インプレッション

フォード「クーガ」

ダウンサイジングエンジンを搭載する新型「クーガ」

 フォードにはマザーカントリーの北米を主体とした大型モデルと、欧州市場等を中心とした小型モデルがあるが、現在は2008年より始まった「ワン・フォード戦略」を掲げている。これは商品の品質、環境、安全、性能を“オールフォード”としてトップレベルに引き上げ、世界各地の開発、生産を一元化して効率を高めるという新しいフォードの戦略だ。今回の「クーガ」は2010年に登場したSUVのフルモデルチェンジであり、フォード・ジャパンとしても「フォーカス」に続く期待の小型車となる。

 フォーカスは新しいプラットフォームを使ったグローバル戦略車としてすでにこの2月に日本へ導入し、フォードらしいしっかりとしたハンドリングが好評を博しているが、クーガはそのフォーカスをベースにして開発されたSUVだ。ちなみにフォードではSUVを「Sport Utility Vehicle」ではなく「Smart Utility Vehicle」と呼称しており、通常のフォードの大型のSUVとはキャラクターの違いを明確に訴求している。

 初代クーガは2010年に投入され、横置き5気筒ターボというユニークなレイアウトを持ち、5速ATと組み合わせたFFベースの4WDだが、6月に発表された2代目クーガは最近のフォードのパワートレーン戦略である「ECO Boost」とネーミングされたダウンサイジングエンジンを搭載する。

 クーガのECO Boostは4気筒の1.6リッター直噴エンジンに軽く過給をかけ、吸排気可変タイミングを搭載した最新のエンジンで、最高出力は182PS/5200rpm、最大トルクは240Nm/1600-5000rpmを出す。数字からしてもトップレベルのエンジンであることが分かるが、それだけでなくトルクバンドを広げることで、SUVにも適合性の髙いパワーユニットであることが想像できる。上級グレードのTitaniumは1720㎏なので、馬力荷重は9.45㎏/PSだが、トルクの厚みはそれを補ってお釣りがくるだろう。このエンジンには125以上の特許技術がある。

新型クーガのパワートレーンは、直列4気筒 1.6リッター直噴ターボ「EcoBoost」エンジンと6速ATの組み合わせ。ボディーサイズは4540×1840×1705mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2690mm。乗車定員は5名

 トランスミッションはエクスプローラのEcoBoostに搭載するトルコンATの6速を適合させたもの。DレンジとSレンジを持ち、シフトレバーの横に配置されたスイッチを親指で操作すると、容易にシフトアップ/ダウンができる。

 ここまで記したところで、フォーカスとはパワートレーンがまったく違うことが分かるだろう。フォーカスは直列4気筒DOHC直噴2リッターの自然吸気エンジンに6速のデュアルクラッチトランスミッションを組み合わせた2WD(FF)車だが、クーガは小排気量ターボにトルコンATを使った4WD。フォーカスのプラットフォームをベースとしているが、単純な派生モデルではないことが分かる。

直列4気筒 1.6リッター直噴ターボ「EcoBoost」エンジンの最高出力は134kW(182PS)/5700rpm、最大トルクは240Nm(24.5kgm)/1600-5000rpm

 4WDシステムもクーガのと共通ではない。従来のクーガのそれは、FFをベースにして最大50:50まで前後トルク配分を行うオンデマンドAWDだったが、そのシステムを発展させたものを搭載している。新型ではトルクオンデマンドをさらに進化させ、25種類以上のセンサーからスロットル開度、速度、ステアリング舵角などを感知し、前後のトルク配分を100:0~0:100まで変化させる。基本的にハルデックスのシステムを継承するが、トルク配分はより細かく制御し、従来オフロードの走破性を中心としたトルク配分が、オンロードでのライントレース性まで重視したものに進化している。このシステムは学習機能が備わっており、極めてドライバーに寄り添ったものだ。

 2種類あるグレードの上級グレードであるTitaniumではRSC(ロール・スタビリティ・コントロール)も装備される。急ハンドル時の転倒防止に効果があり、背の高いSUVにはありがたい装備だ。さらにトルクベクタリング・コントロールを装備し、左右輪のトルクをコントロールして旋回しやすくしている。これは左右のブレーキを独立して制御することでLSD的な効果を生み出し、アンダーステアを打ち消す働きをする。これは実は電動パワーステアリングの精密なセンシングによって実現することが可能となっている。

乗り心地だけでなく静粛性も高いのが大きな魅力

装着タイヤはコンチネンタル「プレミアムコンタクト2」。サイズは235/50 R18

 では早速これらの運動性能をチェックしよう。Titaniumの装着タイヤはコンチネンタル「プレミアムコンタクト2」で、サイズは235/50 R18となる。因みにベースグレードのTrendは235/55 R17を履く。

 SUVらしい高めのヒップポイントだが乗降性はわるくない。アイポイントが高く直前視界も確保されているために、運転しやすそう、というのが第一印象だ。シートのハイトコントロールは大きな幅を持っており、かなりの身長差にも対応可能だ。日本人の平均身長だとハイトコントロールを適切に合わせるとドライビングポジションは前気味になるが、ステアリングホイールのチルト&テレスコ機能を活かすとぴしゃりとした姿勢になる。ただブレーキペダルは日本車よりもやや高めで、右足のアクセルペダルの乗せ替えは最初はちょっぴり違和感が残るが、すぐに慣れた。

 トルコンATはSUVらしくクリープもしっかり残しており、段差や坂道でのスタートでも神経を使うことはない。ヒルストップは持っていないがギヤレシオがワイドで、特に1速の発進ギヤは駆動力が強い。通常走行では各ギヤのつながりもスムーズでショックもほとんど感じないのが好ましい。3速が守備範囲の登坂のきついコースでは回転が上がるために、やや煩わしく感じるところもあるが、DモードとSモードを上手く使うとそれほど痛痒は感じない。ワインディングロードでの動力性能は3速~4速を多用することになる。

 馬力荷重約9.5㎏/PS台という数値が妥当な走行性能だが、トルクバンドの広さでSUVらしい粘りのある走りだ。サムスイッチはなかなか使いやすく素早いシフトが可能。フォーカスではSモードでなければマニュアルシフトができなかったが、クーガではDモードでもSモードでもサムスイッチが作動でき、使い勝手はよい。フォーカスのSモードではかなりスポーティな変速パターンになり、サムスイッチとの併用でダイレクトなドライブを楽しめたが、クーガではフォーカスほどのスポーティさは求められていないのでもう少しゆったりとしたものとなっており、クルマのキャラクターに合わせているのが分かる。

 余談だが、インパネなどのダッシュボードはフォーカスと強い近似性があるが、細かいところで表示や操作系が異なっており、それぞれこだわりを見せる。

インテリアはグロスブラックのパネルやクロームのアクセントなどでスポーティな雰囲気。マイクロソフトと共同開発したドライバー・コネクト・テクノロジー「SYNC」ではiPodや携帯電話などの操作を可能にしている
ラゲッジルームのスペースは従来の360Lから406Lになった。さらにリアシートを倒すと1603Lまで拡大できる

 ところでクーガのボディー剛性の髙さは走り始めてすぐに伝わってきた。乗り心地のよさ、優れたハンドリングにそれは現れている。軽量化と剛性の両立のために高張力鋼板、超高張力鋼板を多用し、その使用範囲はボディーの1/3に達する。これは従来のクーガに対して4倍の使用量だ。そして乗り心地だけでなく静粛性も高く、静かで快適なSUVに仕上っており、クーガの大きなアドバンテージの1つになっている。

 クーガのプラットフォームはフォーカスとほぼ共用するが、サスペンションも同様の形式を踏襲する。フロントは軽量なストラット、リアは定評のマルチリンクとしているが、高いサスペンション剛性とともに優れたジオメトリーで、クルマがかなり無理な姿勢になってもリアタイヤはしっかりと路面を掴むので、コーナリング時の姿勢の破綻はない。乗り心地の面では路面からの突き上げをよく吸収するだけでなく、低速で凹凸を通過した時もしなやかな足の動きでバネ上の動きはよく抑えられている。

 運動性能ではハンドリング特性がニュートラルなのには驚かされた。従来のクーガではフロントエンドに置かれた5気筒ターボエンジンの荷重で姿勢変化を規制するため、サスペンショを硬めにしていた。そのため、時としてアンダーステアの兆候を見せることがあったが、新型ではハンドルを切るとスムーズにノーズが向きを変え、さらに旋回に入っても自然なロール姿勢でコーナーをクリアして行く。ボディー剛性と適切なサスペンション、それと後述する駆動力配分がもたらす想像以上の出来のよさでとても気持ちがよい。フォーカスのようなスポーティな味とは違い、SUVらしいゆったりとした持ち味ながら、確かなハンドリングは譲らないという気概が見える。

 「EPAS」と呼ばれる新開発の電動パワーステアリングはなかなかこなれており、従来の電子油圧制御方式を比べてもフィーリングにそれほど遜色はない。ロック・トゥ・ロックは2.5回転と少なく、最小回転半径は5.6mでこのサイズのSUVとしては妥当なところだ。

 メーター内に表示できる前後のトルク配分メーターを見ていると、基本的には前輪が主となり、アクセルの踏み加減や車の姿勢で後輪に直ちに駆動力を持っていくのがよく分かる。試しにタイトコーナーの出口でアクセルを踏んでみると、後輪に駆動力を多くかけているのが視覚でも分かる。さらにこれに左右の駆動輪にトルクを配分するトルクベクタリングが働き、クーガはグイグイとトラクションをかけていく。フォードが「Smart Utility Vehicle」と自慢する理由がよくわかる。

装備面も充実

 さてデザインだが、最近のフォードデザインの要素であるキネティックデザインで形成されており、ギュッと締まって躍動的なのが特徴だ。デザインテーマが同じなので、一見従来型と見間違えるが、よく見るとサイドのキャラクターエッジの入れ方なども違って凝ったデザインだ。ボディーサイズは4445×1850×1715mm(全長×全幅×全高)から4540×1840×1705mm(同)と長くなっているものの、全幅、全高とも10㎜ずつサイズダウンしていて、より精悍に感じる。

 安全面ではレーザーレーダーのアクティブ・シティ・ストップを持っており、前走車などの障害物に対して15km/h未満で完全停止し、30㎞/hで事故を軽減するための自動ブレーキを掛ける。さらに障害物が近づくとブレーキ油圧を上げ、エンジントルクも抑制する方向に働く。

 またレーザーレーダーによるBLIS(ブラインド・スポット・インフォメーション・システム)も備えており、走行中に死角となる斜め後方のクルマをモニタリングして、サイドミラーにワーニングを出すことによって事故を回避する。ちなみに衝突安全ではEuroNCAPで5つ星を取り、総合保護安全評価ではこのクラスのSUVで最高の成績を誇る。

 ユーティリティ面では、スペースユーテリティを優先したグローブボックス、センターコンソール、ドアポケットなど、実際にモノが入りやすい形状・サイズを実現している。面白いのは後席床下にある収納ボックスで、蓋がついているので汚れ物などを入れておける。ラゲッジルームも従来の360Lから406Lへと容積が拡大している。また後席を前倒させた時も(実際に使う場面は少なそうだが)、フロア板の位置をずらしてフラットなラゲッジルームを作り出し、さらに床下にも収納スペースができるなどのアイデアを詰め込んでいる。

 便利なのはハンズフリー・パワーリフトゲートだ。これはキーさえ持っていれば、両手が塞がっていてもリアバンパー下に足を蹴り入れるようなモーションをするとリアゲートが自動で開閉する。その開閉は他社に比べても作動が確実だ。

 後席ではレッグルーム、ヘッドクリアランスが拡大されており、長身のパッセンジャーでも余裕を持って座れる。しなやかでいながら骨太な印象、それが新型クーガの感想だ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。