F1日本GPで「Kangaroo.tv」を使ってみた
計時データからオンボード映像まで手中にできる必携端末

   大混乱の2007年から打って変ってスムースかつ楽しく終了した2008年のF1日本GP。サーキットで、あるいは自宅でレースを楽しまれた読者も多いことと思う。筆者も11日、12日と富士スピードウェイに出かけてF1の迫力を堪能してきたが、このとき利用した「Kangaroo.tv」が非常に魅力的なサービスだったので、ここでレポートしたい。


サーキットでさまざまなリアルタイムデータを楽しめる
   Kangaroo.tvは、カナダのKangaroo Media, Inc.が運営している有料サービスで、リアルタイムで配信されるF1レースの計時データなどを専用携帯無線端末で閲覧できる。コンテンツは計時データのほか、国際映像と実況(英語と開催国言語が選べる)、車載カメラ映像、F1カーとピットの交信(Team Radio)、チームやドライバーのランキングと紹介、サーキットの紹介と天候など。

   携帯端末とはいっても、使えるのはサーキットでのみ。「Proprietary on-site broadcast technology(OSBT)」で、サーキットのどこかから配信されているデータを受信し、表示するもので、サーキットの外は圏外となる。オフラインモードも備えているが、表示されるコンテンツはすべて配信されているものがベースになっているため、圏外では何も表示されない。

   Kangaroo.tvのサービスはF1全戦で提供されているほか、Kangaroo.tvのホームページを見ると、全米アメフトリーグ(NFL)、欧州プロゴルフツアー(EPGA)、NASCAR、ル・マン24時間レースといったイベントでも提供されているようだ。

   ちなみにF1でのサービス提供は2006年からだが、同じ年に、米Time誌による「Invention of the Year」(今年の発明)の候補となっている(さらにちなむと、この年のBest Inventionは動画共有サイトのYouTubeが受賞している)。

端末はレンタル制、事前予約が基本

富士スピードウェイに設けられたKangaroo.tvのブース

   専用端末はレンタル制となっていて、購入はできない。F1GP各戦ごとに金曜日から日曜日の3日間のレンタルが基本となるが、2008年は全戦通してのフルシーズンレンタルも実施されたようだ。

   英語力に自信があればKangaroo.tvのホームページからレンタルを事前に予約できるが、日本語で予約したいならAUTO SPORT誌のWebショップ「AS shoppers」の「カンガルーTVレンタルSHOP」が手軽だろう。筆者もこちらから予約した。

   ただし、AS shoppersでは2008年の残り2戦(中国GP、ブラジルGP)の予約受付は終了しており、2009年についてはまだ開始されていない。Kangaroo.tvのページからなら、2008年のブラジルGPの予約がまだ可能なようだし、2009年の予約も始まっている。

   価格は、AS shoppersでは1万3500円。Kangaroo.tvでは1万1455.63円となっている。また、1台あたり300ユーロのデポジット(保証金)が必要だ。デポジットは端末を返却すれば返ってくる。この価格は日本GPのもので、ドイツGP、ハンガリーGPやフランスGPはもっと安くなっている。

F1日本GPでは当日レンタルも実施された

   また、日本GPの場合、現地での貸出申込も可能で、日曜日は1万円でレンタルされていた。端末が余っている場合はこのように、値下げして現地での貸出が行われるとのことなので、予約していなくてもKangaroo.tvのブースをのぞいてみるといいだろう。

   予約するとバウチャー(引換券)が郵送されてくるので、サーキットのKangaroo.tvのブースで端末を受け取る。この際、予約時に使用したクレジットカードを用意する必要がある。

   3日間レンタルなら、このまま3日間持つことになる。返却先も同じブースなので、サーキットから帰る前にブースに立ち寄る必要がある。今回の日本GPでは、グランドスタンド裏のF1ビレッジと、コカ・コーラコーナー裏のスピードウェイプラザの2カ所にブースが設けられていた。

ブースには日本人もいたが、忙しい時には日本語の分からない外国人スタッフに応対してもらうことになる。バウチャーがあれば、バウチャーとクレジットカードを差し出せばことがすむので、英語に自信がなければ事前に予約しておきたい。

ゴツい端末だが操作はしやすい

イヤホンを付けたKangaroo.tv端末

   Kangaroo.tv端末は、3.5型液晶ディスプレイと、いくつかのハードウェアスイッチ、大きなアンテナを備えている。公式なスペックによると本体サイズは4.125×1.5×6.25インチ(幅×奥行き×高さ、約10.5×3.8×15.9cm)、重さは約400g。耐衝撃構造になっているのか、緩衝材をまとったその姿はかなりゴツいが、日本人の手に余るということはなく、ディスプレイ下の操作部を握って片手で操作できる。ネックストラップが付いていて、首から下げて持ち歩くのが基本だが、大きく重く、長いアンテナも付いているので、ややかさばるのが難点だ。

   液晶ディスプレイは日中屋外でも大変見やすい。表面に多少反射があるものの、コンテンツが見えなくてこまるようなことはない。細かい文字もはっきり見える。

   各端子にはゴムカバーが装備され、バッテリー室のカバーにもパッキンがあることから防水機能を備えているようだが、ブースで聞いたところアンテナやディスプレイの周囲から水が入ることもあるとのこと。大雨のときは屋外での使用を避けたい……最も、そんな雨ならレースが中止になると思うが。

電源は3.6V、3400mAhのリチウムイオン充電池で、6時間も持つことになっている。貸し出される端末には予備のバッテリーと充電用のACアダプターが付属している。ACアダプターのコンセント側端子は交換できるようになっていて、世界中の電源に対応しているようだ。もちろん日本GPでは日本の電源に対応した端子が付いていて、夜間にユーザーが充電するよう、付属する日本語説明書に書かかれている。

   このほかの付属品はステレオイヤホン。これだけは返却しなくてもよいようで、返却時に「よかったらお持ちください」と言われた。一般的な3.5mmのL型ミニプラグなので、筆者はもっぱら自前のノイズキャンセリングヘッドホンを接続して使っていた。ノイズキャンセリングヘッドホンは、目の前のF1の爆音を効果的に弱めてくれて、実況やTEAM RADIOを聞くのにたいへん便利だった。なお本体にスピーカーは搭載されていない。

付属品一式左側面の謎のデータ端子と電源端子。ゴムカバーがつく。その右にあるのはボリュームスイッチ右側面にはイヤホン端子と、謎のSDカードスロット。手持ちのSDHCカードを入れてみたが、何も起きなかった
バッテリー室には背面からアクセスする充電中。頭部のインジケーターが点灯する置いて視聴するためにスタンドが装備されている
この袋に一式が入ってくる紙1枚とはいえ日本語の説明書が付く

Kangaroo.tvの操作系はこれで全部

   電源ボタンを押すと起動画面が表示される。起動には数秒かかる。本体内蔵のヘルプからデバイスインフォメーションを見ると「BOOT LOADER:1.5」「KERNEL:2.4.20-BUILD-20080528」などとあるから、どうやらLinuxをOSとしているようだ。ちなみにこのインフォメーション画面からは、メモリが約42MB搭載されていて、そのうち約35MBは使われていること、チューナーはUHFの2.5GHzであることが分かる。

  また、MPEGのCODECがインストールされていることもわかる。Kangaroo.tvのホームページには、MPEG-4とMPEG-1 Layer2(MP2オーディオ)を使用していると書かれている。

   端末の操作は、4つの十字キーとその中央のEnterキー、十字キーの左右の2つのハードウェアキー(戻るキー、と、表示変更キー)、ビデオ/音声の巻き戻し/早送りキー、VIDEO、STATS、AUDIO、HOMEの4つのハードウェアキーで行う。このほかに音量調整ボタンがある。キーの数も少ないし、日本語説明書もあって、操作方法はさほど難しいものではないが、すべて英語表記なので、多少の知識は要求されるだろう。

起動画面起動するとまず電波を探す。受信状態は右上のアンテナアイコンで示される。最良で5本。オフラインモードもあるHOME画面

  起動してから表示されるHOME画面には、「LIVE VIDEO」「LIVE STATS」の2つのボタンがあって、こちらはレース中にリアルタイムで画像と計時データを表示できる。

   このほかアイコンでレースのスケジュール、天候、サーキット情報、コンストラクターズポイント、ドライバーズポイント、チーム紹介、ドライバー紹介、MY FAVORITE DRIVERの選択、ヘルプ、チュートリアルが用意されている。

  アイコンの情報は、サーキットでレースが始まるまでの時間を使って、さまざまなことが予習できる。天候では路面温度や湿度、風の状態までわかるし、サーキット情報ではセクターの範囲までわかる。

操作系のヘルプデバイスインフォメーションスケジュール
天候サーキット情報コンストラクターズポイント
ドライバーズポイントチーム紹介ドライバー紹介
MY FAVORITE DRIVERの選択。そのドライバーに変化があった時にアラートが表示される予選結果

めまぐるしく変わるリアルタイムデータ
   LIVE VIDEOはその名の通り、レース中にオンボード映像や国際TV映像を流すメニューだ。VIDEOキーでもアクセスできる。オンボード映像は、その時表示可能なドライバーをメニューから選択できる。

  MY FAVORITE DRIVERで任意のドライバーを選択しておくと、そのドライバーの順位が常にLIVE VIDEO画面上部に表示されるほか、そのドライバーに順位の変動があった場合などにはアラートが表示され、そのままEnterキーを押すとLIVE STATSに移動できる。

レース中以外のLIVE VIDEOでは、過去のレースの映像や、今シーズンの新レギュレーション解説が流されていて、これも楽しめる。さらにレース後には、表彰式やドライバーインタビューがノーカットで放送される。

クビサのオンボード映像。この時点ではほかにハミルトンやマッサのオンボード映像も選択できたレース後のインタビューもリアルタイムで配信されるレース以外の時間には過去の映像や、2008年のレギュレーション変更点などが放映される

  LIVE STATSには、レース中の計時データなどがリアルタイム表示される。計時データはセクターごととラップタイムが表示されるほか、ドライバーごとのベストタイム、ピットインの回数、Kangaroo.tvが予想した今後のピットイン予定などが表示される。計時データはセクターごとにリアルタイム表示されるため、めまぐるしく書き換えられる。このリアルタイム感がKangaroo.tvの醍醐味と言えばまあそうなのだが、ちゃんとデータを理解するには慣れが必要だろう。

   音声ではBBCの英語実況と、開催国現地語の実況(富士スピードウェイの場内実況、すなわち辻よしなり氏の実況と、小倉茂徳氏、松田次生氏による解説)が聞ける。また設定しておけば、随時TEAM AUDIOが割り込むようになっている。

  LIVE VIDEO、LIVE STATS、AUDIOは、F1と併催されるサポートレースでも情報が提供される。

LIVE STATSで選べるメニュー「LEADERBOARD SECTORS」。セクターごとのタイム。MY FAVORITE DRIVERはオレンジ色で表示される。リアルタイムなのでめまぐるしく変化し、追っていくのはなかなか大変。上部の黄色い部分がMY FAVORITE DRIVERについてのアラート「LEADERBOARD」。順位表。ラップタイムや順位変化などが表示される
「LEADERBOARD PITS」。ピットワークのデータ。回数やかかった時間が表示される「BEST BATTLES」。その時点で接戦を繰り広げているドライバーを表示する。どこを見たら面白いかが一発でわかる「POSITIONING MAP」。コース上の位置の相関関係を図示する
「DRIVER CHAMPIONSHIP AS OF NOW」。その時点の順位で、ドライバーズポイントランキングがどのようになるかをリアルタイムで表示する「PIT BOARD」。ドライバーごとの計時データやピットイン予想を表示する同じくPIT BOARD。ドライバーのラップタイム履歴などを表示

サーキット観戦に必携、「お茶の間版」もぜひほしい

2008年F1日本GPの最終的なLEADERBOARD

  無線を使うサービスゆえ、サーキット内でも場所によっては受信できないことがある。また、受信できていてもいつのまにか電波を見失っていることがあった。こんなときは、1度電源を落として、再度投入すればまた電波をつかんでくれた。

   弊誌ではF1日本GP直前企画として「F1観戦の味方、ライブタイミングの楽しみ方」を掲載した。ライブタイミングは、リアルタイム計時データを自宅で無料で見られるサービスとして、非常にありがたい存在だが、Kangaroo.tvは任意のドライバーのオンボード映像を見たり、TEAM AUDIOを聞くことができる。またヒヤリング能力さえあれば、2種類の実況を楽しむこともできる。1万3500円の価値はおおいにあるといえる。

  Kangaroo.tvさえあれば有料観客席にしかないサーキットビジョンも不要となるばかりか、むしろサーキットビジョンより情報量が多い。筆者は今回、1コーナー手前のC1スタンド指定席で観戦したのだが、自由席+Kangaroo.tvという組み合わせのほうがコストパフォーマンスが高いのではないかと感じた。

欠点があるとすれば、情報の密度が高すぎて、たまにKangaroo.tvから目を離すように意識しないと、目の前で起きていることを見逃してしまう可能性があることだろうか。せっかくサーキットまで来たのだから、ナマの走行を見ないのはもったいないというものだ。

  こうなると、お茶の間観戦時にもKangaroo.tvが欲しくなる。年間10万円くらいで、ブロードバンドを利用したお茶の間用Kangaroo.tvを作ってくれないものか。

URL
Kangaroo.tv(英文)
http://www.kangaroo.tv/
AS shoppers
http://shop.as-web.jp/mall.php

笠原一輝の「F1観戦の味方、ライブタイミングの楽しみ方」