インプレッション

フォード「クーガ」

 フォード「クーガ」の初代モデルデビューは2008年。つまり現在販売されているクーガが初代ということになるのだが、現行クーガが日本に導入されたのは2010年と、まだまだ日が浅い。しかし、クーガはフルモデルチェンジをして日本国内では9月に発売される予定だ。その新型クーガ、オーストラリアはアデレードでの国際試乗会の模様をお伝えしよう。

 広大なオーストラリアの大地、シラーズ(Shiraz)品種の赤ワインが有名だが、アデレードの人口は120万人ほど。東京都世田谷区でさえ90万人だと言うのに、いかに人口密度が低いかが伺えようというもの。つまり、人もクルマも少なく試乗会場にはピッタリ。遥か遠くに南極を望む(見えませんが)海岸線は絶景で、ワインディングもかなりテクニカル。ワイン・ガードナーやマーク・ウェバーといった世界に通用するモータースポーツアスリートを生み出したのはこの土地柄ゆえと一人納得する。

 ただし速度規制は厳しく、日本と同じ制限速度100km/hの高速道路では105km/hで立派に御用となる。お金持ちのスーパーカーマニアはドイツでクルマを購入しておき、わざわざアウトバーンを走りに行くのだとか。ただし、オーストラリアの一般道は制限速度100km/hや80km/hという峠道が多数存在し、こちらは明らかに日本とは楽しめる速度領域が異なる。つまり、一般道のワインディングはかなり楽しめるというわけだ。また、オーストラリアはフォードの主要な販売拠点でもあることから、ここアデレードが試乗会場に選ばれたのだろう。

新型クーガの試乗会はオーストラリア・アデレードで行われた

1.6リッターへとダウンサイジングした新型クーガ

 では本題に入ろう。クーガはヨーロッパ・フォードがリリースするコンパクトSUV。そう、欧州生まれなのである。クーガという名称は、フォードブランドのマーキュリーに「クーガー」という車名が存在したが、クーガはKUGAと書き、実は造語である。さて、これまでのクーガ、日本での立ち位置はと言うと、輸入コンパクトSUVマーケットは2008年から増加傾向で、2012年は2008年の3倍近い1万800台を記録。そんな中、輸入コンパクトSUVのトップはBMW「X1」で約50%のシェアを持っている。クーガの価格帯は主に300万円~400万円。500万円台が常識の欧州コンパクトSUVの中にあって、この価格帯で200PSオーバーを発生する2.5リッターターボエンジンを搭載するなど性能面での割安感も高く、隠れた人気モデルだったのだ。

 新型クーガへと話題を移すと、基本的な骨格とも言えるプラットフォームは前作もそうであったようにフォーカスからキャリーオーバーしている。もちろん今回の新型クーガは、先日発売された新型「フォーカス」と共通なのだ。エクステリアデザインはキネティックデザインと呼ばれる躍動感にあふれるスタイリッシュなもの。全長4540mm、全幅1840mm、全高1710mmで、前作より全幅が10mm狭くなったことにより、日本の道路事情にもマッチするサイズとなっている。またホイールベースはそのままで、全長は逆に95mm長くなって荷室スペースなども進化している。

 搭載されるエンジンは、これまでの直列5気筒2.5リッターターボエンジンから直噴の直列4気筒1.6リッターターボ「EcoBoost」にダウンサイジングしている。またトランスミッションも5速ATから6速ATへと進化、ボディーのエアロダイナミクス改善と合わせて20%以上の省燃費を達成しているのだ。

新型クーガのボディーサイズは4540×1840×1710mm(全長×全幅×全高)で、従来モデルから全長は95mm長く、全幅は10mm狭くなった
新型クーガで採用される直噴の直列4気筒1.6リッターターボ「EcoBoost」エンジンは、最高出力134kW(182PS)/5700rpm、最大トルク240Nm(24.5kgm)/1600-5000rpmを発生

 実際、全幅の-10mmが空気抵抗を減らす効果として大きい。筆者がSUPER GTでステアリングを握ったフェラーリ360GT等のスーパースポーツは、幅広ゆえに空気抵抗が大きく最高速は遅かった記憶がある。背高より幅広の方が空気抵抗は大きくなる、というレーシングカーデザイナーの言葉を思い出した。ということはノッポよりデブの方が……。ま、つまり、空気抵抗を減らす=好燃費となるわけだ。エンジンは182PS/24.5kgmと前作より出力ダウンしているが、1速多い6速ATの採用により、低速から高速まで不満のない加速フィールだ。多少の出力ダウンよりも燃費性能のアップはユーザーにとって興味のあることである。

 4WDはハルデックス製から自社製となり、これまでフロント100-50/リア0-50だったものが、フロント100-0/リア0-100と、フルスケールで前後トルク配分を可変コントロールする本格的な仕様となっている。基本は2WD(FF)として走行するが、特に発進時には10%だけ後輪にトルクを配分するなど制御は細かい。

サスペンションのセッティングもSUV用に補正

 さて、ドライバーズシートに腰かけると、まずインテリアの包み込まれるような造作に新鮮さを覚える。だいたいSUVのインテリアはスペースを優先してガランとしたものだが、クーガでは高級感とエクステリア同様のスポーツ性を強調している。

 ではそのワインディングの話から始めよう。一般道ゆえ路面サーフェスはそれほどフラットではなく日本の田舎道よりも硬さを感じるワイルドなものだ。新型クーガのサスペンションは締まり感が強くなったので路面の硬さは伝えてくるのだが、振動感が少ない。ボディー振動が1回で終息するほどに剛性があることと、突き上げ時など入力の角が丸く不快感がない。かえって路面とタイヤの状況を感じ取れるのでドライブしている実感がある。

 締まり感のあるこの類のサスペンションはコーナーリングでもツッパリ感を感じるものだが、クーガのコーナーリングはしなやかなロールをともないとてもスムーズ。限界まで至らない、まだ余裕のある60%レベルのコーナーリングでもステアリングの補正の必要がなく、一定の舵角でスムーズに駆け抜けることができる。

 そこで気になってサスペンションのロアアームを覗いてみた。新型クーガのベースは前述したように新型フォーカス。フォーカスより車高が高いクーガはそのままではロアアームがハの字型に垂れ下がるはず。しかし、クーガのロアアームはしっかりとフラットになっていた。つまり車高の高いSUV用にしっかりと補正を施しているのだ。ハの字になると突き上げがボディーに直接伝わり、トレッド変化も起こす。逆に言えば、このようにサスペンションの変更を施しているから、サスペンション剛性を高めて高速でのハンドリングをよくしても乗り心地はそれほどわるくならないのである。SUVとしてしっかりと作りこまれていることが理解できるのだ。

 また、コーナーリングでは4輪を個別にブレーキを掛けることでアンダーステアを減少させる「トルクベクタリング機能」が採用されている。試乗コースにはダートの林道もあり、滑りやすい路面でも深い操舵が利くことを実感した。

リアシートはコンパクトSUVとは思えないほどに快適な乗り心地

 インテリアでは、センターダッシュにBluetoothオーディオやハンズフリーが楽しめ有線用のUSB&AUXインターフェイスも備える「SYNC」と呼ばれるシステムのコントロールが構え、オーディオもソニーの9スピーカーだ。最近はスマートフォンをカーナビ代わりに使うユーザーが増えているが、これらが標準装備されていれば敢えてカーナビを後付けする必要もなく経済的だ。

 フロントシートは包み込まれ感が強調されるが、注目したいのはリアシート。数段階のリクライニング機構が採用され、しかも座面ごと動くので、コンパクトSUVとは思えないほどに快適な乗り心地だ。実際、筆者自身ドライバー交替で後席に乗り込んだ際、不覚にも爆睡してしまった。SUVでこれほど乗り心地のよいリアシートは初めてだ。ほかにもパーキングブレーキがセンターで引き上げ式となったほか、エンジンスタータースイッチがこれまでのセンターダッシュからダッシュパネル下側に移動した。これは、以前のモデルがハザードスイッチと押し間違えることが多かったからだろう。

新型クーガのインテリア。インテリアデザインは航空機のようなコクピットスタイルとした。マイクロソフトと共同で開発した独自のドライバー・コネクト・テクノロジー「SYNC」は全車標準装備となる
広大なサンルーフを装備する
ラゲッジルームは5名乗車の状態で406L、リアシートを倒した状態で1603Lの容量を確保
上級グレードのTitaniumは片足をリアのフロア下でキックするだけで自動開閉するパワーリフトゲートを装備

 また、上級グレードのTitaniumには荷物を持っていて両手が塞がっているときなど、片足をリアのフロア下でキックするだけで自動開閉するパワーリフトゲートが装備され、インテリジェントキーと合わせ使い勝手もよい。リアゲートはこれまでのリアガラス面だけがゲートとは個別に開閉できる2個所開閉式だったものが廃止され、1枚ゲートとなったが、このハンズフリーが装備されていれば荷物の出し入れも苦にならないだろう。

 最近は日本でもゲリラ豪雨時のアンダーパスなど路面の冠水が多くなり、都市部においてもこれまでファッションとしてのSUVの価値観から新たに実用性における評価が高まりつつある。一般乗用車は20cmレベルの冠水で走行が困難になるのに対して、SUVならまったく問題がない。しかも4WDならなお心強い。都市部でもサバイバルなツールとしてのSUVは評価を上げてきているのだ。

 販売価格は標準グレードのTrendが340万円、上級グレードのTitaniumが385万円。新型クーガは輸入コンパクトSUVの中でも競争力を増したと言えるだろう。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

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