグリルや、オレンジに光るLEDウインカーを組み込んだヘッドライトユニット、赤く彩られたブレーキキャリパーなどが目を引く。3ドアのみの設定で、2BOXカーであれば、3ドアでも5ドアでも大差ない気もするところだが、やはり3ドアのほうがスポーティなアピアランスを持っている。

208 GTiは最高出力200PS/6000rpm、最大トルク275Nm/1700rpmの直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボエンジンを搭載。専用デザインのフロントグリルや、リアクォーターピラーに専用エンブレムを装着する

 さらにインパクトがあるのが、黒を基調に随所に赤のアクセントを配し鮮やかなコントラストを織り成すコクピットだ。ステアリングの上にメーターが覗く208シリーズ独特のレイアウトはもちろん共通だが、テップレザー(人工皮革)を張ったダッシュボードの質感は高く、ほかの208シリーズと同じ外径の小さいステアリングを採用しつつ、グリップの太さや10時10分の位置に設定するふくらみを専用にするなど、スポーティな演出がなされている。インナードアハンドルにはグラデーションを用いた新しい試みも見られる。こうしたGTiならではの世界を楽しむことができる視覚的な部分も、このクルマの数ある魅力の1つになっている。

 シートも大胆にカラーコーディネート。座面がやわらかく、やや上下動が大きいことが少々気になったが、サポート性は十分に高く、身体が包み込まれるような感覚となるところがよい。

メーターパネルやシート表皮、ドアトリムなどにレッド塗装を施すほか、専用ステアリングなどを採用する

いかにもプジョーらしい味

 そんなわけで、筆者も所有していた205 GTiをオマージュしたという208 GTiが、どのような味に仕上がっているのか、非常に関心があった。

 7月初旬に箱根で開催された試乗会では、Car Watchの取材日は本格的な雨と霧に見舞われてしまったが、筆者は別の晴れた日にも同試乗会に参加したため、ドライとウェットの両方でハンドリングを試すことができたという意味ではラッキーだったかもしれない。

 まずその印象から述べると、ドライとウェットでの走りの差が小さいように思えた。絶対的なグリップやトラクション性能はドライでもそれほど高いわけではないが、逆にウェットでは粘りの強さを感じた。両者の差を小さく感じたのはそのせいだろう。

 足まわりを一言で表現すると、とてもしなやかで引き締まった味付け。ストローク感のあるサスペンションが路面の凹凸を上手く吸収してくれるので、乗り心地に硬さを感じない。それでいて適度にダンピングが効いているため姿勢があまり乱れることもなく、そしてアクセル、ブレーキ、ステアリングなど一連の運転操作に対してクルマがとても素直に反応するので、その動きが手に取るように分かる。

 また、ステアリングの応答性を意図的にやや鈍めにしているようで、キビキビと走れながらも、あまり緊張感を要しないところもよい。このあたりは正確な操縦性や高い安定性を身上とするドイツ製ホットハッチとは異質の部分であり、いかにもプジョーらしい味がする。

 それはかつて味わった205 GTiとも違い、よりプジョーにとっての「GTi」を現代的に解釈した乗り味とでも言おうか、とにかくその仕上がりは妙味であった。200PSのエンジンとクロスレシオの6速MTを得たパワートレーンの実力もなかなかのもの。0-100km/h加速は7秒以下というから、このクラスとしては結構な速さだ。

 このところプジョーの主力ユニットになっているこの1.6リッター直噴ターボエンジンは、もともと208 GTやRCZ、308の標準仕様にも採用されていて、レスポンスがよく力感もあって好印象だったところ、高度なチューニングが施されてローギアード化された208 GTiでは、吹け上がり方がさらに段違いに元気になっている。

 踏み込んだときに盛り上がる加速感と、タコメーターの針の上昇、野太いエキゾーストサウンドの高まりがみごとにリンクしていて、まさに痛快そのもの。これでこそHパターンのマニュアルトランスミッションを操ってドライブする甲斐があるというものだ。6速に刻まれたシフトのフィーリングも歯切れがよく、あまりシビアな印象もなく扱いやすくてよい。

 全体として、せっかくGTiを選ぼうかというファンの期待を裏切ることなく、よりベターな形で応えられるよう、プジョーも大いに努力したことを伺わせるルックスとドライブフィールに仕上がっていたことをお伝えしたい。

ラグジュアリースポーツな「208 XY」

208 XY

 さらに試乗当日、208 GTiと同時に発売された「208 XY」にも触れることができた。

 こちらのパワートレーンは、208 GTと同じ156PS仕様のエンジンと標準レシオの6速MTが組み合わされ、足まわりも標準仕様。パノラミックガラスルーフや特別なボディーカラーを設定した“ラグジュアリースポーツ”モデルに仕上げられており、208 GTiとの間にあるのは上下関係ではなく、対等という位置づけになる。

 個性的なカラーをまとったボディーの至るところにクロームのアクセントをちりばめ、インテリアもブロンズ色とクロームトリムを組み合わせ、208 XYのテーマカラーであるパープルのステッチを随所に配するなど、独特の雰囲気を持つ内外装は他メーカーとは一味違うプジョーらしいセンスを感じさせる。

 ドライブフィール自体は208 GTに近いと考えてよいが、208 GTiほどでなくても、これはこれでライトなスポーティテイストが心地よい。そして、大面積のパノラミックガラスルーフが絶大な開放感をもたらしてくれる。開口部が前席乗員の頭の真上より少し前まで広がっているので、後席乗員しか恩恵に授かれない、ということもない。

 これで269万円というのは、208 GTが258万円であったことを考えるとかなりのバーゲンプライスだと思う。

ライトなスポーティテイストに仕上げられた208 XY

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。