インプレッション

ジャガー「XE」

ジャガーはこの路線で行くことの決意表明

 プレミアムブランドと呼ばれる自動車メーカーの中でも、とりわけデザインで人を魅了することに長けているのは、ジャガーのよき伝統である。

 ジャガーというと、長年続けてきた従来型までのXJシリーズに象徴されるあのデザインのイメージが今でも強く残っているが、2000年代後半、ちょうどタタ傘下に収まるころから大胆なイメージチェンジを図って現在にいたるのはご存知のとおり。ところがその新生ジャガー、世界的には成功しているようだが、日本ではいまひとつパッとしていないような気がしてしまう。

 いや、決して持ち前のデザインに魅力がなくなったわけではなく、XFもXJも、あるいはFタイプも間違いなく非常にスタイリッシュであることはいうまでもない。それでも保守的な思考の人が多いであろう日本の購買層の感覚からすると、ジャガーに求めるのは前述した往年のイメージが根強くある、ということのようだ。

 そんな中、Dセグメント市場に再参入したジャガーの新しいスポーツサルーン「XE」が、日本にも導入された。ボディーサイズは同セグメントの中ではちょっと大きめ。実車を見ても、XJを彷彿とさせるフロントグリルにXF似のプロポーション、灯火類のデザインなど、現行のジャガー車との共通性が各部に見受けられるため、あまり新鮮味を感じないところだが、それもXEに与えられた使命のうち。当面ジャガーがこの路線で行くことの決意を新たにしたことをうかがわせる。

 ただし、中身はパワートレーン以外はまったくの別物。土台となるプラットフォームはゼロから開発されたもので、全体の75%にアルミニウムを使用しているのが特徴。これにより圧倒的な軽量高剛性を実現したという、今後の新生ジャガーのメインストリームとなる新しいモジュラーモノコックとなる。

6月2日に受注を開始した新型スポーツサルーン「XE」。写真はガソリンエンジンを搭載する「Prestige(プレステージ)」(515万円)。ボディーサイズは4680×1850×1415mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2835mm。前後重量配分50:50を実現するとともに、ジャガーとしてもっともエアロダイナミックなセダンとしてCd値0.26を実現している。なお、XEにおいては直列4気筒2.0リッターディーゼル「インジニウム」(180PS)を12月に投入することが予告されており、グレードは「R-Sport」(549万円)、「プレステージ」(535万円)、「Pure(ピュア)」の3バリエーションが用意される
プレステージは直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ「204PT」エンジンを搭載。最高出力は147kW(200PS)/5500rpm、最大トルクは320Nm/1750-4000rpmを発生。JC08モード燃費は11.8km/Lとなっている。トランスミッションは全グレード8速AT。ホイールサイズは標準では17インチだが、撮影車はオプションの19インチホイール(タイヤサイズ:225/40 R19)を装着
ブラックを基調としたプレステージのインテリア。ダイヤル式のセレクターなどが与えられるほか、ジャガーブランドとして初めて分割可倒式(40:20:40)のリアシートを採用して利便性も高められている。そのほか、XEではステレオカメラを使って80km/h以下の速度域では衝突被害軽減、40km/h以下では衝突回避のためのフルブレーキを行う「自動緊急ブレーキ(AEB)」、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)などを全グレードに標準装備。ステアリングを振動させて車線逸脱を警告するレーンデパーチャー・ウォーニングなども用意される
シフトまわりのスイッチでドライブモードを選択可能。「ダイナミック」「ECO」「ウインター」が用意される

ジャガーならではのドライブフィール

 サスペンション形式は、フロントにダブルウィッシュボーン式、リアにインテグラルリンク式を採用し、乗り心地とハンドリングの両立を図っている。

 試乗前のプレゼンテーションでは、フロントはFタイプと同じ形式であること、リアはセグメント初であることを強調していたことも印象的だった。そして実際にワインディングや高速道路をドライブして、なかなか見事な仕上がりであることを実感することができた。

 今回は売れ筋となるであろう「プレステージ」の18インチ仕様と19インチ仕様、上級仕様の「ポートフォリオ」の18インチ仕様、高性能な最上級グレード「S」の20インチ仕様をドライブした。

 いずれも共通して感じられたのは、軽快で素直な走り味と、路面からの入力を巧みにいなすしなやかな乗り心地だ。このあたりには同セグメントのドイツ勢とは異質の、ジャガー特有の“味”があり、それをメカニズム的に一新しても変わることなく受け継がれているところに魅力を感じる。オプションの19インチ仕様車に乗ると、タイヤ自体の当たりの硬さは感じても、乗り心地の快適性は十分に保たれている。

こちらはV型6気筒DOHC 3.0リッタースーパーチャージャー「306PS」エンジンを搭載する「S」(769万円)。最高出力は250kW(340PS)/6500rpm、最大トルクは450Nm/3500rpmを発生。JC08モード燃費は10.4km/L
試乗したSはオプション設定の20インチアルミホイール(タイヤサイズ:235/35 R20)を装着
Sのインテリア

 一方で、電制ビルシュタインが与えられる「S」は別格的で、乗り心地はさらにしなやかさが増し、それでいて素早いアクションを試みても挙動変化は小さく、よりフラットな姿勢を保ちながら、連なるコーナーをヒラリヒラリと駆け抜けていける。これまた絶品の仕上がりである。

 エンジンは、スペックの異なる2種類の直列4気筒2.0リッター直噴ターボと、V型6気筒3.0リッタースーパーチャージャー付きのガソリン仕様がまず導入される。さらに少し遅れて「インジニウム」と呼ばれる2.0リッターのディーゼル仕様が初めて導入される予定となっている。

XFやXJと共通の直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ「204PT」エンジン
Fタイプでも搭載されるV型6気筒DOHC 3.0リッタースーパーチャージャー「306PS」エンジン

 今回、3種類のガソリン車にはすべて乗ることができた。「プレステージ」と「ピュア」は200PSであるのに対し、「ポートフォリオ」が240PSとなる2.0リッターモデルは、常用域でのパフォーマンスに大差はないが、中~高回転域にかけてはやはり240PS仕様が伸びのある加速を示す。200PS仕様だけ知っていれば不満も出ないだろうが、240PS仕様を味わってしまうと200PS仕様はやや物足りなく感じてしまう。そこは差別化ということで納得すべきか。

 一方で、V6を搭載する「S」の速さはやはり別格だ。聞こえるサウンドも、静粛性が高いため4気筒でも大きな不満はないとはいえ、やはりV6の重厚感ある音質は4気筒では得られない味わいがある。

 ではすべてにおいて「S」が最高かといえば、そうともいい切れない。エンジンフィールでは、よりパンチの効いた240PS仕様の痛快な加速フィールも、それはそれで捨てがたいし、4気筒エンジン搭載車には鼻先の軽さによるハンドリングの軽快感もある。ここは好みの分かれそうなところだ。

本命はポートフォリオ?

 インテリアは比較的オーソドックスなデザインの中に、ダイヤル式のセレクターなど新生ジャガーならではのアイテムが与えられている。

 そして、グレードにより差別化が図られているのは明白。「プレステージ」でもクオリティ感はまずまずのところ、ラグジュアリー系の頂点となる「ポートフォリオ」や最上級の「S」は、より大きな満足感を与えてくれる。

 また、4ドアゆえ後席の居住性についても気になるところだが、頭上はそれほど広くはないものの、膝前は十分なスペースが確保されている。

 装備面では、先進の安全運転支援装備が充実していることは、上級のXFと比べても優位点といえる。さらには、一定の車速で低速走行できる「ASPC(オールサーフェイス・プログレス・コントロール)」など、セダンとしては珍しい、ランドローバーとの関連性を思わせるデバイスが設定されているのも特徴だ。

 売れ筋は、価格の比較的手ごろな「プレステージ」になることだろうが、せっかくXEを買うのなら価格と装備、性能を考え合わせると、実は総合力でコストパフォーマンスに優れるのは「ポートフォリオ」ではないかと思う。筆者はこちらをXEの“本命”として薦めたい。むろんそれなりに高価とはいえ、すべてを備えた「S」を狙うのも大いにありだろう。

 日本の輸入車市場で根強い人気を誇るドイツ勢ももちろん魅力的だが、彼らに負けない魅力を持ちつつ、ジャガーならではのデザインと走りを味わわせてくれる、そんなジャガー渾身の新生スポーツサルーンであるXEを、より多くの人に少しでも早く覚えてもらえるよう願いたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一